第104話 おかえりなさい

柚羽(ゆずは)が黒輪(こくりん)に尋ねた。


「具体的にはどうするればいいんですか?」


黒輪(こくりん)が柚羽(ゆずは)に言った。


「ワシとリグロ殿が放出している霊力を徐々に抑えていく。柚羽殿はそれに慣れていってほしいのだ。」


柚羽が黒輪に言った。


「つまり暴走する霊力を私自身でコントロールしろって事ですね。」


黒輪が柚羽に言った。


「その通りだ。話が早くて助かる。」


柚羽が黒輪に尋ねた。


「失敗したらどうなるんですか?」


黒輪が柚羽に言った。


「暴走した霊力に飲み込まれ魂ごと消滅してしまう。」


柚羽が黒輪に言った。


「そうですか。何か飲み込まれないコツとかありますか?」


黒輪が柚羽に言った。


「意思を強く保つ事が肝心だろうな。なにか執着を持っていればそれは意思を保つ大きな力となってくれるだろう。」


柚羽が黒輪に言った。


「執着ですか、分かりました。」


すると晴南が大きな声で晴南に言った。


「柚羽安心してちょうだい!!私たちが一緒にいるから!!うまくいくに決まってるわ!!」


優斗が柚羽に言った。


「そうだね、きっとうまくいくよ。」


晴南が柚羽に言った。


「それにいざって時のために秘密兵器も用意してあるから。」


柚羽が晴南に聞き返した。


「秘密兵器??」


晴南が柚羽に言った。


「そうよ柚羽を助けるための秘密兵器よ、だから柚羽は安心してていいわよ!!」


柚羽が晴南に言った。


「ありがとう、晴南。」


健太が柚羽に言った。


「そうです!!それに姉さん僕も一緒にいます!!だから大丈夫です。」


柚羽はとても嬉しそうに健太に言った。


「ありがとう、健太!!健太がいれば百人力よ!!」


すると柚羽が健太に言った。


「健太、しばらくの間そばにいてね。そうすればお姉ちゃん頑張れるから。」


柚羽がリグロに言った。


「それじゃあお願いします。」


リグロが柚羽に言った。


「ああでは少しずつ力の放出を抑えていく。」


リグロと黒輪は放出している霊力を徐々に落としていった。


少ししてリグロが柚羽に尋ねた。


「すでに3割ほど落としているが柚羽殿??気分は大丈夫だろうか??」


柚羽がリグロに分かった。


「まだ全然大丈夫です!!もっと減らしてください。」


リグロが柚羽に言った。


「分かった、ではもう少し減らそう。」


リグロと黒輪が放出する霊力を減らし続けてる中で、柚羽はあふれ出しはじめた自分の霊力を暴走させる事なく制御して自分の意志を保ち続ける事ができていた。


リグロと黒輪が大半の霊力放出を止めた後も、柚羽は自分の意志を保ち続けていた。


放出された霊力によって宙に浮いていたテーブルや椅子や食器などの家具が全て床に全て落ちていた。


ここまでは予想以上に順調に進んでいた。


リグロが柚羽に言った。


「すでに霊力放出の8割以上減らしている。」


晴南が柚羽に言った。


「柚羽あと少しよ!!がんばって!!!」


健太が柚羽に言った。


「姉さんファイト!!!」


だがここにきて柚羽が苦しそうにうめき声をあげはじめた。


「うああ!!!うああああ!!!!うああああ!!!」


柚羽は意識を保つ事が難しくなっていた。


柚羽は真っ黒な顔のない幽霊の少女の姿に戻り始めていた。


黒輪が大きな声で言った。


「まずい、このままでは柚羽殿が消えてしまう。」


すると晴南が採光窓から大声で外で待機しているみんなに言った。


「みんなスイッチをオンにして!!!」


外に残っていたメンバーが晴南に言った。


「はい!!!」


すると採光窓から強い明りが入ってきてダイニングの中を強烈に照らしたのだった。


そして晴南がダイニングの照明のスイッチを入れた。


するとダイニングの中はまるで昼間のような明るさになった。


外では美咲の家が強力にライトアップされていた。


そして晴南達は持ち込んでいたカバンの中から何本ものLEDライトを取り出すのだった。


ダイニングにいる全員が携行型のLEDライトを手に持った。


晴南がダイニングにいるみんなに言った。


「私達もつけるわよ!!!」


晴南達が手に持っているREDライトで霊力で暴走している柚羽を照らすのだった。


顔のない少女が苦しみ始めていた。


「うあああ!!!うああああ!!!」


麻衣子が心配そうに黒輪に尋ねた。


「これ効いてるんですか??」


黒輪が麻衣子に言った。


「ああ、しっかり効いている。柚羽殿の顔が戻りつつあるだろう。」


黒輪の指摘通り柚羽の顔が元に戻りかけていた。


優斗がリグロに尋ねた。


「リグロさん達は大丈夫なんですか??」


リグロが優斗に言った。


「大丈夫だ、我々には光源に対してもちゃんと耐性がある。」


優斗がリグロに言った。


「分かりました。」


実は晴南達は美咲の家や庭にたくさんの照明器具を持ち込んでいたのだった。


そしてダイニングにも携行型のLEDランプを持ってきていたのだった。


それは柚羽が自我を失って暴走しかけたらライトをつけるように黒輪が晴南達にお願いしていたからだった。


柚羽の顔はしっかりと元に戻っていた。


二実がリグロに言った。


「ライトを用意してくれって言ってたのはこの為だったのね。」


リグロが二実に言った。


「ああ、我々オバケは闇の住人だからな。属性的に光には弱い。」


リグロがみんなに言った。


「そろそろライトを消してくれ、光源は霊力の暴走を抑制するには有効な手段だが、同時に羽殿にとっても辛いはずだ。それに放出される霊力はだいぶ弱くなってきている、このぐらいならばもう柚羽殿の自力で制御できるはずだ。」


晴南が採光窓から大きな声で外のメンバーに言った。


「みんなライトを消して!!!」


晴南も再びダイニングの照明を落とした。


屋外のライトも消されて携行型LEDライトのスイッチも切ったためダイニングは再び薄暗くなった。


リグロがみんなに言った。


「よしすべての霊力放出を止めた。」


黒輪がみんなに言った。


「ワシも今すべての霊力放出を止めた。」


晴南がリグロに尋ねた。


「うまくいったんですか?」


リグロが晴南に言った。


「ああ成功だ。」


晴南がリグロに言った。


「やった!!!」


麻衣子がリグロに言った。


「良かった。」


すると甲高くかすれた声がダイニングに響いた。


「よ・・・こ・・・せ!!!」


柚羽がいた方を見ると、代わりに真っ黒な顔の少女が立っていた。


麻衣子が驚いて言った。


「えっ??」


甲高くかすれた声がダイニングに響いた。


「よ・・こ・・せ!!!顔をよこせ!!!」


麻衣子がリグロに尋ねた。


「失敗したんじゃないですか??」


甲高くかすれた声がダイニングに響いた。


「よこせ!!!顔をよこせ!!!」


リグロが麻衣子に言った。


「いや大丈夫だ。」


リグロが真っ黒な顔の少女に言った。


「柚羽殿、あまりお仲間を心配させるものではありませんよ。」


すると再びダイニングに柚羽の声が響いてきた。


「ばれちゃってましたか。」


すると真っ黒な顔の少女は再び柚羽の顔に戻っていた。


晴南が柚羽に言った。


「もう柚羽??驚かさないでよ。失敗したのかと思っちゃったじゃない。」


柚羽が晴南に言った。


「いつも晴南に驚かされてばかりだからね。たまにはいいでしょ。」


健太はとてもうれしそうに柚羽に言った。


「姉さん、戻ってきてくれたんだね。」


柚羽が複雑そうな顔で健太に言った。


「まあ幽霊としてだけどね。いつまでも健太のそばにいるって約束したでしょ。」


健太が柚羽に言った。


「おかえりなさい!!姉さん!!」


柚羽が健太に言った。


「うん、ただいま。」


黒輪が柚羽に尋ねた。


「しかし柚羽殿??あの暴走状態に己の意志でなる事ができるのか??」


柚羽が黒輪に言った。


「はい、自分の意志で変身できますよ。」


拓也が柚羽に尋ねた。


「柚羽平気なのか?」


柚羽が拓也に言った。


「うん、平気だよ拓也君。死んでて平気っていうのも少し変な気がするけど。」


優斗が柚羽に言った。


「とにかくうまくいってよかったよ。」


柚羽がみんなに言った。


「みんな、いろいろと迷惑かけちゃってごめんね。」


晴南が柚羽に言った。


「私こそ何の力にもなってあげられなくてごめんね。」


柚羽が晴南に言った。


「気にしてないからいいよ。そうだ晴南??ちょと確認しときたい事があるんだけど?」


晴南が柚羽に聞き返した。


「えっ??なに??」


柚羽が晴南に尋ねた。


「晴南??まさか健太を狙ってるんじゃないでしょうね???」


晴南が柚羽に言った。


「いや別に狙ってないから。」


柚羽が晴南に尋ねた。


「本当に本当ね?」


晴南が柚羽に言った。


「本当に本当よ。」


柚羽が晴南に尋ねた。


「フウキ様に誓える??」


晴南が柚羽に言った。


「ええ誓えるわ。」


すると柚羽が健太に尋ねた。


「ねえ健太??最近言い寄ってきた女はいる??」


健太が柚羽に尋ねた。


「えっ??」


柚羽が健太に尋ねた。


「最近言い寄ってきた女はいる??」


健太が柚羽に言った。


「いません。」


柚羽が健太に言った。


「良かった。」


晴南が柚羽に言った。


「ねえ柚羽??自分が死んじゃった後ですら、健太の事ばかりなのね?」


柚羽が晴南に言った。


「当然でしょう。健太は私の一番なの、全てにおいて優先されるの。」


すると拓也が柚羽に言った。


「柚羽??俺たちにできる事があれば何でも言ってくれ。」


優斗が柚羽に言った。


「うん、できるかぎり力になるから。」


柚羽が二人に言った。


「ありがとう、拓也君に優斗君。」


柚羽がみんなに言った。


「それじゃあさっそくなんだけど一つお願いしていいかな。」


麻衣子が柚羽に尋ねた。


「お願いってなに??」


柚羽がみんなに言った。


「みんな健太には絶対に手を出さないでよ。」


晴南が柚羽に言った。


「もう柚羽???」


柚羽が晴南に言った。


「だって心配でしょ。私もう死んじゃってるんだし。健太を守ってあげられないし。」


優斗が晴南に言った。


「柚羽らしいといえば柚羽らしいけどね。」


晴南が柚羽に言った。


「本当に柚羽って健太の事になると性格変わるわよね。いいわ、約束します。健太には手を出しません。これでいいでしょ。」


その後でみんながその誓約を行った。


すると二実が柚羽に言った。


「そうだ柚羽ちゃんちょっといいかな?」


柚羽が二実に尋ねた。


「はい、何ですか?」


二実が柚羽に言った。


「悪いんだけど、ここに滞在するのは遠慮してほしいんだ。」


柚羽が二実に尋ねた。


「どうしてですか??」


すると麻衣子が柚羽に言った。


「実は美咲が怖がって九木礼温泉に避難してるのよ。」


柚羽が麻衣子に言った。


「えっ??そうなの?」


麻衣子が柚羽に言った。


「うん、だから柚羽がここに残ると美咲が怖がっちゃうからね。」


二実が柚羽に言った。


「ごめんね。柚羽ちゃん。」


柚羽が二実に言った。


「別にいいですよ。ちょうどここを出ていこうと思ってましたし。」


晴南が柚羽に尋ねた。


「えっ??どこに行くつもりなの??」


柚羽が晴南に言った。


「わかんないけど。健太に憑いていいくつもりだから。いろいろと話もしたいしね。」


すると柚羽が健太に尋ねた。


「ねえ??健太はどこに泊まってるの??」


健太が柚羽に言った。


「今は九木礼温泉に泊まってます。」


柚羽が晴南に言った。


「じゃあ健太と一緒に九木礼温泉に行くわ。」


麻衣子が晴南に言った。


「まあ柚羽にとっては健太と一緒にいるのが一番大事だもんね。」


柚羽がみんなに言った。


「それじゃあ今日はもう帰りましょうか。みんなまた明日ね。」


晴南が柚羽と健太に言った。


「それじゃあね、健太、柚羽!!」


柚羽は健太に憑いて九木礼温泉に向かったのだった。


晴南達も美咲の家の外に出たのだった。


亜美が冬湖に言った。


「柚羽さんが消えなくて良かったですね。」


冬湖が亜美に言った。


「ええ、本当に良かったですね。」


すると晃太が二実に尋ねた。


「俺も柚羽と話せた事は良かったと思ってるんですが、柚羽に無理をさせてまで現世に留めておくのは正しい事なんですかね?」


二実が晃太に言った。


「それに関しては私もリグロさん達の意見に賛成よ。もちろん柚羽ちゃんを成仏させてあげたいって気持ちは今でも持ってるわ。でも今は成仏ができない状況になってるわ。女神セルティアによって死者の魂は異世界送りにされて完全消滅させられてしまう。そうなったら来世もなにもない。それならまだ幽霊としてでも現世に留めてあげた方がよっぽどいいわ。」


晃太が二実に言った。


「確かにそうかもしれません。」


麻衣子がみんなに言った。


「ねえみんな?もう日も暮れてるしそろそろ帰らない?」


晴南が麻衣子に言った。


「そうね柚羽も助けられたし、美咲の家のお祓いも完了したし私達も帰りましょうか。」


そして晴南達はそのまま自分の家に帰っていった。

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