第52話 遺跡からの帰還

「ノール。奴の調子はどうだぁ?」

「ちょっと待ってね」


 俺はズールの様子を見に行く。

 表情は悪く無いな。


「おあおう」

「しゃべれるね。今日は帰るからがんばってね」


 2人の女性達も安堵している。

 そういえば名前聞いてないけえど……。

 まぁ良いか。


 ゲイルがホールの入り口からやってきた。


「あそこに台車作っといたぞ。ちょっと揺れるけど、ずっと担がれるよりマシだろう」


 指した先には手作りの台車。

 作りは荒めだが、厚めにクッションがあれば良いだろうと思い頷く。


「さぁ、行くぞぉ。戦闘は俺らがやるぅ」

「あなた達は守りだけで良いわ。ノールは最後尾お願い」


 ベスが女性達と俺に言う。


 ……

 …………



 遺跡入り口の階段に難儀したが、それ以外はあっさりとしていた。

 途中ビッグセンチピード2体に会っただけで、他は小物が少しだけ。


「久しぶりの外だわ」

「やっと帰れるのね……うぅ」

「もう一回気を引き締めなぁ。森の出口まであるんだぞぉ?」


 バートが言った直後に森がざわついた。


「ちょっとヤベーのいるんじゃないか?」

「警戒!!」





 ガサガサ。


 フヨフヨ。

 見知った鉢巻クラゲが現れた。


 こっちを見つけると触手をあげてブルブル。


「お前外で待ってるんじゃ無いのか? 他の子たちは?」


 そう言うと、平原で遊んでいると念を飛ばしてくる。


「他の子は平原で待ってるようです」

「まぁ……。いいかぁ」


 森はメサの独壇場だった。

 虫から魔物まで、毒持ちはすべて餌。

 見つけたそばから魔法を放ち、倒れたら捕食の繰り返し。


「次からそいつは同行させてくれぃ。いたらもっとマシだったろうなぁ……」


 遠い目をしている。

 俺も今になって後悔している。


 平原に出ると凛々しい立ち姿で魔馬が待っていた。

 そしてオスクは片翼を目の上に構えて、敬礼のポーズ。

 メサも長い触腕を使って敬礼で返す。

 魔馬から昔見た兵士のポーズを教えてもらったらしい。


 王都まではすんなり戻り、ズール達はそのまま病院へ、俺たちはギルドへ向かう。


 探索者ギルドの2階。


「依頼お疲れ様でした。こちらが今回の報酬です」


 受付が報酬を渡してくる。

 バートが数え、俺に半分渡してきた。


「臨時に渡すにしては、ちょっと多く無いですか?」

「これで良いんだぁ。確かに探索者の臨時だと多すぎるがぁ」

「臨時の薬師だったら全然足りないんだよ」


 ゲイルが続けた。

 チコも頷いている。


「私以外、みんなあなたの薬で助かったのよ。足りないくらいだわ」


 ベスも言っている。


「そういうことなら、いただきます」


 受け取っておく。


「ノールぅ。あの遺跡なぁ。まだ横道あるんだぁ。他の遺跡にも似たようなのあるからぁ」

「また頼むってことだ!」

「私からもお願いしたいわ」

「私。簡単な薬、知りたい。知りたい」


 なんとも良い評価をもらえたようで、良かった。


「その時はまた声をかけてください。薬もその時ってことで」


 打ち上げはせずに、帰ってゆっくり休むことになった。

 みんなとはここで解散だ。


 俺はそのまま1階に行って、薬草の依頼を見てくる。


「森で採った薬草の依頼があるな。よし」


 受付に行く。

 依頼の報酬を貰い、帰ろうとすると呼び止められた。


「ノールさん、7級昇級の受験が許可されました」


 え? 早いんじゃ。


「この前昇級したばっかりですけど……」

「ええ。ファングとの合同依頼が高評価でしたので、加算が多かったんです。それに、薬が扱える探索者はなかなかいないので……。出来れば上の階級に行っていただけると助かります」

「はぁ……。そういうことでしたら。でも、後日で良いですか?」

「もちろんです。中級の試験は4日かかるので、準備も必要になります」


 泊まりの試験かぁ。


「ちなみに次はいつなのかと、試験内容を聞いても良いですか?」

「3日後に行います。他の探索者と合同で、馬車の護衛をやっていただきます」


 知らない人とかよぉ……。

 先延ばししても……何度も言われるんだろうなぁ。

 チラッチラ。

 この受付さんめっちゃ見てくるし。

 早めに終わらせた方が良いか。


「……では。3日後にお願いします」

「ご決断ありがとうございます。従魔も一緒に参加できますのでぜひ」

「はい……」


 はぁ……3日後かぁ。

 薬師の勉強進まないなぁ。


 それからトボトボとイアさんのいる村まで帰った。



 ———————————————


 王都の病院。


「お前さん運が良かったなぁ。かなり手当がうまい奴だったんだろう。腕はなんとも出来ないが、それなりに力は戻るだろう」

「やっあい、あいううええ」(やっぱり、あいつすげえ。)


 正直俺は死んだと思ってた。

 生き残っても、床の上で腐っていくだけの生き方はしたくない。

 あいつにはいくら感謝しても足りないな。


「ズールは探索続けたいの?」

「私はやめようと思ってる」


 タバサは辞めたいのか。

 ハルトが死んじまったからなぁ。

 あいつはいつも誰かを助けていたから、いつかはこうなると思っていた。

 初代王様も人情厚かったが、早死にまで真似無くても良かったのに……。

 俺も辞めるか、続けるか……。

 なんて考えていると医者が入ってきた。


「君はそんなことより、まずは治すことだろう? 治ってから考えなさい」

「そうね。どのくらい出来るかわからないものね」


 リーズも返してくれたので頷く。


「私は故郷に帰るから、そのうち遊びに来てよ」


 笑ったタバサが物悲しそうに見える。


「落ち着いたら行ってみるわね」


 リーズも俺も頷く。


「いーうわ?」(リーズは?)

「私もあなたが治ってから考えるわ。すぐ戻っても役に立たなそうだし。とりあえず街で仕事探してみるわ」


 そうだな。

 みんな一回休んだ方が良いかもしれないな。


「話は済んだかね? 日中はいつでも来て良いから、ゆっくり決めなさい」


 ———————————————


 遺跡から帰還翌日。

 ここは上街の小さな一軒家。


「遺跡から戻ったぞぉ。相変わらず汚いなぁ」


 バートは足の踏み場の無い部屋を、少しずつ片付けながら進んでいく。


「おいぃ!」


 バートの視線の先には、小柄な白衣を着た男。


「なんだね? 騒々しい!」


 顔を上げると見えるのは、ビン底メガネで少し白髪混じりの痩せギス。


「バートか。おかえり。結果はいつも通りだろ? 何度も言ってるが、あの遺跡ではなく、地方の遺跡ももっと探すべきだと。そうそう私の新しい見解では、北部の山付近か、聖教国あたりが怪しいと思ってるんだ。君は行ったことあるだろう? それに……」


 下を向きながら、息途切れることなく話出し、口を挟む隙も無い。

 バートが黙ってるとやっと話を止める。


「喜べぇ。読める奴がいたぞぉ」


 メモした羊皮紙を投げつけた。


「なんだねこれは? ふむ。む、むむ!」


 羊皮紙に目を走らせ、唸りながら読み進める。


「なんだとぉ!? これは……今まで読めなかった所を。頼む! これを読んだ人と話してみたい!」


 いきなり頭を下げ頼んでくる。


「俺も世話になってなぁ。あんまり迷惑かけたく無いんだぁ」


 今回はあいつのおかげで助かった。


「私も弁えているつもりだ。報酬か? 地位か?」


 すぐ騒ぐ奴が、どの口で話してるんだ?


「そういうタイプの奴じゃなぃ」

「だとすると知識か、信用か、世捨て人」

「世捨てだなぁ」


 俺が言うと項垂うなだれた。


「今まで何度となく逃げられた。今でも後悔したりない奴らだ……」


 俺が今話している奴は、ジール・スネーク。

 侯爵家の3男。

 ある種の変わり者になる。

 古代の文献や遺跡を調査して、歴史を解明しようとしている。

 こいつは、これまでに遺跡に詳しい者を捕まえて調査協力させたり、質問攻めにしている。

 金払いは良いので、金好きや権力に甘い者は協力的だった。

 知識も豊富なので、調べ物の協力も出来、信用もある程度はある。

 これまで3人。

 山暮らしや放浪者などを好きにしていた者だけは、ほとんど情報得られずに逃げられた。

 しかも、探そうとしても見つからない情報を持ってると確認した上でだ。


「まだぁ、お前に会わせるのは早えなぁ。ゆっくり俺が聞いてみるぅ」

「そうだな。私もちょっと冷静になったよ。だとしても、それを持ってきたんだ。何か出来ることがあるのだろう?」


 ジールが羊皮紙を叩きつつ話してくる。


「そいつから日記を探してくれって頼まれたんだぁ」

「日記? 誰の日記だ?」

「そいつが昔書いてた日記だぁ」

「ふむ。探す程度なら問題ないが、特徴も無ければほぼ不可能だぞ?」

「ふふん。聞いて驚けぇ。その日記は植物紙製で、そいつの故郷の文字だと言っていたぞぉ」

「なるほど、どこの種族の文字だ?」

「俺は知らなかったなぁ。少し書いてもらったぁ。これだぁ」


 ノールに書いてもらった羊皮紙を渡す。


「なんだこの文字は!? 俺も知らんぞ? あー、いや。これは海向こうの国から来た古い文献に載っていたような気がする。遺跡にも似たような文字が……。どこの遺跡だったか」

「面白い奴だろぅ? 記憶は無くなったみたいだがぁ、言語に詳しいしぃ、元学者じゃないかと思ぅ」

「古代語に詳しい男か。やっぱり話してみたいな。そのうち連れてきてくれよ?」


バートは若干渋った後に承諾する。


「そのうちなぁ」

「今はそれで良い。ところで里帰りはしないのか? 一度も戻ってないんだろう?」

「戻るのがメンドイんだぁ」

「獣氏族なのにな。親が泣いてるんじゃないか?」

「親の話聞かないのは、お前も同じようなもんだろぉ?」

「はは! 違いない!」


 その後は遺跡の話に戻り、日が落ちるまで語り合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る