第70話 祓い屋
6月29日の午前8時になろうとしていた。
晴南達は中学校に登校するために九良平(くらひら)神社に七緒を迎えに来ていた。
九良平神社の社務所の前で七緒が出てくるのを待っていると、二実が階段を上ってきたのだった。
それを見つけた麻衣子が二実に声をかけた。
「あっ!二実さん、おはようございます。」
二実がそれに気づいてみんなに言った。
「あっ!!みんな?おはよう!!」
晴南が二実に言った。
「二実さん、お久しぶりです。元気でしたか?」
麻衣子が晴南に言った。
「久しぶりって3日前に会ったばかりでしょ。」
晴南が麻衣子に言った。
「二実さんに会えなくて寂しかったんだもん。」
二実が晴南に言った。
「ふふ、ありがとう。」
冬湖が二実に尋ねた。
「二実さんは実家の仕事のお手伝いをされてるんですよね?今日はいいんですか?」
二実が冬湖に言った。
「うんちょっと問題が発生してね、三緒に相談しようと思って今日はこっちに戻ってきたの。」
すると玄関の扉が開いて社務所の中から七緒が眠そうな眼をこすりながら出てきた。
それに続いて三緒が外に出てきた。
三緒がみんなに言った。
「みんな待たせちゃってごめんね。」
三緒が七緒に声をかけた。
「七緒??居眠りせずにちゃんと授業を受けなさいよ??」
七緒は眠そうな様子で三緒に答えた。
「うーん、・・・。」
二実が三緒に言った。
「おはよう、三緒。」
三緒は声がした方を振り向くと二実の姿を見つけた。
三緒が二実に言った。
「あれっ?二実じゃない?おはよう。今日はどうしたの?」
二実が三緒に言った。
「実は三緒に相談したい事があってさ。」
三緒が二実に言った。
「二実が私に相談なんて珍しいわね。」
晴南達は七緒が玄関から出てきた後もなぜかその場に立ち尽くしていた。
それに気がついた三緒がみんなに尋ねた。
「あれっ?みんな出発しないの?」
麻衣子が三緒に言った。
「美咲がまだ来てないんです。」
三緒が麻衣子に言った。
「そういえば美咲ちゃんいないね。」
晴南が麻衣子に言った。
「ねえ麻衣子??美咲のスマホに掛けてみたら。」
麻衣子が晴南に言った。
「もう何度もかけてるんだけど全然繋がらないわ。」
晴南が冬湖に尋ねた。
「冬湖?SNSの方は?」
冬湖が晴南に言った。
「何度かメッセージを送ってみたんですが、美咲さんからの返答はありませんでした。」
晴南が言った。
「そっか、美咲ったら今日はずる休むつもりなのかしら?」
麻衣子が晴南に言った。
「ずるかどうかは分からないけど休みかもしれないわね。」
晴南が麻衣子に言った。
「休むならちゃんと連絡して欲しいわよね。」
麻衣子が晴南に言った。
「まあ美咲もルーズな所があるからね。」
麻衣子が晴南に尋ねた。
「どうする晴南?七緒は来てるしもう登校する?」
晴南が何かを考えている様子で麻衣子に言った。
「うーん、そうね。どうしようかしら?」
晴南が麻衣子に言った。
「そうだ、麻衣子、晃太に電話をかけてよ?」
麻衣子が晴南に尋ねた。
「えっ?なんで??」
晴南が麻衣子に言った。
「いいからいいから。」
麻衣子は晴南に言われた通りに自分のスマホで晃太に電話を掛けた。
そしてスマホを晴南に手渡した。
晴南がスマホを通して話しかけた。
「あーもしもし晃太??」
スピカーモードになっており晃太の声が周囲に響いた。
「ああ?晴南か?」
晴南がスマホを通して晃太に話しかけた。
「ええそうよ。ねえみんなそこにいる??」
晃太の声が周囲に響いた。
「えっ??ああ、晴南達以外はみんなもう教室に来てる。」
晴南がスマホを通して晃太に話しかけた。
「なら良かった、それじゃあ晃太?今すぐにみんなを連れて九良平(くらひら)神社まできてちょうだい?」
晃太の声が周囲に響いた。
「えっ??どいういう事だ?」
晴南がスマホを通して晃太に話しかけた。
「そんなの部活動を九良平(くらひら)神社でやるからに決まってるでしょ!!校長先生にもそう伝えといて!!それじゃ頼んだわよ!!」
晴南はそういうと電話を切った。
麻衣子が晴南に言った。
「ちょっと晴南??どういうつもりよ?」
晴南が麻衣子に言った。
「これからここで部活しようって思ってね。」
しばらくして他の部活メンバーも九良平神社の社務所前にやってきた。
晴南が晃太に言った。
「晃太、おはよー!!」
晃太が晴南に言った。
「晴南??おはよー、じゃないんだが??当日に時間割を変更するのは止めた方がいいと思うぞ?」
晴南が晃太に尋ねた。
「えっ??校長先生ダメって言ったの??」
晃太が晴南に言った。
「いや、いいよって言ってくれた。」
晴南が晃太に言った。
「ならいいじゃない。」
晃太が晴南に言った。
「あのな晴南?知らないと思うけど校長先生、今日の授業のためにいろいろと準備してたんだぞ。」
晴南が晃太に言った。
「大丈夫よ、午後から校長先生の授業をしっかり受けるわ。」
すると優斗が晴南に言った。
「校長先生が今日の午後は用事が入って授業はできないって言ってたよ。」
晴南が優斗に言った。
「そうなの?校長先生に悪い事しちゃったわね。」
晃太が晴南に言った。
「悪い事したと思ってるなら態度で示した方がいい。」
晴南が晃太に言った。
「分かったわ明日、校長先生にこの事は謝るわ。それでいいかしら?」
晃太が晴南に言った。
「ああそうしてくれ。」
二実がみんなに尋ねた。
「みんな?学校にいかなくていいの?」
晴南が二実に言った。
「今日の午前中は部活動する事にしたんです。」
二実が晴南に言った。
「えっ??部活動って??なんの部活をやってるの?」
晴南が二実に言った。
「きょういくかーてい、えっと??」
優斗が二実に言った。
「教育課程外活動(きょういくかていがいかつどう)総合研究部(そうごうけんきゅうぶ)をやってます。」
二実が優斗に尋ねた。
「教育課程外活動(きょういくかていがいかつどう)総合研究部(そうごうけんきゅうぶ)??一体どんな部活なの?」
優斗が二実に言った。
「簡単に言うとなんでも部です。バスケとか瞑想(めいそう)とか天体観測とか帰宅部とかいろんな事をやってます。」
二実が優斗に言った。
「何それ?おもしろそうな部活ね。」
晴南が二実に言った。
「それで今日は二実さんとおしゃべりする部活動をする事にしたんです。」
二実が晴南に尋ねた。
「おしゃべりを部活動しちゃって大丈夫なの?」
優斗が二実に言った。
「レポートには神社の見学に来て、神社運営を担っている二実さんや三緒さんのお話を詳しく伺ったって書くつもりです。」
二実がみんなに言った。
「そういう事ならつきあうわ、ちょうど今日の午前は空けてあるしね。」
三緒がみんなに言った。
「みんな中に上がって。」
三緒に促されて晴南達は九良平(くらひら)神社の社務所の中に入っていった。
九良平(くらひら)神社の社務所は木造の平屋の建物でかなり大きく、古びた感じの建物であった。
社務所の中は天井も廊下の床も木でできていた。
社務所の各部屋は畳の敷かれた和室であり扉は全てふすまになっていた。
晴南達は東側にある大広間へとやって来た。
そして大広間に全員が腰を下ろした。
晴南達は二実にレポート作成に必要な事を尋ねていった。
「神社での仕事ってどんな事をするんですか?」
二実がみんなに言った。
「うちは規模としては大きな神社だからやる仕事はたくさんあるわね。神事(しんじ)で祝詞奏上(のりとそうじょう)をしたり神楽(かぐら)を舞うのが一番仕事としては多いわね。あとは神社のお守りを作ったり、神社に来てくれた参拝者を案内したりもするわね。」
三緒がみんなに言った。
「うちは二実の所ほど神社が大きくないから神楽(かぐら)を舞う事はほとんどないわね。うちは九木礼祭の前後がとっても忙しいわ。その時期は毎日祝詞奏上(のりとそうじょう)やお守りを作ったりしてるわ。それ以外の時期は境内の掃除をよくやるわね。」
二実が三緒に尋ねた。
「えっ?境内の掃除してるの?偉いわね三緒??」
三緒が二実に尋ねた。
「逆に二実はやってないの??」
二実が三緒に言った。
「私、他の巫女さんにやってもらってたから。」
三緒が二実に言った。
「巫女だったのに境内の掃除もしてなかったの?」
二実が三緒に言った。
「仕方ないでしょ、掃除苦手なんだから。その分他の仕事をしてカバーしてるんだから別にいいでしょ?」
三緒が二実に言った。
「まあそれならいいんだけど。」
二実がみんなに尋ねた。
「そうだ、みんな何か質問あるかな?」
麻衣子が二実に尋ねた。
「封木神社とこの九良平神社ってなんでフウキ様を奉ってるんですか?別の神社なのに同じ神様を奉るっておかしくないですか?」
二実が麻衣子に言った。
「それは元々一つの神社だったからよ。この九良平神社と私の実家の九前坂神社は封木神社から分社で造られた神社だからね。」
麻衣子が二実に尋ねた。
「分社ってなんですか?」
二実が麻衣子に言った。
「文字通りに神社を分けたのよ?町の人たちが参拝しやすいようにね。」
麻衣子が二実に言った。
「それで別の神社なのに同じフウキ様が奉られているんですね。」
二実が大広間の中に備え付けられた時計を見ながら言った。
「もう十一時半か?そろそろ出ようかしら?」
三緒が二実に尋ねた。
「ちょっと待って二実??今日は何しに来たの?さっき話があるって言ってなかった??」
二実が三緒に言った。
「そうだった。実はさ、一緒に仕事を手伝ってほしいの。」
三緒が二実に言った。
「九前坂(くぜんざか)神社の依頼を手伝えって事?」
二実が三緒に言った。
「そう。」
三緒が二実に尋ねた。
「九前坂(くぜんざか)神社には二実が手伝っても追いつかない程の依頼がきてるの?」
二実が三緒に言った。
「私も手伝えば終わるかなって思ってたんだけど、甘かったわ。全然依頼の数が減ってかないのよ。それで三緒にも手伝ってほしいわけ。」
晴南が二実に尋ねた。
「依頼って何ですか?」
二実が晴南に言った。
「まあ簡単に言うとお祓(はら)いの依頼ね。ただしすごくやっかいなお祓いだけどね。」
三緒が二実に言った。
「二実も二実のお父さんも有名な祓い屋だもんね。それを聞きつけた人たちが押し寄せてるって訳か。」
二実が三緒に言った。
「そうなの、祓い屋の仕事をお願いできる人なんて三緒しかいないのよ。三緒お願い手伝って!!」
三緒が二実に言った。
「うーん、手伝うのはやぶさかじゃないんだけど?またどうせ依頼者からぼったくっているんでしょ?」
二実が三緒に言った。
「ぼったくるって失礼な言い方ね。正当な料金を頂いてるだけよ。」
三緒が二実に言った。
「正当な料金って言うけど、料金表なんてないでしょ?」
二実が三緒に言った。
「あるわけないでしょ?依頼事に厄介度が違うのに、料金表なんか作れるわけないでしょ。」
三緒が二実に言った。
「それなら直近で引き受けた依頼の金額を教えてちょうだい。」
二実が三緒に言った。
「成功報酬として百万円、前金として50万円もらっているわ。昨日受けた依頼だとトータルで500万円ぐらいかな。」
三緒が二実に言った。
「1日で500万円荒稼ぎしてるわけ?」
二実が三緒に言った。
「荒稼ぎって言い方止めてよ。私は依頼を厳選してるだけよ。」
三緒が二実に言った。
「それって金額の高い依頼しか受けてないって事でしょ。」
二実が三緒に言った。
「当然でしょ?限りある学生時代の時間を割いて依頼を受けてるのよ。それなりの金額積んでもらわないと。」
三緒が二実に言った。
「でもならなんで私が手伝う必要があるの?依頼を断ってるなら手伝わなくてもいいじゃない。」
二実が三緒に言った。
「それがお父さんが怒ってるのよ。困ってる人たちにつけこんで大金をむしり取ってはずかしくないのかって。」
三緒が呆れた様子で二実に言った。
「そりゃ言われるって。」
二実が三緒に言った。
「でも単価の高い仕事と安い仕事があったら当然高い方を選択するでしょ??」
三緒が二実に言った。
「いやまあそうかもしれないけど。」
二実が三緒に言った。
「だから単価の高い依頼は私が引き続きやるから三緒には残りの依頼をお願いしたいの。」
三緒が二実に言った。
「つまり私に残りの依頼を処理しろと。」
二実が三緒に言った。
「そうよ!二人で力を合わせて困っている人たちを助けるのよ!!」
三緒が二実に言った。
「高額なお金を払ってくれる人にしかお祓いをしない。そんなの果たして人助けって言えるの?」
二実が三緒に言った。
「助かる人がいるんだから人助けでしょ?」
三緒が手伝うかどうか考えていた。
「う~ん。」
そして二実に言った。
「分かった。手伝ってもいいわ。ただし依頼を受ける条件を金額から先着順に変更なさい。それが私が手伝う条件よ。」
二実が三緒に言った。
「ええ??それじゃあ日当が4分の1になっちゃうじゃない。」
三緒が二実に言った。
「十分じゃない。それでどうするの?」
二実が少し考えた後で三緒に言った。
「いいわ。それで手を打つわ。それじゃあ早速今日からお願い。」
三緒が二実に言った。
「分かった、準備ができたらすぐに向かうわ。どこにいけばいいの?」
二実が三緒に言った。
「午後1時までに明井田美術館に来て。」
二実が七緒に言った。
「七緒ちゃんそういう訳だから、しばらく三緒を借りるわね。」
七緒が二実に言った。
「うん。」
二実はそう言うと社務所の外に出て行った。
三緒も準備の為に奥の部屋に入っていった。
晴南が言った。
「さあそれじゃあ私達も登校しましょうか?」
麻衣子が晴南に尋ねた。
「美咲はいいの?」
晴南が麻衣子に言った。
「そうだった、それじゃあまず美咲の家に行ってみましょうか?」
晴南達はその後美咲の自宅へと向かった。
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