第49話 古代人の遺跡1

 森に入ってから、俺のためにゲインさんが説明してくれている。

 この森は毒持ちが多い。

 動物もヘビやコウモリ、ムカデなどの小型も弱毒を持ち、大型になるほど強い毒性を備えている。

 サイズで毒の強弱があるのはわかりやすい。

 その為、毒の森と呼ばれている。

 比較的難易度は高いが、毒に詳しい人や斥候向きの狩場となっている。

 俺も相性は良さそうだ。


 そして、余計な人に踏み荒らされていないので。


「ここにもあった!」


 俺が見つけたのは月光草。

 枯らさないように外側の葉を1株1枚ずつもらっていく。


「こっちはハーブ!」


 マナハーブも豊富で俺の薬師訓練に拍車がかかりそうだな。


「今日は採取じゃねーんだぁ。ほどほどにしとけぃ」


 バートに止められる。

 ただし、1つだけ欲しいのがある。


「わかった。毒消しだけ採取させて。それだけは必要だから!」


 癒し草とピュアルートだけ採取してきた。


「本当に詳しいな。草取りって言うより、採取人だな」


 ゲイル達も呆れていた。




 進み出してから1時間程すると、木々が薄くなり少し開けた場所が見える。


「あそこが遺跡だな。前に学者が確認したら、古代人の作った建造物に、後から来た者が細工したって話だ」


 石造りと金属製が混じっており不思議な作りをしている。

 罠に注意しながら見てみると、ところどころある鉄骨は、崩れないように支えにしているとわかる。


「俺らも詳しくねぇが。補強してるのはわかるからなぁ。なるべく壊さねぇように探索してんだぁ。ノールも注意してくれよぉ?」


「わかった。これを崩したらその学者にどやされそうだな」


「はは! 全く! 全く! 学者うるさい!」


 チコさん、あんたどこか壊したろ。


 石造りの階段を降りて、中に入ると以外と広い。

 幅5mはあるだろうか?

 これは結構広い施設かもしれないなぁ。


「この中は結構奥まであってな。一番奥にでっかいドーム状のホールがあるんだ。横道も多いから気をつけてくれ」


 ゲイルさんも注意を促してくる。

 すると前から反応があった。


「前から小さいのが多数」


「良い反応だぁ。ノールはベスを守るつもりでなぁ。やるぞぉ」


 全員すぐに臨戦態勢になり、剣では無く棍棒を持ち出した。

 徐々に前からコウモリがやってきて、フラフラとしたコウモリ独特の飛び方をしている。

 それを前衛3人が盾と棍棒で1つ1つ落としていく。


 俺も突いて落としても良かったんだが、攻撃してくる様子では無かった。

 とりあえず棒を掲げて回転させ、弱めの風を吹かせてやると、勝手に遠くへ飛んで行く。


「へー。そんなやり方もあるのね」


 ベスさんに関心されたが、たまたまこれが使えただけだ。


「コウモリ相手で、しかも敵意が無い時だけですよ。ほら」


 指した方に、風で迷ったコウモリが地面に落ちてキィキィ鳴いている。

 顔からして虫食タイプかな?

 寄生虫と病原菌に注意が必要だな。


「弱い風でも影響あるって、それがわかっただけでも収穫よ」


 それなら良いのだが。


 それからコウモリは出ず、代わりにでかい反応が4つ。

 魔物っぽいな。


「厄介なのが来たぞぉ!」


 バートが言った直後に見えた。


「ビッグセンチピード3体か」


 でかいムカデは正直見たく無いけど、目を逸らすと危険だからなぁ。


「1体隠れてます。注意を」


「良い目。良い耳。長舌トカゲ!」


「ベス! 見つけたらペイント弾! ノールはベスの守り! こいつら毒飛ばすぞぉ」


 と言った直後に液を吐きかけてきた。


「こいっつら! 人に唾吐いちゃいけませんって教わらなかったのか!?」


 ゲイルが軽口を叩きながら、ムカデに切りかかっていく。

 こっちにも吐いてきやがった!

 軽くステップして躱すが、これは自分の時だけだな。

 すると、俺が躱したのを見てか、ピンク色の棒みたいのが伸びてきた。

 すかさず叩き落とす。

 そのピンクは弾性があり、良くみると舌だった。


「見つけた!」


 ベスが言うと共に、黄色の玉を投げると、敵の全貌が見える。

 予想通りのカメレオン。


「少しはマシになったなぁ。こっからだぞぉ。ベスも魔術で参加!」


 すかさず、後ろで呪文を唱え出す。


 毒も飛んでくるが、棒で弾き壁に払っていく。

 このヒノキの棒は今日でお別れかな……とほほ。

 この間にゲイルとチコが1体ずつムカデの頭を落としていた。


「死んでも動いてる。気をつけて」


 チコの口癖は、必ず2回言うわけじゃないのね。


 ベスさんが杖で地面を叩く。


「合図。みんな飛び退けぇ!」


 バート言われ、壁側まで飛ぶ。

 すると後ろから、小さな石弾が勢いよく多数飛んでいく。

 カメレオンは穴だらけになり、ムカデも身体中から体液を出している。

 最後はバートの一撃で頭を落とす。


「警戒! 反応あるか?」


「……反応なし。ノールどうだ?」


 ゲイルに言われる。


「新しい反応も来てません」


「よしぃ」


「今回のは面倒だったわね」


 聞いてみると、ビッグセンチピードは多くて2体らしく、カメレオンまで来ることはほとんど無いらしい。

 ファングなら時間かけて倒すことは出来るらしいけどね。


「普段は俺かチコがどっちかベスの守りに入るんだが、ノールのおかげで楽出来たな」


「私も呪文に集中できたから良かったわ。避けると呪文止まっちゃうのよね」


「ベスさんを動きやすく守れたなら良かったです」


「ノールが優秀なのはわかってたことだぁ。あと俺らのパーティー中は敬語止めて良いぞぉ。その2言が戦闘中は邪魔になるんだぁ。さぁ、回収するぞぉ」


 確かにとっさだと面倒だな、と思って頷く。

 そして倒した魔物から素材を取っていく。

 俺もムカデの毒が少し欲しい。

 保存用のビンに詰めていくと、3本集まった。

 ファングはカメレオンの皮とムカデの甲羅を持っていくようだ。

 回収は終わってるようだが荷物が少ない。

 俺が不思議そうにしてると教えてくれた。


「これに入れてるんだよ」


 見せてくれたのは、ずた袋。

 開いて、中からサイズ感の合わないムカデの甲羅が出てくる。


「なんじゃこりゃぁ? すげー」


 良く聞くと、これが魔道具って言われてる品だった。

 こんな見た目だが、買うと大金貨50枚はするらしい。

 家が何個か建てられるレベルだよ。

『収納袋』と呼ばれていて、ファングは大商会と繋がりを持った時に、売ってもらったらしい。

 数が多く無いので、お金があっても買うことすら難しいという。

 便利な物があったもんだ。




 その後も休憩しながら進む。

 途中何度か、軽い戦闘を挟みつつ、3時間程進むと最奥に辿り着いた。


「入る前に探ってくれぃ」


 気配を探るとでっかいのがいる。

 ゲイルとチコも気づいたようだ。


「「デカイのがいる」」


 俺も頷く。


「その周りに多数の小型もいるな」


「卵が見えるよ」


 ゲイルもチコも良く見えている。

 あの形の卵は……記憶にないな。


「バートさん、あの卵見たことありますか?」


 一番近いのを指す。


「ありゃぁ……。蜘蛛だな」


 嫌そうな顔をする。


「うへぇ。蜘蛛のマザーは厄介よ?」


「戻っても良いんだがぁ」


 バートが何か迷ってるようだ。

 俺も何と無くわかる。

 ここに来るまでに、奥に向かう新しめの足跡が4人分あったんだ。

 俺もどうしようかと思ったが、まだ生きてるんだよな。


「生きてる反応は3人。1人はこのままでも持って1日でしょうか」


「そうかぁ……。少し通路を戻って作戦を考えるぞぉ。突っ込んでも死ぬだけだしなぁ」


 それには賛成で、全員が頷く。



 5分程戻り小声で話し合う。

 俺は気になってたので訪ねてみる。


「実際どうなんですか? ファングで倒したことは?」


「倒したことはある。だがその時は卵も少ないし人間も捉えられてなかった」


 バートが眉間にシワを作る。


「そうなんだよな。マザーを倒すだけなら、俺らの戦力でも何とかなるが」


「子蜘蛛が孵ると手が足りないわ」


「あいつら攻撃は弱い。毒で噛まれると麻痺する」


 その後、みんな黙ってしまった。

 子蜘蛛かぁ。

 何か無いかなぁ?

 俺が背嚢を探り出すと、みんなが覗き込んできた。

 そんなすごい物は無いと思うけど。


 ニールセン滞在時から取ってきた鉱石や植物があたりに並べられる。

 しまった。

 ちょろまかした月光花がドライフラワーになっている。


「俺らの袋よりお前のリュックの方が魔窟だな」


「本当に薬草が多いわね。でも野菜もいろいろあるわ」


「すっごい臭い! 開けないと出ないのも面白い」


 バートだけは何も言わず。


 その中でいくつか目星の物があった。

 その何種か選んで見せる。


「この香草類を使えば、蜘蛛が寄りづらくなるかもしれません」

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