第128話 天ぷらの戦い

 そのグループ全員から、濃縮された気を感じる。

 なかなか鍛えられている印象だ。


「お前、気が薄くて変にゃ。」

「なんと、副長がそこまで……。警戒!」


 今までの問い詰めは、本気では無かったと言うほどの身構えよう。下っ端達は猫娘を守るように壁を作り、俺を凝視している。


「実さん。なんか変なことになってますよ」

「俺もよくわからないんだけど、説明してくれる?」


 今まで質問攻めされてた2人に助けを求める。


「僕達もハッキリとはわからないんですけど、たぶん気力のことを言ってるのかと」

「そうなのか? 魔力じゃなくて?」

「自分たちだけって言ってたから、気力じゃないの?僕達以外で、大人数が使ってるのは初めてだし」


 なるほど、以前にも似たようなことで言われたこともあったな。

 いつだっけか…。

 あとで日記を読み返すか。

 それも、この問題が解決出来ないと難しそうだ。

 今も一挙手一投足を見逃すまいと、全身から気を漂わせている。


「話すのは良いが、それよりも……」

「それよりも何にゃ!」

「テンプーラを食べさせてくれ! 今でも脳が欲してるんだ。カラッと揚げた衣、それに包まれたジューシーな具材。サクサクとした食感からホクホクに変わる歯の心地よさ。ダメだ。これを食べずに喋れる自信がない……」


 俺達の腹は限界だ。

 俺の言葉が合図となって5体の怪獣が騒ぎ出す。

 5体?

 人壁の奥を見ると、人目も気にせずヨダレを垂らす者が1人。


 ズルリ。ズルリ。


「ほ、ほぉ。そのテンプーラとやらを、食べにゃがらでも、あちきは良いと思うにゃ」

「副長!」

「こうなったらダメだぁ」

「金も男も興味ないのに!」

「いつものことです。あそこにありますよ」


 補佐と思われる青年が指す先に、『テンプーラ』の看板。俺達はそこに並ぶ列の後方につこうとしたところ。


「あちき達に食わせるにゃ!」


 1人突っ走った者がいる。

 だが、これは許せない行動だ。

 屋台を出した経験からすると、ノーグッド。


「それは、最悪の行動だ!」

「なんでにゃ! 早く食いたいにゃ!」

「気づかないのか!? 店主の困惑と若干の軽視。我々はこれから食べ人になるのだ。後ろにいる食べ人達を見ろ!」


 列に並ぶ人達もずっと待っていたんだ。


「どれだけ待ち続けていたことか。先頭の彼らも、こんなに筋肉をつけて腹が減っているだろう。だが、従順に待っているんだ!」

「そうだったのかにゃ?」

「もちろんだ。それに横入りして、手を抜かれたらどうするつもりだ?仮初かりそめのテンプーラで満足できるのか?」

「まさか、そんなことがあったのかにゃ。みんにゃ、すまにゃかった」


 全員が納得の説明だろう。列に並んでない人達も頷いている。


「ご高説してるところ悪いが、先頭から10人は横入りしてるの見てたぜ」


 振り返ると困惑した様子で話す店主。

 列を見ると気まずそうな先頭組。


「バカヤロー!」

「にゃああ!」


 1番前の1人をビンタすると、もう止まらない。

 少女と2人で、1分かからずお眠りいただくと、かなり列がスッキリした。


「ささ、あなた方が先頭ですよ」

「あ、ありがとう」


 1番後方に並ぶと、今中に入った人達で、並ぶ者はいなくなっていた。


「まさか次に順番が来るとは思ってなかった」

「うにゃ。これは日頃の行いが良いからにゃ!」

「「はっはっは」」


 そこから待つこと10分程、ちょうど団体客が出ていくタイミング。これだけの9人と多いが、全員入れるということで、店主が案内してくれた。


「この揚げる音!」

「天ぷらだ!」

「やっとよ!」


 3人も久しぶりの天ぷらに期待を膨らませている。


「食べる前からこんなに喜んでる客は初めてだよ。全員盛り合わせで良いのかい?」

「それで頼みます」

「それにゃ」

「盛り合わせ9にんまえー!」


 厨房の中は見えてないが、渋い声で「盛り9」と返ってきていた。


「それで、気の話なんですが」

「うにゃ!」

「あいたっ!」

「飯がきてからにゃ!」

「いてー。わかりましたよ」


 俺達は天ぷらが到着するのを無言で待ち続け、とうとうその時が来た。


「あとちょっとで出来るよー」

「あぁ、待ちきれない」

「もう少し、もう少し」

「ヨダレ溢れそう」


 俺も、口の中から止めどなく溢れる水を、飲み込みながら我慢している。

 急に外が騒がしくなり、その後、数十秒で店内まで騒がしくなる。


「ちょっと良いか、外で乱闘騒ぎがあったみたいだが」


 その言葉で、店内の視線が一斉にこちらを向く。


「ん?」

「にゃ?」

「君達が何か知ってるようだな。すまないが、今から詰所まで来てもらおうか」


 この兵士は何を言ってるのだろうか?今からだと?


「悪いが、天ぷらを食ってからにして欲しい」

「そうにゃ。テンプーラを食べるまで動けにゃい」


 すると、その言葉で一気に気配が濃くなる。


「む。その返事はいただけないな。もしや、誰かがやったんじゃないか?」


 9人の中で視線が集まるのは2人。


「おい。見てたな? この2人を連行しろ!」

「え?」

「にゃ?」


 一斉に囲まれ、はがい締めにされてしまった。


「ちょ、ちょっと! 天ぷらが待って」

「あちきのテンプーラ!」

「連れてけー!」


 暴れる俺達も、腹ペコ状態じゃ力が出ない。

 情けなく引きずられながら、店内の様子を見ると、みんなの声が届いてくる。


「実さん」「副長」

「「ちゃんと食べておきますから!」」


 なんて奴らだ。

 薄情な者とはこういうことを言うのか。


「くっそぉ! 天ぷらが! 天ぷら!」

「テンプーラ! にゃぁぁぁ!」


 我々の抗議も虚しく、離れた詰所まで連れて行かれてしまった。


「なんで牢屋に!」

「暴れなきゃ事情聞くだけだったんだよ。そこでちょっと冷静になりなさい」

「出すにゃ!にゃぁぁぁ!」


 日も暮れると、光取りの窓から月明かりが落ちてくる。


「腹減ったにゃ。お前は大丈夫にゃのか?」

「俺は食事抜いても大丈夫かな。天ぷら食いたかったけど」

「飯のことは聞きたくにゃい!」

「自分から言ったのに!?」


 理不尽な奴だ。

 だけど、空腹は可哀想だ。


「果物と野草くらいしかないけど」

「くれにゃ!」


 懐から取り出したブドウを引ったくられ、行き場の無い手をぶらつかせる。


「自然を感じるけど、にゃかにゃかの味。次!」

「はいはい」


 次々と取り出し、雛鳥に餌を与えていく。

 すると周りには種が散乱してしまった。


「あーあ。こんなに散らかして」

「あとはやってくれにゃ」


 食うだけ食ったら、すぐに横になり、今は寝息を立てている。

 寝てしまったら、仕方ない。

 ノロノロと立ち上がり、散らばった種を回収していると、精霊が種で遊び出した。


「楽しんでるところ悪いけど、その種も回収したいんだ」


 少し大きめの種を取ろうとすると、まだ取られたく無いのか、引っ張り合いになってしまった。


「そんなに欲しいならあげるけど、ちゃんと片付けておいてよ?」


 様々な色の精霊達が踊り出し、喜びを表現している。

 ひと通り踊りが終わると、数匹で種を担ぎ、小窓から飛び出して行った。


「あの種、桃だっけ?」


_______________

 

野生の猫 が現れた。


・たたかう

・ぼうぎょ

・にげる

・えづけ←


野生の猫 が略奪スキルを使用。

餌だけ奪って行った。

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