第55話 レシャーティン
冒険者達は一カ所に集まり、各々が帰還の準備を初めていた。
其の間にメルラーナとガノフォーレ、アンバーの3人は里の長の屋敷へ招かれ、改めてギュレイゾルから冒険者達への報酬の話を進めている、当然その場にはリゼも居たが、何故か当たり前の様にテイルラッドも居座っていた。
暫くして、話が終わり、メルラーナ達に食事が用意され、舌鼓を打ち乍ら会話を弾ませている。
「所でテッド?何でイライラしていたの?」
メルラーナに訪ねられて、かぶり付いていた骨付きの肉を噛み千切り、数回噛み砕いて喉の奥へと流し込むと。
「………逃げられた。」
聞こえ難い音量でボソッと呟く。
「え?何?」
メルラーナは聞き返すと。
「だから…、逃げられたんだよ。」
又もやボソボソと呟く。
「ゴメン、聞こえないよ?」
「うむ、聞こえんぞ?テイルラッド。」
ギュレイゾルがメルラーナの援護を始め。
「きこえなーい。」
と、リゼが続き。
「私も聞こえませんでした。」
「同じく。」
ガノフォーレとアンバーも追い打ちを掛けてきた。
「ああ!もう!五月蠅いな!?逃げられたんだよ!あの覗き魔に!思っていた以上に用意周到だったのさ!驚いた振りをして僕が気付いていた事も近付かれる事も予測していたのさ!」
イライラが爆発し、吠えた。
…にげられた?
逃げられた…んだ?
…プッ…。
思わず吹き出しそうになり、手で口元を押さえて堪え、バレない様に顔を背けるメルラーナ。
任せ賜え…とか言ってたのに、逃がしたって…。
だ…駄目だよ私、笑っちゃ失礼…プックク。
そりゃあ、逃げられる事もあるでしょ、完璧な人なんで居ないんだから…。
決して、失敗した事に対して笑った訳では無いのだ。
只、自身満々な台詞を言い残して行った事が、失敗して帰って来て、怒りの矛先を魔人達にぶつけてた其の姿を思い出して、可愛く見えてしまったのだ。
「フンッ!あれだけ啖呵を切っておいて逃げられたのか?笑える。」
テイルラッドのミスを鼻で笑うギュレイゾル。
しかしガノフォーレは真剣な表情をして。
「貴方程の知恵者が出し抜かれた…と云う事ですか?何者だったのです?」
ガノフォーレの其の疑問は、メルラーナも感じていた、あの巨神を圧倒した実力や洞察力、其れに此の里でつい先程起きた問題、まるで其の場の全てを征するかの様な、次元の違いを見せつけられた感覚があった。
其の感覚はメルラーナだけで無く、其の場に居た冒険者や魔人、巨人達も同じ印象を受けていたのだ。
五大英霊の一つに数えられる、【魔神】の称号を持つ此の人物であれば、其れも又、当然の事なのである、そして其れは、有る意味では一般常識でもあるのだ。
メルラーナは只1人、此の時知る由も無かった、五大英霊と呼ばれる者達は、そう云う存在だと云う事を…、何せ、自身の父親が其の偉大なる存在の一つ、【闘神】である事を知らないのだから…。
そんな人物を出し抜いた者の正体の事を、ガノフォーレが気になるのは当然の事である。
「…君は、ガノフォーレ君と云ったかな?」
今此の場、此の里の中で恐らくは、最も知恵の有る2人が言葉を交わす。
「はい。」
「中々良い発言をするね、其の通りさ何せ、僕を出し抜けるなんて、相当なものだよ奴は、別の何者かの知恵を借りていた…と云うのが僕の予測だけどね。」
誰が知恵を与えていたのか、テイルラッドは検討が付いていた。
(けど、其の名前を今此の場で発言する訳にはいかないな、メル自身は余り気付いて居ない様だけれど、身体の負傷はかなりのモノだ、其処に追い打ちなんて掛ける様な真似は僕には出来ないさ。)
だからこそ、心の中で呟く…。
(覚えておき賜えよ…
「君はレシャーティンの事をどれ位知っているかな?」
「…レシャーティン、…ですか?残念乍ら余り存じておりません、世界的な武装集団と云う事は耳にした事は有りますが…。」
「…そうか、では基礎知識として教えておくとしよう、メル、君も聞いておくといい。」
突然矛先を向けられ、カップに入れられた熱々のお茶を啜っていたメルラーナは吃驚して。
「え!?あ!うん!?」
とカップをテーブルの上に置き、話を聞く姿勢を取った。
『【レシャーティン】邪竜と云う意味を持つ彼等は、ガノフォーレ君が言ったように世界規模で活動をしている
其の主な活動内容は国の中心部へ潜入し、王族に悪事を働かせて国民の不満を爆発させて
実際に此の大陸内で起こった戦争や
最近でならば、トムスラル国の冒険者達によって起きた内乱にレシャーティンが関わっている事が判明している。』
「え!?トムスラルで…!?」
祖国で反乱が起きていた事を、今初めて知ったメルラーナは驚愕した。
冒険者達…って云う事は、まさか遺跡の事で!?そんな!?
「ジェフさん、大丈夫かな…?」
父親の弟子である共に戦ったあの青年の事は、今でもハッキリと思い出せる、クーデターに巻き込まれてはいないだろうか?そんな心配を余所に…。
同時刻・トムスラル国・王都城内。
カンッ!ガキィッ!ガンッ!!
金属同士が激しくぶつかり合う音が響き渡る。
金髪で青い瞳の白い全身鎧を纏った男と、紺色の長髪に前髪で片目が隠れ、黒い瞳をした男が互いの獲物を振り回し、ぶつけ合っていた。
冒険者のジェファードとレシャーティンのギースの2人である。
「ヘックチッ!!」
戦闘中にも関わらず、ジェファードが我慢出来ずにクシャミをした。
「おいおい、どぉしたぁっ!?風邪でも引いちまったのかぁ!?ああ?」
「只のクシャミだ!!気にするな!」
「そぅかよっ!?なら安心だぁ!?全力で戦って貰わねぇと話にならねぇからなぁ!!」
「フンッ!戦闘狂め!此処で貴様を討ち取って此のクーデターに終結を打ってみせる!!」
「ハッ!俺を倒した所でもぅ此の内乱は止まらねぇぞ!?此の国は行く所まで行っちまったのさぁ!お前ぇも解ってんだろ!?手遅れってヤツだぜぇ!?」
巻き込まれていた処か、クーデターを引き起す原因を生み出した首謀者と目される男と、内戦の勝敗を賭けた一騎打ちをしていた…。
………
……
…
メルラーナが驚きの表情を隠せないでいる中、ガノフォーレが振り絞る様に言葉を発する。
「…そ、…其れはつまり、…国崩し、が目的、と云う事ですか?」
「国崩し…か、言い得て妙だね、客観的に見ればそうかも知れないけれど、レシャーティンの引き起こしている戦争は、ある国との戦争を起こす為の布石であり、其の国を滅ぼす為に他の国を実験場にしているのさ。」
「じ…実験!?実験の為に戦争を引き起こしているのですか!?」
何だ其れは?目的の為に戦争をする?何の実験か知らないし知りたくも無いが、そんな事の為に大勢の命を平気で犠牲にしていると云うのか?そんな事、余りにも、余りにもだ、其の愚行に胸糞悪くなり、吐き気を催す。
『そう云う事だね、実験は戦争以外でも行われているけどね。
例えば、今回の巨神の一見もレシャーティンの仕業さ、欠片の巨神への影響を調べたかったのだろう。
トムスラルを影で操りリゼ君を攫う様に仕向けたのは、恐らく魔人達を暴走させ、ボロテアを含む近隣国を巻き込み、発端のなったトムスラルとの大規模な戦争を仕掛け、其処で行っていた実験を内乱の真っ只中にあるトムスラル国を滅ぼす事で跡形も無く消し去るのが目的だろう。』
隣で話を聞いていたメルラーナも、段々と肚が立ってきていた。
メルラーナは周りから見れば正義感が強い様に思われがちだが、決してそう云う訳では無い、戦争そのものを反対する気は無いし、其れで人の命が散って行くのは仕方がないと思っている、自分の命や護りたい者の為になら、相手の命だって奪うのも躊躇わないだろう、只、理不尽が嫌いなだけである。
例えば戦争、其れに巻き込まれる民に対して、国が護るのは義務であろう、其の義務を放棄する者に対して怒りを覚えるのだ。
当然今、理不尽な戦争を引き起こしているというレシャーティンに対して肚を立てている。
「そ…そんな、其れだけの為にそんな恐ろしい事を、其れもこんな子供まで巻き込んで…。」
ガノフォーレは美味しそうに肉に齧り付いているリゼを見乍ら、歯ぎしりをして、肚の底に怒りを溜め込み、言葉を絞り出す。
『気持ちは解るけれど、安心し賜え、レシャーティンには計り知れなかった誤算が起きたのさ、君達冒険者の介入がよもや自分達の策に影響を及ぼす事等有り得ないと思っていたんだろうね、冒険者達が奮闘してくれたお陰で此の地での
「我々が…ですか?」
ガノフォーレは余り納得がいっていない様子だった。
ギュレイゾルの依頼を受けてから、迅速にリゼの救出を実行した事で魔人達のエバダフへの襲撃を止めた、此は後に起こりえたかも知れない、ボロテア国を巻き込むトムスラル国との戦争を未然に防いだ事となった。
数日経っても一向に娘を迎えに来ない魔人に対し、リゼの住んでいた里を特定し、戦力を集めてリゼを安全に里まで送る届ける事で、地下大神殿内部で起きている事態に、欠片の存在と、魔人達が其の欠片によって足止めを喰らっている事を知り得た、人を集めた事で、ある程度の事情を知っているビスパイヤと云う人物を招き入れたのが知識の共有へと繋がったのだ。
そして、ビスパイヤが命を賭した事によって、各々が知らず知らずに後手に回っていた事態が急変する、魔神テイルラッド=クリムゾンの介入である。
五大英霊の行動は、下手をすれば一つや二つの国の命運を左右しかねない、彼等の行動は極秘事項なのだ、故に、常に秘密裏に動いている。
其の1人が介入して来た事によって、レシャーティンが行っていた此の地での計画が失敗に終わった。
其の結果、こうして実際に冒険者達の行動一つ一つが巡り巡って、此から起こりえたであろう事変を未然に防いだ結果に繋がったのだ。
「君達は其れだけの事を成し遂げたのさ、誇っていいよ。」
『実験の内容は飛ばしてもいいかな?聞いても胸糞悪くなるだけだしね。
レシャーティンには先導者と呼ばれる頂点に立つ者が3人居る、只し彼等が何者なのか、名前も年齢も、性別すら解っていないのが現状なんだ、本当に居るのかどうかも怪しい、とまで言い出す者が出てくる程に謎に包まれた存在さ。
先導者は信用のある配下にしか指示を出していないと云う予測をしている、念話で会話をすれば盗聴されてもおかしくはないから独自の連絡網を用いている可能性がある、其の配下が1人なのか、複数なのか、其処を突き止める事が出来れば…いや、其れは今言っても仕方の無い事だね。
さて、此処からがハッキリと解っている事だ、先導者の配下から指示を受け、レシャーティンの構成員を纏めて居る者達、奴等は自らを八鬼将と呼んでいた、其の名の通り、8人の将と云う事だろう、1人1人の実力は相当なモノだと見ている何せ、僕が取り逃がした男も其の1人だからね、盗賊ギルドに所属している様だけれど、只の肩書きだろうね、僕が魔術師ギルドでエレメンタラーの称号を持っているのと同じさ。』
丁度其の話をしていた時、ガノフォーレはカップに入っていたお茶を啜っており。
「ブッ!?」
吃驚して吹き出した。
「ガノフォーレさん、汚い…。」
そんなガノフォーレに、メルラーナが率直に注意する。
「あ、ああ、すまない…いやっ!?其れ処じゃないっ!!エレメンタラーと仰いましたか!?」
「うん?言ったけど其れがどうか…、ああ成程、君達には10次席が常識の範囲外なんだね。」
「じゅっ!?10次席だとっ!?」
今度はアンバーが驚いて立ち上がる。
「じょ、常識?10次席は常識なのですか…?」
「ふぅ。」
テイルラッドは深く溜息を付き。
「やれやれ、いいかい君達、此の大陸には10次席が5人居君達が、噂話にしているアルテミスのエアルも其の1人だよ僕の、国のあるラジアール大陸では僕を含めて6人さ世界中では、21人居るのかな今は?此を常識と言わずして何と云うつもりだい?」
冒険者達の憧れであり、伝説上の存在を、さも当たり前の様にサラッと口にした。
衝撃の事実を告げられたガノフォーレとアンバーは、開いた口が塞がらなくなっている。
2人の表情を間近で見ていたメルラーナは、吹き出しそうになるのを堪えていた。
「言っておくけど、其処で笑いを堪えているメルの父親も10次席の称号を持っているよ?」
「「な!?」」
ガノフォーレとアンバーはまるで同調しているかの様に同時にメルラーナを見る。
「へ?」
他人事の様にしていたメルラーナに視線が集まる。
「其れは本当か!?メルラーナ!?」
父親の仕事を一切知らないメルラーナにとって、知り得ない事を聞かれて困ってしまう。
うん、反応がとても面白かったから焚き付けてみたけど、彼等も中々良い逸材だね。
「落ち着き賜えよ君達、どうせ其の話は後でする事に成るからね、話が反れたから戻そう。」
『僕が言いたかったのは、奴等の実力は本物だと云う事さ、少なくとも僕の良く知っている八鬼将の1人は、僕と略互角の力を持ち合わせている事は確かな事だしね、つまり奴等の持っている称号は当てにはならない、今後もし、万が一の確立で奴等の1人と遭遇する様な事態に成れば、一切の躊躇をせずに逃げる事を進めるよいいや、訂正しよう、絶対に戦うんじゃあない…、死にたく無ければ…ね。』
(にしても、10次席の事を聞いて此の様子だと四大国家の、ギルドの基準が他の国のギルドの基準と違う事も知らないのだろうね?此は伏せていた方が良さそうだまた、話が反れてしまうだろうからね。)
『其の八鬼将の内の2人が今、此のシルスファーナ大陸で暗躍をしている事が判明している、奴等は単独で動く事が多いが、希に構成員と共に作戦を実行に移している時がある、ギルド内でメルに怪我を負わせた者達がそうだ…。』
「!?あの襲撃犯は武器商人の手先では?」
「其れは白昼に堂々と街中で襲撃してきた馬鹿共だろう?今頃ボロテア軍の兵士に拷問でも受けているだろうさ。」
「成程、護衛に就いていた仲間が抵抗空しく散った理由が納得出来ました。
捉えた男が只の構成員だった、と云う事ですね?そしてメルラーナを刺した男が、八鬼将の1人…、ですが何故、其れほどの実力者が襲撃等と云う愚行を犯したのでしょうか?1人で潜入してリゼだけ攫う事位容易な…?」
まてよ?あの時確か、リゼだけでなくメルラーナも連れて行こうとしたと云う話だったな…?
…リゼだけでなく?…まさか?………
「レシャーティンの標的は元からリゼではなく、メルラーナだった。」
ガノフォーレが頭を総動員させて絞り出した答えに。
「当たらずとも遠からずってとこかな?リゼを攫ったのは武器商人、其奴等はトムスラルと繋がっていた、頭の悪い政府はレシャーティンが引き起こした内乱を力で押さえ込む為に、魔人の血を欲したのさ、僕から云わせれば只の悪手でしかないけどね。
其の計画を立てたレシャーティンの八鬼将と、ギルドを襲撃した部隊は別のレシャーティンの八鬼将で全くの別部隊の構成員なのさ、リゼの使い道を知っていた八鬼将はリゼを奪い返しに来た様に見せかけてメルを…、メルラーナを狙ったんだ…。
…いや、正確には、ガウ=フォルネスを…。」
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