第92話 地下に潜む

「見たまえ諸君。これが新型荷車改だ」

「何だそれ。ノールが乗ってるだけだろ」

「わかってないなゲイル君。うつ伏せで足だけ出して……」


 この状態で足から気を出す!

 ずずずと荷車が動き出した。


「ど、どうだね……はぁはぁ」

「残念だが燃料に問題があるようだね」


 良い考えだと思ったんだが、1mで疲れてしまった。

 そもそも気って爆発させないと反動ほとんど無いよな。


 こんなことをやってるのも、全部暇が悪い。

 入り組んだ洞窟の分岐点、ドリーが調べてメサが毒探知。

 教授達が研究して、ゲイルがお守りだ。

 俺のやることがない。


「暇なら手伝えば良いだろ」

「みんなの仕事をとったら悪いだろ? 俺はちょっくら瞑想して」

「待て、瞑想はダメだ! ノール氏は起きないじゃないか!」


 瞑想までダメだったら何すれば良いのよ?


「気配探るくらいしか無いじゃん」


 気まぐれで底の方まで調べてみると、大きめの生命反応があった。

 ちょっと大きすぎないか?


「なんか見つけた」

「んあ? なんだなんだ?」

「早く言いたまえ」

「いや、気配に引っかかったんだよ。デカイ生命がさ」


 そう言いつつ下を指す。

 みんなして覗き込むが、そこを見てもただの地面だよ。


「もっと底。深いところにめちゃんこデカイ奴がいる」

「動いてるか?」

「んー。もぞもぞしてるけど、まだ動いて無いね」


 みんなでどうするか話し合ったが、なるべく近づかない方向を選びつつ進むことになった。

 教授の話でも、アリの巣と形状が似ているらしいので、どこで鉢合わせしてもおかしくないらしい。

 この穴を掘るアリだったら、どのくらいの大きさなんだろうな?頭だけで人間サイズはありそうだけど。





 さらに1ヶ月進むと、壁の材質も変わってくる。

 硬度も上がってくるし、使い勝手はよさそうだ。


「本当にノールは飯食わないのか?」

「ん? 食べて良いよ。あ、一個忘れてた」


 巾着からサイズを戻しつつ重量感のあるパンを取り出す。


「パン? 腐らないのか?」

「保存してるのもあるけど、こいつは念入りに作ったんだ。あと10本あるから、食べてくれ」


 みんな取り出した食べ物に目が釘付けだ。


「甘い香り、フルーツが入ってる!」

「砂糖漬けか! いや、花の香りもあるから蜂蜜かな?」

「うぉぉ! 3日ぶりのフルーツだ」

「甘みが強い! けど、変わった香りもするな。あと体があったまる」


 前に旅行した時に食べたんだけど、香辛料多くてうまかったんだよね。


「パン・デピスっていうんだ。香辛料と蜂蜜多めのドライフルーツで長持ちする」


 研究組は角度を変えて色々眺めている。

 食べるのを抑えたつもりで、半分が消えた。


「これはどのくらい持つんだ?」

「うまく作って3週間かな。俺の保存術で長くて4ヶ月」

「ノールのその技は反則だよな」

「便利なのは否定しない」

「俺も探索は得意だが、ノールには敵わないな」


 それは嬉しいな。

 発見したり、調べたりする時はいつもワクワクする。

 好きなことを褒められるってのは中々ないからな。


「ところでドリー。先はどのくらいありそうだ?」

「進行は早い。爺さんの経路はほとんど踏破しているから、それから先はもうすぐだね。ただ、そこからが未知だ」

「そこまで行ったら一度休憩しよう。教授や私とも相談した方が良いかもしれない」


 予定地まではドリーに任せて問題ない。

 実際その日のうちに到着し、大きな跡が残してあった。


「通常モール族がこんなに削ることはない。相当悔しかったんだな」


 ドリーの悲しそうな顔が見える。

 だけど、先は急いだ方がいいだろう。


 教授達も分岐を調べつつ、方向を決めていく。

 時折、ごく小さく経路がわかる時がある。

 それは6代前が掘った跡だろう。


 かなり降りてきたせいか、肌寒くなってきたみたいだ。


「お前の体どうなってんだよ」

「どうって言われても、ずっと作務衣だったしな」


 皆んなが上着を着込んでいるなか。

 俺とメサだけ入り口と同じ格好をしている。


「バカなのかな?」

「ちょっと待て! それはヒドイんじゃないか?」

「俺も思ったな」

「確かにバカは良くないな」

「そうだな。バカはやめよう」


 さすがは教授達!

 人の気持ちがわかるって良いな。


「「アホだな」」


 ペチペチ。

 横を見るとメサが大笑いしていた。


「何がおかしいんだぁ!」

「くらげと喧嘩する奴がいるとはなぁ」

「ソラソラソラソラ!」

 ピシピシピシピシ!


 俺の拳打とメサの触手がぶつかり合う。


「ほぁぁぁぁ! ちょっと待て」

 プルプル……。


 地面に耳をつけると妙な音がしている。

 さっきから変な響してるんだよな。


「うーん。地面を進むやつがいる。細長いな」

「あ」

「ドリー君は知ってるのかい?」

「たぶんだけど、ワームじゃないかな。そんな噂を聞いたことがある」


 ワーム。

 ミミズ?


「ワームって、ヤバいだろ?」

「出発準備!」

「そんなに危険なの? ミミズが?」

「良いから急げ! 積んだらすぐ行くぞ」


 ゲイルの合図で動き出して数分。

 地響きが近づいてくる。


 一瞬止まり、通ってきた道を見る。

 ゴリゴリ削れる音と共に、左から右へ奥が見えないサイズの何かが通り過ぎる。

 まだ通ってる。まだ。


「長すぎだろ! 10mはあるぞ!」

「だからヤバいんだよ! 食事は土だが、巻き込まれたら潰される!」

「進め!」


 必死で荷車を押しながら、一瞬の判断で分岐を進んでいく。

 もう5回は分岐を進んだがまだ後をついてくる。


「ヒィヒィ。何かが惹きつけてるんじゃ無いか!?」

「何って……パンってちゃんと袋に入れてる?」

「これか?」


 ジールが懐から取り出した。


「ミミズは以外と嗅覚良いんだよ! それだ!」

「寄越せ! それ!」


 パン奪い取ったゲイルが、そのまま投げる。

 それを空中で飲み込んだミミズが、そのまま遠くへ消え去った。

 地鳴りは遠くへ向かっている。


「行った」


 みんなが一息ついて休む。


「ジール。次から気をつけてくれよ?」

「すまん。スパイスが気になってな。でも、今度から残ったのはノールに返した方が良いかな」

「そうしておくか。しかし、あのパンは相当良い匂いだったんだろうな。他には目もくれなかったな」

「ところで今どこらへん?」


 ドリー達と手分けして調べると、古い小さな傷を見つける。

 方向は間違っていないようだ。


「爺さん達のところは過ぎてるな。ここからはハッキリとわからない」

「進むしか無いね」








 そろそろ潜り始めて2ヶ月。

 進行スピードはあまり早く無いが、着実に進めている。


 話題も減ってきたので、ジャンル気にせず話している。

 時には教授達の講説まで聴き始めてる。


「ところでさ、ゴブリンとかっていないの?」

「いるぞ」

「見たことないよ」

「ノール氏はそこも知らないみたいだな。ゴブリンは東側の大陸中央部に多く生息している。それこそ至る所にだ。西方は排除に力を入れていたので、ほとんど見られないが、やつらは危険だ」


 いつになく真剣な表情。


「ゴブリンは進化が早いんだ。他の魔物と違って強くはないが、見つけたら国への報告が義務付けられている」

「ほほお。じゃあこういう洞窟にはいないの?」

「絶対とは言わないが、可能性は低いな。さっきのワーム見ただろ、なぜかゴブリンはワームの餌なんだ」


 そりゃ生きてられないな。


「ついでだから言っておこう。他にも人型の危険な魔物はいる。オークやトロール。それにオーガーだな。こいつらは名前順にデカくなり力が強くなる」


 それぞれに進化系があり、個体ごとに得意な系統に進化していくらしい。ロードと呼ばれる形態になると大群を率いて国まで作るらしい。

 他の人型は、ハーピーやセイレーンが有名で、個体数は少ないがアラクネは、場合により連合軍を作ることもあるらしい。


「あとはお前が遺跡で書いてあったというバンパイアだ。あれは伝説の種族でな。壁画の内容が本当か未だに信じ難いよ。もし大陸中央に行くようなら、周辺の魔物については調べておいた方がいい」

「そんなことを言ってると、いらっしゃったぞ」


 カチカチとハサミを鳴らして威嚇している。


「あれは働き蟻だな。ソルジャークラスが来る前に倒すぞ」


 教授とジールは魔法で迎撃。

 ゲイルとドリーが前衛だ。

 ドリーもなかなかやるね。

 上手くスコップを使って関節を切り飛ばしている。


「アリだったら蟻酸を持ってるかな……」


 何気なく言った言葉だが、後ろから風を吹かせながら飛びかかる奴がいる。

 そうだよな…。

 ちょっと考えれば酸も範囲内だとわかったことだ。


「すまん。メサが止まらない」

「いや……良いんだが。あれさ。ノールより強くないか?」

「そうかもしれない。でも負けないから良いさ」


 あいつの行動は飯が基本だからな。

 俺のピンチなんてカケラも気にしちゃいない。

 ニンニク投げておけば良いだろ。


「浮きくらげも強いな。従魔にしたら便利か?」

「ちゃんと言うこと聞かせたいならオススメしない。でも霊峰は気にいると思うよ」


 毒草多いからな。

 しかし、食い尽くしたらいなくなる。


 そろそろ終わったかな。


「メサ。そろそろ良いか?」


 ブルブルブル。

 ちょっと反応がおかしい。


 メサの奥を見ると一回り大きなアリが数匹やってきた。


「ソルジャーだ!」

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