第136話 頭も良いし真面目だし眼鏡だし

「エリザベス! どうかワタシに学園を案内してくだサイ!」

「断る。何で私が」

「アナタのその鈴の鳴るような声で教えてくださったら、すぐに覚えられる気がしマス」


 こんなに低い音の鈴があってたまるか。

 目の前の男のせいで、私の声はテンションと共に絶賛地を這っている。神社の賽銭箱の上の鈴だってもうちょっと軽やかな音が鳴るだろう。


「そういうのは、……生徒会の人間にでも頼むといい。な、アイザック!」

「は?」


 虚を突かれた表情でこちらを振り向いたアイザックの肩を抱き、ヨウに紹介する。


「彼はアイザック。生徒会に所属していて、頭も良いし真面目だし眼鏡だし、私よりよっぽどいい案内役になるよ」

「おい」


 じろりとこちらを睨むアイザックに、頼むよとウインクを飛ばす。

 文句を言おうと口を開きかけていた彼が、ぐっと口をつぐんだ。


「ノー! ワタシはアナタに……」

「……いいだろう」


 アイザックがヨウを手で制し、私と彼の間に割って入った。


 ゲームをやっているときから疑問だったのだが、見た目はアジア系なのに片言が英語交じりなのは何故なのだろう。

 ライターの片言キャラのイメージによるものだろうか。

 アジアっぽく「なんとかアル!」みたいな感じでも良かったんじゃないかと思うのだが……いや、そうすると真面目なシーンが締まらないような気はするが。


「案内してやる。二度と質問する気が起きなくなるくらい、微に入り細を穿ち」


 さすがアイザック。頼りになる。持つべきものは親友……いや、大親友だな!

 肩を叩いて、小声で彼に耳打ちする。


「サンキュー、アイザック! 愛してるよ!」

「……僕もだ」

「はは。君、たまにノッてくるからびっくりするな」


 笑う私を横目にちらりと見て、彼はやれやれとため息をついていた。

 基本は馬鹿真面目なのだが、意外と軽口も叩くし貴族らしい言い回しをしたりもする。

 それが驚くほど真面目な顔で言うわ、そもそも冗談が似合わないわで、妙にシュールで毎回笑ってしまう。卑怯だ。


「二人は、仲が良いのデスね?」

「ああ、うん。親友だからね」

「親友?」


 首を傾げるヨウの言葉に頷いて見せる。視線を向ければ、アイザックも頷いた。


「……そうだ。だから、困っていたら手を貸す。あまり僕の手を煩わせないでもらおう」

「親友なら、恋路に口出しすべきではありまセン」


 何が恋路だ。一度辞書を引いてから出直してもらいたい。その路は行きどまりだ。


「親友だから口出しもする」


 アイザックが当然と言った様子で、胸を張ってヨウに告げる。


「親友は、恋愛相談にだって乗るものだろう」


 乗ったこともないくせに大きな口を叩くアイザックだった。

 気持ちはありがたいのだが、仮に相談事があったとして、たぶん恋愛関連だったら私は彼に相談しない気がする。

 女性嫌いで奥手の彼に、まともなアドバイスが出来るとは思えなかった。


「バートン、親友として忠告する。こいつはやめておけ。初対面でベタベタと……ロクな男じゃないぞ」

「私だって彼とどうこうなる気はない」

「聞いただろう。相手が嫌がっているのに付き纏うのではストーカーだ。ますます見過ごせない」


 ヨウはしばらく未練がましくこちらを見ていたが、アイザックが退く様子がないのを悟って肩を落とした。

 やれやれ、助かった。


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