第97話 ロック鳥

 意識を沈めていると、いつものように叩かれる感触があった。

 また教授達が起こしに来たのかな。


「はいはい。今、目を開けますよ」


 ぴぴよぴよ。


 真っ白な体にモコモコの羽毛。

 体は丸く、可愛らしい目とクチバシ。

 その嘴でちょんちょんと俺の作務衣を啄んでいる。


 ただし高さ2m程の巨体でな。


「でかいな。君達はどこから来たのかな? とりあえず、つつくのを止めてくれませんかね?」


 優しく押し返すが、四方八方から啄まれるとどうしようもない。


「いやいや、破れたら替えが無いのよ。やめてねー」


 ひよひよ。

 ぴよひよ。


「やめよう。ほら、ほつれ掛けてるでしょ。ね?」


 ぴよよー。


「おい、マジでやめてって。ヤメロォォォ!」


 ピピピと鳴いて離れていく。


「あーあ。ボロボロだよ。帰ったら直さないとな。それにしても、何の鳥なんだか。昔森で見たような気がするんだよな。ヤマガワ? なんか違うな」


 思い出そうとしてたら、モコ鳥達がピーピーピヨピヨ大合唱を始めた。

 見た目が可愛いから和む。

 服さえつつかなければ、あのモコモコにダイブしたい。


 急に合唱が止まったと思えば、今度は突風が吹き出した。

 それに合わせるように大音量の羽音。

 吹き飛ばされないように上手く固められた枯れ草を掴む。


「枯れ草? ここは巣か。岩の上じゃなかったっけぇろろろ?」


 風がもろに口へ入った。

 喉が痛いし、喋るんじゃなかったな。


 風がおさまるとピヨピヨ大合唱。

 伏せてた顔を上げると、巨大な鷹のような生き物がいる。

 最初はモコ鳥達を見てたが、その鋭い目が俺に向いて来た。

 どこがとは言わないが、ヒュンとなる。


 キュアアアアア!


 この鳴き声知ってる。

 霊峰のロック鳥と同じじゃないか。

 それに、10mとか思ってたが、倍の大きさはあるぞ。

 ここで、俺の白色の脳細胞が行動を起こさせる。


 俺は枯れ草。

 体を横たえ一切の動きを見せない。

 瞑想で培った、体の固定技術は誰にも負けない。

 そして、森で培った気配遮断。

 気も魔力も放出せず、枯れ草と同化する。


 ふふふ。

 ロック鳥も戸惑ってるな。

 あちこち見ているのが手にとるようにわかるぞ。


 こら、モコ達。

 寄ってくるんじゃ無い。

 ピヨピヨ可愛いからって何しても良いわけじゃ無いんだぞ?


 あぁ。

 俺の作務衣が!

 袖が肘までになってしまった。

 だが、まだ動けない。

 なぜか、ロック鳥が首を左右にダンシングさせて喜んでいる。

 つつき続けるモコ鳥達。


「痛ったぁ! 髪の毛はダメだろ! ちょ。やめて」


 そんなのお構いなしに、心なしか声が弾むモコ鳥達が髪をロックオン。


「痛い! 痛いて! やめぇぇぇぇぇ!」


 声に驚いたのか、一歩下がってくれた。


「大丈夫か? ハゲてない? むしろ皮残ってる? 良かった」


 ほとんど無事だが、右のモミアゲだけ抜けてしまった。

 危うく頭部出家とうぶしゅっけさせられるところだった。


 ギュアアアアア!


 ロック鳥がお怒りじゃ!

 やばい。

 命が危ない。

 モコ鳥怒ったのがダメなのか!?

 素早くモコ鳥ズに近づいて、仲良さアピール。


「ほらほーら。見て見てー。抱き合ってこんなに仲良いんだよー?」


 ちょっと嫌そうな顔してるが、我慢してくれ。


「あぁー。毛繕いまでしちゃうんだー」


 かりかり体を掻きつつ、賦活までしちゃうもんねー。

 ほらほら、トロトロ気持ちよさそうな顔見てくれよ。


 キュルルル。


 左右の目で交互で見るの止めてくれない?

 その観察怖いわ。


「他のモコズにもやっちゃうかなー」


 全部マッサージした後に、やっと落ち着いた。

 その頃には、ロック鳥も警戒を解き初めて足をたたんでいた。


「なんとかなったか。じゃあ帰りますわ」


 素知らぬ顔で巣の外へ歩き出すが、気づくと捕まって巣に戻っている。

 もう一度、今度はロック鳥が見てない時に。



 なんで?

 夜に気配殺して、しかも飛んでった後に動いたんだけど、いつの間にか捕まえにやってくる。






 数ヶ月、暮らしてわかった事が、巣から1kmくらいまでは動ける。

 それから先に行こうと捕まってしまう。


 ここは山頂付近なんだが、巣の周りは暖かい。

 ロック鳥かモコ鳥かわからないが、魔法で温めているみたい。

 ちなみにモコズはロック鳥のヒナではない。

 先月、ロック鳥がでっかい卵を産んでいたが、1個だけしか無かった。


 それからは卵にも賦活する毎日。


「よし! モコワンからスリーまでが、温め隊だ! GOGO!」


 ピッピヨピー。

 交代で温めながら、残りは休憩。

 そして、時々荒事がやってくる。


「来たぞ! 卵を守れー!」


 ピヨピヨー!

 山頂で敵なんていないと思ってたが、意外と魔物はやってくる。


 やってきたのは『4つ腕グリズリー』探索者ギルドで見かけたことあるが、5級レベルの魔物だ。

 これでも弱い方で、最初はビビって逃げそうになった。

 すぐにロック鳥がやってきて倒すし、モコズも強い。


 ロック鳥はそのままだが、モコズは耐久力が最高クラス。

 グリズリーに殴られても微動だにしないし、【おしくらまんじゅう】で卵まで寄せ付けないディフェンス力。

 君達にはぜひHAKAを覚えてもらいたい。


 今日はいつもと違って、もう1体やってきた。

 今までに無い大きさで、15m程の大蛇。

 そいつが逃げてきた。

 身体中に小さな傷を負いながら、何かから逃げている。

 弱々しくゆっくりと動いているが、確実に卵を狙っているとわかり、俺たちも守りの体制に入る。


「手負いだが気を抜くなよ!」


 ピヨヨー!

 一進一退の攻防。

 敵も今を逃すと死ぬのがわかっているのか必死だ。


 なかなかロック鳥は戻ってこないし、俺たちの攻撃じゃ通らない。

 ジリ貧状態のまま5分も経ってしまった。


 ピヨーピヨォ。

 頑丈だけど、モコズはあまり動かないから体力は無い。

 そろそろ厳しいと思った時に、遠くから岩塊が大蛇に直撃した。


「助かったけど、新手はゴメンだよ」


 大蛇は動かなくなってるけど、モコズが息切れして動けない。

 俺はヘイト無視されると抜けられやすい。


 警戒しながら岩が飛んできた方を見ると、雲の中から揺れている存在が見えてくる。


「メサ!」


 ぷるぷる。


「どうやって来たんだ? ロック鳥に見つからなかったのか?」


 俺が話しかけても良くわかってないという反応が返ってくる。

 獲物を追ってたらここまでやってきてしまったらしい。

 それにしても、あの大蛇を倒してしまうなんてな。

 確実に俺より強くなってしまった。


 ブルブル。


「悪い悪い。早く獲物取ってきなよ」


 メサが大蛇に向かうと、魔法で作った鋭利な岩で切り分けていった。

 それを一部飲み込むと体が重くなったのか、地面で休んでいる。


 そのまま動かなくなってしまったので、残りの大蛇は保存してまとめておく。

 こいつは食えないよなぁ。


 俺も毒には強いけど、メサの毒は耐えられないかもしれない。

 耐えられても、のたうち回って苦しむだけだろう。



 キュルルルル。


 今日は遅い戻りだったな。

 ロック鳥は、すぐにメサを見つけて鋭い目を向ける。

 メサは全く気にせず休んだまま。

 俺はドキドキしながら待ってたが、何も起こらなかった。

 蛇も丸見えだが、手を出す様子も無い。


「お前は本当に大物だな」











 俺が山頂に連れてこられて、およそ半年。


 ようやく卵が孵った。

 ひび割れていく卵をみんなで観察する。

 カケラを1つ1つ中から突いて出てこようとする。

 時々親が残った殻を摘んで落とす。

 中から出てきた時にはしっかり羽毛もあって、乾くと可愛らしさがある。


 そこら辺は、動物と魔物の違いなのかもしれない。

 その様子をスケッチして、添え書き『ロック鳥の誕生』を書いて。


「名前は高橋実っと。しまった。下にノールって書いておけば良いか」


 その紙とロック鳥の抜けた羽をメサに渡し、持って行ってもらう。


「教授に渡してくれる? それ見たらきっと面白がるよ」







 その3ヶ月後、ヒナも大きくなってきて、モコズと遊ぶようになっている。

 その頃に、ようやくメサが戻ってきたかと思えば、教授からの手紙と探索者ギルド証を持っていた。


『探索者ギルド員 ノール 特殊3級』

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