第41話 お久しぶり

「面白いな……」


オメガを連れ去った召喚陣。

その脳裏に焼き付いた情報を解析し、内容を把握した所で呟いた。


想像以上に面白い状態だ。

今すぐ様子を覗き見たいところだが、残念ながら今の俺にはその術がない。

暫く放置しておくしかないだろう。


「あいつなら、そう簡単に死ぬ事は無いだろう」


まあ死んだら死んだで、その時はその時だ。

俺は細かい事は気にせず、先に用事を済ませる事にする。

今日はこの後、ネッドに会いに行くつもりだった。


額の目でネッドの様子を探る。

確かここから南の森で、逃げた魔獣たちオメガの食い散らかしの掃除をしていたはず。


俺の脳裏にネッドの姿。

それを取り巻く環境がイメージとして写り込む。

その中でネッドは素早く剣を振るい、容易く魔獣を斬り捨てていく。


「流石に強くなっているな」


この2年。

ラミアルに付きっきりでネッドには殆ど干渉していなかったが、どうやら順調に成長している様だ。

気配を完全に殺し、空間転移でネッドの近くへと飛ぶ。


「どれ、あいさつ代わりにボスでも用意してやろう」


ネッドは既に4匹の魔獣を斬り捨てている。

残りは1匹だった。

俺は遠くからそいつに経験値を送る。


レベルが一気に30以上上昇した狼型の魔獣は、めきめきと音をたてて巨大化していく。

どうやら魔獣はレベルが上がると、姿形も変わるタイプの様だ。


これは嬉しいサプライズだった。

幾ら強くなっても、小型の魔獣の姿のままでは今一盛り上がらないからな。


巨大化した魔獣を前に、ネッドは臆する事なく切りかかる。

その手には2本の剣が握られていた。

俺はそれを見てニヤリと笑う。


2刀流は男のロマン。

そのルートに、俺の育成キャラが自然と乗って居るのだ。

これがにやつかずにいられようか?


だが如何せん、パワーが足りない。

弾かれて全く通用しない訳では無いが、あのままでは致命傷を与えるのは難しいだろう。

お供の女の魔法も全く効いていなかった。


ネッドは加速をオンオフで上手く使わけ、最低限の消耗で魔獣を翻弄してはいるが、このままではジリ貧だった。

どうやら、少々魔獣を強化しすぎた様だ。

やはり見切り発車テキトーは駄目だな。


しかし一度上げたレベルを下げる事は出来ない。

どうしたものかと考えていると、女が両手に持つ剣に魔法を籠め、それをネッドに投げ渡すのが見えた。


魔法剣は、魔法の中ではかなり習得難易度が高い。

女の年齢は見た所16~7歳と言った所だ。

その若さで魔法剣を修めているという事は、かなり優秀と言えるだろう。


剣を受け取ったネッドは、高速の乱撃で魔獣をあっと言う間に始末する。


パワー不足のネッドに、それを補う魔法剣士。

良いコンビだ。

上手く状況をコントロールして、ヒロインに仕立て上げるのも悪くないかもしれんな。


レーネ――ネッド――魔法剣士女。


世界を救う勇者になる存在なのだ。

そう言った三角関係イベントも良いだろう。


俺は今考えた事を異空間から取り出した設定資料集に書き加え、気配を殺してネッドに近寄り時間を止める。

俺とネッド以外の。


「さっきの技。氷炎乱舞というのはどうだ?」


「おいおい、勘弁し――」


声に反応し、振り返ったネッドの動きが止まる。

中々いい間抜け面だ。

俺は手を上げて、ネッドに軽く挨拶する。


「久しぶりだな、ネッド。元気にしていたか?」


さて、これからサプライズのお時間だ。

プレゼントを受け取った彼が、どんな反応を見せてくれるのか楽しみでしょうがない。

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