第68話 炭鉱跡
6月27日午後2時を過ぎた。
晴南達はとある場所へとやってきた。
晴南がみんなに言った。
「それじゃあはりきって地下探検に出発するわよ!!」
晃太が晴南に尋ねた。
「なあ晴南?部活動で地下坑道(ちかこうどう)に潜るつもりなのか?」
晴南が晃太に言った。
「当然でしょ?でなきゃここには来ないでしょ?」
晴南はそう言うとこれから入ろうとしている建物を見つめた。
晴南達は九木礼炭鉱跡地へとやってきたのだった。
九木礼炭鉱はすでに閉山しておりもちろん営業はしていなかった。
炭鉱跡地といっても営業していないだけで当時の建物は閉山した時の状態で残っていた。
中央にビルのような高い建物があり、そのビルのような建物を取り囲むように低層のコンクリート造りの古い建物があった。
麻衣子が晴南に尋ねた。
「ねえ?ちょっと晴南?これが服が汚れないためのアイデアなの?」
晴南が麻衣子に言った。
「そうよこれなら汚れなんて怖くないでしょ。」
晴南達は一旦家に戻ってレインコートと長靴を取りに戻っていた。
そして全員がレインコートと長靴を履いてここまでやって来たのだった。
麻衣子が晴南に言った。
「まあ確かにこれなら服を汚さずに済むと思うけど。」
優斗が麻衣子に言った。
「快晴の昼下がりにレインコートと長靴履いてゾロゾロ移動するの異様な光景だったよね。」
麻衣子が晴南に言った。
「まあ別に誰とも会わなかったし、服が汚れる方が困るから別にいいんだけどさ。」
晴南が麻衣子に言った。
「はやく中に入りましょうよ。」
晴南達は旧九木礼炭鉱の建物の出入口の扉の前までやってきた。
すると晴南がポケットから鍵を取り出して大きな南京錠を開錠したのだった。
晴南は鍵を開けるとすぐに扉を開いた。
ギイイーと音を立てて扉が開いた。
晴南達は旧九木礼炭鉱の建物の中に入っていった。
建物の中は鉄骨がむき出しになっていて大型機械がたくさん並んでいた。まさに工場といった雰囲気だった。
拓也が言った。
「あいかわらずここって不思議な場所だな?」
長孝が拓也に言った。
「そうすっね。工場みたいだけれど線路が敷かれてるっす。」
この工場の床には線路が敷かれており、使われなくなったトロッコの車両が線路の上にいくつも止められており不思議な雰囲気になっていた。
拓也が優斗に尋ねた。
「優斗?ここはなんなんだ?」
優斗が拓也に言った。
「ここは立坑櫓(たてこうやぐら)だよ。」
拓也が優斗に聞き返した。
「立坑櫓(たてこうやぐら)?」
優斗が拓也に言った。
「簡単に言うと地下にある坑道と地上をつなぐ昇降機(エレベーター)の設備だね。」
長孝が優斗に尋ねた。
「それじゃあ坂倉先輩??このトロッコは何に使うんっすか??」
優斗が長孝に言った。
「地下から石炭を満載したトロッコをあの立坑ケージ(エレベーター)を使って地上まで上げてたんだ。この奥にあった選炭場(せんたんじょう)まで運んでたんだよ。」
麻衣子が優斗に尋ねた。
「優斗君??選炭場(せんたんじょう)って何??」
優斗が麻衣子に言った。
「選炭場(せんたんじょう)っていうのは採掘した石炭を選別する場所だよ。石炭は石油みたいに液体で運べないから輸送するとコストがすごくかかるんだ。だから採掘された場所で一緒に加工までしてしまうんだ。この奥で捨石(ボタ)(加工時に出てくる廃石)を取り除いて品質別に選別してたらしいよ。」
拓也が優斗に尋ねた。
「でも外観は結構荒れてるのに中はちゃんと管理されてて荒れてないんだよな。なんでなんだ??」
優斗が拓也に言った。
「ここの設備を観光用に使う計画があるらしいよ。」
拓也が優斗に言った。
「それでしっかり整備されてるのか。」
晴南が拓也に言った。
「そんな事よりも早く潜るわよ。」
晴南が晃太に言った。
「晃太、立坑(たてこう)ケージの操作をお願い。」
晃太が晴南に言った。
「ああ分かった。」
美咲が晴南に言った。
「晴南?今日は私は潜らないから。私も黒宮君と制御室にいるわ。」
晴南が美咲に言った。
「えっ?なんで??前回は潜ってくれたでしょ?」
美咲が晴南に言った。
「前回潜ったんだから今回はいいでしょ?」
晴南が美咲に尋ねた。
「それならなんでレインコート着てきたのよ?」
美咲が晴南に言った。
「誰も持ってこないなんて思わなかったからよ??」
晴南が言った。
「えっ??」
美咲が晴南に言った。
「今日は誰もスイーツ持ってきてないじゃない?」
晴南が美咲に聞き返した。
「スイーツ??」
美咲が晴南に言った。
「前回は黒宮君がドーナツを持ってきてくれたでしょ?」
麻衣子が美咲に尋ねた。
「つまり美咲はスイーツが食べれないと潜らないって事ね。」
美咲が麻衣子に言った。
「当然でしょ。スイーツも無いのになんであんな暗い場所に行かなきゃならないのよ。」
晴南が美咲に言った。
「仕方ないわね。晃太と美咲はここに残ってちょうだい。」
晴南がみんなに言った。
「それじゃあ美咲抜きで潜りましょうか。」
晴南がみんなに尋ねた。
「あれっ?七緒はどこに行ったの??」
すると麻衣子がとある場所を指差しながら晴南に言った。
「ほら晴南、あそこ。」
麻衣子が指差したのは立坑ケージの操作室だった。
操作室の椅子に座った状態で眠り込んでいる七緒の様子が見る事ができた。
結局、晃太と美咲と七緒の三人が制御室に残る事になった。
晴南達は立坑ケージの柵を開いてケージに全員が乗車していった。
全員の乗車が終わると晴南が大きな声で晃太に言った。
「晃太!!全員乗ったわよ!!」
すると制御室にいる晃太が大きな声で言った。
「もう稼働させてある。動作ボタンを押せば動くはずだ。」
すでに建物中に機械音が響いていた。
晴南がみんなに言った。
「それじゃあボタンを押すわね。」
晴南がケージ出入口にあるボタンを押した。
するとブイーンという機械音が大きくなって晴南達の乗ったケージが下に向かって動き始めた。
ケージは下に向かってどんどん降りていった。
ケージに乗っている晴南が隣にいる麻衣子に尋ねた。
「うーん、美咲や七緒を潜らせるにはどうすればいいかしらね?」
麻衣子が晴南に言った。
「美咲は簡単でしょ。ベリエのスイーツでももってこればホイホイついてくると思うけど。問題は七緒だね。七緒はめんどくさがりだし一緒に潜らせるのはなかなか難しいと思うよ。」
晴南が麻衣子に言った。
「そうねえ、難問だわ。」
晴南が麻衣子に言った。
「まあいいわ、それじゃあ今日はどこまで潜ろうかしらね??」
麻衣子が晴南に言った。
「潜るのはいいんだけど、晴南??部活動中だって事は忘れないでよ。無茶な事言わないでよ。」
晴南が麻衣子に言った。
「もうわかってるわよ。麻衣子。心配しないで。」
晴南が麻衣子に言った。
「よし決めたわ!!今日は最深部までいくわよ!!」
麻衣子が晴南に言った。
「ちょっと晴南??私の話を聞いてたの?最深部なんていける訳ないじゃない?」
晴南が麻衣子に言った。
「冗談よ冗談、今日は第1層だけよ?それならならいいでしょう?」
するとケージが停止した。
晴南達は地下100メートルにある坑道に到着したのだった。
晴南達はケージから降りて真っ暗な地下坑道へと降り立った。
すぐに晴南が懐中電灯をつけて周囲を照らした。
「ちょっとまってね。明かりをつけてくるわ。」
晴南はそう言うとライトを片手に持って歩きだした。
しばらくして周囲が明るくなった。
晴南が照明のスイッチを入れたのだった。
戻ってきた晴南がみんなに言った。
「とりあえずそこのカフェで一息しましょうか?」
麻衣子が晴南に言った。
「カフェじゃなくて休憩室でしょ。」
晴南達は簡易の休憩室に入っていった。
休憩室といってもちゃんとした部屋が作られている訳ではなく、地上から持ってきた小さなプレハブハウスが坑道の中に置かれている状況だった。
このプレハブハウスはかなり新しいものだった。
室内は中央に大きなテーブルとそれを囲むように椅子が置かれていた。
晴南達は椅子に腰かけた。
冬湖が麻衣子に言った。
「ここにくるのも久しぶりですね。」
麻衣子が冬湖に言った。
「最近いろいろあってあんまりこれてなかったからね。」
すると晴南が麻衣子に尋ねた。
「ねえねえ、今気づいたんだけど、地下探検をする中学生って世界で私たちだけじゃないかしら?」
麻衣子が晴南に言った。
「ええそうね。確かにこんな事考えつくの晴南ぐらいよね。」
晴南が麻衣子に言った。
「そうでしょ?私以外は思いつかない素晴らしいアイデアよね。」
麻衣子が晴南に言った。
「真昼間からこんな薄暗い場所に好きこのんで入ろうとする物好きなんて晴南ぐらいよ。」
晴南が麻衣子に言った。
「そうでしょ!!そうでしょ!!私はオンリーワンのすごい女子なのよ!!」
麻衣子が晴南に言った。
「今のは褒めてないから。」
麻衣子が晴南に尋ねた。
「そういえば晴南??部活動レポートはどうするの?」
晴南が麻衣子に聞き返した。
「えっ??どうするって??」
麻衣子が晴南に言った。
「無断で地下坑道に来てるのに、それを部活動レポートには書く訳にはいなかないでしょ?それで今日の分の部活動レポートはどうするのって話?」
晴南が麻衣子に言った。
「あっそっか。ごめん。全然考えてなかったわ。」
麻衣子が晴南に言った。
「ちょっとどうするの??」
晴南が麻衣子に言った。
「うーん??」
晴南が優斗に言った。
「優斗?なにか案を出してちょうだい?」
優斗が少し驚いた様子で晴南に言った。
「えっ?案??」
優斗が晴南に言った。
「だったら外の写真だけ撮って町の炭鉱跡を見学しましたっていうのはどうかな?」
晴南が優斗に言った。
「その案、いいじゃない。」
優斗が晴南に言った。
「この後で図書館で九木礼炭鉱の資料集めをしてレポートに載せればいい感じになると思うよ。」
晴南が優斗に言った。
「えっ!!なんでこの後図書館なんかに行かなきゃならないのよ?」
優斗が晴南に言った。
「ここに見学にきましただけだと時間がかかりすぎてると思われるよ。図書館でここの歴史を調べてましたってレポートに加えた方がいいと思う。」
晴南が優斗に言った。
「図書館なんて行きたくないわ!!」
麻衣子が晴南に言った。
「それならこの地下坑道に潜ってる写真を部活動レポートに載せてみる?鳥岩先生なんて言うかな!!きっと鳥岩先生の特大カミナリが晴南に落ちるわよ!!」
晴南が麻衣子に言った。
「そんなの嫌よー。」
麻衣子が晴南に言った。
「でしょ??なら図書館に行って資料集めをしましょうよ。」
晴南が麻衣子に言った。
「そうね、分かったわ。バレないようにアリバイ作りをするわ。」
麻衣子が晴南に言った。
「なんかその言い方嫌ね。」
晴南がみんなに言った。
「さあそれじゃあ第1層探検といきましょうか?」
晴南達が休憩室から出て坑道の奥に進んでいった。
レインコート姿の晴南を先頭に進んでいった。
晴南が懐中電灯で前を照らしながら前進していった。
坑道内は広い空間ではなくただ長いトンネルのような空間がずーっと先まで続いていた。
拓也が麻衣子に言った。
「地下坑道っていうのは洞窟みたいな所だと思ってた。でもここはトンネルの中って感じだよな。」
麻衣子が拓也に言った。
「確かにトンネルの中って感じね。足元に線路も走ってるからなおさらね。」
晴南達のいる地下第一層の坑道内の天井や壁面はコンクリートで覆われており、晴南達はトンネルの中を歩いている様子だった。
晴南達が進んでいる坑道内には線路が敷かれており、この場所は鉄道のトンネルという雰囲気の場所であった。
晴南がみんなに言った。
「あっちから電車でも走ってこないかしら。」
麻衣子が晴南に言った。
「来る訳ないでしょ。閉山になってる炭鉱の地下坑道をなんで電車が走ってくるの??」
晴南達はそんなたわいない話をしながら地下坑道を奥へと進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます