第62話 第肆階級弌位
冒険者達が合成しようとしている魔法は第
「お、おいおい、…マジかよ。」
騎士であるシグは、小競り合い程度の戦争ならば多少の経験はあった。
故に自身達が行使出来る魔法だけで十分に対処出来たし、其れ以上の魔法などは見た事が無かったのだ、戦争で例えるならば、精々でも【戦術規模】此は小隊や中隊、大隊等の個々の部隊の戦いで行使される魔法である。
対して今、目の当たりにするかもしれない魔法は【戦略規模】とも言える程の魔法なのだ。
どんな魔法に変化するのか、シグには解らなかったが、どの魔法であったとしても大隊、下手をすれば一個師団を一撃で葬り去れる程の魔法が完成しかねない。
そして其れは。
「こ、こんな魔法…!?町毎消すつもり!?」
シグと同じ騎士であるマオが驚愕な表情をして、叫ぶように冒険者のリーダーに抗議する。
そう、今行使されようとしている魔法は、町一つ吹き飛ばす事も可能な規模の魔法になり得るのだ。
「いいや!そんな事はしないし、させるつもりも無いね!今、此の場に居る魔術師は、ウォーロックに連なる者達が多いのさ!だったら!」
成程、大規模魔法をウォーロック系の魔術師が操作する事で一点集中させるのか…、出来るのか?其れはもう完全に高等技術だろ…?
マオは納得した様な、していない様な、複雑な表情をして、ふてくされる乍ら黙っていた。
正直現状を考えると、何が最適解かが解らない為に、冒険者達の行動に対して此以上何も言えない事にむしゃくしゃしているのだろう。
そんな事を考えている間に、リーダーを含む前衛の冒険者達が一斉に霧の魔物に向かって突っ込んで行く、無論只単に突っ込んだ訳では無く、牽制をする者や隙を伺う者、一撃入れる者等、様々な対応を取っている。
「マオ隊長…。」
シグはマオを見た。
「…解ってる、…冒険者だけに戦わせるのは騎士としての名折れね、行こう!シグ!」
「了解!」
シグは其の言葉を待っていたかのように、マオと共に戦場へと赴いた。
最初にランスを水平に構えて突進を試みる、ランスは元々、馬上から馬の走る速度を利用して標的に風穴を開ける、ランスチャージと呼ばれる技を使用するのが目的で作られた武器であり、人間が生身で走って突っ込んで行っても大した威力は出せないのだ、其れでも先端から持ち手まで曲線を描いて広がっている此の武器は、敵の攻撃を捌く事にも長けている為、馬上でなくても使う者も居たりする、抑も現在、馬は居ない上に狭い町中で突進をしたとしても大した威力も出ないだろう。
だが、ランスでも突貫は先の戦いで仲間である騎士達が散々見せたものであった。
霧の魔物はランスの先端に、原型が既に無くなっている自身の腕を伸ばし、真っ向からランスを受ける。
ドシュ!
と、生肉を突く鈍い音と感触がシグの手に感じ取ると、同時にランスがピクリとも動かせなくなってしまった。
「!?」
ランスが貫かれている腕が、ランスを捕らえて離せないのだ。
霧の魔物はその状態のまま、腕を上げると、シグは身体から重力が失われて行く様な感覚に襲われた。
「シグ!」
何処かでマオ隊長の声が聞こえる、下?何故下から聞こえるんだ?
気が付くと、シグの身体はランス毎持ち上げられていた。
霧の魔物は、まるで少年がボールを投げる様に、ランスの先に掴まっているシグを、ランスを振り回して投げ飛ばした。
空中に投げ出されたシグは、飛ばされる先を見ると、其処には建物の壁があった。
「くっ!そっ!!」
何とか受け身を取ろうとするが、相手は壁である、そんな試みも空しく。
ドガッ!!
背中から壁に衝突してしまった。
「ガハッ!ゲホッ!ゲホッ!」
激しい痛みと、肺を刺激されて咳き込むシグ。
直ぐに立ち上がろうとするも、膝が笑ってうまく立つ事が出来ない。
「くそ!一撃食らっただけで此かよ!?動け足!!」
シグはガクガクと震える足を奮起させ、腰に差さっている剣を抜いて、少しずつ歩き乍ら霧の魔物へと向かって行った。
此までの戦いで、頭では理解出来ていた筈だった、此の魔物はどれだけ切り刻んでも驚異的な再生能力によって全く以て無駄な攻撃となってしまう事に…。
其れでも、何時か再生能力が尽きるのではないか?とか、自身の攻撃速度が魔物の再生速度を上回れないか?等の夢物語を想像してしまう。
冒険者達は少人数で有り乍らも、旨く連携をして波状攻撃を仕掛けていた、其れでも死傷者を無くす事は叶わなかった。
「前衛!下がって後方からの遠距離攻撃移れ!中衛は前へ!気を抜くなよ!」
「「「了解!」」」
リーダーの指揮の下、冒険者達は的確に行動を起こす、中衛で援護をしていた中には其のリーダーも含まれていた。
シグとマオも冒険者達の行動に合わせ、決して邪魔にならない様、自身達も戦力としてキッチリと仕事を熟している。
「シグ!膝はどう!?」
シグが軽々と持ち上げられ、建物の壁に投げつけられた光景を思い出し、マオは彼の身を案じている。
「大丈夫だ!いや、今も少し笑ってはいるけどそんな事気にしている場合じゃねぇっ!!」
其れもそうだ…、大丈夫そうだし、私も魔物に集中しなくちゃ。
魔法の合成が始まり、シグ達が霧の魔物と交戦を始めてから小一時間が経過しようとしていた。
其れは、突如始まった。
フッ、と生暖かい風が横切ると、周辺の大気の温度が上昇し始めたのだ。
「何だ?」
シグは今起きている、いや、起ころうとしている状況を確認する為に周囲を見渡し、少しでも情報を拾おうと集中した。
其の直ぐ後、生暖かくなった風が、急に其の熱量を上昇させる。
「リーダー!準備完了だ!」
副官の叫ぶ声が耳に届く。
「了解だ!…総員!魔物から距離を取れ!巻き込まれるなよ!!」
リーダーが前線で魔物と戦っている冒険者達に命令を下す。
「来たか!?」
「っしゃ!」
「待ってました!!」
「「了解」」
冒険者達はそれぞれが思った事を口に出し、リーダーの命令に従って魔物から距離を取った。
『行くぜ。』
副官が静かに、魔術師達だけに聞こえる様、念話を送る
第肆階級・弌位、
魔術師達が放った魔法が霧の魔物に直撃した瞬間、魔物を中心とした地面に魔方陣が描かれ、放たれた魔法に変化が生じる。
真っ赤な炎が、真っ暗な夜の空を貫く様に真っ直ぐに突き上げた、辺りは炎から発せられる灯火で明るくなり、周辺の建物は炎の熱で溶け始めていた。
尋常ではない熱に、シグやマオ、冒険者達は熱に耐性のある装備やアイテム、又は魔法等で身を守っている、それ位しなければ全身が焼け爛れかねない程の熱量なのだ。
効果範囲を極力絞ったお陰もあったのか、個々の持っている物や技術で防衛策は取れたものの、万全の状態で無い時に、奇策で行使する様な魔法では無いな。
と、其の場に居た全員が思ったと云う。
其の炎の中心では霧の魔物が苦しんでいるかと思わせる様に暴れ蠢いている。
「どうだ!?」
一生で一度、見られるかどうかの大魔法だ、炎の熱で石に火が付き、燃え始めている。
大気が熱を帯び、皮膚が焼けてしまう様な熱気が、風に乗って辺りに蔓延している、直接火に触れていなくても、風で運ばれた熱によって、燃えやすい木や草には火が灯り始めていた。
「やったか!?」
此の場に留まっていれば、俺達の命も危険な位だ、そんな魔法で仕留めれない訳がないだろう!?
周りで其の様子を見ていた冒険者達が口々に呟いていた、…数名を除いて。
「…駄目か、焼き尽くす速度と再生速度が略同じ、此じゃあ倒し切れない。」
副官が炎に覆われた霧の魔物を見てそう判断した。
『グオオウアアアアッ!!』
此まで、一言も発さなかった霧の魔物が、突然奇妙な咆哮を上げる。
「!?何だ!?やったのか!?」
霧の魔物は全身を振り回す様に動かし始めた。
「苦しい、のか?」
其れから5分程が経過した頃、突如霧の魔物の周りを覆っていた炎が、周辺に散らばった炎と熱気を飲み込む様に、霧の魔物の中へと消えて行ったのだ。
『………ゲップ。』
「「「!?」」」
「ば、馬鹿な、そんな…。」
「喰った…とでも云うのか?」
「あの炎を…?」
霧の魔物の身体は赤く染まり、まるで溶岩が泡を立てている様に、皮膚がボコッ、ボコッ、と音を立て乍ら弾けていた。
其の姿は、騎士だけではなく、最後まで此の場に留まり戦い続けてくれた冒険者達でさえの戦意を失わせてしまう程の光景であった。
絶望に叩き落とされたシグ達の耳に。
「…な、何此!?目茶苦茶熱いんだけど!?」
そんな、今の状況に全く似つかわしく無い声が聞こえた。
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