十五 学ぶ



朝餉の後、また遊ぼうかと三の姫さまと部屋に向かったヒメコの肩が叩かれた。

「というわけで、ヒメコは祓詞と巫女舞の師だ。二の姫は組み紐の師で三の姫は隠れん坊の師。それぞれよく教え、学べよ」

何が「というわけ」なのか分からないまま一方的に告げ去る佐殿をポカンと見送ったヒメコを妹姫たちがキャアと取り囲んだ。

「ハラエコトバってなぁに?おまじない?ヒメコ様は巫女なのね。巫女舞って絵巻に出てくるような美しい衣装で舞うのでしょう?どんななの?教えて教えて」

口々に問われて困惑するヒメコを助けてくれたのは二の姫だった。

「こら、あなたたちはまず与えられた課題を終えてから新たに教えを請いなさい」

おっとりと優しげながら、しっかりと芯の通った声に三の姫、四の姫がすごすごと下がる。空いた場に二の姫がそっと腰を下ろした。間近で見た横顔はほっそりとして、透き通るような白い肌に桜色の頰。長く黒い睫毛が落ちてはまた上がっていく様は、アゲハが羽を震わせているよう。天女みたいな姫君だと思わず見惚れる。

「ヒメコ様は比企の尼君の孫姫様で宮中の祭祀や風習にもお詳しいと聞きました。私にも教えて下さいましね」

二の姫は、ふわりと花のように微笑むと少し離れた小机の横に膝をついて、ヒメコより年かさの少女が手にしていた色とりどりの糸を指にかけて何か話しかけている。

二の姫は佐殿のお相手のアサ姫様のすぐ下の妹の筈。確かに似た部分もあるけれど、アサ姫が中性的なのに比べて、いかにも女性的で水仙のような芳しい姫だった。

佐殿は何故二の姫でなくアサ姫を選んだのかと考え、それからハッと息を呑む。

二の姫は、佐殿が少し前に通っていた伊東の八重姫に雰囲気がそっくりだった。

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