第56話 ガウ=フォルネス


ガウ=フォルネス…?


「そうだ!?テッドにフォルちゃんの事を教えて貰う約束だったんだ?」

すっかり忘れていた事を思い出し立ち上がるメルラーナ。


「フォル…ちゃん?ガウフォ…?」

アンバーは何の事か全く解らず首を傾げている。

「ちょ!一寸待ってくれ!情報量が多すぎておかしく成りそうだ!」

ガノフォーレは左手を上げて話の腰を折り、右手で目頭を押さえて頭の中でテイルラッドから得た情報を整理している。


どう云う事だ?私の記憶では、ガウ=フォルネスは神の筈、神を狙っていると云う事か?メルラーナがガウ=フォルネスだとでも云うのか?意味が解らん。

抑も彼の神はラジアール大陸の神ではなかったか?何故シルスファーナ大陸に…?いや、そう云う問題では無くないか?神だぞ?あぁ、巨神も神だった…アレ?では別におかしくは無いのか?おかしいのは私の頭なのか?


「よし、まず落ち着こうか…ガノフォーレ君?」

ガノフォーレが変な動向を起こしていたのでテイルラッドが宥める。

「…あ、申し訳無い。」


「さて、まず最初に勘違いから正そうか、此の大陸に住む住人の大半は何故かガウネス神の真名をガウ=フォルネスと勘違いしている様だけれど其れは間違っているよ。」

「え!?」

ガノフォーレは眼を見開いて驚き、テイルラッドを見た。


「確かにガウネスとガウ=フォルネスは字面が似ているから勘違い為がちだけれどね、ガウネス神の真名は【ガルバード=ウィル=ネクロライア=スレイハイドール】と云い、それぞれの頭文字を取ってガウネスと呼んでいるのさ。

現にラジアール大陸ではガウネス神では無く、主神ガルバードとして崇めているしね。

次からが本題だけれど、ガウ=フォルネスとは神々の戦いの折にガウネス神が実際に使用していたとされる神器の事さ、自らの腹心の1人であった女神シルヴィアナに譲渡したと云う記述が残っていて、ガウ=フォルネスと名付けられたのは女神に譲渡された後の事で、ガウネスの名から取って来たと云うのが最も有力な説になっているね。」


「ガウネスはガルバードで…、ガウ=フォルネスは神器…?レシャーティンはガウ=フォルネスを狙って…?」

顎に手を当て、考え込むガノフォーレはふと顔を上げてメルラーナを見る。

「…其れはつまり、…メルラーナが其の神器を持っている、と云う事ですか?」

ガノフォーレが捻り出した答えに、テイルラッドは口の端をつり上げてニヤリと笑い。


「その通りさ、良いね君、理解が早くて助かる、僕の艦の船員にならないかい?」

「艦…ですか?其れは…、とても光栄なのですが、私にはギルドの仲間が居るので…。」


「そうか…、残念だ、さてメル、ガウ=フォルネスの事を聞きたいと言っていたね?約束通り僕に答えれる範囲であれば答えよう、何が聞きたいのかな?」


聞きたい事は多々あるけど、何から聞いたらいいだろう?

俯いて頭の中をフル回転させる、考え初めてから1分程の時間が経過した時…。


「………私を、…どうしてフォルちゃんは私を選んだの?」


悩みに悩んで、絞り出した問題、其れがメルラーナの最も知りたい事であった。


「…そうだね、何処から話せばいいかな…。」

テイルラッドは一呼吸置いて、ポツリポツリと語り始める。


「最初にメル、君がガウ=フォルネスを継承した事は、僕達にとって想定外なんだよ。」


「…え?」

其の一言は最初から既に衝撃的な内容だった。


「元々、正当継承者はジルラードの筈だったのさ。」

「お…お父さんが?…フォルちゃんの継承者…だった?」


メルラーナは驚きの余り、大きな瞳を更に大きくしている、そんなメルラーナを余所に、別の意味で衝撃的な情報を耳にしていた者達が居た。



「なぁガノフォーレ?今エルフの兄ちゃん何て言った?聞き間違いかな?なぁ?」

アンバーは自身が聞いた内容が聞き間違いではないか?と思い、ガノフォーレに訪ねつつ、耳が詰まっているのではないか?と考えて小指で耳の穴をほじっていた。

「………ジル…ラード…だと?」

「聞き間違いじゃない…だと!?メルラーナがお父さんって言ったのも聞き間違いじゃないのか!?」

「そう云えば、ユースファストと名乗っていたな…何故気付かなかったんだ?私は…?」

「ジルラードとはやはり!?あのジルラードなのかぁ!?」

アンバーが完全にパニックに成っている。

「そう…だろうな、…ジルラード=ユースファスト=ウルスの事だろう。」

「おおお!?おおおお!?メルラーナが!?メルラーナがぁっ!?闘神の娘だとぅ!?」


此が冒険者の普通の反応である。


「とう…しん?」

メルラーナは聞き覚えの無い単語に首を傾げている。


闘神とは魔神と並ぶ、五大英霊の一つに数えられる称号だ。


五大英霊、其れは世界にたった5人しか得る事が出来ない、最高峰の称号である。


一つはジルラード=ユースファスト=ウルスの持つ称号【闘神とうしん】、其の名の通り、闘いの神と云う意味を持つ、一対多にて最も力を発揮する騎士の称号である。


一つは【戦神せんしん】、一部の国では【いくさがみ】と呼ぶ、其の名の通り、戦の神である、多対多を最も得意とする最高の指揮者が持つ称号である。


一つは【聖神せいしん】、此も【戦神】同様に一部の国では【ひじりがみ】と呼ばれている、名前からは想像が付きにくいが、【聖人】と云えば解りやすいかも知れない、現実では有り得ない筈の奇跡を起こした人物、更には死しても尚、奇跡を起こす、起こした人物を【聖人】と呼ぶが、其の数は世界の歴史の中でも十数名しか確認されておらず、【聖神】は其の数少ない【聖人】達の、更に上に立つ者に与えられる称号である。


一つは【鬼神きしん】、名前通りで云えば鬼の神だが、実際の鬼達の神と云う意味では無く、一対一で最強を誇る戦士が持つ称号である、つまり、此の【鬼神】の称号を持つ者こそ、世界最強の戦士と云う事なのだ。


一つは、テイルラッド=クリムゾンが持つ【魔神まじん】、魔は魔法の意味であり、魔人とは全く関係が無い、あらゆる魔法に精通し、自在に操る事が出来る魔術士が持つ称号である、テイルラッドは次席で云えばエレメンタラー精霊使いなのだが、魔法も行使出来るので魔術士と云う枠に入っている。



此の五つの称号は人だけで無く様々な種族が得る事が出来る、其の為、五大英霊は其の時代の真の最高峰なのだ。



聞けば聞く程、不思議な感じしかしなかった、メルラーナには父親としての姿しか知らなかったからである。

「えー?あのお父さんが?えー?嘘だー?」

若干思考回路が停止してしまった様だ…。


「嘘なものか!?あの…!?」

アンバーが何か言おうとしたが、ガノフォーレが其れを手で遮ると。

「仕方がないさ、我々には闘神であったとしても、メルラーナには只の1人の父親でしかないのだ、其れを我々がどうこう言う筋合いは無いだろう?」

「む…、そ、其れもそうだな。」

ガノフォーレに説得され、アンバーが納得するのを見届け、テイルラッドに話しを戻す様に促す。



「…でも、どうして?何でお父さんが継承者だったの?」

ガノフォーレに促されテイルラッドが話の続きをしようとした時、先にメルラーナからの質問が飛んできた。


「其れはユースファスト家に由来しているからさ。」


ユースファストは女神シルヴィアナの忠信であった戦士であり、シルヴィアナが扱いきれなかったガウ=フォルネスを使い熟した人物だ。

其の名を、ウルス=ユースファストと云う…。


………へ?ウルスって?お父さんの真名!?はい!?


そんな疑問を頭の中で想像していると、考えていた事が読まれたのだろうか…、

テイルラッドは其の疑問を払拭させる様に話しを続けた。


「ユースファスト家の一族の歴史の中で、ジルラードはウルスの再来と呼ばれ、唯一彼の名を継いだ男なのさ。

だからこそ、ジルラードがガウ=フォルネスを継承するものとばかり思っていた訳だけど、ウルス=ユースファストが扱えていた機関カラクリがあったのだろうね、メルが継承したのを聞いた時からずっと考えていたんだ…、ジルに無くてメルに有るモノ、あり得るとすれば魔人の血だと予測している。」


「魔人の血が?」


「主神ガルバード、君達がガウネスと読んでいる神は、魔人だからね。」


「「「…!?」」」

テイルラッドの話を聞き始めてから、驚きを隠せないで居た。

ギュレイゾルは腕を組み、今更何を驚く事がある?と言わんばかりに堂々と座って居る、リゼは久しぶりに帰ってきたのが嬉しかったのだろう、食事を終えた後、家の中ではしゃぎ回っていた。

メルラーナは神話の話に一切着いて行けなかったが、今聞いた真実はガノフォーレ達にとってはかなり衝撃的だったのだろう…、正に開いた口が塞がらない状態になっていた。


「魔人が扱っていた神器が魔人の血に共鳴したのなら、シルヴィアナが扱えなかったのも納得は出来る…けれど、此の予測には一つ穴が有るんだよ。

其れは、ユースファストは人種、人間であったと云う事さ、シルヴィアナと同様の人種であるユースファストに神器を扱えた理由があるとすれば。

ユースファストは混血だったのか…、其れとも扱える様に何かしらの施術を施したのか…、此に関しては記述が残されていないからね、残念乍ら真実は解らないままさ。

さて、神話の話は此処までにしよう、僕達は様々な可能性を試してはみたのさ、人体に影響が出ない程度の魔術的な方法でだけれどね、勿論、血を混ぜる様な事はしていないよ?何が起きるか解ったものじゃない。

継承権がユースファスト家に設定されていた事は間違いなかった訳だけれど、念には念を入れてギュレイにも継承させれるかどうかを一応試してはたんだ、当然乍ら其れも失敗に終わったよ…、純粋な魔人の血でも扱えない事が判明して、文字通り八方塞がりと云うヤツさ。

其れから、大した成果も出せないまま十数年の時が流れた頃、ジルラード…ジルはある任務中に魔人の混血であるティレーナと出会う事となる、その後2人は運命に導かれる様に結ばれメル、君が生まれたのさ、君を見た時に少しは頭を過ぎったよ、何せユースファストと魔人の血だ、けれどジル自身が其れを由としなかった、他の仲間達も同じ意見だったよ、僕も同意したさ、ジルが継承する事こそが最良である事は明白だったからね。

けれど、そんな想いとは裏腹に、レシャーティンに遺跡の場所を知られた事で事態が急変したんだ、其処からの事は君が知っている筈さ。」


「…。」

話を聞き終えて、メルラーナは何の言葉も発せず、黙ったままだった。

代わりにガノフォーレがテイルラッドに訪ねる。


「我々には理解知り得ない情報が多かったのですが、其の話の中で一つ疑問が有ります、メルラーナに継承させる事を拒んだのなら、何故彼女を遺跡に連れて行っていたのでしょう?護る為ならば知らないままも方が良い場合がある筈では?」


言われてみればそうだ、小さい頃からお父さんに連れられてあの遺跡には出入りしているけど、理由は知らないし聞いた事も無かった。


「其れは…僕から言える事情では無いね、ジルと家族の問題さ。」


正論で返されて何も言えなくなってしまった。


「解った…、其れは一旦置いとくとして…、選ばれた理由はユースファストと魔人の血が関係してるって事でいいの?」

其れがテイルラッドから聞いた話を、自分なりに纏めてみた結果から生まれた答えだった。


「…うん、略々其れで間違い無いと思って貰っていいよ。」

「…そっか。」


お父さんはあくまで自分が手にするつもりだったんだよね、何時もお父さんと一緒だったから余り遺跡を気にした事も無かったけど…、あの時は改めて気にする様に見渡してたから…其れまで気付かなかった所に気が付いちゃったんだ。

其れは…、つまり私が自ら知らず知らずに足を突っ込んだって事…だよね。


何となく…、あの時の少し悲しそうな表情をしていた父親の顔を思い出していた。


「そう云えば、初めてフォルちゃんを見た時って、只の水にしか見えなかったんだけど、今は氷になってるし、形?形状って言えばいいのかな?そう云うのは無いの?」


遺跡からずっと、側にいて護ってくれてた訳だけど、ちゃんとした姿を見た事が無かった。

神器と云うからには何かしらの物体だと想像していたんだけど…、其れとも水や氷そのものがフォルちゃん自身だったりするのだろうか?


しかし、テイルラッドの口から予想の斜め上へ行く答えが返って来た。


「水や氷はメル、君の潜在能力を、ガウ=フォルネスが引き出して具現化した結果でしか過ぎないよ、其れがガウ=フォルネスの力の一端なのさ。

どう云った形状か…は、此も記述でしか記されてはいないのだけれど、金属製の防具…と云うのが正式な姿とされているよ、実際に見るまで本当の事は解らないけれどね。」


「へ?金属!?水や氷は私の力!?」


「まぁ、多分だけれど、覚醒まで行けば確実に、本当の姿を見る事が出来るんじゃあないかな?」


「かくせい?…覚醒って、…開放?とか何とか云うやつ?」

一度目の襲撃の時に、うろ覚えなのだがそう云う言葉が聞こえたのはハッキリと覚えていた。


「いいや、開放と覚醒は全くの別物だよ。」


だが、即座に否定される、開放とは今ある冪モノ、実際に存在している力が扉の様な物で閉じられている状態の事で、扉を開ける事で解き放たれる事を云うそうだ。

覚醒とは存在していないモノ、有る筈の無い力が解き放たれた状態の事を云う。



「覚醒は三度の開放を経た先にあるのさ。」

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