第127話 トラブルの香り?

「結局最後まで一緒に来てしまいましたね」

「私は色々聞けて助かりました」


 あれから1週間。

 シーレンさん達と共に、街道を進みブルンザ国の手前までやってきた。

 すれ違いの商人に聞けば、もう半日も進むと国境を超えるらしい。


「シーレスさんは、どちらの都市に向かわれるんですか?」

「私は北方面のトッチャという街へ行きます。その後近場を周っていく順路ですね。ノールさん達は、このまま首都へ?」

「えぇ。首都に知り合いがいると思うので、まずはそちらに行ってみようと」


 すると、シーレスさんは少し考えた後、サラサラと手紙を書いて渡してくれる。


「これを持ってカラーシ商会へ行ってみてください。多少助けにはなるかと思います」

「ありがとうございます」


 この配慮はありがたい。

 新しい土地は、良い場所を見つけるのに時間がかかってしまう。

 この紙一枚で、手間を減らせるなんて。


「イツキ。ちゃんと持ってるんだよ?」

「なんでオレ?」

「近くにいたからだけど」

「荷物持ちかよ。まぁ良いけどさ」


 カオルとアオイは、採取してるから仕方ないよね。


「ははは!イツキ殿も成長されて、良い冒険者になってください。私達も期待してますぞ」


 後ろの人足達も頷いている。シーレスさんも、この人足達に教えている最中だった。同じ教わる者同志ということで、イツキ達と良く話しているのは見ていた。


「そういえばミノール殿は、この国の噂をご存知ですか?」

「前居た国では、魔王がどうとか」

「あの国でしたか。御愁傷様でした。そうでは無く、傭兵のことです。」

「初耳ですね」


 この国に新しい傭兵を呼び込んだという噂だ。

 なんでも、王様の知り合いにエルフが居て、知り合い経由で紹介されたらしい。その傭兵達が一風変わっているという話。


「どう変わってるか、噂が錯綜していまして、何とも言えないんですよ。団長と呼ばれる人物が喧嘩っ早いか優しいか。見た目は子供か大人か。人によって分かれています」


 まぁ、容姿はわからないが、下手な対応しないように気をつけろってことかな。


「ご忠告感謝します」

「稀にですが、トラブル体質の人がわかることがあるんです。そういう人は、どこかで大きな人と繋がることがあるのでね」


 もっと穏やかな人かと思っていたが、意外と博打打ちか!

 だが、俺はトラブルに巻き込まれたりはしない。

 幾度となく経験した面倒ごと、これからは全てを逃げられる男になる。


「実さん。葉っぱくわえてるとおじさん臭いですよ」


 君は俺を何歳だと思ってんだ?


 半日の道のりは短く、会話を楽しんでいるうちに到着してしまった。


「では、機会があればまた会いましょう」

「えぇ。良い旅を」


 シーレンさんを見送り、番兵に教えてもらったルートを辿る。

 聞いた話だと、ここから2週間程で、首都サルマーレに到着出来るらしい。

 途中の街も栄えていて、そこら中の国から輸入品が出回っていて、見ても遊んでも楽しいと評判と勧めてきた。


「本当に連泊しないんですか?」「面白そうだよな」などと言い、男2人は泊まりたいとネダっている。

 よく考えてみると、カオルだけ連れて先行けば良いか。そのことを伝えてみたら、一緒に来ると言っている。


「まだ到着すらしてないから、街に着いてから考えてはどうですか?」

「それもそうか」


 ここから街まで5日。村を1個挟んでいるし、ゆっくり決めればいいか。いや。このパターンは、ダラダラしそうな気がする。


「早く出る前提で、必要があったら時間を使おう」


 3人が一斉に「おー」と答えてくれた。

 道ゆく人々を見ると、スピカ国より種族が豊かになっている。スピカは人族が多い獣王国といった様子だったが、ブルンザ国はニールセンに近いな。

 時々見かけるドワーフやリリパットが、それを物語っている。


「ちょっと良いかな?」


 先ほどから、こちらを伺っていた人が話しかけてきた。俺だけじゃなく、イツキ君以外気づけていたので、それなりの気配だったのだろう。


「何か用ですか?」

「何と言えば良いか。あの森の関係者ですよ」


 どの森だ!?


「あぁ。あの森ですか」

「えぇ。あの森です」


 だからどこだよ!

 アオイとカオルは自信満々の表情をしている。


「それで、どうかしましたか?」

「特に大事では無いのですが、この国に来たのを見かけたら、挨拶しておけと言われましてね」

「なるほど、それはご丁寧に」

「いえいえ。その方向の街は、テンプーラという料理がありましてね」

「天ぷらだと!?」


 後ろから生唾を飲み込む音が聞こえてくる。


「おい。天ぷらだぞ」

「さすがに見逃せないんじゃ」

「待って。材料を考えれば作れたはずよ?」


 カオル。その通りだ。我々は重大な失態を犯していた。


「みんな聞いた通りだ。わかっているな?」

「はい!」

「覚悟してます」

「ゴクリ」


 皆良い表情をしている。


「失礼。我々は用事が出来たので、これにて」

「あ、あぁ。良くわからんが頑張ってくれ」

「ありがとう。いくぞ!」


 これを聞いてしまったら急ぐしか無い。

 懐かしき天ぷーら。

 俺はタケノコが大好きなんだ。


「タケノコ!」

「えび!」

「かぼちゃ!」

「シソ!」


 シソ!? 良いぞ。今は何でも良い!


「俺はトカゲ君を癒しながら進む! 君達は全力を尽くすんだ!」

「「「ラジャー!」」」


 良いぞ。この指揮なら5日掛かる道を、3日で踏破出来るだろう。


 ◆◆◆


「ふぅ。ふぅ。あと…どのくらい」

「おおよそだけど、今までのペースで、1日の距離だな」


 みんなの疲れが取れなくなってきた。さすがに睡眠2時間は削りすぎたか。

 魔法の天ぷらワードも効かなくなってきた。

 こうなったら、交代で強制回復させるしかない。


「1人ずつ休憩させる! イツキから!」


 意識を刈り取って荷車に乗せる。賦活を掛けながら、足と腰を重点的にマッサージ。

 一通り済ませると、1時間寝かせ。次の人と交代をさせていく。

 この新方式を採用したことで、残り1日の距離を踏破するのに成功した。


「諸君。よくがんばった。これより天ぷらの街に入る。」

「「「お、おぉ」」」


 門番へ近付き、街へ入る手続きをしよう。


「よし。こっちへ! ギルド証とかあれば見せてくれ」


 各々ギルド証を提示して、確認を待つ。


「良いだろう。ようこそ。ク・プイの街へ!」

「ありがとう天ぷら」

「「「天ぷら」」」

「あ、あぁ。テンプーラなら、大通りの端にいくつかあるよ」


 門番にお礼を言って、足早に目的地を目指す。

 だけど、大通りは人が多くて、どの店かわかりづらいな。

 端ってどこのことだ?


「あ、あれじゃないですか?」

「ん?」


 アオイが見つけたのは、確かにテンプーラと書いてある。


「良くやった! ちょっと数人並んでいるけど、カオルもトカゲ君を預けないといけないしな」

「はい。今のうちに行ってきます」

「俺も行こう。2人は待っててくれ」


 従魔ギルドに預けるのは簡単だったが、トカゲ君の労いに少し手間取った。賦活していたとしても、相当走らせてしまったので、若干不機嫌。

 だけど、カオルに渡したトパーズの原石を食べさせると、1発で回復。


 大通りへ戻り、天ぷらを目指したが、2人がいない。


「どこにいったんだ?」


 少し先の方まで探していくと、2人の気配を見つけた。


「こんな先まで行って、待っててと言ったんだけどな」

「あれ?知らない人に囲まれてませんか?」

「んー。若めの奴らだけど誰かな?」

「それより行きましょうよ!」


 カオルに言われるまま近づいていくと、どうやらトラブルだったみたい。


「お前ら! どこでその技覚えたんだ!?」

「そうだぞ! 僕たちのギー術だって聞いた!」

「技術ですよ。まぁ、見かけたら聞かないといけないんです」


 下っ端らしき者達3人に詰め寄られ、困惑している2人。

 さらに相手側には少女と青年が1人ずつ控えている。


「どうかしたの?」


 声をかけると全員が振り向いた。


「何にゃ! 今はこいつらに聞いてるところにゃ!」

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