第67話 ケープ村の1日
ここを出たのもつい最近だと思ったが、みんなに「久しぶり」と言われて、結構長く出てたんだと実感した。
今日も村のみんなと街の話をしていると、仲良かった奴がいない。
「そういえばベアさんはどこ行ったの? 仕事?」
そう聞くと、みんな苦笑いして一人が話してくれた。
「彼は隣村に行ってるんだよ。場合によっては村ごと引っ越すかもしれないからね。その連絡さ」
そういえば、そんな話もあったな。
「ベアさん頼りがいあるからね。ベアさんが引退したら大変なことになりそうだ」
「本当にそこなんだよね。息子さんもがんばってるけど、他にも人材がいればね」
「各族で後進は育ててるんだけどね」
みんな後継には苦労してるようだ。
やりたいと思わせないと伸びも悪いからな。
親は苦労しているな。
俺はほら。
あれだ。
そう! 孤児達がいるからな!
そんな会話をしていると思ってもなかった質問が来た。
「薬人はスキル貰わなかったのか?」
「あ!」
「その反応は貰って無いんだね。ははっ」
「他に良い技を持っておるから、薬人には必要無いじゃろう」
ヤギさんの言う通りだな。
決して、欲しかったとかは思ってない。
人族にはあまり広まってないが、スキルや魔法だと感知されやすくなるという欠点があるらしい。獣族は体感でそれを知っている為、技術として体得する努力もしているそうだ。
ちなみに獣族だからと言って、魔法が使えない訳ではなかった。魔法よりも優秀な肉体があるから、体を動かす方が好きらしい。
マーガレット先生も獣族の話はしてなかったけど、詳しくなかったのかね。それを聞いてみると、獣族も獣人族も元は同じなんだとか。獣成分が強いかどうかで言い分けている。その為、種族の特徴は獣人族の説明と同じになる。
そうすると半亜人はどうなるんだと聞いてみた。
半亜人も同じなんだってさ。
それならなんで差別されるんだろうな?
「それは匂いだね」
「いやいや、波長でしょ」
と2つに別れた。
どちらにも言えたのは、元種族の匂いや波長を2つ持ってて、それを感じ取っていると言う。
なぜ差別されるのかと言うと、単純に優秀だからだそうだ。
2種の特徴を併せ持つ為、才能に恵まれている。
その為、自分達とは違うと区別が悪化していったという。
「そんなことがあったんだねー。南村の人達も苦労してたんだな」
そう言うとみんなも興味を示し出した。
「そこの村はちょっと行ってみたいな」
「私も気になる」
「同じ苦労をしたのじゃ。何か助けになれば良いが」
そこにタヌキ族のタルポがやってきた。
「あぁ! ここにいた! 探してたんですよ。屋台のことで聞きたいことがあるので、ちょっと来てください」
「呼ばれたから行ってくるねー」
そう言いながらも、襟首を捕まれ引きずられる。
……
…………
「おう、来たっすね」
「狐族の……」
「フォッコっす。相変わらず名前覚えるの苦手っすね。それよりも、ここの金属なんすけど」
そういって屋台の付属品について聞いてきた。
樽乗せ等、木材加工でなんとか出来る場所は良い。だが、金属部分や魔道具を使ってる場所は難しいという。
俺も魔道具はわからないんだよな。
ドワーフを引き込めたら良いんだが、森に住み込む物好きは見たことがないと言っている。
パーツだけ外注するか、技術を教えてもらうしかないだろうな。
「獣族はこの国周辺だと煙たがられてるっす。村に売りに行く時も……」
っぽん!
と音をたてて、獣人族に変身した。
「こんな風に化けるっす」
前に聞いた気はするけど、変化するのは初めて見た。
「すげぇぇぇ」
思わず拍手する。
全部の特徴を消すのは大変なので、基本は獣人に変化するらしい。長時間は難しいのと、見た目だけで感触はそのままな為、触れられるとわかってしまうという欠点がある。
「タヌキ族長のボンゴさんは、数週間変化してられるっすけど、村外の対応担当なので動かせないっす」
「じゃあ、外注するしかないよね」
そう言って、蛇口を注文した時のことを伝えた。
「たまたま、魔法陣を描ける人がいたって、運が良いっす。しばらくは水壺か樽で代用して使うしか無いっすね」
「そんなぁ。せっかく馬車を改造できると思ったのに……」
タルポが相当残念がってるが、どうしようも無いな。
無理に誰かを街に行かせるわけにもいかないし。
というか屋台あげるか?
長距離移動には耐えられ無いし、良いかな?
そう思ってるとオスクの目がウルウルしだした。
「だ、大丈夫だ。ちゃんとこいつも持って行くからな!」
そう言うと屋台にしがみついて、クワクワ鳴き出した。
そんなに大事なのかよ。
しかし、旅のことを考えるとそのままってのもなぁ。
するとタルポが察したのか、声をかけてきた。
「何か考え事ですか?」
「んー。この屋台が獣王国まで持って行って、壊れないか心配になってな?」
くわわっ!
「しょうがないじゃん。元々の耐久力が無いんだし」
「そういうことなら村長に相談すると良いですよ。あの人は魔術も長けているので……ん! 村長ならこの水が出るのも作れるか!?」
「ぬおぉぉぉ! 早速聞きに行くっす!!」
みんなで村長の家に向かう。
……
…………
くわっくわわ!
くわくわ!
「ちょっと! 玄関前陣取らないで。」
「はいはい。お待たせ」
ギィィ。
くわわ!
「ん? ターさん所の鴨君だね。何か用?」
くわーっくわ!
くわわ!
「え? 移動する家が壊れそう?」
くわぁ。くわくわ!
「長旅に耐えられて便利にねぇ? それならターさん出来たんじゃない?」
村長がそう言うと、オスクが飛びかかってきた。
くわぁ!?
「え? 何? 知らないよぉ!」
「ほらほら、あれだよ。前に種に保護かけてたでしょ。それと小さくするの」
保存と縮小化の術か?
「確かに縮小化は使えるかも。でも、保存はダメだよ。あれは元の耐久力に依存するからね。これが新品ならまだ生命力もあったんだけど、中古だからなぁ」
く、くぁ。
「あぁ。それなら私が元気にしてあげるよ。そういうのは得意なんだ」
村長は屋台に近づいていく。
一通り触って調べるとブツブツ呟き出した。
「ちょっと古いな。新しい芽がいるかもな」
袖の中を探っていくつか種を取り出すと、屋台の土台に付けて魔法を放つ。
【ほーれほれ。育って枯れ木を元気にしてちょうだい】
精霊が集まってきて、種に力を注ぎ込み始める。
【あっちもこっちも手伝って!魔力があるから遊びに来な】
世界樹に居た精霊も寄ってきて、一緒に力を注ぐ。
すると種が芽吹いて、大きくなる。
それに釣られるように屋台の木材からも新芽が生える。
「おぉ! 久しぶりに村長の精霊術を見たけど、やっぱり凄いっす!」
「精霊語がわかれば、何言ってるか理解できるのですが」
そうか、あれは精霊語か。
言語覚えすぎて訳わからなくなってきたな。
「ほら。これでターさんでも強化できるよ」
「おう。お前かなり成長したなぁ」
声をかけるとポン! という音と一緒にブドウが成った。
お前どういう構造してるん?
「良い感じだね。多少もっさりしてるけど、雨漏りの心配も無いよ」
「こんだけ天井が茂ったら漏れないでしょうよ」
一周見て回ったが、問題なさそうだな。
「ターさんも精霊語出来るんだからやってみたら?」
「え? 俺に出来るかな?」
「精霊語話しながら魔力を流すんだよ」
「じゃ、じゃあ」
巾着からニンニクの種を取り出し、どこに植えようか迷ってしまった。
キョロキョロ見回すと、空いてる大きめの鉢があった。
それに植え付けて精霊語を話す。
何て言ってたっけな。
【そいやそいや! 強く育て! せいやせいや! 精霊こっちゃこーい】
すると周りの土から小さなおっさんが出てきた。
よっ久しぶりと片手をあげて挨拶してくる。
そして種に向かって、おもむろにシャドーボクシング。
パンチしながら力を送ってるようだが、それで良いのか?
「え? 何その子達? 土の精霊ってもっと……そうそうあの子達みたいのだと思ってたけど」
「ここの精霊って、とんがり帽子で小人感があってかわいいよな。だが、俺が居たところの土精さんは、小さいおっさんだ」
風精(羽虫)、水精、火精、場所によっては光闇雷。
その他色々、みんな結構可愛いんだよ。
だけど土精さんだけ、おっさんだ。
「しかし、このおっさん達が一番働き者なのも事実なんだよな」
そう言うと仕事も終わったのか、額を手で拭いつつお互いにサムズアップ。
そして土に溶けて行く。
鉢に植えた種を見てみるが小さな芽が出ている程度。
「失敗したかな?」
「でも魔力量は半端ないよ」
村長と顔を見合わせていると変化があった。
芽が急激に太くなり球根の上部が顔を出す。
「大丈夫だったみた……」
すぽん!
「「「「へ?」」」」
鉢から球根が飛び出した。
良くみると球根に顔がついており、目は一文字で口は文字通り口の形。
そいつがブルブル震え出し一声あげる。
「マシマシ!」
そう言うと、ぶっとい4本の根を足のように使って走り去ってしまった。
「ターさんは新種の魔物を作ってしまった」
……
…………
「オスク。屋台が立派になって良かったな!」
くわぁぁぁぁ!
数十年後、元王国の領地に新種のトレントが出たと、騒ぎになったとかならなかったとか。
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