第84話 見知った顔

 今日は珍しくメサが川へ行きたがった。

 畑のニンニクが収穫できたから、川で洗って食べようってことだな。

 俺と行動していたせいか、最近では食べ方まで人間臭くなってきたな。


 ニンニク? 生食ですがなにか?


「残念だけど、お客さんがくるから行けないな。行ってきて良いよ」


 ぷるぷる。

 俺にもくれるというのか、良い奴だ。

 たまに喧嘩するが、数少ないニンニク仲間だからな。

 言わずとも分かってくれているようだ。



「ノール氏。片付け手伝ってくれ」


 家の中に入ると、本が散乱している。


「昨日片付けてなかった?」

「お客さんも研究者とか言うから、使えそうな資料集めてたんだが……」

「それでこの惨状か。片付ける奴だけ分けてよ?」

「わかってるさ。ここの端っこのに置くから頼む」


 どんだけ資料に使うつもりなのか、80冊は出てるんじゃないか?

 羊皮紙の本だと分厚いから、仕方ないのかもしれないが。


 半分程片付けた所でノックされる。


「もう来ちゃった。ほら、教授迎えに行ってきて」


 教授は、早いとかボヤキつつ、扉に向かっていく。

 俺はお湯でも沸かしてくるか。



 多めにポットへ入れて、運んでいくと見知った顔がある。


「なんでお前が居るんだぁ?」

「バートか。俺も結構早く来てただろ?」

「君も居たのか。ちょうど良い。お2人に遺跡のことを聞こうと思ってたんだ」


 遺跡研究家の人だ。

 そういえば、バート達と行くって言ってたな。

 名前はジールと言うらしい。

 教授とジールは馬が合ったのか、ポンポン会話を投げるから、他の人たちはついていけない。

 この様子ならほっておいていいだろうと、俺とバートは外で経緯を話すことになった。


「そっちも大変だったんだねー」


 バート達が聖教国を通る時は、すでに戦争ムードで、歓迎されなかったらしい。

 一度警備に捕まりそうになったが、何とか言いくるめて急いだ。獣王国に入る前まで、遠くから監視されて、やっとこ国に入る。この国に来てからも、挨拶回りや仕事の依頼、家族に捕まっていた。

 動けるようになったのもつい先日だと言う。おかげで、ジール達は国民になれたので良かったが、すでにヘトヘト状態。


 こっちも事情を説明すると驚いていた。


「この山に抜け道があったとはなぁ」

「でも、モール族しか通れないかなぁ。入り組み過ぎていて、なれてない人は野垂れ死にしちゃうよ」

「話を聞いた感じだと、上に言う気にならんなぁ。どっちにしろ使うこともないだろぉ」


 ゲイル達とジールの付き人は、首都にいるらしい。

 今度会いに行ってみようかな?

 その前に、壁画の記録だ。

 他のことに目が行っていて、資料を読んでなかったんだ。

 外で話していると、お呼びがかかった。


「ノール氏。ちょっと来てくれ」


 中に入ると、さっき片付けた本が、また積み上がってる。


「おい! また散らかすなよ!」

「これは必要な資料なんだ! 良いからこっち来て!」


 言われて、近づくと一冊の本を見せてきて、その中の一部を読めと言う。


「んー? これって、前にバートさんと見た奴?」

「そうだ。翻訳文もあるんだが、理解できない部分があってな」

「だから前も言ったじゃん。前半のここまでが流して読んで、ここから最後まで逆読みだよ。ここに『逆』って書いてあるでしょ?」


 見せてみたが頭を捻るばかり。


「私にはミミズにしか見えないけどな」

「同意ですね」

「そもそも精霊語は点と棒しか無いのに、どうやって読んでいるんだ?」


 ジールさんは読めなかったのか。

 これは教授が教えることじゃ無いのか?


「ジール氏は精霊語から覚えた方が良いな。君もしばらくここに住んだらどうだね?私も調べ物が捗るし、精霊語も覚えられるだろう」

「願っても無い話です。是非に」


 こうして居候が増えた。

 言語辞典を作ってくれと言われたが、書いてるのは読めても、思い出して書き出すのは無理だな。

 俺の記憶力を舐めないでもらいたい。

 キリッ。


 バートは忙しいとか言ってたが、1日だけ泊まっていけるようだ。




◆◆◆



 あれから1ヶ月経った。

 ジールが来てから、俺も資料読まされたりしてると、自然と壁画の文字を読むことが増えた。一応日記にメモしている。

 この壁画の主だが、俺と相性が良いかもしれない。

 それに、故郷も同じなのだろう。

 書いてある地域は、知っている所が多く、知り合いと同じ名前もあって思い出しやすかった。

 結局日記は見つからなかったけど、それなりに思い出したし、あとは手がかりを探すか。

 パソコンかケータイがあれば良いんだけど、使ってる様子も無いんだよなぁ。



 俺が呼ばれる回数も減ってきたし、ここらで一度首都に行ってみようかと思う。

 バートにも紹介状貰ったし、種神様の作務衣というのも見ておきたい。

 そうなると善は急げ。


「教授。ちょっと首都に行ってくる」

「うむ」


 話聞いてないな。

 そのうち戻るし、別に良いか。


「ノール君。ちょっと待ってくれ。首都に行くならバートにこの手紙を頼む」

「渡すだけで良い?」

「良いよ。大事なことは中に書いてある」


 ジールもそう言うと、すぐに研究へ戻って行った。

 忙しい人たちだ。


 メサとオスクも首都に行か聞いてみたが、今回は行かないらしい。

 なんでも、この山で友達を見つけたとか。

 面白い遊び場を教えてくれるらしいので、そっちに行くらしい。

 そういうことなら、今回は1人で出発だな。





 首都へ向かう途中、ドリーに出会った。

 前に言ってた爺さんと、首都に行くと言うので、同行させてもらう。

 1人と思ったが、早速同行者が見つかったので、暇は無くなったな。


「というと、他にも洞窟があるんですか?」

「そうじゃな。霊峰だけで、5箇所くらいは整備してあるな」

「そんなにあったのか……。自分も3つまでしか知らなかったぞ」


 なんとも新しい情報がつきない。

 あの洞窟以外にも、5箇所だと?

 しかも、それぞれに変わった部屋だったり、人工的な通路だったりがあるという。

 モール族は知ってるが、他の種族には知られてないとか。


「そんなこと俺に言って良いのか?」

「別に隠しておらんよ? 聞かれないから言ってないだけじゃ」

「自分たちは、あんまり他種族と話さないからな。機会が無いだけだと思う」


 俺も思い出さないと話題に出ない内容が多いし、似たようなものか。

 パロ教授には話したが、体力が持たず、現地まで到着出来なかったらしい。

 モール族は、2ヶ月は軽く洞窟に入っているらしいので、ついていける人も少ないだろうな。

 オスクもやめた方が良いか。

 あいつも洞窟は苦手そうだしな。



 霊峰から首都までは、一本道。

 途中村は2つあるが、首都側の村は立ち寄る程度であまり交流は無い。

 山側の村に到着した時は、また来たか程度だった。

 問題は首都側の村。




 そこに到着した時のこと。

 大型の獣人族が何人も待ち構えていた。


「薄汚えモールか。何しに来た」

「ただ通るだけじゃ。飯が貰えたらええ」

「んんー? お前らに渡す残飯もねえなぁ?」


「「「ぎゃっはっは。」」」


 非常にわかりやすい奴らだ。

 関わると面倒だと思い、顔を出さないようにしておく。


「残念じゃ。ならばそのまま通るとしよう」

「ちょいまて、あれがねえぞ?」

「何のことじゃ?」

「何って、通行料だ」


 本当に面倒くさい奴だったな。

 馬車料金とか言って、上乗せしてきたようだ。

 中まで確認しに来たので、見つからない位置に逐一移動するのが大変だった。


「じゃあ、これでよいな!?」

「行けよ」


「「「帰りもよろしくー!」」」




 少しばかり離れてから顔を出す。


「いつもあんなか?」

「だいたいな。穴掘りとか言って貶してくるんだよ」

「しかし、よく見つからなかったのぉ?」

「逃げ、避け、隠れは得意なんだ」


 そんな状況なので、山側の村もなかなか首都へ行きづらく。モール族も面倒であまり出かけないという。

 見た目は強そうだから、傭兵か探索者にでもなれば良いのにな。

 そんな風に思ったが、考えるだけ無駄な気がしてきた。

 話のネタにはなりそうなので、首都についたらバートに教えてやろう。

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