第49話 巨神ローゼス
メルラーナ達が落ちて来た巨人に話を聞いていた丁度其の頃………。
巨人が吹き飛ばされる事態になった場所では、数十人の魔人達が、一体の巨大な物体を囲う様に配置しており、交戦をしている最中であった。
巨大な物体は、地に足が付いてはいなかった、空を浮遊していたのだ、大きさで云うなら、全長約600メートル、全高が約300メートルはあり、人の姿をしていなかった、例えるなら其れは、狼が一番近いかも知れない、だが決して狼では無く、真っ赤に輝く眼は四つ有り、犬科の様な耳は無く、代わりに左右に二本ずつ、お中央から一本、合計五本の角が頭部から突き出している、足は六本あり真っ白な毛で覆われた長い胴体の背中には、大きな2枚の翼が生えていた、翼を横に広げると、其の全幅は凡そ1キロメートルはあるだろう、最後に、長く太い尻尾が三本、魔人達を威嚇する様に動いている。
「何体飛ばされた!?」
黄色い瞳に黒く長い髪を後ろで纏め、頭部からは後頭部へ向かって曲がっている二本の角が生え、革製の衣装を全身で覆った2メートル以上はあろうかと云う、高身長の男が現在交戦中の巨大な狼の様な姿をした生物に吹き飛ばされた仲間達がどれ位居るかの把握をする為、近くで戦っていた魔人に確認を取っていた。
「我々魔人が6!巨人が3です!」
「ハッ!その程度か!どうしたローゼス王!我が同朋よ!意識を失わなければ此処に居る半数は今の一撃で吹き飛ばせたであろう!」
魔人の男は、狼の様な姿の生物を、ローゼス王と呼んだ。
そう、此の巨大な生物こそが…。
巨神ローゼスであり。
先程叫んだ魔神の男が、常闇の森の魔人達を束ねている長。
ギュレイゾル=アークレー=ラスタウォレスザンバード卿、其の人である。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
巨神ローゼスはギュレイゾルの挑発に呼応するかの様に、鼓膜が激しく振動し、破れるのではないかと思ってしまう程の咆哮を放つ。
其の咆哮は、魔人や巨人達の行動を阻害、或いは身体毎吹き飛ばしていた。
「…ハッ!!」
巨神ローゼスの咆哮を受け、ギュレイゾルは鼻で嗤う。
「そうだ!其れでこそ我が同朋よ!」
ギュレイゾルは、全長3メートル以上はある余り市場では見かける事の無い武器を縦に持ち上げ、地面に柄の部分を叩き付けた。
ドンッ!と音を立てた後、其の武器を構える。
見た目は剣の様だが、其の刀身は持ち手である柄の長さの比例が5対2位で、持ち手の長さから剣では無い事が解る、刀身は斧の様に広く分厚い両刃になっているが、刀身の長さから斧でも無い、では槍なのだろうか?しかし槍と呼ぶにも柄が短く、刀身が長いと云う不可思議な姿をしている、近接用武器は大まかではあるが基本的に、【剣】・【斧】・【槍】の3種類を元に作られている、刀は剣の分類であるし、短剣や小剣、細剣や大剣も当然に剣の分類になる、同様に、手斧、投斧、戦斧、大斧も斧に分類される武器だ、特殊な物としては鎚も斧に分類される、槍は剣や斧とは少し毛色が違い、小槍、長槍、激、と種類は少ないが、刀と槍を掛け合わせた武器である薙刀や、斧と槍を掛け合わせた槍斧等がある、因みに矛や鉾は槍の別名なので槍と同じ物だ。
しかし、ギュレイゾルの持っている武器は其のどれでも無く、どれでも有るかの様な姿をしていた。
【月与魅(つくよみ)】そう云う名の分類に属する武器である。
由来は、引き込まれてしまう程に魅入られてしまう様な美しい満月を、全身で表現するかの様に真円を描く戦い方をする事から付けられた名前だが。
実際は尋常では無い位重たく、遠心力を利用して全身を使い、振り回す事しか出来なかった為に、結果的に円を描きながら戦う様な扱い方に成っただけであり、決して美しく見せようとかそういった類いの意図は存在しない。
ギュレイゾルは其の月与魅を片手で自在に操り。
「魔人隊!フロントディフェンダーは東西二手に分かれるのだ!各二交代でローゼス王を引きつけよ!フロントアタッカーは北と南の二方向から三交代で遊撃!センターガードは全方位より前衛の補助と牽制!バックブレイカーは援護射撃!
巨人隊!魔人隊の前衛に紛れての波状攻撃!相手はローゼス王だが遠慮はしなくてよい!手加減等通用せんぞ!竜種に並ぶ其の力を思う存分に振るいたまえ!」
一通りの命令を終え、月与魅を天高く掲げ、前方に振り下ろし。
「掛かれ!」
「「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」
其の号令に、この場に居た全ての魔人と巨人が雄叫びを上げ、地下大神殿の主であるローゼス王に立ち向かって行った。
巨神ローゼスの力は其の全ての次元が違っていた、巨大な身体の背中から生えている翼を羽ばたかせただけで、其の場に竜巻が発生させた、更に其の発生した竜巻に、前足から繰り出される爪による斬撃を乗せる事で、鎌鼬を作り上げ、魔人や巨人を巻き込んで吹き飛ばすだけでは無く、其の身体を粉々に切り刻んだ、竜巻の大きさや数は自在に操る事が出来るらしく、ローゼスの身体の周り全方位を竜巻が十数本、荒々しく其の牙を向き、立ちはだかっていた。
決死の思いで竜巻を抜けても、足から繰り出される鎧毎叩き潰す斬撃を乗せた攻撃が待っている、其の一撃を躱せたとしても、後には5本の角から生み出される雷撃が待ち受ける、雷撃は竜巻に乗せる事も可能で、北、西、東の部隊はローゼスの懐に飛び込む術が無く攻め倦ねていた。
南から攻め込んでいる部隊は竜巻に加え、後ろ足で地面を蹴り上げた砂や石、木が礫の様に飛ばされ、近づく事すら出来ずにいる、希に礫や竜巻を抜ける者が居るが、今度は3本の尻尾に薙ぎ払われたり、槍の様に無数の突きを放たれ、鎧毎身体を貫かれた。
戦いが始まってから、小一時間程が経過した頃。
魔人達や巨人達の劣勢は誰が観ても明らかであった、被害は酷いもので、多数の死傷者を出している、しかし、そんな状況であるにも関わらず、彼等のローゼス王に立ち向かう姿勢は変わる事無く戦いは続いている。
ギュレイゾルはローゼスの正面から切り込み、生み出した竜巻の一つに対し、月与魅を持てる力の全てで振り回して、逆風を発生させ掻き消した、竜巻を消した事で出来た隙間に入り込み、次の前足からの薙ぎ払いを、月与魅を盾代わりにして受け止め、自身は身体を浮かせ、飛ぶ様にして衝撃を和らげる。
攻撃を受け流した時に吹き飛ばされる場所を、ローゼスの頭上に成る様に軌道を予測し、計算通りの位置に飛ばされると、月与魅を自らの頭上に振り上げ、一気に振り下ろす、其れに対し、ローゼスは角から周辺に分散し乍ら発生させている雷をギュレイゾル一人に集中させ、放つ。
直撃すれば魔人であるギュレイゾルでも即死は免れない程の雷撃を、正面から受け止めれば只では済まない事は承知の上であった、振り下ろした月与魅の重量から発生する遠心力を利用し、柄から手を放して自らの身体を更に上空へと押し上げる事で雷撃を寸手の所で躱す事に成功した。
「くっ!流石は我が同朋!攻め入る隙が無いわ!!」
地上に降り立ったギュレイゾルは、先に落下していた月与魅を手に取り、再びローゼスに立ち向かう。
そんな激闘の中…、伝達隊からの報告が入って来た。
「ギュレイゾル様!西側の前衛で戦っていた魔人達が全滅しました!」
「…むっ!?…致し方ない!西側は撤退!巨人も含めてだ!北と南の部隊から後衛の一部を東側へ合流!続いて北は北北西へ移動!西側の部隊半数と合流!南は南南西へ!同じく西側の部隊と合流!各隊は三交代で休息後!三方向からの波状攻撃を仕掛けろ!」
「御意!」
ギュレイゾルは地上に落下した月与魅を再び手に取り、ローゼスの激しい攻撃を的確に対処し乍ら反撃を行っている、其の中で受けた報告に対して指示を出していた。
「ギュレイゾル様!!」
「今度は何だ!?」
訃報ばかりでイライラしていたのか、報告に来た魔人に怒鳴りつける様に返事する。
「…ひっ!?ろ…朗報です!吹き飛ばされた魔人や巨人達が次々と集結して来ています!」
「何!?…良し!!各自の状態を確認!負傷者には治療を施せ!戦える者は交戦中の部隊と合流させよ!」
「御意に、…それと。」
「何だ!?まだ何か有るのか!?」
「はっ!巨人の1人が、…人間を連れて来ました。」
「………にん…げん?……にんげんだと?…人間と言ったのか?」
ギュレイゾルの表情に明らかに怒りの表情が露わになる、其れは先程のイライラしていた時の表情とは全く違っていた、まるで人間を視た瞬間に抹殺してしまいそうな、敢えて言葉にするのであれば、【憤怒】と呼べばいいのかも知れない。
「…人間風情が…こんな所に一体何の様で来たのだ?…我に殺されに来たとでも云うのか…?」
此のままでは間違いなくあの人間達を殺し兼ねないと思った、報告に来た魔人は。
「ギュレイゾル様、失礼乍ら意見具申を…。」
「………何だ?申してみよ。」
「其の人間達は恐らくリシェラーゼ様を保護した冒険者かと思われます。
リシェラーゼ様のお姿をお見かけ致しましたので…。」
「!?リシェラーゼが居るのか!?無事なのか!?怪我などしていないだろうな!?擦り傷の一つでも負っていれば人間共を皆殺しにしてくれる!!」
ああ良かった、何時もの親馬鹿に戻った。
ほっとした魔人だったが。
「貴様!!何故其れを先に言わん!?」
矛先が変わってしまい、とばっちりを受けてしまった。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「!?」
ローゼスの咆哮が辺り一面に響き渡る。
くっ!今前線を離れる訳にはいかん、かと云って人間共は兎も角、リシェラーゼをこんな危険な場所へ連れて来る訳にもいかん…どうする?
魔人や巨人は個体能力が人間より遙かに高い、1人で戦う事が容易な為に集団での戦闘に不得手である、今此処でギュレイゾルが前線を離れてしまう様な事になれば、確実に前線が瓦解するだろう、巨人は能力の有無に関係無く誰かに従えたりする者だが、魔人はそう簡単には行かない、リゼの様な力の無い者でも実力者であり、指導者でもあるギュレイゾルの娘と云う立場の魔人には指揮下には入りはしないものの敬意は払う、彼等を纏める為には彼等以上の実力の持ち主でなければならないのだ、今此の場に実力者達は多数存在してはいるが、彼等は各部隊に配置されて各隊の指揮を行っているし、何よりもギュレイゾルが此の場で一番の実力者なのだ、つまり、ギュレイゾルより下の者に従える者が今此の場には居ない、と云う事になる。
戦いの最中に誰かに任せる事も出来ず、連れて来る事も出来ない状態に、どうする冪かを思案していると。
「やれやれ本当、魔人君って生き物は面倒臭いよね少しは、巨人君達を見習ってみたらどうかな?」
突然、何の前触れも無く、ギュレイゾルの隣に金髪の青年が現われた。
「「!?」」
「きっ!貴様!?何者だ!?」
魔人達は何の気配も無く急に現われた青年に、各々が武器を構え取り囲もうとした、何せ、自身達の指導者でもあるギュレイゾルが其の気配に気付かず、其の青年の接近を許してしまったのだ、此は一大事であり、恐怖でもあった。
「ふぅ、そんなに敵意を剥き出しにしないで貰えるかな此でも、一応君達の仲間なんだけどね僕は。」
「な!仲間だと!?貴様はエルフではないか!?何を根拠に仲間だと…!!」
「止めろ!!」
青年に向かって武器を構えている魔人達に、武器を納める様に命令を下すギュレイゾル。
魔人達は命令に従い武器を納める。
「其れで、何の様だ?テイルラッド=クリムゾン?」
「決まっているじゃあないか
テイルラッドは親指を立てて、ローゼスを指差す。
「「「!?」」」
ギュレイゾルを除くその場に居た魔人達と巨人達が全員驚愕した。
「な、何を言っているのだ?此の男は?」
「ローゼス様を倒すだと?馬鹿が、そんな事が…。」
魔人や巨人が口々に騒ぎ出す、今も戦っている仲間が居るのだ、こんな男の冗談に付き合っている暇は無い…と云うのが彼等の言い分である。
「ギュレイ、君は感動の親娘の対面でもしてくれていればいいよ後は、僕が引き受ける。」
「貴様ぁ!?勝手に巫山戯た事を言っているんじゃあないぞっ!!」
魔人の1人が、我慢の限界が来たかの様に怒りを露わにしてテイルラッドに怒鳴り付けるが。
「待て!…テイルラッド=クリムゾン、此は我々の問題だ、貴様の出る幕は無い、其れに、我が同朋が貴様に従える訳がなかろう?」
ギュレイゾルは怒鳴る魔人を止めて、テイルラッドの申し出を断る。
「従える?違う違う、何を言っているんだいギュレイ?何故そんな無駄な事をしなきゃあならないのさ、僕は1人で
ゴゴゴゴゴゴッ!!
轟音が鳴り響くとローゼスの周囲で渦巻く竜巻の数が更に増えた。
「五月蠅いなぁ今、此の頭の悪い子達に解りやすく力の差って奴を教えている所なんだ一寸、黙っててくれないかな?」
テイルラッドはそう言って指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、ローゼスの周囲を渦巻いていた竜巻が全て消失した…。
「「「な!?」」」
ギュレイゾルが全身全霊を持って振るった一撃で、漸く掻き消す事が出来た竜巻は一本だった、其の竜巻を、指を鳴らしただけで全て掻き消した此の男は、一体何者なのだろうか?其の場に居た魔人や巨人達は全員がそう思っていた。
「言っておくけど僕達の、相手にしている存在はあんな、
「フン!好き放題言いおって、貴様は我の評価を下げにでも来たのか?」
「まさか…だろう?少し焚き付けただけさ、僕が此処に来た本当の目的は彼女さ。」
そう言って顎で其方を見る様、ギュレイゾル達に促す。
魔人や巨人達が一斉に其方に振り向くと、其処には人間の冒険者達が集っており、其の中の1人に黒い長髪の少女が立って居た。
「あの娘がどうしたと云うのだ?テイルラ…!?」
ギュレイゾルがテイルラッドに訪ねようと振り返ったが、既に其処には居なかった。
「周りで戦っている部隊を撤退させておいてくれるかな?巻き込んでしまっては元も子もないからね。」
そう言い残し。
「!!彼奴!?」
ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!
テイルラッドは既にローゼスとの戦いを初めていた。
エルフの男の力は圧倒的であった、自身達があれ程苦戦していたローゼスを相手に互角の戦いをしている、たった1人でだ、テイルラッドは様々な魔法を行使し、的確にローゼスの攻撃に対応していく、魔法で対応が出来ない、若しくは間に合わない時には腰に差してある変わった形の銃を取り出し対処している。
其のエルフの姿を、魔人達は呆然と立ち尽くし、眺めていた。
「ギュレイゾル様、あのエルフは何者なのですか?」
魔人の中でもギュレイゾルに次ぐ実力者の1人が側に寄り質問する。
「…フン!…魔神、と言えば解るだろう?」
其の質問に、忌々しげに鼻を鳴らし乍ら答えるギュレイゾル。
「魔神!?あの五大英霊の!?」
ギュレイゾルの口から発せられた言葉に、魔人は驚愕の表情を隠すが出来なかった。
余りの激しい戦いに、巨神の側から離れるのが遅れた魔人や巨人は巻き込まれている、主に巨神の攻撃によるものだが…。
其の全てとまでは行かないが、テイルラッドは巻き込まれそうになっている魔人や巨人を救い乍らも、火力を絶やす事無く戦い続けていた。
「………アレが、…魔神の…力………。」
テイルラッドの実力を見せつけられて驚愕している魔人達とは違い、ギュレイゾルは冷静に傍観していたが、直ぐに踵を返し、巨人が連れてきた冒険者達を視た、正確にはテイルラッドが示差した少女を…だ。
無造作に冒険者達の間を通り抜け、一直線に少女の前まで来た。
冒険者達は突然の事で最大限の警戒をしていたが、ギュレイゾルは其れを無視し、少女をじっと見つめる。
…此の娘が何だと云うのだ?只の人間の子供ではないか?…ん?…何だ?何か違和感が。
「おとーさん?」
「!?………リシェラーゼ?」
「おとーさん!!」
少女に集中していた為に気が付かなかった、少女の隣で、少女の手をしっかりと握っていた己の娘が居た事に…。
「おお!リシェラーゼ!!良く無事に帰って来た!怪我は無いか?寂しくなかったか?」
其処には、魔人の主としての威厳は無く、只の父親の姿を見た。
「だいじょうぶなの!めるらーながいっしょにいてくれたから。」
「…めるらーな?」
ギュレイゾルはリゼの目線の先に居た黒髪の少女を視る…、先程其の姿を確認した時に感じた違和感は、まだ残っているままだ、しかし、何となくではあるが、ギュレイゾルは其の違和感が何なのかが感覚だけで理解していた、だからこそ。
「娘、名は何と云う?」
名前を問うた。
「え?えと、メルラーナです、メルラーナ=ユースファスト=ファネル。」
「ファネルッ!?ファネルだと!?」
テイルラッドが言いたかった事は此か!?
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