第8話 5日目 ~12月27日~
12月27日 初雪
区分機二号機での振り分け作業を
三人で行っている。
だが、ここに後藤さんは、居ない。
作業を行うチームは……。
そうだな、チーム名を付けるならば
チーム『おとこ』だ。
男でも、漢でも、manでもない。
俺と、男子大学生と、五十代くらいのおじさん。
これは、これで中々、チームワークは
良いのだが……。
辛い辛い夜勤なのだ。
華は、あったほうが良いに決まっている。
作業の合間に後藤さんを探した。
後藤さんは、相変わらず元気に
動き回っていた。
五号機で。
「昼休憩です~!」
次々と区分機が停止していく。
この作業場から休憩場までは
一階だけ階段を上る。
作業チームが違うと
この移動時くらいしか会話する
俺は、今しなくても良い、ゴミの片付けを
ゆっくりと行う。
後藤さんと同じタイミングで階段に
たどり着くように時間調整を精密に行った。
「……。」
俺は静かに、後藤さん達の後ろを歩いていた。
後藤さんは、同じ大学生くらいの女子と
談笑しながら歩いている。
微笑ましかった。
俺は、もう少し、ゴミを片付けて
ひとり昼休憩に入ったのだった。
―― 今日の作業が終わる。
いつからか、俺は後藤さんを
探すようになっていた。
友達でも無いのに。
ただの、バイト仲間……いや、作業仲間なのに。
後藤さんには素敵な友達が出来た。
喜ばしいことじゃないか。
良かったじゃないか。
今日、一日、一言も話せなくとも
後藤さんが楽しそうなら、それで。
「バイバイ」「バイバ~イ」
郵便局社員通用口を出た瞬間だった。
後藤さんと、その友達、女子大学生が
キャッキャと手を振りながら
女子特有の別れの儀式をしていた。
可愛くていい。
見てるだけでいい。
そう思いながら帰路に足を向けた。
郵便局を背に、歩き出す。
「長崎さん!お疲れ様です!」
突然、横から話し掛けられる。
いや、初めて長崎さんって名前を呼ばれた!?
心臓がドクンっと跳ねた。
横を見る。
少し、頭を下げた後藤さん。
昨日とは、また違うアイメイク。
笑っている。
ニッコリと。
クッソ可愛い。
「え、ああ、お疲れ様」
急なイベントに呂律が回らない。
後藤さんは、少ししか無い胸を
張りながら言った。
「今日私、薄着で正解でしたよ」
笑っている。
なんて返せば良いんだよ……?
「はは」
ダメだ!素っ気ないぞ。俺!
後藤さんは横をトコトコ着いてくる。
ん?これは?
今、俺は後藤さんと二人で一緒に
帰っている……?
「いつも歩きなんですか?」
「家、近くなんですか?」
後藤さんが、積極的だ。
「そうだよ」
「結構、歩くよ、三十分くらい」
チラチラと後藤さんを見ながら会話した。
「私は自転車です!快適です!」
私の勝ち、みたいな表情してやがる。
徒歩も悪くないのだが。
そして、負けてもまったく
悔しくないのだが。
郵便局前の大きな交差点に着いた。
俺の帰る方向と、駐輪場は
反対方向だ。
後藤さんが何か言いたげだった。
「……」
信号が赤から青に変わる。
「……」
少し、待った。
それから、俺たちは
「お疲れ様、バイバイ」
と、交差点から反対方向に別れた。
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