第39話 天国から地獄へ

 家に帰り夕食を食べ、そのまま自分の部屋に戻りベッドにダイブする。

 ベッドでうつぶせになり、今日1日を改めて反芻した。



「今日の玲奈、可愛かったな」



 夕食を食べている時でも脳裏に浮かぶのは玲奈のこと。

 今日のショッピングモールでの出来事が頭から離れない。



「俺‥‥‥今日玲奈と遊びに行ったんだよな」



 あの天使のような玲奈と。学校では高嶺の花である玲奈と一緒に買い物に行った。

 買い物だけじゃない。一緒にカラオケに行って、ゲームセンターで遊んだ。



「これって、夢じゃないよな?」


「夢じゃないわよ。現実よ」


「ねっ、姉ちゃん!?」



 いつの間にか寝そべっている俺のことを姉ちゃんが見下ろしている。

 いつもの激ダサないもジャージに黒ぶちの眼鏡姿。いつも長い髪は頭の上でお団子上になっており、完全にオフモードだ。



「いつの間に俺の部屋に入ったんだ!? 部屋に入るならノックぐらいしてよ!?」


「ノックはしたわよ。それで反応がないから不思議に思って部屋に入ってみたら、だらしない格好でにやけながらベッドで寝そべってるあんたがいたのよ」



 姉ちゃんはひとしきり話し終えるとため息をつく。

 どうやら俺の恥ずかしい様子は全て姉ちゃんに見られていたみたいだ。



「あの恥ずかしい姿が見られていたなんて、もう俺、お嫁にいけない」


「お嫁じゃなくて、お婿でしょ。今はあんたの痴態話なんてどうでもいいのよ」


「どうでもいいの!?」



 弟の尊厳の話になるんだけど!? それをどうでもいいなんて。

 姉ちゃんのこれからの学校生活にかかわるかもしれないのに、姉ちゃんはそれでいいの!?



「それよりも春樹、今日玲奈と遊びに行ってどうだった?」


「どうだったって、普通に楽しかったけど」


「そう。それならいいわ」



 一体何が聞きたかったんだ、姉ちゃんは?

 急にスマホを取り出してポチポチ触ってるし、何がしたいんだろう。



「姉ちゃん、急に何してるの?」


「これ? これは最新のアイドルゲーム『アイドルイレブン~~Eプロジェクト 君の瞳にロックオン♡』ってゲームをしているのよ」


「なんじゃそりゃ!?」



 どう見たって半年でサービス終了しそうな名前じゃん!?

 普通に地雷臭しかしない。課金するだけ無駄な気がする。



「特にこのゲームの柊レオって子が可愛くてすごくキュンキュンするのよ!!」


「はいはい」


「見て見てこれ、この顔立ちとか髪形が近江君に似てるでしょ!!」


「まぁ、そうかもしれないな」



 現実のアイドルじゃ飽き足らず、ついに二次元にまで手を出したのか。この姉は。

 完全に企業の養分になってしまっている。まさにカモがネギしょってやって来たとはこのことだ。



「どう? あんたもやってみない?」


「俺は遠慮しておく」



 養分になるのは別にいい。ただそれは相手による。

 これが玲奈だったら俺は喜んで受け入れるけど、会社の養分なんかに俺はなりたくなかった。



「それで姉ちゃん、俺の部屋に何しに来たの?」


「今日の買い物の感想を聞きにきたのよ」


「感想?」


「そうよ。今日1日ショッピングモールで遊んでどうだった?」



 そんなの聞かなくてもわかるだろ。

 姉ちゃんは俺の玲奈に対する気持ちを知ってるんだから。



「そんなのわかりきってることじゃん」


「何?」


「めっちゃ楽しかった」



 姉ちゃんおじゃまむしがいるとはいえ、自分の好きな子と遊びに行けたんだ。

 これ以上うれしくて楽しくて喜びに満ち溢れた休日はない。



「あんたもそうなのね」


「だって玲奈とあんなに話したことなんて殆どないよ」



 それこそ遡ると小学生の時以来じゃないか?

 あの時は姉ちゃんも混ざって3人で話していたけど、それでも楽しかった。



「春樹」


「何?」


「あんたは玲奈のこと好き?」


「わけのわからないことを言うなよ。当たり前だろ」



 そんなの呼吸をするのと同じことだ。

 玲奈が俺にとっての1番であることに変わりはない。



「それならいいわ。一応私からあんたに1つアドバイスをしてあげる」


「アドバイス」


「もし本気で玲奈の事が好きなら、玲奈のNo1かつOnly1になりなさい」


「えっ!? No1だけじゃダメなの?」


「ダメよ。ちゃんとOnly1にもならないと」



 No1かつOnly1か。でも、No1とOnly1って意味が同じことなんじゃないかな?



「姉ちゃん、今言った言葉って同じことなんじゃない?」


「それはあんたの中でかみ砕いて見なさい」


「えぇ~~!?」



 何その謎々。もっと俺にわかるように教えてくれてもいいだろう。



「姉ちゃん!! せめてヒントぐらいくれよ!!」


「ヒントはもう充分渡したわよ。それよりもそろそろやるわよ」


「何を?」


「これよ!!」



 そう言って姉ちゃんが懐から出したものは、数学や英語の教科書。

 くしくもそれは俺が今愛用しているものと全く同じものだった。



「えぇぇぇぇぇぇ!?!?!? 今日も勉強するの!?!?」


「当たり前でしょ。テストも近いんだし、今日はあれだけ息抜きしたんだから。ほら、早く机に着きなさい」


「理不尽だ!!」



 逃げようとする俺を捕まえ、机に拘束する姉ちゃん。

 結局この日は楽しかった昼間とは一変して地獄のような夜になる。

 姉ちゃんとのマンツーマンとなる勉強地獄レッスンは深夜遅くまで行われるのだった。



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