「ボンボンじゃないんだ」

「そうなのかい」

 噛み応えのある、肩ロースのチャーシュー。最近のバラチャーシューはやわらかいだけで旨味も深みもあったもんじゃない。

 タクヤはチャーシュー麵をすすっている。

「姐さんの受け売りだろう」

「違うよ、家の近くにあったんだ。ラーメンの美味い食堂」

「あったよね、昔は」

「娘さんはどうして大将のところに来たんだろうね」

「俺だって、わからねえよ」

「あたしはちゃんと結婚するんだって言いたかったのかな」

 タクヤはチャーシューを噛みながら考える。

「何かしっくりこないんだよね」

「奴は商売人なのかい」

「そうでもないんだよ」

 タクヤが良く見ると満帆のおやじも腑に落ちない顔をしている。

「ところで、大将って言うのは、間違いなく姐さんの受け売りだろう」

「受け売りっていうか、自分でもミーちゃんが言ってるの、聞いてるでしょう」

「あの人に言われるとすごくいいんだ」

「わかったよ。おやじさん」

 タクヤはもう一枚チャーシューを口に入れる。

「友だちはみんな会社作ったり、店を持ったりなんだけどね」

「起業家ってやつだ」

「そう。そいつだけが公務員なんだ。それも国公のキャリアとかじゃなくて」

「市役所なんだ」

「まあ、市役所っていっても川はさんだ向こうは東京だからね」

「家は東京なの」

「いいところに住んでる」

「おかしいね、それは」

 夢見は鋭い目でタクヤを見た。タクヤはソファーから立ち上がって、コーヒーメーカーの置いてある湯沸かしに向かう。

「加奈は」

「学生の本分は勉強です」

「あの子学生だったの」

 タクヤはコーヒーを二つ持ってきて一つを夢見の前に置いた。

「そうですよ。卒業したら警察官にでもしますか」

「出来たらね」

「それよりも、そいつの実家は金持ちではないんでしょう」

「いたって普通の公務員。土地持ちでもない」

「田舎は。茨城の海沿い」

「二馬力だから、多少は余裕はあるけど、子どもはあいつ一人じゃない」

「というか、かなり疎遠になりつつある」

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