第136話 採取依頼1

「どの依頼が良いの?」

「エリン。この子達がメインなんだから、邪魔しちゃダメだよ」

「ごめんごめん」


 俺たちの会話を気にせず、3人はどの依頼が良いか話し合っている。


「まずは簡単なものからやったほうが良いと思う」

「いやいや、薬草自体は結構覚えたんだ。少し難易度高くても」

「私はペロちゃんの食料も獲りたい」


 ペロちゃんは、カオルの使役してる鉄トカゲ。良く食べるからペロちゃんと名付けた。

 肝心の依頼は、決まらずまだ話し合っている。


「実さんはどう思いますか?」

「え? どうした?」

「だから! どんな依頼を受けたら良いかです!」

「自分が出来る依頼にしたら良いよ」


 あれ? 俺の回答間違ってた?


「いや、どの依頼が出来るか話し合ってたんですけど、まとまらなくて」


 ん? まとめないといけないのか?


「いくつも受けたら良いじゃん。別々に受けても良いし」


 大口を開けてアホ面を晒してるぞ。


「まさかの全部取りとは思いませんでした」

「そうだよな。よくよく見たら、依頼も数日あったりするし」

「実さん達も着いてくるから、少しは無茶出来ますね」


 無茶はしないで欲しい!

 エリンの面倒だけで手一杯だよ。


「決まったようだし、依頼確認しようか」


 マーカリスのところに依頼を持っていくと、すんなり受諾してくれた。


「そんなあっさりで良いの?」

「お前、特殊でも3級じゃねーか。このくらい出来ないとなれねーよ」

「そっか。自分が3級なの忘れてた」

「ふーん。やっぱお前もそっち側っぽいな」


 それはどういうことだ?


「まぁ、依頼に関しちゃ信頼できるってことだ! 噂じゃ昔のギルドメンバーの方が優秀だって言われている。結果で見せてくれよ?」

「俺とエリンは付き添いだよ。というわけで、3人共がんばってくれ」

「「「はーい」」」


 彼らの選んできた依頼は2つ。

 元気草の採取と、発光苔の採取。


「元気草? 聞いたことないけど、どんなやつ?」

「前に実さんから教えてもらったんですけど、名前が違うんです。えっと……」


 アオイに見せてもらった冊子を覗くと、まんま癒し草だった。


「名前変わっちゃったのか? 地域が違うと変わることもあるからなぁ。そっちは良いとして、発光苔か」

「こっちも知ってますか?」

「前に見たことあるけど、一応マーカリスに聞いてみよう」


 再びカウンターに戻り話を聞くと、湿気のある暗い場所を好んでいるみたいなので、以前洞窟で見たものと同系統の種類だろう。

 依頼を受諾し、出発する。

 元気草は、そこら中に生えているので、状態の良いものを選んで採取出来ている。


「発光苔も自分たちで探してみたら?」


 元気草に期限は無いし、発光苔の依頼は3日も猶予があるので、遅くなっても構わない。

 3人で予測を立てながら探っていき、年長2人は後に着いていく。


「ノールは、普段どうやって探しているの?」

「俺は、地形の起伏と生態から予想して、怪しい場所を探る感じ。エリンは?」

「私は魔力で形を見ちゃうかなー」


 そんなの、エリンくらい魔力が無いと出来ない芸当だぞ。全く参考にならない。むしろその魔力で薬草育てた方が得じゃないか?


「近場にあればな。3人も俺も無理だよ」

「ノールは……別の方法で出来そうだけどね?」

「生態調査も趣味だから、今の方が楽しいのさ」


 そうこう話していると、だんだん森が深くなって来た。

 持っていた枝で、薮や枝を払いながら進む。


「世界樹の枝をそんな風に使うの……」

「え? ダメだった? 結構便利なんだけど」

「嫌がってないから良いんじゃ無い? でも、堅物のエルフが発狂しそうだね!」


 発狂とか言いながら楽しそうな顔するのやめた方が良いぞ。


「ペロちゃんどうかした?」

「何かいましたか?」

「敵か?」


 ペロ君の反応に呼応して、3人が身構える。

 数秒すると、木々の向こうから元凶が現れた。口に収まらない程の長い牙をたずさえた虎が2体。ノッシノッシと地を踏みしめながら向かってくる姿は、完全にこちらを下に見ている。


「お、おぉ! こいつは大物だな!」

「カオルさん! どうする!?」

「ペロ! いけるのね? みんなで倒しましょう!」


 物怖じしないペロを見て、3人は倒す覚悟を決める。2人ずつに別れ、左右に展開すると、挟み込む形になった。

 エリンは、イツキとアオイのペア。俺は、カオルとペロの補助にまわる。


 何の合図も無しに、2体の虎がそれぞれ飛びかかり、こちらの思惑通り別れてくれる。

 ペロに狙いを付けて爪を振りかぶるが、金属音だけ響かせて、体当たりの反撃を食らっている。戦闘面で見ても、ペロは優秀だった。


「良い調子! もう少し押さえてて!」


 ペロが虎に乗っかっている間に、カオルは腰から棘付きのメイスを取り出す。虎の視界から逸れるように移動すると、激しく頭を振っているにもかかわらず、ピンポイントに一本の牙へぶち当てる。


「ぎゃああああ!」


 この声はカオル。牙に当てたのは良かったが、頑丈だったせいか、折れずに首が一回転してしまった。そのせいで自分に精神的にダメージを負ってしまう。


 向こう側の戦闘も、俺が見た時には、アオイの振るう鉄棍が直撃していたタイミング。あとは、脳震盪を起こしている虎にトドメを刺すだけ。


「お、おぉぉ。」


 鉈を持ったイツキが躊躇している。


「うーん。やっぱり僕がやるよ」


 アオイが鉈を受け取ると、綺麗に脊柱の関節を狙って叩き落とした。

 下手すると俺よりうまいんじゃないか?


「イツキは殺しに慣れないね」

「すまん。なんかやっちゃダメな気持ちになったんだ」


 俺と同じタイプか。だけど、必要な時はやらないと困るぞ。


「はっはっは! エリン先生が鍛えてあげよう!」

「えぇ!? 今でも辛いのに? これ以上!?」

「遠慮したくて良いよ! 私が教えればソードタイガー程度なんでもないぞ?」


 こいつソードタイガーって言うのか。確かに牙は鋭くて剣にも見える。

 ふと顔を上げると、またアオイがむくれた顔をしている。上手く倒した後なのに、何が不満なのか。


「エリン。イツキの瞑想時間が無くなるから、やりすぎは困るぞ?」

「あー、そっかぁ。人族はそれが必要だったね」


 横から「助かった」と聞こえてきたが、楽になるわけじゃない。とりあえず、手が止まっているので解体を進めさせる。イツキも解体は自分から出来ていた。


「これでペロちゃんの食料はしばらく平気そうです!」


 嬉しそうな顔で、取り分けた肉を包んみ、内臓はペロがその場で食べていた。


「この牙は持って帰ろうか」


 鋭さも良いので、売れるだろう。世界樹の枝でペシペシ叩いたらすぐに折れた。こいつの万能さは助かるね。


「ちょっと待ってね。すぐに骨埋めちゃうから」


 すぐさま取り掛かろうとしたら、全員参加することになった。骨を埋めたら手を合わせて祈る。


「ノール達はそうやるんだ」

「エリンは違うのか?」

「私たちは歌うんだよー」


 そう言った後に、エリンが歌い出すと、森の精霊達が集まり出した。骨の埋まった場所の周りで踊り出すと、周囲に芽が出始める。ほんの数十秒だったが、埋めた場所は草花が生い茂っていた。


「ははぁ。そういうやり方もあるのか……」


 この方法も良いな。やっぱりイツキも覚えた方が良いかな?


「ねぇ。イツキ」

「え? どうした?」

「やっぱりエリンに教えてもらう?」

「えぇぇぇぇ!?」


 響いた声の後、エリンのニヤつく顔とアオイの不機嫌な顔が、視界に映っていた。

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