妃家の首飾り 〜真実は眠らない〜 (The pendants of Queen’s family)

森山美央

妃家の首飾り プレシーズン 少女少年編

第1話 ミレーネ姫の誕生日 #1


プレシーズン 第1話 ミレーネ姫の誕生日 #1


[1]ー〈緑の国 情景〉


〈青い空を背景に森があり、その中に城壁が見え隠れする城。城壁のある森を抜け、石造りの橋から、城下町へと続く道。遥か遠くに山並み。〉



[2]ー緑の国の城下町 民政みんせい大臣の家 ポリーの部屋 朝


〈悪い寝相で寝ているポリー。兄ジュリアスが入ってきて覗き込む。〉


ジュリアス「ポリー、起きて」


ポリー「ううん。〈嫌々と毛布をかぶる〉」


ジュリアス「〈毛布をはぎながら〉お早う。今日が何の日か、まさか忘れる訳ないよな。ミレーネ姫のお祝いにお城に行くのを、ずっと楽しみにしていただろう?」


ポリー「……お城?そうだっ!〈慌てて飛び起き〉支度しなくっちゃ」


〈ジュリアスが笑いながら窓のカーテンを開ける。さあっと部屋に陽が射し、窓の向こうに森の中の城が見える。〉



[3]ー緑の国 エトランディ王の城 ミレーネ姫の部屋 朝


〈ミレーネ姫、ベッドで寝ている。その寝顔。〉


女官タティアナ「姫様、姫様」


〈姫、ぱちっと目を開ける。〉


女官タティアナ「十四歳のお誕生日おめでとうございます」


〈鏡の前で着替えさせられている姫。着替えを手伝う女官達。プレゼントの山を抱えて入ってくる召使達。口々に姫に「おめでとうございます」とお祝いを述べる。どことなく慌しい様子。〉


女官タティアナ「今日のドレスは王様からの贈り物でございますよ」


〈そこへまた、プレゼントの山がやってくる。〉


従者ボリス「〈プレゼントを抱えながら〉姫様、おめでとうございます」



[4]ー城下町 民政大臣の家 食卓


〈新聞を読んでいる父・民政大臣。末娘アンをあやす母・ナタリー。そこへ階段を下りて入ってくるジュリアスとポリー。〉


二人「お早うございます。アン、お早う」


アン「〈たどたどしく〉おあよー」


民政大臣「早かったな。祝賀会は夜だぞ」


ナタリー 「もう少しゆっくり寝ていても良かったのに」


ポリー「〈食べ始めながら〉だって、ジュリアスが無理矢理起こすから」


ジュリアス「ポリーはいつもお城に上がる時、支度に時間がかかって、またギリギリになったら、困るだろ?」


ナタリー「そうね。ミレーネ姫に憧れて、めいっぱい、おめかしするものね」


ジュリアス「見かけだけ真似しても、中身が姫と大違いのお転婆じゃ――。〈拳を上げるポリーの手をパッと受け止めて〉ほら、ほらー!」


民政大臣「こら、こら、お前達」


〈二人、一瞬おとなしくなる。〉


ポリー「ねえ、父様は今日も先に行って仕事なの?私達と一緒に行けないの?」


民政大臣「ああ、一足先に行っているよ。皆はゆっくり来なさい。〈側にいる女中ステラに向かって〉留守の間、アンのことは頼むよ」


女中ステラ「旦那様、かしこまりました」


ポリー「母様、ロザリーおば様に久しぶりに会えて嬉しい?」


ジュリアス「ロザリーおば様じゃなくて、お妃様だろ?」


ナタリー「ポリー、お城では特に気を付けて頂戴」


ポリー「はーい」


アン「〈笑いながら一緒に手を上げて〉あーい」



[5]ー城の廊下


〈歩いて行く姫。女官タティアナが付き添う。城の関係者たちは、会うごとに全て立ち止まり、「姫様、十四歳のお誕生日おめでとうございます」と言う。その度に軽く会釈しながら、笑顔を振りまき歩いてゆく姫。〉



[6]ー城 孔雀の間


〈重々しく扉が開き、豪華絢爛な室内が見え、奥の王座に、王と妃が座っている。タティアナは、扉を入ったところで立ち止まり、控えて待つ。〉


王様「おお、姫」


ミレーネ「お父様、お母様」


王様「誕生日おめでとう」


ミレーネ「有難うございます」


〈ひざまずき挨拶する。〉


お妃様「ミレーネ姫、おめでとう」


〈手をのばし、姫を招く妃。姫は妃の傍に行き、抱き寄せられる。〉


ミレーネ「お母様、有難うございます」


お妃様「〈王様に顔を向けて〉このドレス、ミレーネにとてもよく似合っていますわ」


〈満足そうに頷く王。妃は自分が身につけていた首飾りを首からはずす。首飾りには精巧で緻密な細工で模様が施された石のヘッドが付いている。妃は姫の首に、その首飾りをかける。〉


お妃様「これは私の生家代々、持ち主を災いから守ってくれると伝えられている首飾り。私も母から受け継いだものです。これからは肌身離さぬように」


ミレーネ「タティアナからも聞きました。王子ミリアムが生まれた時も、体の弱いお母様がご無事だったのは、この首飾りのお陰だったと。そんな大切なものを頂いてしまっては――」


お妃様「いいのですよ。十四歳になった姫は、これから色々な経験をして、大人になっていくのです。いずれは、この緑の国を離れ、外の世界に身を置くことになるでしょう。そうなれば、いつ何時、危険にさらされるかも知れません。その時のためにも……ね、ミレーネ姫」


〈二人、再び抱き合う。〉


ミレーネ「お父様、お母様、私はミリアムが成人するまで、お母様と共に、お父様を支え、この緑の国と、この国のたみの幸せを守ってゆくつもりです」




[7]ー城 門の外


〈町の女達が集まっている。そこへ、城内へ引率する、まとめ係の侍女が来る。〉


侍女「お早うございます。今日は、ご苦労様です」


町の女 その1「本日はおめでとうございます。今日の手伝いに来た者です。城下町北部山寄りから六名」


侍女「〈皆に〉いつも有難うございます。何かある度に、お手伝いに来て下さって感謝しております。では、こちらに」


〈ぞろぞろと門から城へ入っていく。町の女達に混じって、一番後ろは、かなり若く、髪の長い女の子。可愛いというより、大人びた綺麗な顔立ちをしている。〉



[8]ー緑の国 城下町


〈祝賀ムードたっぷりの城下町の様子。《ミレーネ姫14歳のお誕生日おめでとうございます》の横断幕。緑の国を象徴する、王家の紋章がついた、緑色の旗や風船。道で陽気に歌ったり、飲んだりする人々。その中、ポリー達一行を乗せた馬車が行く。馬車の窓から賑わう街の様子を見るポリー。〉



[9]ー城内 祝宴 夜


〈着飾った多勢の客人。たくさんの食べ物や飲み物がテーブルに用意されている。あちらこちらにいる給仕する人達。楽団が楽しい曲を演奏している。王様、お妃様と並び、ミレーネ姫が座っている。〉


客人 その1 「姫様、おめでとうございます」


ミレーネ「有難うございます」

 

〈ミレーネが受け取ったプレゼントを、次々に奥へ運ぶ従者。そこへ、民政大臣が、妻ナタリー、息子ジュリアス、娘ポリーと共に現れる。〉


四人「「「「姫様、十四歳のお誕生日おめでとうございます」」」」


〈いつもにもまして可愛く着飾っている姫に、一瞬、見とれるジュリアス。ポリーも感嘆の表情で姫の姿を見つめる。〉


王様「おお、民政大臣、皆で揃って来てくれたか。二人とも大きくなったのう」


ジュリアス「〈はっと我に帰り、お辞儀をして〉十七歳になりました」


ポリー「私は十二歳です」


〈膝を曲げてお辞儀をするポリー。その二人に向かって微笑むミレーネ姫。〉


お妃様「二人とも少し見ない間に成長しましたね。〈ナタリーの方を見て〉ナタリー姉様、お変わりなくて?」


ナタリー「お陰様で有難うございます。お妃様のことは主人からいつも聞いております。王様、お妃様、お姫様。皆様、お変わりないご様子で何よりです」


王様「民政大臣には、このところ増えているたみからの陳情を一手に任せ、次々と対処してもらっている。頼りにしておるぞ」


民政大臣「もったいないお言葉、有り難く存じます」


〈隣で父を誇らしげに見るポリー。〉



[10]ー祝宴会場 再び


〈楽団が演奏を続けている。民政大臣、家族を連れてテーブルの方へ移動する。そこへ文法ぶんぽう大臣がやって来る。〉


民政大臣「ああ、文法大臣」


文法大臣「奥様達もいらしていたのですね」


ナタリー「いつも主人がお世話になっております」


ジュリアスとポリー「こんばんは」


文法大臣「こちらが秀才で有名な息子さんですか?」


民政大臣「なに、ただ学問好きなだけですよ」


〈そこへ外事がいじ大臣が来る。息子のアリと、近衛3人を連れている。〉


外事大臣「おや、皆さん、お揃いで。ナタリー殿、いや、お妃の姉君あねぎみとお呼びした方が宜しいかな?」


ナタリー「〈当惑気味に〉お久しぶりです、外事大臣」


外事大臣「〈ジュリアスとポリーに目を向けながら〉なるほど、お二人も従兄妹いとことしてお祝いに参加ですか。確か……息子さんはアリと以前、学友でしたな」


ジュリアスとポリー「こんばんは」


〈アリは頭を下げて会釈だけする。〉


民政大臣「お城を訪れる良い機会なので、今日は家族でやって参りました」


外事大臣「御三人は、お妃様直系のご親戚なのですから、もっと頻繁に城に上がられれば良いものを。民政大臣があまり望まれぬのか、めったにお見かけしませんな」


文法大臣「外事大臣、推測であまり物を申されては――」


外事大臣「これは失礼。せっかくの良き日、どうぞごゆっくりと。我々は警備の見回り中なもので」


〈頭を下げ去っていく外事大臣。〉


文法大臣「外事大臣は何につけても、はっきりと物を言い過ぎる気性で困りますな。奥ゆかしく、包み隠すようなやり方を知らぬ」


民政大臣「外の国と対峙たいじするには、あの強さゆえ効果が出るのでしょう。さすが外事大臣ですよ」


文法大臣「〈別のテーブルに知り合いを見つけ〉おお、向こうに、城下町経済団の新団長が。私と同郷でね。民政大臣、紹介しますよ」


〈民政大臣と文法大臣は違うテーブルに移る。〉


ポリー「なんか、さっきの外事大臣のおじさん、感じ悪い〜。ねえ、母様?」


〈ジュリアスがしーっとポリーをつつき、母親の顔を見る。なぜか、考え事をして、ぼおっとしているナタリー。〉


ジュリアス「母様?」


ナタリー「〈はっとして〉あっ、ええ……。ジュリアス、外事大臣の息子さんは、今、お城に上がっているの?」


ジュリアス「武官の見習いになったって聞いたけれど。同級でも仲が良かった訳じゃないから詳しくは知らないんだ」



[11]ー祝宴会場 王、妃、姫の席


〈楽団が演奏するワルツに合わせて、踊る美しい男女達。それを見ている王様、お妃様、ミレーネ姫。王様は手にグラスを持っている。〉


ミレーネ「〈隣の妃に小声で〉お母様、何だかとっても息苦しいわ」


〈ミレーネ姫の後ろに控える女官タティアナが、その声を聞き、急いで扇子で姫をあおぐ。〉


お妃様「私も先程から軽い目眩を感じているの。ここの熱気がすごいようですわね。バルコニーで、少し外の風に当たりましょう。〈王様に〉王様、姫とテーブルを回って参ります」


〈頷く王。妃、姫と一緒に客に挨拶しながら、バルコニーへ向かう。後ろに女官タティアナと従者ボリスを従えている。〉



[12]ー薄暗いバルコニー


〈バルコニーには所々に燭台があり、蝋燭が灯されている。バルコニーの椅子に腰掛ける二人。〉


ミレーネ「はあ。〈声に出してため息をつく〉」


お妃様「姫。〈優しく睨む〉」


〈笑顔を返す姫。城下町にたくさんの提灯ちょうちんや灯りが燈され、闇の中、街が輝いて見える。ミレーネ姫は思わず立ち上がり、バルコニーの手摺りに近寄る。〉


ミレーネ「見て、お母様、あの明かりを!」


お妃様「皆が貴女のことを祝ってくれているのですよ。こうして王家を民が慕ってくれているのは、暮らしが落ち着いている有り難い証。私達の、この緑の国は自然と気候に恵まれ、比較的豊かな生活が送れていますからね。でも、少し離れた青の国、白の国、灰の国では全く事情が異なっていることを知っておかなくてはいけませんよ」


ミレーネ「はい、お母様」


〈その二人の顔にいきなり花火の光が眩しく映える。急いで、手すりから乗り出して見るミレーネ姫。城下町の方角で次々花火が打ち上げられる。〉


ミレーネ「わあ!!」



[13]ー城下町


〈花火を見上げる人々。大人も子どもも口々に「姫様、万歳!姫様、万歳!」と言う。その声がこだまのように街中に広がっていく。〉



[14]ー城のバルコニー


〈民の歓声が姫の耳にも届く。妃も横へ来て、笑顔で頷く。天からの祝福を受けるかのように、花火の打ち上がる夜空に両手を大きく広げるミレーネ姫。〉



[15]ー城 祝宴会場


〈ずっと食べまくっているポリー。〉


ジュリアス「〈小声で〉食べ過ぎるなよ。恥ずかしいぞ」


ポリー「だって、どれもこれも本当に美味しい〜〜」



[16]ー城 バルコニー


〈妃と姫から離れ、少し後ろに立っているタティアナ。そこへ女官アイラが来る。〉


女官アイラ「お妃様とお姫様に、王様から冷たいお飲み物でございます」


〈女官タティアナがアイラから受け取り、妃と姫に近付く。〉


女官タティアナ「冷たいお飲み物はいかがですか」


お妃様「有難う、頂くわ」


ミレーネ「有難う、タティアナ」


〈妃と姫は渡されたグラスに入った飲み物を飲む。その途端、急に苦しみ、倒れる妃と姫。手にしていたグラスが落ち、割れる。〉


女官タティアナ「お妃様!姫様!」


〈従者ボリスが駆け寄る。悲鳴を上げる女官アイラ。〉



#2へ続く

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