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「ねぇ、ティッシュない?」

「ごめん、今持ってないや」

休み時間、お手洗いに行き、鏡の前で髪を整えていた私は、同じ空間から発せられた声を思わず拾ってしまった。

私のポケットにはティッシュがある。それを1枚、差し出してもよかった。

しかし同学年とはいえ、話したこともない、ましてや同じクラスになったこともない彼女達にそれをすることはできず、何も聞かなかったふりをしてそのまま立ち去ってしまった。

彼女達の声が頭の中でこだまする。

別に義理があるわけでも、見返りを求めたかったわけでもない。

ただ、彼女達が欲していたものを自分は持っていた。

だから、助けてあげたかった。

なんでもないことのはずなのに、それができなかった。

彼女達からすれば、私はただの通行人A。

そしてその通行人は行動を起こすことができなくて、酷く落ち込み、悔やんだ。

もしも、次があるならば。

もしも、次があったならば。

私は、今日とは違う行動ができるだろうか。

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