第42話 孤児の世話2

 あれから1週間程経った。

 森のツリーハウスも出来たし、拠点周りに簡易の柵も作った。

 住み着くなら、もう少ししっかりした柵が欲しいかな?

 それは追々やってくとしてだ。



 子供が増えた。

 俺も知らなかったんだが、気づいたら日に日に増えてるんだよ。

 毎日とかじゃないんだが、数えたら33人になっている。


「気のせいかもしれないが、人増えてないか?」


 一応聞いてみる。


「気のせいじゃねーよ。スラムに来たのを連れてきた」


 こいつの名前はベン。

 一番大きいのでリーダーをやってるようだ。

 前から定期的に子供は増えていたらしいが、連れて行かれてトントンだったらしい。

 スラムなら飯は無いが、森で畑まで作るから問題ないか。


 覚えられるように何回も説明するから、新しく来ても教えられるので、特別何かすることもなかった。

 あと栄養状態が悪いせいか、風邪引きやすい奴が多い。

 毎日、賦活をしてやらないとダメかなぁ。


 



 1ヶ月もすると拠点も立派になり、畑や倉庫まで出来た。他のスラムの奴らはまだ気づいてないらしい。

 街道近くの農家と薬草と物々交換してみた。

 森の畑が充実しますなぁ。

 ここの孤児にも棒術を教えていく、孤児院と同じなので特筆することは無い。

 薬草は定期的に来た探索者に渡しているが、状況は悪化しているらしい。

 ギルドに亜人はほとんどいないとか。


 もう10月になってしまった。

 森に拠点を作って3ヶ月。

 ニンニクと行者ニンニクは安定して取れてきた。

 メサは頑張ってるから多めにやろう。

 森に大豆っぽいのを見つけたので、醤油作りを試してみる。

 街からも亜人が減っているらしい。

 探索者ギルドに苦情も来ている為、やっと調査を始めたとか。

 遅すぎだろう。

 スラムに行ったら、汚いおっさんに追いかけられてる子供がいた。

 孤児達が勝手に助けていたので、俺は置いてけぼり。

 そのくせ、おっさん共は俺に文句言ってくるんだ。

 知らないっての。

 また孤児増えるの? 自分たちで家増やせよ?



 12月になると、年長の孤児達だけで、アタックボアを狩れるようになったと言っている。

 俺も狩ったこと無いんだがなぁ。

 棒術も結構上手くなってきたので、歩法を教え始めた。

 あと鴨を見つけた。

 サイズは高さ1,5m位かな?

 魔物に詳しい奴が魔鴨まがもだと言っていた。

 大人しかったので、数匹連れてきて飼育している。

 意外と走るの早いんだ。

 最近は、孤児だけで生活が回ってるので、瞑想を再開した。

 ちょっとだけね。

 1週間だけ。


 1月になったら、いつの間にか鴨が増えてた。

 拠点の横に魔鴨専用のスペースも作ってやる。

 孤児達が気の操作をしているのが見えた。

 いつの間に覚えたのか?

 ちゃんと教えてやるから勝手に使うなよ。

 危ないんだぞ?

 毎日の賦活で覚えたそうだ。

 スラムには孤児達が勝手に行っている。

 時折、子供が増えてるからそういうことなんだろう。

 ちなみに、街からはさらに亜人が減った。

 そして森の拠点に亜人の子供が増えた。

 瞑想たのしー。


 2月。孤児達が布にマークを描いている。

 鴨にネギのマークか?

 あっ。棒なのね。

 毛皮を着込んだ孤児が鴨に騎乗。

 棒とスリングを持って疾走。

 新種の蛮族誕生。

 ここでベンを含む年長組5人がスラム卒業となった。

 ニールセンで探索者になると言ってたので、孤児院に手紙を頼んだ。

 そろそろ謎の木に実がなってないかなぁ。

 新リーダーは猫人族の少女ミーアがなった。

 どっちかって言うとアイドルっぽいな。

 瞑想しようとしたら、やる時は言ってくれと泣きついてきた。

 たった2週間じゃないか。

 ちゃんと言いますって。





「ふぅ。やっぱ瞑想は良いな」


 目を開けると目の前に果物があった。


「ブドウか。干からびた体に染み渡る。うまいなー。もうそんな季節か」


 はて? 2月だったと思ったが……。

 周りを見ると、俺は木で作られた台座に座ってた。

 しばらくそのまま見回してると、子供ドワーフが来た。


「今日もお供えだなぁ。オラもここ来て3ヶ月だけんど、まだ起きたの見……」

「やぁ。今何月だかわかる?」

「お、お、おぉ」

「お?」


「起きただぁあああああ!」


 そう言うと走り去って行った。


「うわ! ビックリしたぁ。でも、子供ドワーフは初めて会ったな。髭生えてないけど、ふふっ。ノーリと似てるな」


 知り合いの面影があると親近感が湧くな。

 伸びをすると、体がバッキバキ鳴る。


 遠くから大勢の声が聞こえてくる。

 ワーワー。

 段々近づいてくると見えてきた。

 先頭はミーアじゃん。

 ちょっと大きくなったかな?


「やぁ、ミーア。種撒いてたよね? 芽は出た?」


 するとミーアが一歩前に出て。


「首領。あれから5ヶ月経ちましたにゃ。もう収穫時期にゃん」


 もうそんな経ってたのか。

 あっ。


「ごめーん。1、2週間くらいだと思ってた。集中すると長くなっちゃうんだよねー。とりあえず状況教えて?」


 あれから孤児も増え、勢力圏を拡大中。

 以前住んでたスラムは整備し直して、倉庫兼交易拠点にしている。

 他のスラムも襲撃して、まだ売られてなかった孤児も取り戻しているらしい。

 なんとも大掛かりな話だ。

 その首輪が厄介で見て欲しいと言ってきた。


 エルフの子供が前に出てきた。


「これがその首輪?」

「そうですにゃ。アチシじゃ外せにゃかったにゃ」


 見てみると、確かに良く無いものが付いている。

 気じゃ無いんだよね。

 試しに気を流すと拮抗している。

 強めに流すと首輪が軋み始めたので続ける。

 あっ割れた。


「取れて良かったねぇ。記念に持っておく? あっいらないのね」


 それならぽいっと。


「ありがとうございますにゃ。あとアリエルっていうおんにゃが、首領を探しているらしいにゃ。気をつけるにゃ」

「アリエルさんねぇ。なんか聞いたことあるような気がする。ところで、さっきから言ってる首領って何さ?」

「アチシ達の魔鴨団まがもだんの指導者を首領と呼んでるにゃ。それがニョールさんにゃ」


 手を差し出してきた。


「俺が首領? 指導っても森での生活の仕方だしなぁ。そんな玉じゃ無いから。ミーア、お前が今日から首領な。お前もここを卒業する時に誰かに引き継げばいいさ」


「みんにゃ聞いたにゃ?」


 そう言って見渡していると、全員が頷いていた。

 ほんとに、何の集団なんだか。


「これより魔鴨団の首領は指名継承とにゃった! 初代首領ニョールから2代目首領ミーアにゃ!」


 ワーワー!

 それを他所目に、首輪がついてる子が何人か見えている。


 体がバキバキなので、ゆっくり歩きながら、首輪を外していく。

 さっきの子ドワーフも付いてたじゃん。

 うわっ。外れて泣いているし。

 ごめん、壊れちゃったから直せないんだよ。

 大丈夫? 良かった。


 周りが落ち着いてきたので街の様子を聞いてみる。

 例の男だが、名前をケッツ・ワレィと言うらしい。

 当主は、ワレィ子爵家のアゴールさん。

 ケッツもその仲間も変わらず好き勝手やってたらしいが、当たる亜人がいないので人族にも絡んでいるらしい。

 それが4ヶ月前の話。

 商人も寄り付かなくなって、経済的なダメージも大きく、領主が動き出した。

 かと思えば、見当違いなギルドや職業組合を調査していたらしい。

 役人上層部まであの貴族の息がかかっていたんだな。

 探索者、従魔、職人系ギルドは、先月街から撤退したらしい。

 今では街中は犯罪者と衛兵の戦場となっており。

 先日ケッツは右腕と左足を切り落とされたようだ。

 嫌な奴だったが一応祈っておく。

 良くなるようにも悪くなるようにも無く無心で祈るだけだがな。

 街の自浄作用はもう無く、他の街から新しい犯罪組織も参入中みたい。

 目端の効く衛兵や騎士達は、早めに他の街へ去ったそうだ。

 終わったなぁ。


 孤児達にどうするのか聞いてみる。


「みんなどうするの? 結構ヤバい街になっちゃったみたいだし」

「ここから出たい奴は行かせるにゃ。アチシ達は強くなったにゃ。他の街から組織が入り始める前の今にゃら、戦力だけにゃら街一番!」

 と言って手を上げた。


「農業班100名。諜報班80名。戦闘班250名! 街取り、やってみにゃいか!?」


「魔鴨団幹部。音無おとなしゲンジ! 同意!」

 とナイフを掲げる。

 ベンが卒業した後、人族のまとめ役だったな。忍者っぽく言ってるけど、色合いアーミー。


「魔鴨団幹部。飛弾ひだんケイト! 従います!」

 とスリングを掲げる。

 垂れ耳犬人のケイトちゃん!気弱だったんだけどなぁ。


「魔鴨団幹部。旋斧せんぷオーイン! 共に!」

 と斧を掲げる。

 お前、虎人の泣き虫オーインか?


「魔鴨団幹部。白鴨しらかもリンドル! 同道する!」

 と弓を掲げる。

 エルフのリンドル格好良くなったなぁ。だが、お前の乗ってる鳥はアヒルだろ?


「「「「「おぉー!」」」」」


 

 みんな栄養不足で小さかったけど、大きくなっていた。

 食べ物が良くなったのと賦活のおかげかなぁ?

 最初期に会った子達が幹部なんだねー。

 オレァ知らんかった。

 でも、前死んだ目してたのがキラキラしてるねぇ。

 良いことだ。


「あとは好きにすると良いさ。良いことも悪いことも、自分に返ってくるからな。それだけは忘れるなよ」

「「「「「はい!」」」」」


「さて、街に用事も無いし」


 次の旅の算段をつけながら、荷物を漁るとヒラリと落ちてきた。


「道具屋アリエルへ。あっ」

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