五 来迎

龍は天と地とを繋ぐ神仏の御使。

天の智を地へと顕し、

地に住む人々の願いを天へと伝える。


人が死ぬと如来様が観音さまや菩薩さまと共にお迎えに来て下さる。そのお迎えの道となる雲を興すのが龍の役割。


父が教えてくれた龍の話を思いだし、胸がじんわりと温まる。


来迎図を描いた人も視えたのだろう。いや、もしかしたら人心穏やかだった昔の人は、皆同じように視えていたのかもしれない。だからその信仰は今も長く厚く広まっているのだ。


龍は巨大で、その掌の中の紅い玉は強い光でヒミカを圧倒してくる。でも不思議と怖くない。どこか懐かしいような気すらした。


龍は左手で地を押すとフワリと空へと舞い上がる。長い尾を揺らして雲へ首を突っ込み、そのまま吸い込まれていく。

あ、見えなくなってしまう。

爪先立って龍の姿を追ったヒメコの目の前を紐が揺れた。

「えい、えい、えーい!!」

威勢の良い掛け声。

「それ、上がれ〜!」

同時にバラバラと何かが空にむかって投げ放たれる。

紐だ。

一本ずつ手にしていた紐を子ども達が一斉に投げ上げていた。紐は幹にぶつかり葉を揺らし、羽を休めていた鳥たちを飛びたたせて、また落ちてくる。

「やった!乗ったよ」

うまく枝に乗せられた子の歓声と落ちてしまった子の残念がる声。それらを聞きながら、ヒメコは一歩前に出て龍の隠れた雲を見上げた。

と、雲が切れて龍が細長い顔を出した。長い身体をくねらせて降りてくる。いや、落ちてきた。大きな口を開けて。

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