第158話 親子風呂
屋敷の当主が親子そろって泥だらけになって戻ってきたので、使用人たちは茫然と呆れ返っていた。風呂に入ると告げ、僕と嫁さんと牡丹は、浴室に向かった。
これから親子3人で一緒に風呂に入るのだ。
さて、ここで、我が家の風呂事情について、補足説明をさせていただきたい。
そもそもこの世界では、ありがたいことに人々が入浴する習慣があった。この点、地球上の中世時代の西洋文化とは異なっており、大変に助かった。僕たち夫婦が最初に訪れた村、ガヤ村では、温泉が湧き出ていたため、各家庭に温泉風呂があったほどである。
ここ、商業都市ベナレスでは、温泉が無いため、各家庭にまで風呂は無く、街の公衆浴場に通うのが一般的であった。僕たちも今の大豪邸に移り住むまでは、よく訪れたものだ。
そして、この時計台のある邸宅には、見事な大浴場が用意されていた。
まだ水道設備の存在しないこの世界では、風呂の水は全て井戸からの水汲みで補充されるのだが、僕の開発した水道宝珠と暖房宝珠を使えば、肉体労働をすることなく、簡単に入浴することができる。嫁さんは大変に喜んだものである。
ところが、一つだけ問題が発生した。通常、大浴場に入れるのは家の当主と家族のみで、使用人たちはもう一つの小さな浴室に入るのが一般的らしいのだ。
「そんなの不公平じゃん!」
と怒ったのは嫁さんである。
僕も激しく同意し、屋敷の人間は全て大浴場に入れるようにした。
ただし、男女混浴にするわけにもいかないので、大浴場ともう一つの浴室を、時間交代制で男湯、女湯に分けることに決めた。
最初の頃は、むしろ使用人たちが恐縮してしまい、皆、こぞって小さい方の浴室に入った。そこで、嫁さんは率先して侍女たちを誘い、一緒に大浴場に入る習慣を作った。
当主の夫人と一緒に入浴するという、前代未聞の行いに戸惑った侍女たちだったが、それが我が家の考え方なのだということを少しずつ受け入れ、今では屋敷全体が家族ぐるみの付き合いという間柄になっているのである。
ちなみに僕はというと、あまり広い風呂は落ち着かないため、当主自ら小さい浴室を好むという本末転倒な生活を送っている。
そして、今は昼間のため、大浴場は使用人が清掃中であった。
「だったら、ちょうどいい。百合ちゃん、小さい方に入ろうよ。その方が親子っぽくない?」
「そだね!じゃ、今は小さい方は女湯の時間だけど、私たちで貸し切りってことにしておくから。カメリアちゃんたちに言っておくね」
「うん。まぁ、昼間から入る子はいないだろうけどね」
僕たちは小さい浴室の脱衣所に入った。
小さい、とは言っても一度に10人は入ることのできる浴室である。
牡丹のお陰で泥まみれになってしまった服を脱ぎつつ、我が娘の服を脱がせた。思えば、牡丹と僕は初めて一緒に風呂に入るのだ。
裸になった牡丹は、またテンションが高くなり、ニコニコして走り出した。
彼女の体をしっかり診てみたが、かつて保護者から虐待を受けていたらしき傷跡は全く見当たらない。1年以上経って全て癒えることができたのか、あるいは魔王としての肉体が、そんな傷跡を物ともしなかったということなのだろう。この点を僕は少し気に病んでのだが、ようやく安心することができた。
僕の後ろでは嫁さんも服を脱ぎはじめた。あえて僕の隣に来なかったのは、彼女なりに照れているのだろうか。この世界に来て、お互いに若返ってから、同時に裸になるのは初めてのことだ。
僕は内心ドキドキしていた。
しっかりしろ。35歳。5年以上連れ添った嫁さんの裸だぞ。彼女のことならスミからスミまで知っている。何を今さら緊張することがあるんだ。
と、自分を励ますが、心臓の鼓動が早鐘を打つように高鳴る。
もう1年近くも嫁さんとの夜の関係がご無沙汰になっているところに、相手は17歳の麗しい体つきになっているのだ。もともと大好きだった美人の嫁さんが、出会った頃よりも若返っているというのは、本当に反則だ。
普段でも自室で着替えをする嫁さんの後ろ姿を見ると、細くなった腰のクビレとヒップラインに自然と目が行ってしまう自分がいる。そのたびに”男女の交わりを行えば勇者の力は失われる”という異世界召喚のルールを呪ったものだ。
嫁さんは嫁さんで、僕が着替えている時には、いつもこちらをジロジロ見てくる。僕のようにこっそり見るのではなく、堂々とガン見してくるのだ。
そんな僕たち夫婦が、互いに裸体を見せ合ったら、正気を保てるのだろうか。
ハッキリ言って、自信が無い。
ところが、不安になりつつ僕が下着まで脱ぎ終えると、真っ先に反応したのは、牡丹だった。
「…………っ!!!」
今まで元気に走り回っていた牡丹が、僕の股間を目にした瞬間、時が止まったようになり、釘付けになった。笑顔がすっかり消え去って真顔になっている。
「どうした牡丹?……もしかして、初めて見たのか?」
僕の問いかけにも答えず、牡丹は硬直したままだった。見てはいけない物を見たような、それでいて、不気味なのに目が離せない。そんな顔をしている。
これでまた一つ、新しい事実が判明した。
牡丹には父親がいなかった可能性が極めて高い。
少なくとも大人の男の裸を見たことがないのだ。
「ママ……ママ……」
牡丹は真顔のまま嫁さんの方に近寄って、小声で囁き、その太ももをトントンと叩いた。しかも、僕の股間からは一切、目を離していない。その様子は、幼い女の子が何か不思議で不可解な物を見てしまい、母親に相談する時の仕草そのものだ。
「ん?どうしたの、牡丹?」
下着を脱いだ嫁さんが、牡丹の視線の先を追った。
自然と、彼女は僕の股間に目を止めた。
その瞬間、ニタァっと笑う嫁さん。
「あらあらぁーー、牡丹ってば、どうしたの?アレ、初めて見るの?なんだろねぇーー?パパのアソコ、変なの付いてるねぇーー?」
「………………」
牡丹は相変わらず怪訝そうな目つきで僕の股間を凝視している。僕は、久しぶりに嫁さんの裸を見たことも忘れ、おかしくなってしまった。
ちなみに牡丹が実の娘であった場合、「コレが無ければ、お前は生まれてこなかったんだぞ」というネタが使えるのだが、残念ながらそれは事実ではない。
だが、ここでふと哲学的なことが思い浮かぶ。
男というものは、自分の子どもを自分で産むわけではなく、痛みも苦しみも一切経験することがない。出産に立ち会った、という事実が無い限りは、自分の愛する女性が「あなたの子どもだよ」と言ってきた子が、自分の子どもとなるのだ。少なくとも遺伝学などが存在しなかった古来においては、それが男にとっての実子の認知だったに違いない。
ということは、ウチの嫁さんが「私と蓮くんの子どもだよ」と言って連れてきた牡丹は、血の繋がりに関係なく、僕の実の子どもなのではないか。
そんなことを感慨深く思慮していると、素っ裸の嫁さんがニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んできた。
「どしたのぉーー?蓮くん?もしかして、私の裸を見て興奮した?」
「いや、そうじゃなくて……むしろ逆に牡丹がいてくれると、百合ちゃんの印象も変わるんだなーーと思ってた」
僕が微笑してそう言うと、嫁さんも同じ表情になって牡丹を抱き上げた。
「ほんとだね。この子がいるだけで、私も蓮くんの体を見ても何とも感じない」
「きっとこれが、父親と母親ってヤツなんだろうな」
「そだね」
不思議なものである。あれほど自分の理性に自信が持てないと思っていた嫁さんとの入浴は、牡丹がいるだけで全く違う風景に変わった。
グラビアアイドル並にスタイルが良くなっている嫁さんだが、その蠱惑的なヌードは、娘といるだけで神聖なオーラを帯びたように感じられる。それは、まるで生きた芸術品だった。
嫁さんも同じ想いのようで、二人は穏やかな気持ちで浴室に入り、一緒に牡丹の体を洗うことができた。
ただ一つ、嫁さんからツッコまれた事柄はあったが。
「あれ、蓮くんって、お風呂でもソレ着けてるの?」
宝珠システムの腕輪を風呂でも肌身離さず着ける習慣が僕にはあったのだ。念のための護身である。僕はカッコつけて言いきった。
「防水加工です」
「いや、そんなのでドヤ顔されても……」
とはいえ、宝珠システムを使うとシャワーなども自由自在に出すことができる。それで牡丹を洗ってあげると、さらに大喜びになって夢中ではしゃぎまわっていた。
以前なら嫁さんと互いに背中を流しあったりして、イチャイチャしているはずだが、牡丹の体を共同作業で洗うという、完全に子ども中心のスタイルになった。
やがて3人で湯船に浸かる頃には、遊び疲れたのか、牡丹は寝入ってしまった。嫁さんの膝の上に座ったまま湯船で寝ている牡丹を見て、僕は驚愕した。
「ウソだろ……子どもって風呂で寝ちゃうのか?」
「赤ちゃんが寝ちゃうのは聞いたことあるけどね……たぶん私たちと一緒だから安心してるんだよ」
「そっかぁ……」
「…………」
僕の視線が牡丹の顔から嫁さんの顔に移る。
すると、同じく顔を上げた彼女と目が合った。
改まって真っ裸の嫁さんと肩を寄せ合っている事実に気づき、少し顔が熱くなった。嫁さんも急に頬を赤く染めた。
「蓮くん……牡丹が寝ちゃうと、ちょっとヤバいかも……」
「う、うん。僕もヤバいかも……」
「どうしよ。私、なんだかムラムラしてきちゃった……」
「や、やめてくれ。そんなこと言われたら僕もスイッチが入っちゃうだろ」
「それはそれで私は嬉しいけどなぁーー」
「ダメだよ。牡丹を育てるためには、君の勇者の力は必要不可欠じゃないか」
「言われなくても、わかってるよーー」
「とにかく僕は先に上がるよ。これ以上は理性が持たない」
「しょうがないなぁーー。牡丹は私が見てるから」
「ありがと」
嫁さんの言葉に甘え、僕は一人で浴室から出ることにした。このまま二人きりでいたら、取り返しのつかないことになりそうだった。
ところが、脱衣所に出る扉を開けるのと同時に嫁さんがハッとして大声を出した。
「あっ!!待って、蓮くん!」
「え?」
聞いた時には遅かった。
既に僕は扉を開けきっていた。
そして、嫁さんに振り返ると同時に、僕の視界は扉の向こうに人影があったことを捉えた。
身の危険や様々なことを考え、咄嗟にその人物を見る。
なんと、そこには服を全て脱いで、浴室に入るつもりだったシャクヤがいた。
「「…………!!!」」
完全なる不意打ちで裸のまま見つめ合ってしまう僕とシャクヤ。
全身から血の気が引くような恥ずかしさと、相手の裸体を見てしまったことへの熱い興奮と罪悪感とが激しく交差する。
実は、シャクヤはこの日、久しぶりに早朝からウィロウたちの素材採取に護衛として参加していたのだが、近場の狩場が選ばれたため、思いの外、仕事が早く終わったのだ。そして、一足先に汗を流そうと浴室に来たのであった。
嫁さんから侍女長のカメリアに、親子3人で貸し切りだと伝えてもらったはずだが、シャクヤはいつもの天然ぶりを発揮し、嫁さんと牡丹だけだと勘違いしてしまった。
しかも間の悪いことに、この時のシャクヤはとても機嫌がよく、珍しくもイタズラ心を起こし、急に浴室に入って嫁さんと牡丹を驚かせようと考えた。ゆえに彼女なりに気配を消して、こっそり服を脱いでいたのだ。
僕と入浴中でテンションが高くなり、牡丹がのぼせないように気を使っていた嫁さんは、その接近に感づくのが遅れてしまった。そのため、お得意の『ラブコメ殺し』を発揮することができず、僕とシャクヤは鉢合わせることになったのだ。
「ご、ごめん、シャクヤ!!」
動揺した僕が慌てて後ろを向こうと思った矢先、シャクヤの方が予想外の動きをした。
彼女は最初、僕と目が合った時には、顔から湯気が出そうなほど真っ赤になったが、僕の股間に視線を落としてからは凍りついたように固まっていた。そして、次の瞬間には顔面が沸騰するような様子で仰向けに倒れてしまったのだ。
「えっ!シャクヤ!!!」
頭から落下しては大怪我してしまうので、僕は咄嗟に彼女を抱き止めた。色白で上品なシャクヤの素肌が眼前に晒される結果となった。
未成熟ながらも、胸から腰、太ももにかけてのラインは、女性的な曲線美を描いていて、嫁さんとはまた違った意味で艶めかしい。普段は露出の少ない服装をしているだけに、そのギャップも激しかった。
彼女のほっそりした初々しい肢体を裸で抱きかかえ、肌と肌が触れあうと、僕の体もつい火照ってしまう。
そこに嫁さんがすぐに駆けつけてくれた。
「だ!大丈夫!?シャクヤちゃん!!もう、蓮くんの裸を見ただけで気を失っちゃうって、どんだけ純情なの!!」
「ゆ……百合ちゃん、あと、お願いできるかな?」
「うん!蓮くんは牡丹のこと、よろしく!」
「あ、あぁ……」
シャクヤを床に寝かせ、タオルを掛けてあげ、寝ている牡丹を受け取ろうとする。
ところが、その瞬間、なぜか嫁さんが硬直し、死んだような目つきになった。最近、見る機会の少なかった嫉妬の眼差しである。
「蓮くん……何それ……」
「え……?」
僕は疑問に思いながら嫁さんの視線の先を追った。
それは僕の真下に位置している。
そこにあるのは、僕の股間に生えている例のモノだった。
なんと、僕自身は座っているのだが、自分でも気がつかないうちにソコだけは立ち上がっていたのだ。見事に元気に。しかも立派に。
「い、いや!違うんだ!!これはその……」
思わず顔を熱くして必死に否定するが、言い訳が何も思いつかなかった。
これは生理現象であって、コントロール可能なものではない。男性であれば、僕の気持ちは必ずわかっていただけよう。
シャクヤは、人々から自然のうちに”姫賢者”と称されてしまうほどの絶世の美少女なのだ。そんな彼女の一糸纏わぬ姿を眼前にしてしまったら、どんな男だって反応するに違いない。これは僕の意志ではなく、男という生き物のサガなのだ。
しかし、それをわかってもらえない嫁さんからは憤激されてしまった。
「ひどい!ひどすぎる!!!私の体を見ても、なんにも反応しなかったくせに!!」
待て待て待て。
だいたい、娘が見てる前で、そんな反応を見せられるわけないだろうが。
牡丹のお陰でそういう気分にならなかったのだ。
本当に本当に、嫁さんとシャクヤのどちらが魅力的か、という話ではないのだ。
「百合ちゃん……ほんとに誤解だよ……そういうことじゃないから……」
「バカ!!!蓮くんのバカ!!!バカバカバカ!!!!」
あろうことか、嫁さんは涙目になって僕を罵倒した。
さすがに僕も呆れながら反論してしまう。
「なっ、なにも泣くことないだろうが!」
「泣いてないよぉっ!!」
明らかに強がりだ。大人げないにもほどがある。
「今は喧嘩してる時じゃないでしょ。シャクヤを安静にしてあげようよ……」
「うーーっ、わかったよぉ!」
「……って、あれ?百合ちゃん、牡丹は?」
「え!?」
僕に嫉妬するあまり、嫁さんともあろう者が、牡丹が騒ぎで目を覚まし、自分から離れてしまったことに気づいていなかった。よく見れば、寝かせたはずのシャクヤも見当たらない。
おそらくこの瞬間、僕と嫁さんは、同時に最悪の事態を想定した。
嫁さんは気配を追って、僕は推測を辿って、脱衣所の入り口に視線を向けた。時を同じくして、牡丹の声が聞こえた。
「シャクヤ、たすける!」
なんということだろうか。目を覚ました牡丹が、気絶しているシャクヤを心配し、心優しくも無重力で浮かせて部屋に運ぼうとしているのだ。
ただし、二人とも全裸のままで。
「「ぼっ、牡丹!!!」」
夫婦そろって絶叫してしまった。
牡丹とシャクヤは、既に廊下に出てしまっている。
僕の頭は、刹那のうちに、これが何点もの破滅的状況だということを理解した。
まず第一に、シャクヤを真っ裸のまま外に出すわけにはいかない。第二に、いくら4歳児とはいえ、当主の娘である牡丹が裸で屋敷を走り回るのも外聞が悪すぎる。そして第三に、それを追いかけようとするウチの嫁さんもまた、全裸なのだ。
だが、こういう時こそ、やはり嫁さんである。
ここで彼女は本気を出した。自分の気配を完全に消し、たとえ全裸であっても誰にも察知されることなく牡丹を追いかけた。
廊下の先には侍女がいたが、そこに牡丹が到着するまでの瞬時の間に牡丹を捕まえ、シャクヤを保護し、連れ戻ってきた。侍女は物音を聞いただけで何も気づかず、ただ不思議そうに廊下の奥を振り返った。
嫁さんが戻ってきたので、僕はこれ以上、素っ裸のシャクヤと一緒にいるわけにいかず、浴室に入りなおして避難した。
この騒動でシャクヤも意識を取り戻したようである。
「はっ!あ、あの、わたくし…………」
「よかったぁ……シャクヤちゃん、私も牡丹も心配したんだよ」
「も、申し訳ございません……わたくし……どうして気を失っていたのでございましょうか?」
「覚えてない?」
「え……あ、いえ、その……覚えてはいるのでございますが……」
「じゃあ、忘れましょ」
「え?」
「わ・す・れ・ま・しょ」
笑顔でシャクヤを見つめる嫁さんだったが、その目は全く笑っていない。死んだような目とドンヨリした口調で話しかけるそれは、もはや脅迫だった。可哀想にシャクヤは、脅えた様子でその要求を受け入れた。
「は……はひ」
扉の向こうでそれを聞く僕の胸は、申し訳なさでいっぱいになった。
あとで個人的にめいっぱい謝ろう。しばらくの間は、なんでも言うことを聞いてあげよう。本当にごめん。シャクヤ。
汗をかいてしまった嫁さんと牡丹は、この後、シャクヤを交えて再び入浴した。僕だけ先に上がることになったが、家族での食事をしたいので、彼女たちを待っていた。
やがて新しい服に牡丹を着替えさせた嫁さんが食堂に来た。牡丹は、髪型をツインテールにし、小さなセーラー服を着ていた。どう見てもコスプレである。
「な、なんて格好させてるんだよ、百合ちゃん……」
「えへへぇ、いいでしょ?娘ができたら、いろんな服着せてあげるのが夢だったんだぁ」
器用な嫁さんは、牡丹のためにオリジナルの服を何着も作っていた。着替えのたびに様々な姿に変わるのは、僕としても見ていて飽きないのだが、ついにコスプレにまで手を出されてしまった。
これ以上、エスカレートしたら、どんなことになってしまうのだろうか。考えると恐ろしい。
「頼むから、こんな格好で外には出さないでくれよ……」
「ええぇぇーー、そんなこと言ったって、かわいいんだもん。ね、牡丹?」
「うん!」
牡丹もまんざらでない様子だ。これは非常に危ない。
「うふふ、珍しいお姿でございますね。それにしましても、ボタン様は、何を着てもお似合いでございます。とてもかわいらしいですわ」
嫁さんの背後からシャクヤが来たので、僕は先程のことを謝罪しようとすぐに声を掛けた。ところが、彼女は僕の顔を見るなり、真っ赤になって、遠く離れてしまった。
完全に意識されているようだ。
気まずいにもほどがある。
ここからしばらくの間、シャクヤは僕とまともに口を聞いてくれなくなった。
結局のところ、嫁さんとの混浴は、牡丹が一緒であれば互いに理性を保てることがわかり、大きな収穫だったのだが、とんでもないハプニングを起こす結果となった。
よくあるラブコメ系の物語では、こういう場合、ヒロインから一発殴られただけで全て解消されてしまうが、現実ではそうはいかない。特にシャクヤは、そういうタイプの女の子ではない。いったいどのようにして関係を修復すればよいのか、全くわからず、新たな悩みの種となってしまった。
ともあれ、それ以外には大した事件もなく、平和な日々を過ごすうちに、牡丹が我が家に来てから7日が経過した。
その夜、一つの変化が現れた。
僕の宝珠システムからの警告音と嫁さんが気配を察知するのが、ほぼ同時だった。
「蓮くん、私が見てくるよ」
「いや、僕も一緒に行くよ」
僕と嫁さんは、隣の部屋に向かった。
ずっと昏睡状態だった女性、カエノフィディアだった人物が目覚めたのだ。
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