第129話 牢屋暮らし
「娘の方は出て良いぞ」
「にゃあああ」
「俺は?」
「まだだ。あの娘は上司から出せと命令されたんだ」
もしかして、どこかのお偉いさんの娘だったのか?
羨ましい気持ちもあるが、それより天ぷらを食べれないないことが残念で仕方ない。
その日の昼ごろ、カオル達が面会に来てくれた。
「まさかこんな形で長居することになるとは、思ってもいませんでした」
「俺も思ってなかったよ」
「まだ出れないんですか?」
「なんかお相手がゴネてるらしい。気にせず街で仕事してきなよ」
先ほど聞いた話だと、俺が寝かせた奴らは、この街で有力な商会の下っ端らしい。そいつらの親玉が抗議したせいで、取調べが伸びることになってしまった。
「いつ出れるかわからないし、稼いで遊んできなー」
「まぁ、そういうことなら」
「そうだ。兵士に商会の名前聞いて、関わらないようにしておいて」
「はぁ。一応聞きますが、どうしてですか?」
「面倒くさそうだから」
それ以外に理由いらないでしょ。
会いに来ずに、遠回しにチクチクやってくるタイプ。和解しても、後から突いてくるイメージしかないよ。
「面会も来なくて良いよー。たぶん瞑想してるから」
「あー。わかりました」
さてと、3人も帰ったし、久しぶりに瞑想タイムに突入しますか。
この牢屋、意外と空気の流れがあって、居心地良いんだよね。
「おい」
「おい!」
目を開けると、隣の牢屋に知らない奴がいた。
「だれ?」
「今日入れられたんだ。お前何やったんだ?」
「何やったんだっけ? 覚えて無いや」
「なんだそりゃ? 変な奴だ。それより飯食わないのか?」
言われて気づいたが、目の前に冷めたスープが置いてあった。
「欲しいならあげるよ」
「へへ! ありがてえ」
「あんたは何したの?」
「実はな……」
気配も殺せてないから、すぐに見つかったと想像出来る。
「もう辞めた方が良いと思うよ」
「だが、あいつらは許せねえ。金の無いやつらは泣かされてるんだ」
貧乏人達をこき使って、薄給で働かせていると熱弁しているが、俺にはピンと来ない。
「へぇ」
「お前は何とも思わないのか!?」
「そこで働かなきゃ良いじゃん」
「そこしか働けないんだよ!」
「じゃあ、あんたが働く場所作れば良い。畑作っても良いし、みんなで取った物を露店で売れば良い」
「それは……。ありなのか?」
こういう切羽詰まったやつらは、考える余裕も無いことが多い。そして、選択肢を与えると動き出すこともある。
「とりあえず、店出すなら汚い見た目は直した方が良いぞ」
服も泥や垢がこびりついてるのか、布目が無くなってる。臭いもあるし、客は近づきたく無いだろう。
2日後、そいつは開放となった。
「ありがとう。もう一度やってみるよ」
「そっかぁ。無理せずにな」
晴れやかな顔で出て行く後ろ姿。
今まで気づかなかったが、ぴょこんと上に尖った犬耳と、もっさりした尻尾がついている。それらがユラユラと楽しそうに揺れていた。
「お前は期間伸びたから」
「なんで!?」
牢屋生活1ヶ月。
飯も手抜きだし、美味しく無いので、他の奴にあげている。
「飯来たぞ」
小窓からニュルリと出てくる触腕。
数日前、腐りかけの飯をどうしようかと悩んでいたら、くらげの触腕が飯のお椀を奪い去っていった。
それから味をしめたのか、毎日ねだりに来ている。
「今日も植えますかー」
牢屋の端っこに穴を掘り、ニンニクを植えて栽培。今回は月光草と掛け合わせて、新種の開発中だ。
「2週間で芽を出すとは、中々生命力があるな」
うまく月光の取り入れが出来ているので、成長が早いのかもしれない。
「やっほーノール。元気してたー?」
振り返ると長い耳を持つ懐かしい顔がある。
「なんだエリンさんか。ちょっと新しい開発してまして」
「それも良いんだけど、そろそろココ出て欲しいな」
「いや、今開発を」
「外の3人が次の街行きたいって言ってるよ?」
エリンとニンニクを何度も見返し、泣く泣く出ることにした。
「元気に育てよ! ぐす」
「じゃあ行こうか」
エリンが牢屋の扉を弾くと、簡単に開いてしまう。
「というか、もう出ても良いんですかね?」
「良いの良いの。詰所の兵士も
「それなら良いんですけど」
1ヶ月ぶりに外へ出ると、真夜中にも関わらず、3人が準備万端で待っていた。
鉄トカゲも元気そうで、フスフスと鼻を鳴らしている。
そして、その隣に2体の浮きくらげ。
「いつ増えたの?」
「片方はノールの従魔でしょ?」
「メサか?」
見比べてもわからん。
「メサ。お手」
ぐふ。
このビンタは間違いない。
「実さん!」
「だ、だいじょうぶか?」
「あわわ」
良い腕してるじゃねーか。
「なかなか鍛えてきたみたいだな」
ぷるぷる。
「ところで、隣のくらげ君は、私も初めてなんだけど」
「そのくらげは、カオルの使役してたやつなんだ」
カオルを見ても、わからないと肩をすくめるだけ。
「メサはわかる?」
ぶるぶる。
「ふむふむ。なるほど」
「わかった?」
「彼らの新情報がわかりました。浮きくらげは通信能力を持っているみたいです。それで、メサが話していた俺を、このくらげが見つけたと」
「そういうことか」
エリンが納得すると、ここに来るまでの経緯を教えてくれた。エルフの里でケープ村長と会った後、ニールセンに向かった。気まぐれで俺も旅に連れて行こうとしたらしいが、獣王国から消息が不明。パロ教授に教えてもらってメサを見つけ、ついてきたらここまで来てしまったと。
この間も、面白い旅をしたそうだが、そこは省略していた。
「そういうことなら、カオルの手柄になるのかな?」
「えぇ? 私何もしてないですよ」
「というか、このくらげ君どうするの?」
「私に聞かないでくださいよ」
「メサ。この子どうするの?」
ぶるぶる。
メサの話だと、ニンニク栽培技術を求めているらしいので、それを教えてあげれば勝手にどこかへ行くようだ。
まさか魔物農家を目指していたとは思わなかった。
しかし、人間のやり方より、魔物同士の方が良いだろう。メサに任せてしばらく同行してもらおう。
「そろそろ良いかな?」
「あ、エリンさん。もう大丈夫です」
「それで、ここの王様に会いたいんだよね?」
「えぇ。聞いた話だと知り合いみたいなので」
「それなら一緒に行こうよ。こっちも用事あったからさ」
ほうほう。
それなら同行させてもらおう。
思いも寄らず1人と1体増えたが、心強いこと間違い無いだろう。
「じゃあ、行こうか。そうだった。君たちもありがとね」
エリンが地面に声をかけると、いつの間にか集まってた精霊達が散っていく。
「さぁ、出発しようか」
「おー!」
「そういえば、実さん天ぷら食べましたっけ?」
まさかの食い忘れ。
引き戻そうとしたが、みんなに押されて出発してしまった。
くそぅ。
仕方ないので、今度自分で作ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます