第50話 古代人の遺跡2

「準備は良いかぁ?」


「「「「はい(おう)」」」」


「ノール! 1つ目やれ!」


 ゲイルの合図で、団子を投げる。

 放物線を描いて、マザースパイダーの手前に着弾すると「ポンっ」と弱く爆発する。

 うまく弾けたようだ。


 俺が用意したのは香草爆弾。

 蜘蛛が忌避する臭いが入っていて、上手く効果があれば……。


「シュルルルルル!」


 着弾点から少し遠ざかる。


「よし! どのくらいかわからないが効果あり!」


 声をあげる。



 _______________


 香草爆弾の話をすると、すぐさま行動の確認に入っていた。

 効果のわかる俺が爆弾の管理。

 ベスは魔法で範囲殲滅。

 バートとチコがマザースパイダー討伐。

 ゲイルがベスの守りと俺への指示。


 最低限のルールとして、自分たちの命を優先することが決まった。

 こういうことは決めておかないと、いざと言う時動けなくなるようだ。

 マザーと子蜘蛛の無力化後に救助だ。


 _______________


「さぁ行くぞぉ!」


「子蜘蛛が出てきたら早めに言ってね? ね?」


「任せとけ!」


 バートとチコが駆け出す。


「ノール! 俺から見て巣の左側に爆弾!」


「はいよー!」


 俺もゲイルの指示で香草爆弾を撒いていく。

 すると卵の中でも臭いがわかるのか、殻にヒビが入り出した。


「もうヒビか、早いな。ゲイル! 卵にヒビ入ってきた!」


「もうかよ!? この近くはまだだな。こっちはまだだ! ヒビが入ったらこっちも撒くからな!」


 そのやりとりの間に、バート達は戦い始めている。

 マザーは体が大きい分少し鈍重だ。

 バートが挑発し、その間にチコが小さな傷を作っていく。

 マザーは2人の動きについてこれず、牙や爪の攻撃が当たらずイラついてるようだ。


「シュルルル」


 こっちもそろそろかな……。

 爆弾を撒いた周辺から殻が割れる音がどんどん増えていく。

 パキパキ!

 子蜘蛛が1匹出てくるとあとは、水の流れのように生まれてくる。


「ゲイル生まれたぞ!」


「バート! 子蜘蛛が出た! 爆弾撒けー!」


「チコも撒け!」


「はいよ!」


 あちこちでポンポン鳴り出す。

 一応作戦では、このホールの入り口側だけ撒いて、奥には投げないようにしている。

 蜘蛛の逃げ道が無くなると、無差別に攻撃することを考えていた。

 思った通り、ほとんどは奥側に逃げてくれた。

 マザー周辺は爆弾を散布済みで、逃げるには無理して通る必要がある。


 マザーのダメージも大きく、体に多数の傷と足を3本切り落としている。

 ここで合図だ。


「ゲイル! そろそろ鈍ってきたぞ!」


「ベス。やっと出番だぞ! 呪文開始」


 ゲイルの声で、ベスが呪文を唱え出す。

 その間俺は、近づいてきた子蜘蛛を棒ですくって、ホールの奥へ投げ続けた。

 殺さないのも意味がある。

 虫系は倒すと体液が飛び散るので、走り回ってると足が滑るんだ。


「ノール! そろそろだぞ。避ける準備しとけよ!」


 その時、ベスの棒が地面を叩いた。

 すかさず俺も射線からそれるように飛び退く。


 子蜘蛛達に向かって巨大な火の玉が飛んでいく。

 ズガァァン!

 という轟音と共に焼ける臭いが漂った。

 これで子蜘蛛の3分の2は倒せている。

 奥の隙間に一際小さな反応が数匹あるが……。


 残りも少しずつ減らそうかとしていると、バート達の方から悲鳴が聞こえる。


「ぐぁぁ」


「バート噛まれた!」


「ベス! 離れるぞ」


 ゲイルがバートを助けにいく。


 ゲイルがマザーの攻撃を何とか凌いでいるうちにチコがバートを救出してきた。


「チコ……。戻れ」


「怪我。なおす」


「ゲイル1人じゃきつい。いけ!」


 チコは、ちらとバートを見つつも戦線に戻った。

 俺も遠目に見つつ子蜘蛛と睨み合うが、寄ってくる様子は無い。


「ベス、20秒良い?」


 ベスさんが頷くので、バートのもとへ駆ける。

 顔色が悪いな、蜘蛛の毒か……。


「俺に毒消しとらせておいて良かったですね。結構滲みますよー!」


 話しながら、ピュアルーツと癒し草を潰して傷口に塗りつける。


「ぐぅぅぅぅ」


「あとはこれを噛んで!」


 ピュアルーツを噛ませる。

 そしてバートを抱えてベスの近くに連れていく。


「すみません。20秒超えました」


「こっちは睨み合いだったから大丈夫よ。それより」


 言いかけたところでマザーの方でチコが吹き飛ばされた。


「チコは頑丈だから復活する。立て直すまであっちを手伝ってあげて」


「行ってきます」


 マザーに近づくともうほとんど死にかけだ。


「ゲイル。代わります」


「だが、お前は」


「疲れてない俺なら、最初の2割りも力がないこいつは余裕です」


 攻撃をいなして見せる。


「それと逃げと守りは得意なんで」


 するすると地面を滑るように動き、攻撃を躱す。


「確かにな。攻撃は任せろ!」


 隙を見て攻撃していく。

 マザーの足ももう半分。

 首元の傷も深く動けなくなってしまった。

 動けない体で俺を見ている。


「ノール。お前が殺してやってやれ」


 ゲイルも何か感じたのか俺に役を譲ってくれた。

 両手を合わせてから、飛び上がり頭を一息に落とす。

(気づいているのでしょう? 隠れていた子は逃がしてあげて。)

 という念が飛んで途切れる。

 最後の念、しっかりと受け取りました。


 振り返るとチコがフラフラしながら歩いている。

 かすり傷無いとか、本当に頑丈なんだな。

 ベスの方も終わったようだ。


 みんな入り口の方に集まる。


「俺。今は動けない」


 ゲイルがへたり込んでしまった。


「ふらふら。休む」


 チコも続いて座り込む。

 俺はバートに近づくと話しかける。


「ちゃんと噛んでました?」


「こんな辛いの噛ませやがってぇ」


 ゆっくりとだが話せるようだ。


「これなら大丈夫でしょう。別の薬を作るのでそれも飲んでください」


 伝えると苦い顔をしていた。

 早速薬草を潰しながら、薬を作っていく。


「私がまだマシだろうから、あの繭開けてくるわね」


 歩こうとするのを一度止める。


「あ。待ってください。1人怪我してると思うので、大きい傷にこれを塗って」


 塗り薬を渡す。


 バートさんも薬を飲んで休んでいる。

 繭から取り出した人達も寝ているので動けない。


「こんな所だが、今日は泊まりだな」


 


 野営中に繭の人を聞いてみた。


「この人達って?」


「同じ探索者ね。私たちの前にも2パーティー受けていたのよ」


「最初は8級のパーティー。次がこの人たち6級なりたてのパーティー。だから俺たちもかなり警戒していたんだ」


「もしかしたら、こいつらも助けようとしたのかもね」


 そう言いつつ、しかめっ面をしていた。

 繭の人たちは傷の浅い2人が人族の女性。大怪我の虎人族男性は左腕が無くなっている。


「正直。ノールの爆弾が無かったら帰っていたはずだよ」


 妥当な判断だろうな。


「子蜘蛛達が一斉に襲ってきたら、マザーに攻撃どころじゃなかったでしょうね」


 そこから言葉が続かず、パチパチと焚き火の弾ける音が響く。

 しばらくして俺が口を開く。


「しかし、なんでそこまで危険とわかって依頼を受けたんですか?」

「一瞬悩んだあと、俺らの懇意にしてる商会からの依頼ってのもあるが」


 ゲイルが言いつつ、ベスの顔を見た。


「ふぅ。ノールの服装ね。その服とこのホールの絵が似ているのよ。本当はバートが話す予定だったんだけど、あの調子だしね」


「ノールちょっと付いてきて」


 ベスに誘われ、後ろを着いていく。



「ここを見て」


 ベスが松明を掲げるとそこには壁画が描かれていた。

 多くの獣族が描かれており、それが1人の人族を台に乗せ担いでいる。

 その人族の服が俺のに似ているようだ。

 確かに作務衣っぽいな。

 隣には続きだろうか?

 獣族が人族から服を貰っている。

 服から巾着が出てるな。

 その隣には、丸い何かと植物か?


「これは畑?」


「知り合いの学者の話だと麦畑だって。この人が、この地に実りをもたらしたんじゃ無いかって。その説が有力らしいわ」


「へぇ。獣族の神様かな?」


「バートの故郷ではそう言われていたらしいの。それであなたの服ね」


「他にも遺跡があって、いろんな壁画があるのよ。いくつか跨いだ国にはヴァンパイアが描かれているそうよ。そして、隣の帝国には機人」


「ヴァンパイアか。んー。ちょっと会ってみたいかも?」


「そんな伝説の魔人に会ったら、命がいくつあっても足りないわよ」


「ここの壁画も続きがあるんだけど、ちょっと見づらいから明るい時にしましょう」


 焚き火へ戻って行った。


 その時に、ふとマザーの言葉を思い出す。

 隙間へ近付き意識を向けて念を送る。

(俺が人の意識を逸らすから、その間に逃げな。腹減ったら途中に飯がある。)

(((………!)))

 ちょっと弱ってるのか動けないようだ。

 仕方ないから、隙間に向けて賦活を送る。

(これで行けるだろ。)


 焚き火へ戻り、夜が深けるまで話を続けた。

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