第59話 半亜人村1

 俺たちが辿り着いた村は小さく、人口は30人程度。

 の、はずだが……。


 今、俺たちはデカイ扉を見上げて立ち尽くしている。


「村だと聞いてたけど、砦だった」

「昔はタダの小さな村だったのじゃ!」

「儂も聞いたこと無いのう」

わたくしもでございます」


「ほらほら、目的地に着いたんだから、早く中に入るよ!」


「ノール様、入って休みましょう。おいしいお団子があるのですわ!」


 門に近づく。


「交換しにきましたわー!!」


 エルザが叫ぶと頭上から声が帰ってきた。


「なんじゃ。まーた欲しい物があるんかぁ?」


 長い髭をたくわえた男が覗き込んできた。


「なんぞ知らん顔が多いのぉ」

「いつものガキ共だろ?」

「こら、押すな!」

「私にも見せて見せてー」


 他にもワラワラと現れてきた。


「この人は私たちの仲良しさん! 中に入って良い!?」


 狼少女が声を張る。


「良いよー!」


 間髪入れずに子供の声が帰ってきた。


「こら、もそっと粘らんかい」

「でも、いつも入れてるよ?」

「こういうのは雰囲気じゃ雰囲気」


 という声が聞こえて来たのと同時に、ゴゴゴゴと低い音を鳴らしながら門が開いた。



「ようこそ亜人の村へ。中へどうぞ」


 若い女性が迎え入れてくれた。


「よーろしくー!」

「お邪魔しますわ!」


 小さな先導に着いて行く大人達。

 中はイアさん達に聞いていた通り簡素で、小さめの家がポツポツと建っている。


「門だけ異様に強化されておるな。あと儂が聞いていたのは人族の村だったぞ?」


 ジルさんが話し出した。


「それについては後ほどお話しましょう。まずは休憩小屋まで案内します」


 女性が答える。


 何件か家を通り過ぎると、少し大きめの家が建っており、俺たちはその中へ案内された。

 この村の家は、石材と土で作られていたり、木材の家だったりとバラバラだ。


 ……

 …………


 大人組は、大きめのテーブルを囲むように座っている。

 子供達は物々交換中だ。


「お待たせしました。先程の質問にお答えします」


 そう言って、1人いた手伝いにお茶を配らせている。


「なぜ亜人の村か……でしたね。そちらのお方が話されていた通り。以前は人族だけの村でした。ですが、1年以上前に街の治安が悪化しまして」


 貴族君の事件だろうな。

 と思い当たることがあったので頷く。

 他のみんなも頷いていた。


「亜人達が村から出て行くように、この村からも人族を招集していたようです。それでこの村から人族が消え、もともと居た亜人と逃げてきた亜人が、今も残っているということです」


 なるほど、と俺は頷いていたが、他の人は違うようだ。

 ここは空気を合わせるべきだろうと、腕を組んで少しうつむいておく。


「それはわかるが、逃げるなら逃げ場の無いここではなく、ニールセンや王都もあっただろう? しかも言ってはなんだが、昔からここは魔物の出没も多い。居心地はよく無いと思うが?」


「ジル。違うのじゃ。こやつらは王都には行けぬ」

「どういうことですか?確かに以前より神人教は大きくなりましたが……」

「そうでは無いのじゃ。こやつらはハーフ、言わば半亜人なのじゃ」


 イアさんが言い切った。


「だからなんだと言うのだ」

「お待ちくださいジル様」


 執事が間にはいる。


「む」

「私も噂でしか聞きませんでしたが、半亜人を聞いたことがあります。あってはいけないことだと思いますが、人族からも……亜人からも差別されていたと」


 執事が痛ましそうに話した。


「なんだと!? 聞いてないぞ!」

「だからでしょう。私にも不確かな噂程度しか届かぬように、工作されていたのでしょう。話を聞いてやっと確信が持てました」

「むぅ」


 そこでゴンゴンと扉がノックされ、誰か入ってきた。


「お待たせー。お偉いさん方はいるー?」


 軽快な話し方は聞いたことあるような気が・・。


「もう話しはじめてますよ。半亜人の村まではわかっていただけたようです。」


 そうなのか、うんうん、頷いておこう。


「私はアルゲンだよ!みなさんよろしく!」


 挨拶してきた鳥人と目があった。


「って、なんでノールがいるの?」

「あ、お久しぶりです。お元気してました?」

「元気元気! それが私の取り柄だからねー! 話があるってダインが探してたよー」

「あ、街道で聞きました。色々あって先にブルーメンに戻ったんですよ」


 和かに会話しているとイアさんに止められた。


「待て待て!久しぶりに会ったのはわかったが、話の背骨が折れかかっているのじゃ」

「そうでした。なんか大事そうな話をしてましたね」

「しっかり大事な話なのじゃ」


 イアさんの言葉にみんなが頷いている。

 俺も頷いておこう。


「ごめんねー。じゃあ話そうか。と言っても簡単な話だよ。『長命会』は半亜人が住みやすい土地を作りたいと考えている。それだけ」


 なんだそれだけか。


「言うは簡単なのじゃ。それが出来なかった為に、今まで差別が日常だったのじゃ」


 そうなんですよ。


「ノール。いちいち反応しなくて良いぞ。話を振られたら返事すれば良いのう」


 了解です。

 わかったから、みんなこっち見ないでよ。


「おほん。『長命会』はそこを理解しているつもりです。だから今、この場所を半亜人に支配させているの。直接の道はブルーメンしか無く、今そこはトップを奪い合う犯罪都市となっている」

「どこの邪魔も入らぬうちに勢力を整えるというのじゃな?」

「そういうこと。私が知ってるだけでも、300人はここに向かっているよ」

「長生きの癖して、ここぞと言う時は動きが早いのじゃ」

「はは!あなたに言われたく無いなぁ」

「ふん」


 アルゲンさんとイアさんの会話に着いていくのがやっとだ。

 隣にいるジルさんは何か言いたそうにしているな。


「長命会か……。侯爵としては関わってはいけないのだが、何もせずにはいられぬ! 何か手伝えることはあるだろうか?」

「ちょっと思いつかないかな。こういうのは私の役じゃないんだよね」

「そうか」

「戻ったら誰かに聞いてみるよ。わかったらどこに伝えようか?」

「むぅ」


 そこでイアさんが助け舟を出した。


「ブルーメンの森なのじゃ」

「しかし、あそこは……」

「良いんじゃない? ダメなら他に作るし」


 俺、久しぶりにしゃべったんじゃない?


「そういうことなのじゃ」

「了解っと。あそこの子供達に話通しておいてね。軽い雰囲気のくせに警戒心めちゃんこ強いんだから」


 そんな強いかなぁ。


「確かにのう。しっかり伝えておこう」


 強かったらしい!


「そうだノール」

「はい?」

「ダインには早めに会いに行きなよ。大事な渡す物があるんだから」

「そうなの? ちょっと散策しておこうと思ったんだけどなぁ」

「ダーメ。後々動きやすくなるから。散策はその後でいくらでも出来るでしょ?」

「そうだね。早めに行くとするよ」


アルゲンさんは俺だけじゃなくイアさんにも。


「うんうん。イアさんも一緒に行ってペトラに会っておけば?」

「行かんぞ! ふん! まぁ、あやつから来るなら会ってやらんでも無いのじゃ」

「はは! じゃあ私は忙しいから、もう行くね。またねー」


 アルゲンさんは風のように去って行った。


「ちょっと疲れたのじゃ。少し休んでおくのじゃ」

「儂もちょっと動けぬのう」

「では私が持参のお茶をお返しに振る舞いましょう」


 俺は……。


「俺はちょっと村を見回りたいかな」

「好きに見てくださって構いませんよ。」


 放任してくれた。

 気ままに動けるので何気に嬉しい対応だ。

 じゃあ、と外に出て散策しだす。


 ……

 …………


 色々見回ってるとエルザ達を見つけた。


「やぁ、交換はうまくいった?」


「あ、もう終わったんだね。交換ばっちし!」


 炭と鉱石を見せてくれる。


「なるほど。それと野菜を交換したのね」

わたくし達の野菜は結構人気なんですのよ!」


 エルザも自慢げだ。


「あと狼少女ちゃんの持ってるのは?」

「これ? ってか私の名前また忘れたの? ルーファよ。ルーファ!」

「ごめんよルーファ」

「もう。これはお香ね。街でも人気があって高く売れるの」


 良い香りしそうだよね。


「私も好きな種類ですわ。形も星みたいで可愛いですの」


 俺も見たことある。


「八角ここにあったかー」

「ハッカク? ドライスターだよね?」

「ですわね?」

「違う名前で覚えただけだから、ははっ。それ交換してくれた人教えてくれない?」

「たくさん取らないでよ?」


 怪訝な顔をされてしまった。


「わかった」


 真面目な顔で答えておく。


「まだ広場にいると思うけど、そこに居る変わったトカゲ尻尾の人だよ」

「じゃ、さっそく行ってくるー!」

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