第125話 4人と1体の旅
「君達も残って良かったんだよ?」
「「いいえ!」」
俺とカオルの前にいるのは、アオイとイツキ。
他の女子生徒達は、相談の結果残ることに決め、先生に任せてきた。ここまでは想定通り。
想定外は、知らぬ間にツンツン君が精霊父様に弟子入りしていたこと。
旅に疲れてしまったことと、精霊父様の魔法を教えてくれるという甘言に、上手く乗せられてしまったようだ。
ツンツン君が思ってるほど、優しいだけの人じゃないぞ。精霊教会の管理人は誰もが一癖ある人だ。だけど、面倒見は良いので、うまく育ててくれるだろう。
ヴィーンを出て、さらに西を目指す。
1つだけ頼んだことがあったな。
海野さん。
次の醤油も期待してます。
_______________
\
\ 海 __
\ /
● \____/ ☆
(ブルンザ国) (スピカ国)
_______________
魔境
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ブ / \_ マ
ル| | イ
●ン| 海 |○ナ
ザ \_______| |
☆ ル
スピカ
_______________
地図はこのようになっている。
魔境と言っても、海周辺は定期的に間引きしているので、危険度は低くなっている。
スピカを通らない時は、海の上部を通っていくつもりだった。
魔境の生態も調べたかったが、ブルンザに行った後向かえば良いだろう。
すでに街道の半分まで来ている。道も整備されていて、歩きも苦は少ないので、半月もあれば到着できるかな。これも鉄トカゲ君のおかげである!出掛けに買っておいた鉱石をカオルに渡しておく。
「『山守り』って、本当にこんなこともするのか……ですか?」
「別に敬語はいらないよ。他の『山守り』は知らないけど、俺はやってたね。」
「爺ちゃんすごかったんだな」
イツキ君がその爺さんの自慢を始めると、なかなか止まらなくなってしまったが、久しぶりの山守り仲間の話は面白かった。
特に興味深かったのは、俺が最初に守っていた山に近かったこと。あそこを離れる時、クマさんに全部任せちゃったから、それ以降のことは良くわかってないんだ。その爺さんの話だと、山の生態はほとんど変わってなさそうだ。多少の変動はあっても、バランスが一気に崩れると、なかなか戻らないからね。
「その爺さんの叔父さんが山守りやってて、変わってる人だったけど、面白かったんだって!」
「なるほどなるほど。続きも聞きたいところだけど、今日はここまでだな」
そろそろ野営の準備を始めないと、テント設営に時間がかかってしまう。
「あ、ごめん。久しぶりに話して楽しくなっちまった」
「俺も続きが気になるから、続きは今度聞かせてよ」
「わかった!」
野営の準備は持ち回りで行い、その日の良い悪いを互いに総評する。
「カオルちゃん、ちょっとハーブ入れすぎてません?」
「やっぱりわかりました?今日はやりすぎちゃって」
「オレは濃い方が好きだけど?」
「イツキはまだ知らないんでしたっけ。このハーブ美味しいけど、動物も好きなんです」
山菜は人間以外も食べるから、香り強い物は、時々動物を寄せ付ける。
「爺さんから聞いたことあったな。このハーブがそうなのか」
「アオイ君のテントも、もうちょっと張りがあったほうが良くないですか?」
「そっか。早さを意識したから、結びが甘くなっちゃったかもしれない」
イツキは毎日聞いたり、ダメ出しされたりしながら少しずつ覚えている。2人も優しく言うし、良くなってたら褒めるので、ツラくは感じて無さそう。
「そろそろ、実さんのやり方も見ておきたいです」
あおい君が代表して言うが、俺の野営を覚えても使うかどうか。
「前にも言ったけど、特殊だからオススメしてないよ?」
「私もその特殊も見ておきたいです」
「オレも!」
1日くらいハードでも良いか。
「じゃあ、明日やってみようか。後で文句言わないでね?」
「「「はい」」」
◆◆◆
日が傾きかける頃になって、野営の準備を始める。
「最初は食事の準備用に薪と火種から始めます」
特別やってることは変わらない。食事の準備は、慣れてどれだけ無駄が無くなったかだけの差。昼に採った山菜を鍋にぶち込み、煮込んでいくだけ。持ってれば麦を入れたりもする。
「その間に野営の準備ね」
「それが一番気になってたんです」
特別難しいことはしない。ロープを取り出して、木に引っ掛ける。今日は人数が多いので、1人1本ずつにしようか。
「終わったよ」
「「「え?」」」
こうなることは、なんとなくわかっていた。3人が呆けた面を引っさげて、何度も木と俺を行き来している。
「テントは!?」
「雨風はどうするんです?」
「落ちないのか?」
それぞれがロープを引っ張ったり、枝の様子を見たりしながら考えている。
「木がある時は、だいたいこれかなぁ。虫除けのハーブを塗ったり、燻したり色々したけど、気を纏っていれば大体大丈夫だったよ」
「寝ながら気を纏うのか? 出来ないんだけど……」
「安心して、イツキ。僕たちも出来ないから」
そもそも寝てないんだよな。
でも、それを言うと訓練にもならないから、今日は体験してもらう。
「そろそろ鍋が出来るぞ」
余計な薪も入れてないから、食事のタイミングを逃すと、冷めて不味くなってしまう。
今日の鍋には醤油を入れている上に、作っていた麺も入っている。山菜も水にさらしたり、普段やらない手も入れているので、おいしく出来ているはずだ。
「このキノコも食べれたのか!?」
「こっちのは根っこ? 細い大根みたいです」
「これはノビルですね。私も取れました」
知っている物から知らない物まで、お互いに話し合っている。聞いてばかりだったけど、調べたり考えたりする癖が付いたのは良かった。
「「「ごちそうさまでした」」」
満足した顔でお腹をさすりながら、食後の休憩時間。
「1つ気になった香りがあったんですけど、スープから甘い香りが」
「それはこれだよ」
小さな種を取り出すと、しげしげと眺めている。先端の丸に棒が付いたような形。良く表現されていたのは、錆びた釘だったっけ。
「見た記憶はあるのですが、これは……クローブ?」
「おぉ! 当たりだよ。良くわかったね」
「お家で料理していたので」
急にカオルの表情が曇ってしまったので、それ以上は突っ込まずに話を進める。
「これも他の国から持ってきたんだけど、スパイスって一つ入れるだけで、すごい美味さが変わるんだ。ここらへんじゃ安物は塩スープだろ?」
「そういえば、出汁とかハーブ類もあまり出てこないよな」
「単純にスパイスとハーブが高いんだよ。ちょっと待ってね」
巾着からシナモンを取り出す。
「これが一番わかりやすいかな。これ一切れでいくらだと思う?」
3人で相談して、金貨1枚と答えた。
「良いところまで行ったけど、もうちょっとだったね。これを売った時は、金貨5枚だったよ」
俺からシナモンを取ってみんなで眺めている。
「だからお城で良い物食べれたんですね」
「そういうこと。食べておいしいし、わかる人は高くで買ってくれる。採取するなら、スパイスはおすすめだよ。」
乾燥が必要だったりするけど、それは各自がんばってくれ。
そろそろ、お腹も落ち着いてきたので、今日の寝床へ登っていく。
「じゃあ、おやすみ」
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