第65話 道中とケープ村

 ニールセンを出発して1日過ぎた。

 途中村に着いたので、一泊しようとしたが、広場が騒がしい。


「この地域はそのうち聖教国の領地になるのだからな、今のうちに教会を建てておくのだ」


 でっぷりとした司祭服の男が叫んでおり、その周りに従者が数人侍はべっている。


「しかし、我が村はつい先日ニールセンの国に入れられたと話がありましたが?」

「なんだと!? 私が間違っていると言うのか?」

「滅相もありません。ただ、正式な書類が届きまして」


 その書類というのが、大層な名でとても破棄できる物ではない。

 それならば司祭が捨ててやると言う。

 いくら司祭様と言えども名も知らぬ方には渡せない。

 ならばとその男は、サンダール家の者だと答え家紋を見せてきた。

 聞いたことあるような名前だが・・。



 すると横で聞いてた旅人が前に出てくる。


「聖教国の方でも無いのに、勝手に何をなさっているのか?」

「なんだ君は!」


 怒る司祭。


「私は帝国からたまたま寄ったのだが、彼の国はこんなゴミも飼っているようだな? そもそもお前は王国の貴族だろう?」

「貴族である私にお前だと!?」

「お、落ち着いてください。」


 従者の者も慌て出す。


「止めるな! この無礼者を斬れ!」


 言ったところで、帝国人がスッパリと首を落としてしまった。


「わ、わわ! なんてことを! ヒーモ様!」

「問題があるなら伝えれば良い。無くなる国の貴族様にな? それとも聖教国に言うか?」

「この方は聖教国の方とも繋がりがあるのです。許されませんぞ!?」

「構わん。昔からお前らの教えが気に食わんのだ。そもそも、3国で手を出さないと決めたのだ。1ヶ月も経たずに反故にするとはどういうことだ?」


 その言葉に従者も驚いている。


「知らなかったのか? だが、そやつは聖教国の名を出したからな。ニールセンと共同で抗議をさせてもらう」

「何の権限が……」

「これでも軍内ではそれなりの地位だ」


 だから王国のゴミ貴族など早く燃やせば良かったとブツブツ言っている。


「中佐! これはどういう状況でしょうか……?」

「うっわ。住人に手を出したら軍規違反ですよぉ?」

「まだ開戦前ですよ。観光だって言ってたじゃないですか」


 わらわらと集まってきた。

 みんな軽口言ってるが、殺気立っている。


「気にするな。王国の廃棄族はいきぞくだ」

「なんだゴミですか」

「俺もやりたかったなぁ」

「だから、王国ともまだ開戦してないんですって!!」


「ふん! もう行くぞ!」

「え? 目当ての物は手に入ったんですか?」

「安心しろ! ここにある」


 そういって両腕サイズの大きな壺を2つ指していた。

 あれハチミツじゃないか?


「うっひょお。こいつが噂の甘露ですな」

「楽しむのは後でですよ」

「言い忘れていた。サンダール家は念入りに消毒してやろう。はっはっは!」

「「「ご愁傷様です」」」


 そう言って去って行く。


 従者は崩れ落ち嘆いているばかり。

 村長達も呆気にとられて、まだ動けてない。

 良い奴じゃ無かったが、さすがに可哀想だろう。


「こちら綺麗な布ですので、包んで埋葬なさってはどうでしょうか」


 そう言って、街で買っていた風呂敷用の布を渡す。

 それから先は知らん。


 居心地も悪かったので、そのまま村に向かうことにした。

 途中で懐かしいような気配があったので、そちらを見てみるが、何もいないということが何度かあった。

 道の途中で獣道に入っていく。

 もう夜になっているが、今日は月明かりで良く見える。

 来た時の経路はあまり覚えてないんだが、高めの草でカモフラージュしてあるので、なんとなくそこを通っている。


「薬人さん、久しぶりですね」


 そう言って草陰からウサギ族が現れた。


「おぉ、本当に久しぶり!」


 街に行ってから、全く獣族を見かけないんだよな。


「新しい匂いがいっぱいあるね」

「どうせ色んな植物取ってきたんだろ?」

「良い香りのもあるね」


 わらわらと集まってきた。


「こらこら、村に戻ってから話を聞けば良いだろう。先に案内するぞ」


 そう言って先導してくれる。

 彼らも、あれから隠密の技を磨いてきたらしい。

 俺も気配は感じたけど、見つけられなかったんだよね。

 そう言うと満足したようで、みんな笑っていた。


 林から森に切り替わるあたりで、猫族も現れる。


「曲者かと思ったら、お前かにゃ! 元気だったかにゃ?」

「元気だったよー。色々話したいけど、まずは村に行ってからかな」

「そうするにゃ。そうだ、お前の小屋も使える状態にゃ。というか時々使わせてもらってるにゃ」

「手入れしてくれたのか。助かるよ。ありがとう!」



 途中、ハングリーウルフが何度も襲撃してきた。


「前に比べると多くなってる気がするんだけど?」


 そう言うとウサギ隊長が渋い顔をする。


「それについては、村長から話してもらった方が良いだろう」


 そう言って、足早に歩き出した。




 猫族も数人付いてきて、結構な大所帯になって楽しかった。

 メサを紹介したらかなり驚いていたが、毒物が好きだと言うと、近場から拾った毒草をあげてすぐに仲良くなっていた。

 街の探索者もこれくらい見分けられると、依頼も減るんだろうけどな。

 森暮らしでも無いのに、さすがにそれは可哀想か。

 魔鴨は良く知られているのか、オスクはすぐに打ち解けていた。

 みんなはオスクよりも屋台に興味津々だ。

 移動式の料理店だと伝えたら、村でも作ってみようという話になった。

 村に近づくと大きな木が迎えてくれる。


「やぁ、久しぶり。お前のくれた枝は役に立ってるよ。まだ育てる場所は見つかってないけどね」


 そう言うと、葉がさわさわ鳴っているように聞こえた。


「ターさん、おかえり。思ったより早く戻ってきたね」

「村長!ははっ。俺も早いと思ったよ。この森近辺じゃないと育てにくそうな実をもらってね。あと伝言も預かってるんだ」

「そうか。とりあえず中に入りなよ」


 そう言って家に招いてくれた。


「壊さなきゃ屋台調べてて良いよー」


 とみんなに投げかけて入っていく。



 ギシギシ鳴る古い扉。

 木をそのまま使ったような壁。

 そこかしこに蔦や草が生えているのに、家として成り立っているんだから。

 相変わらず居心地の良い場所だね。


「さぁ、座ってくれ。ネザーも座りなよ」


 俺とウサギ族さんが座る。

 あんたネザーって名前だったのか。


「先にネザーの報告を聞こうか」

「では失礼して」


 ネザーの報告は、周辺に他国の者が増えたと言う話だ。

 若干だが治安が悪くなっている。

 帝国が行軍している様子も見られているが、戦地はもっと西側になるという見込みだ。

 魔物も増えてきているとも伝えていた。


「そうか、外の情勢はかんばしく無いな。ターさんが戻ったのも良いタイミングだよ。色々話したいこともあるだろうが、先に外の状況を教えてくれ無いか?」


 頼まれるほどでも無いが、頷いておく。

 まずは、王国が滅びそうなことと、ニールセンが独立国家になったことを伝えた。

 それとなく把握していたようだが、俺の言葉で確信になったようだ。

 先ほどまでいた村で、この地域もニールセンに組み込まれたことを知った。

 そこに居た帝国軍人と王国貴族で起こったいざこざも伝えておく。


「この国は長く無いとわかっていたが……うーむ。どうしたものか。」


 悩んでいる。


「何か問題があるんですか?」

「ん? 帝国と聖教国どちらがマシかと思ってな。」


 村長が言うとネザーが割って入った。


「そんな! どっちもありえませんよ!」


 叫ぶように言う。


「そうだな。君達は直接被害にあってるからな。だとするとニールセンだが」


 あまり具合が良く無いようだ。


「ニールセンはダメなんですか?」

「ダメではないんだがな。あそこの長命会は古巣なんだよ。居た時はとにかく仕事が多くてなぁ。ちょっと戻りたく無いというだけさ」


 村長が居た時は、まだ王国にもなっていなかった。

 その時も周りは荒れていて、毎日その対応しているうちに疲れてしまったと言う。

 この森に住み着いてから、王国に変わった。

 時々各地を回っていたらしいが、やっぱり森が良いとここに落ち着いたらしい。


「そうだ。王都でイアさんという長生きの薬師に師事しましてね。その人がケープ村長の教え子だと言ってましたよ?」

「イア? はて?」


 そう言って棚から本を持ってくる。


「あー。ここにあった。確かに教えているね。たかだか10年程だが、優秀な女の子だったな。彼女も長命になったか」

「イアさんは今ブルーメンの森に住んでますよ。いっそみんなで引っ越しますか? 南側も山と森が豊かでしたし」

「他国に媚びを売るくらいならその方がマシです!」


 ネザーさんは納得できるらしい。

 すぐに決められることでも無いだろうがね。


「もし行かれるなら手紙を書きますよ。あそこの孤児達と仲良くしてましてね。それとももっと南の半亜人村にしますか?」

「ターさんは今回の旅で色々出会いがあったようだな。すぐに出ていくわけじゃ無いだろう?」

「1ヶ月は居ようかと思ってますけど」

「そんな短いのか。その間に旅のことを聞かせてくれ。それから決めても良いだろ?」


 村長はネザーを見る。


「そうですね。その間に会議をしましょう」

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