第50話 対決そして
三緒が二実の顔を見ながら言った。
「ええ、そうね、拝殿で祝詞奏上(のりとそうじょう)をするんだったわね。二実、私も手伝うわ。祝詞(のりと)は大祓詞(おおはらえのことば)でいいの?」
二実が三緒に言った。
「ええ、それでいいわ。」
麻衣子が二実に言った。
「二実さん、私達にも何か手伝わせてください。」
二実が麻衣子に言った。
「それじゃあかがり火台に火をつけてくれないかな?拝殿と本殿の周りにかがり火台が準備してあるでしょ?晃太君達がほとんど準備をしておいてくれたから。あとは着火するだけになってるはずよ。私達は急いで祝詞奏上(のりとそうじょう)の準備をしたいから。」
麻衣子が二実に言った。
「任せてください。」
麻衣子達は急いでかがり火の準備する事になった。
拝殿と本殿の周りは暗闇に包まれていた。
麻衣子は非常灯の一つを借りて周囲を照らしながら、作業を始めた。
もっとも二実の言うとおり本殿と拝殿の周りにはすでにかがり火台と薪がちゃんと用意されており、着火するだけの状態となっていた。
美咲が麻衣子に尋ねた。
「ちょっとどうやって火をつけるのよ??」
麻衣子が美咲に言った。
「待って、たぶん晃太君達が準備してたなら、かがり火台の近くに火をつける物が置いてあると思うんだよね。」
麻衣子はかがり火の周辺を探してみた。
すると麻衣子の予想通りかがり火台の近くにガスライターが置かれていた。
麻衣子達は見つけたガスライターを使ってかがり火台に火をつけていった。
拝殿と本殿の周りを囲むようにかがり火がこうこうと焚かれた。
本殿と拝殿の周りはかがり火によって少し明るくなった。
麻衣子が二実に言った。
「かがり火台に点火しました!」
二実が麻衣子に言った。
「ありがとう、後は任せて!」
二実と三緒は正装に着替えて準備を整えていた。
本殿の引き戸を開けて拝殿から本殿の中が見えるようにしていた。
すると動物の鳴き声とも人間の雄叫びとも違う声が周囲に響き渡った。
グオーン!!!グオーン!!!グオーン!!
グオーン!!!グオーン!!!グオーン!!
その瞬間美咲が大声をあげた。
「きゃーー!!!」
麻衣子が二実に言った。
「この声です。昨日上社で聞いた声です。」
三緒が二実に言った。
「二実!!」
二実が三緒に言った。
「ええこれはヤバいわ!!禍々しい気配よ!!」
そう言うと二実と三緒は拝殿の奥に進んでいった。
拝殿の奥に壁はなく本殿が見渡せるようになっていた。
二実と三緒は拝殿の最奥までやってくると、そこに正座をした。
二実が三緒に言った。
「祝詞奏上(のりとそうじょう)を始めるわよ!!」
三緒が頷いた。
「うん。」
二実が小さな声で呟いた。
「フウキ様、どうか御力を御貸しください。」
二実は正座をしたまま本殿に向かって深く頭を下げた。
その後で二実は再び本殿に向かって深々と頭を下げた。
そして二実が祝詞奏上(のりとそうじょう)を始めた。
二実が祝詞(のりと)を読んでいく。
「高天(たかま)の原(はら)に神留(かむづ)まります、皇(すめら)が睦(むつ)神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命以(みことも)ちて。」
美咲と麻衣子と由香は拝殿の横に置いたかがり火の近くでこの様子を見守っていた。
どこからともなく聞こえていた動物の鳴き声とも人間の雄叫びとも違う声が徐々に大きくなってきた。
グオーン!!グオーン!!
グオーン!!グオーン!!
そして拝殿の前に大人の人間がすっぽり入ってしまうぐらいの大きさの黒い球体の闇が現れた。
そいつは地表から数メートルの所に浮いていた。
浮いている暗闇からは動物の鳴き声とも人間の雄叫びと分からぬ声が響いていた。
グオーン!!グオーン!!グオーン!!
グオーン!!グオーン!!グオーン!!
二実が引き続き大きな声で祝詞奏上を続けた。
「斯(か)く出(い)では天(あま)つ宮事以(みやごとも)ちて天(あま)つ金木(かなぎ)を本(もと)うち切(き)り、末(すえ)うち断(た)ちて千座(ちくら)の置(お)き座(くら)に置(お)き足(た)らはして」
すると暗闇に包まれていた神社の境内が少し明るくなった。
そして黒輪の雄叫びが少しづつ小さくなってきた。
グオーン!!グオーン!!
すると突然晴南が麻衣子達の前に姿を現した。
麻衣子が晴南を見つけて声をかけた。
「晴南?」
その声に気がついた晴南が麻衣子の方を振り向いて言った。
「あっ!麻衣子!やっと見つけた。」
麻衣子が晴南に言った。
「晴南?今までどこにいたのよ?」
晴南が麻衣子に尋ねた。
「麻衣子こそどこにいたのよ?どんだけ探したと思ってるの?」
すると冬湖と亜美も麻衣子達の前に姿を表した。
冬湖が麻衣子を見つけて麻衣子に言った。
「あっ!麻衣子さんここにいたんですね、また会えて良かったです。」
亜美が美咲に尋ねた。
「みなさんどこにいたんですか?」
美咲が亜美に言った。
「もうどこにいたじゃないでしょ?亜美。」
すると晴南が大きな声で言った。
「ちょっと晃太!!それに優斗!!これはどういう事よ?ここに出てきて説明しなさいよ?」
晴南が本殿の方を見ながら大声を出していた。
「えっ?晃太君?」
麻衣子がそう言った後で本殿のある方角を見た。
すると本殿の裏側から晃太と優斗が出てきた。
晃太が晴南に言った。
「そう言われても俺もさっぱりなんだが。」
すると優斗が晴南と晃太に言った。
「でも今はそれどころじゃなさそうよだよ!!あれを見て。」
優斗はそう言うと拝殿の前に浮いている黒輪の方を指さした。
晴南が訝しげに優斗が指さした方を見てみた。
そして目を丸くして言った。
「な、何よ!!あれ?!!」
何せ黒い数メートルの暗闇が大きな雄叫びをあげながら、その場に浮いているのだから晴南が驚くのは当然であった。
一方、二実が行っている祝詞奏上(のりとそうじょう)も終盤になっていた。
「八百万(やほよろず)の神(かみ)たち共(とも)に聞(き)こし召(め)せと白(まを)す。」
そして二実が祝詞奏上を終えた。
するとグオーン!!グオーン!!と雄叫びが小さくなっていった。
そして次の瞬間、黒輪が今までで一番大きな雄叫びをあげた。
グオーン!!!!!グオーン!!!!!!グオーン!!!!グオーン!!!!!グオーン!!!!!グオーン!!!!!グオーン!!!!!
そしてその後すぐに黒輪はあとかたもなく姿を消した。
三緒がみんなに言った。
「禍々しい気配が消えたわ!」
麻衣子が二実に尋ねた。
「封印したんですか?」
二実が麻衣子に言った。
「ううん、追い払っただけよ。」
二実がみんなに言った。
「もしかしたら他のみんなも神社の境内にいるかもしれないわ。」
二実のこの言葉ですぐに全員で神社の境内を探し始めた。
二実の言葉通りすぐに拓也と慎吾と長孝と七緒の四人も見つける事ができた。
合流した拓也が晴南に尋ねた。
「なあ晴南?今までどこにいたんだ?」
晴南が拓也に言った。
「ちょっと拓也!!それはこっちのセリフよ!!一体どこをほっつき歩いてたの??どんだけ探したと思ってるのよ!!!」
拓也が申し訳なさそうに晴南に言った。
「いや、ずっとみんなを探してたんだが?」
そして三緒が安堵のあまり七緒を抱きしめていた。
「もう心配したんだから!!七緒!!」
そして安堵した三緒が七緒に尋ねた。
「七緒?なんでいきなりいなくなったの?」
七緒が三緒に言った。
「何言ってるの?突然消えたのはお姉ちゃん達の方でしょ?」
すると闇に包まれていた神社の敷地が明るくなっていった。
すぐに封木神社の境内は元通りの状態に戻っていた。
太陽は沈みかけており日没が近いようだった。
二実がみんなに言った。
「やっぱり今までのはすべて黒輪の仕業だったみたいね。」
三緒がみんなに言った。
「ふう、ともかくみんな無事で良かったわ。」
晴南が二実に尋ねた。
「二実さん達はどこにいたんですか?ずっと探してたんですよ。」
二実が晴南に言った。
「そうなの?私達も晴南ちゃん達をずっと探してたのよ?」
三緒が晴南に言った。
「まあみんな無事だったんだし、その話はまた後日でいいんじゃない?時間もかなり押してるし?」
麻衣子が三緒に尋ねた。
「えっ?三緒さん?今何時ですか?」
三緒がスマホで時間を確認してから麻衣子に言った。
「午後6時過ぎてるよ。」
麻衣子が晴南に言った。
「えっ!そろそろ帰らないと。晴南?話はこの辺で切り上げてそろそろ帰りましょうよ?」
二実が晴南に尋ねた。
「それなら晴南ちゃん?また後日に機会を作るから、それでどうかな?」
晴南が二実に言った。
「分かりました。それならいいです。」
二実がみんなに言った。
「みんな、せっかくのお泊まり会だったのにこんな事になっちゃってごめんね?」
晴南が二実に言った。
「いえいえ、すごく楽しかったから全然いいです。」
麻衣子が晴南に言った。
「晴南?あんな目にあって楽しかったはないでしょ?」
晴南が麻衣子に言った。
「仕方ないでしょ?だってすごく面白かったじゃない。」
二実が晴南に言った。
「晴南ちゃん、そう言ってくれると助かるわ。」
晴南が麻衣子に言った。
「楽しければ全て良しって言うでしょ?」
麻衣子が晴南に言った。
「それを言うなら終わり良ければ全て良しでしょ?」
すると突然機械音が響いた。
ピロロロロー!!
さらに陽気な音楽が流れ始めた。
その場は色んな機械音や様々な音楽が流れ始めた。
みんなのスマホの着信音が一斉に流れたのだった。
二実のスマホも着信音として設定している音楽が流れていた。
すぐに二実は自分のスマホを取り出した。
「誰からだろ?」
二実がそのままスマホを操作して電話に出た。
「はい、もしもし二実です??」
すると二実のスマホから男の大声が聞こえてきた。
「二実!!二実か??!!二実なんだな!!」
二実がその男にスマホを通して言った。
「おっ、お父さん??どうしたの?」
二実の父の声がスマホから流れた。
「ああ!本当に良かった!!!」
二実の父が二実に尋ねた。
「二実は今までどこにいたんだ?」
二実が父に言った。
「えっ?九木礼の封木神社だけど?」
二実の父が二実に言った。
「そうか、そっちにいてくれたんだな。良かった!本当に!!」
二実が困惑した様子で父に言った。
「ちょっとお父さん?」
二実の父が二実に言った。
「ああ良かった!!電話も全然繋がらないし、メールも来ないから心配したんだぞ!!!」
二実が父に尋ねた。
「いやスマホの調子が悪かったの?それよりさっきからどうかしたの??」
だが二実の父は二実の問いかけには答えずに別の事を尋ねてきた。
「そうだ!三緒ちゃんや九木礼の後輩達とお泊まり会するって言ってただろう?三緒ちゃんやその子達は無事なのか?」
二実が少し困惑ぎみに父に尋ねた。
「えっ?なんでそんな事を聞くの?」
すると二実の父は強い口調で二実に言った。
「三緒ちゃんとその子達は無事なのかって聞いてるんだ!!!!」
二実が父に言った。
「うん、三緒も後輩の子達も無事だよ。」
二実の父が安堵した声で二実に言った。
「そうか、良かった!!」
今度は二実が強い口調で父に言った。
「ねえ、お父さん?本当にさっきから何なの??みんなでお泊まり会するってちゃんと言っといたよね?それなのになんで怒鳴られなきゃならないの?!!」
二実の父が二実に言った。
「ああすまん、二実達が心配だったんだ?」
二実が強い口調で父に言った。
「もう私、大学生なんだよ?私を信用してくてないの?」
二実の父が二実に言った。
「二実、声を荒げたのは悪かった。でもあんな事になってるんだ、父親なら心配するもんだろう?」
二実が父に尋ねた。
「あんな事って?」
二実の父が二実に言った。
「まさか知らないのか?テレビをつけてみろ!!」
二実はすぐにスマホのテレビを起動した。
そして音量を最大限にして画面を覗きこんだ。
テレビでは災害報道の特別番組が行われていた。
スマホから特別番組の音声が流れてきた。
「現在明井田市内にて大規模な火災が発生しております。午後6時現在、明井田市の全域に避難指示が出ております。この地区にお住まいの方は直ちに域外への避難をお願いします。避難される方は近く避難所ではなく域外への避難をお願いします。車での避難は緊急車両の通行を妨げます。極力徒歩での避難をお願い致します。繰り返します!!現在明井田市内において大規模な火災が発生しております。明井田市内の全域に避難指示が出ております。明井田市内にいらっしゃる方は直ちに域外への避難をお願いします。」
テレビ画面には市内から避難する人々や炎で崩れ落ちる建物など明井田市内の火災の悲惨な映像が流れていた。
テレビ画面を見ていた二実が言った。
「何これ?」
三緒が大きな声で言った。
「ねえ大変よ!!明井田の方角から大きな黒煙があってる!!」
みんなが三緒が指さした明井田市のある方角を確認した。
明井田市のある方角からは大きな黒煙が上がっていた。
するとすぐに晃太がスマホでグールルのニュースサイトを確認した。
「明井田市内で大規模な火災が起こってるようです。明井田市の全域に避難指示が出てます。」
二実が慌てて二実の父に尋ねた。
「お、お父さんは無事なの??」
二実の父が二実に言った。
「ああ俺もみんなも無事だ。今隣町の子戸倉(ことくら)までみんなで避難してる。とにかく今は明井多には戻ってくるな!!そこにいるんだ!!九木礼にいた方が安全だ。いいな二実?」
二実が父に言った。
「うん、分かった。」
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