第37話 …○○○…

知る人が見れば卒倒するのではないかと思われる程の精鋭中の精鋭がその場に集まっていた、ボロテア国内の冒険者ギルドから9次席が3人、内2人はガノフォーレとアンバー、残り一人は別の街で此の依頼を聞きつけて駆けつけて来てくれたそうだ。

次に8次席が35人、エバダフ内から集まった者は18人、残りはそれ以外の街から集まって来たと云う、実際に此れだけ集まってくれたのは奇跡に近いかもな、とガノフォーレさんが言っていた、事実、他の人達は別の任務に追われて来られないのが現状らしい、8次席にも成れば依頼者から指名されて仕事をする事が多いそうだ、それより低い次席でも指名はされるが8次席以上にも成れば仕事の大半は自身が選ぶモノでは無く指名されて受ける様に成るらしい。


次にボロテア国外から集結してくれた冒険者達だが、9次席が2人、8次席23人、計63人の軍隊で言えば中隊クラスの人数の精鋭が此の地下食堂に集まっている事に成る、此の集まって貰った人達は他種族に渡る、人間だけでなくエルフやドワーフ等といった種族が入り混じっていた。

メルラーナは冒険者稼業についてあまり詳しくは無いので此処に集まった人達がどれほど凄いのかは解らないが、少なくとも遺跡で集まったメンバーや鉱山で一緒に戦った冒険者達より強者、と云う事でいいのだろうか?等と考えている次第である。


「さて、皆!良く集まってくれた!」

ガノフォーレが木で作られた荷物を運搬する際に使われる箱の上に昇り食堂内の隅々まで響き渡る程の大声で叫ぶ。

「まず最初に、今回の依頼で集まって頂けた人達は国内だけでなく国外からも集まって来てくれたので共通語であるリースロート語での対話を行うものとするが、リースロート語が解らないと云う者は挙手してくれ!」

ガノフォーレは最初にリースロート語でそう云う内容の言葉を発し、続いてボロテア語、更に周辺国の言語を次々に並べて同じ内容の言葉を発した、が、結局誰も手を挙げる事は無かった。

「よし、流石だな、教養も学んでいる様で何より。」


ガノフォーレは此れから行く冪場所の説明と、何をしに行くか、そして。

「次に君達が護衛する事と成る人物を紹介しよう。」

ガノフォーレが箱から降り、リゼとメルラーナに上に上がって名乗り出る様に促される。

リゼは何が何だか解らない様子で周りを見渡しながら挙動不審になっていたのを、隣で付き添っていたメルラーナが。

「リゼ、自分の名前、言える?」

静かに、優しく語り掛けると、メルラーナを見たリゼは大きく顎を引き頷くと。

「りぜは、りぜっていうの、よ、よろしくおねがいしますなの。」

そう言って頭を下げるリゼを見届けた冒険者達は。

「「おおおおおおおっ!!」」

「「リゼちゃん!可愛いいいいいいっ!!」」

等と男女問わず叫び散らしていた。

「え…っと、メルラーナ=ユースファスト=ファネルといいます、宜しく御願いします。」

「「こっちも可愛いいいいいいいいいい!!」」

…どっちでもいいんかい。

と心の中で突っ込むメルラーナだった。

「ふぁねる?」

ふとリゼが呟くのを隣に居たメルラーナに耳に飛び込んで来た。

「ん?」

リゼはコテン、と小首を傾げてメルラーナを見つめて居る。

「めるらーなは、ふぁねるなの?」

「………ん?」

どう云う意味だ?

「えっと?名前の事かな?そだよ、ファネルは私の真名トゥルーネームで、ユースファストが家名ファミリーネーム。」

「ふーん、じゃあ、めるらーなは、くろ………、あれ?なんだっけ?」

自分で何を言っているのか解らなくなってしまったのか、リゼは左右に首を傾げ乍ら悩み始める。

「くり?…くる?…ちがうの、…くら?………あれ?………………えへへ、わかんなくなっちゃったの。」

満面の笑みを浮かべて反省するリゼの姿に。

何だ!?此の超絶に可愛い生命体はっ!?

其の場に居た全員がそう思ったらしい。


その後、一通りの説明を終えると最後に。

「出発は明日の明朝!融合場所は此処だ!其れまではゆっくり休むなり準備をするなりして寛いでいてくれ!其れと必要な食料の水は此方で用意している、消費物品もだ、基本的には其れ等から使用していって頂きたい、それ以外の物は経費として落とす事が出来ないので注意していてくれ。」

そう締め括られて、其の場を後にした。




翌朝。


物々しい雰囲気の中、メルラーナはリゼと共に馬車に乗って揺られていた。

ガノフォーレも同席している、其の馬車を中心に、周りを囲む様に冒険者達が何時でも戦闘態勢に入れる様にと周囲の警戒を怠る事無く、乗り物に乗って並走していた、走っているのではなく歩いていると言った方が正しい。

エバダフから常闇の森の入り口である街までは早くても5日程掛ると言っていた、メルラーナは馬車で腰をやられる苦い経験をしていた為、少し憂鬱に成っている、何時襲って来るか解らない襲撃者への警戒心で周りが覆われている事が、重い空気を更に重くするのに拍車を掛けていた。

道中、モンスター等に遭遇する事は多々あったが、其処はやはり実績がある冒険者達が揃っていた為か、発見次第抹殺されて行くのだ、襲って来るモンスターのみを相手にしているのだが、理解しているモンスターも居るのか、襲って来ない種もいたりする。


人数が多い所為なのかな?何にせよ、何か楽でいいなぁ。

此れだけの実力を持つ冒険者達の精鋭中の精鋭が集まればモンスターも襲えば自身の身に危険が生じる事を無意識に解っているんだろうな。

そんな事を考えながら小さな窓から外の景色に目を移してみる。


窓の外では大勢の冒険者達が馬や馬車の乗り、思い思いに目的地へと進行していた、…何か、何処かに進軍しているみたいな光景だな。

別に鬼気迫っている様な雰囲気でも無いのに、60人以上の武装した集団が馬に乗って駆けているだけで、何故かそんな事を連想させてしまう。

馬が密集して移動している所為か、景色を見る事は出来ない、が、一瞬の間だったが、其の集団に隙間が出来る、其処から見えたモノは、かつて馬車に乗って移動していた時に見かけた熊の様なモンスターだった。

「ガノフォーレさん、あれ。」

咄嗟に窓の外を指差して、ガノフォーレに見る様に促す。

「ん?どうかしたか?メルラーナ。」

ガノフォーレがメルラーナの指差す方を見る、しかし既に隙間は無く、モンスターの姿は見えなかった。

「ああ、見えなくなっちゃった!今、熊に似たモンスターが見えたんです。」

「ほう?ベノバ、何かの気配は感じるか?」

ガノフォーレは窓の外で馬車の近くを馬に乗っていたベノバに周辺の状況を知らせる様に促す。

「ああ、グレイターゾルなら200メートル付近に居るナ、此方に向かって来ているガ、右翼陣に任せて置けば大丈夫だろウ、あの程度のモンスターなら一人ででも十分倒せるしナ。」

グレイターゾルって云うのか、あの熊のモンスター、て云うか、あれを一人で倒せるものなのか?


「確かエアルがあの熊と飛竜って同じ位の強さだって言ってたけど。」

「エアル?って、あの?アルテミスのエアル?」

「アルテミス?…ああ、そう言えばそんな名前を聞いたような。」

知り合いなのかと尋ねてみるが、冒険者達が一方的にエアルの事を知ってしる様だった、其れだけ有名人と云う事なのだろう、メルラーナはガノフォーレにソルアーノでの出来事を簡潔に説明すると。

「そうか、確かに、其の人の言う通りではないかな、グレイターゾルと飛竜の強さは左程変わらないと思うよ、当時の君の実力がどれほどのモノか、我々には知りえない事だが、少なくとも今の君の力ならば一人でも倒せるんじゃないかな?」

そうは言われても、あの熊と戦った事も無い訳で、はぁ、と頷く事しか出来なかった。


丁度其の時、周りが騒つき始める、外を見るとどうやらグレイターゾルと接触した様だ、しかし、1分も掛る事無く騒ぎは静まった、誰かが倒したのだろう、見てみたかった気持ちはあったが、此れだけ人と馬が密集していては観察する事も叶わなかった、仕方なく視線を馬車の中へと移す。


「そう言えば、アルテミスって何なんですか?」

二つ名なのかな?等と考えていたのだが、気に成ったので尋ねてみる。

「アルテミス…か。」

ガノフォーレは意味ありげに言葉を詰まらせると。

「…此れは、全て噂の類の話なので事実かどうかは知らないのだが。」

と前置きをして語り始める。


「次席、つまりクラスを選定して、与える資格が有るのは冒険者ギルドや、君のよく知る労働者ギルドとは違うギルド、つまり戦士ギルド、ハンターギルド、魔術師ギルド等が我々の次席を認定している組織なんだ、そして其の次席は、我々が知らせれている中では、9次席が最高位とされている、それ以上は存在しない、筈なんだ、けど、まあ、都市伝説と云う奴だな。

噂だけは耳にしていたし、我々の知らない、ずっと昔から存在していると云う話だけは聞かされてはいたのさ、実際に見た者は居ないと云う話だし、当然だが俺も見た事も聞いた事も無い、いや、都市伝説としての噂は勿論、聞いているよ?其れが本当に存在しているかどうかを聞いた事がないのさ。」

ガノフォーレは一呼吸溜めて。


「10次席。」


一言、そう呟いた。


「世界中に知れ渡っている其の噂は、正に伝説と言っても過言ではないだろう、けど意見は様々さ、有ると言う者も居れば無いと言う者も居る、実在すると信じて目指す者も居れば、荒唐無稽だと鼻で嗤って嘲る者も居る。そんな議論が、きっと何十年、何百年と続いたんだろうな、そんな時代に、其の人物は、まるで流星の様に現れ、大陸中の全ギルド関係者を震撼させたと云う、其の人物は冒険者に成ってからたったの1年足らずで9次席まで上り詰めたと云うんだ、当時は確か12~13歳位の少女だったと聞いている、9次席に成ってから数年後、彼女は何時の間にかアルテミスと云う二つ名で呼ばれていた、其の名が大陸中に知れ渡る頃には、こんな噂が流れ始めていた。」


「アルテミスこそが、10次席のクラス名ではないのか?………と。」



少し時間が遡り。


リースロート王国。


とある一室の扉の前に、青いフルプレートを纏った人物が立っていた。

青いフルプレートを纏っている女性の様な顔の男性が豪華な装飾を施された扉を軽く2度叩く。


コンコン。


「殿下、フィリアです、少し宜しいでしょうか?」

扉の向こう側から返事が返ってくる。

「フィリア?どうぞ。」

「失礼します。」

フィリアと名乗ったフルプレートの男性は部屋の中からの声に返事を返し、扉を開いて部屋の中へと入って行った。

部屋の中では薄紫の長い髪に深い青色の瞳をした、整った美しい顔立ちをしている女性が机に向かって何かの書類と向き合っており、其の周囲には女性の補佐と思われる人が3人と、メイドの恰好をした人が2人、部屋の中を忙しなく動き回っていた、女性は手に持っていた筆を止めて机の上に置き、部屋に入って来たフィリアに声を掛ける。

「どうかしましたか?」

「はい、例の少女、メルラーナ=ユースファスト=ファネルの事ですが、情報によるとどうやら常闇の森に向かう様です。」

フィリアの言葉を聞いた女性は瞳を点にして。

「………はい?」

間の抜けた返事をした。

更に少しの間、時間にして数秒なのだが、考え込む様な仕草をして黙り、再び。

「え?何で?何をしにあんな危険な場所へ行くのか理解が出来ないのだけれど?…何か理由があるのかしら?」

「其の理由なのですが、調べた所、どうやらギュレイゾル=アークレー=ラスタウォレスザンバード卿が係わっている様です。」

「え?ギュレイゾル卿?」

女性は顎に手を添えて考え込む。


王家との契約で無害な人には手を出さない様に魔人との協定を結んでいる筈なのに、何故、何時、何処で、どうやって彼女と関わりを持ったのかしら?卿は魔人族の中でもかなりの権力を持つ有力者の一人だけれど、何か怒らせる様な事を仕出かしたとか?卿は癇癪持ちな方だし。

「…まさか、ガウ=フォルネスの情報が何処からか漏れたのかしら?其れとも、…真名を勘付かれた?」

「いえ、其れは無いと思われます、恐らくですが…。」

フィリアは女性に簡潔に事件の詳細を伝えると。


「…そう、トムスラルと武器商人が…ね、其の事件の所為で彼女が森に向かう事になったのなら、余計な事をしてくれたものですね、いっその事、私が迎えに行きましょうか。」

「止めて下さい、いや、本当に止めて下さい。」

フィリアは焦って女性の発言に抗議する。

「冗談ですよ、冗談、でも此れで彼女メルラーナの存在が卿に知られる事に成るのは時間の問題ですね、ガウ=フォルネスの事も、ファネルの名を彼女が継いでいる事も、ふぅ、………先が思いやられてしまいますね。」

メルラーナの真名を聞いて、卿が動き出す様な事態に成れば、其れこそ大陸中に住む魔人達にどんな影響を及ぼすか、想像に難くないわね。


女性は机に肘を付き、頭を抱えて俯く、魔人は人種と同様に世界中に生息している、シルスファーナ大陸でも大きく分けて14の部族に分かれており、ギュレイゾル=アークレー=ラスタウォレスザンバード卿は其の内の一つの部族を纏めている一人である、特に常闇の森は魔人族の中でも特別な場所とされており、纏め役が4人存在する、彼等は魔人達の長の中でも別格の存在と言え、内の一人である卿とメルラーナが接触すれば間違いなく其の存在が大陸中の魔人達に知れ渡る事になるだろう、其れは女性からすれば避けたい事柄なのではあるが、そう云う事態になってしまった以上、避ける事は出来ないかもれない。


「…殿下。」

フィリアは自らの頭を抱えている女性を心配そうに近寄ろうとしたが。

「フィリア。」

「はいっ!」

突然名前を呼ばれ、背筋を伸ばし敬礼をして、女性の話を聞く体勢を取る。

「エアルって、今は確かトムスラル国に居ますよね?」

「はい、現在、冒険者としてあの国の行く末を見守っています、必要と有らば手段を択ばぬ様に共、伝えています。」

「そう、では直ぐにエアルに連絡を入れて貰えますか?内容は、…そうですね、件の武器商人を見つけ出して洗い浚い調べ上げて、二度と馬鹿な真似が出来ない様に徹底的に潰してしまいなさい。…と。」

其れは既に意味の無い行動だろう、事は動き出してしまったのだ、しかし自分達の行った行動に対してのケジメと云うモノは受けて貰わなくてはならない。


「其れと、間違いなくトムスラル国の王族も其の件に係わっている筈ですから、証拠を掴み次第、冒険者側に付いている政府の人間に情報を流してあげて下さい、後は本当に国の行く末を想っている彼等が何とかするでしょう、エアルの任務は其処で終了とします、早く此方の任務に戻って貰わないと。

それにしてもあの国の冒険者達も大変ですね、反乱に巻き込まれた挙句に圧力まで掛けられているのだから。」

「了解しました、けど宜しいのですか?レシャーティンの残党がまだ残っている可能性も…。」

フィリアはレシャーティンの八鬼将が持っているであろう欠片に対して、並みの冒険者達では太刀打ち出来ないであろう事を示唆しているのだが。

「其の心配は無いでしょう。」

女性はあっさりと否定した。

「理由は三つ、一つ目はあのトムスラルはレシャーティンにとって只の実験場でしかない事、留まる理由が有りません、彼等の目的の一つは四大国家を潰す事でしょう?つまり、狙いは此処リースロート、トムスラルを拠点にするには距離が有り過ぎます、次に彼等は既にガウ=フォルネスがメルラーナの手に有る事を認知しています、トムスラル国を実験場に選んだ理由其の物があの国から消えた以上、標的はメルラーナに移っているでしょう、だから護衛を付けていた訳ですしね、最後に、フィリア、貴方たち兄妹は、自分達より格下と思う人達を過小評価し過ぎるきらいがありますね、余り上ばかり見続けていると、何時か足元を巣くわれますよ?彼等は強い、貴方たちが思っている以上にね、大丈夫ですよ、心配ありません。

何よりも、これ以上私達が介入するのはあの国にとっても良い事には成らないでしょう。」

女性は、トムスラルの冒険者とまともな政府の人間だけで十分に対処出来る、と言っているのだ。

「出過ぎた発言をしてしまいました、申し訳ありません。」

頭を下げて自らの主人に謝罪の意を表すると。

「いいのですよ、ああ、エアルには一度帰国する様に伝えておいて下さいね。」

「了解しました、それともう一つ。」

「?」

「何時まで黙っておくつもりなのですか?メルラーナ=ユースファスト=ファネルに…。」

フィリアは意味深な言葉を口に出す。

「………それは、何についてかしら?」

「え?」

「ガウ=フォルネスの事?今其れを知った所で、何も出来ないし何も決められないでしょう?何より、彼女自身に気付いて貰う事が一番重要なのだし。

其れとも私の事?まあ、其の辺りは教えても問題は無いでしょうけれど、特に話しておく冪事柄でもないのではないかしら?何より、知った所で何も出来ないでしょう?彼女も、私達も、ね。

ジルの事なんて実の父親なのだから今更でしょうし、エアルの事なら、冒険者と関わればそれとなく知れる事でしょう。

テッドとはまだ会ってはいない?筈だし?アルフなら…うん、其処はそっとしといてあげましょう。

…ああ、欠片の事かしら?でも彼女、まだ欠片の存在には気付いていないのではなくて?なら孰れ知る事となるでしょうし、態々教える必要も無いわよね?」

「あ、いや、その。」

主人の一切反論を言わせない雰囲気に、全身に冷や汗をかき乍ら狼狽えるフィリア。

「其れとも…。」

女性は此の話を強制的に終わらせる様に、最後の一言を口にする。




「………………の事かしら?」




「そ、其れは…。」

「其れでも無いとしたら、私のやり方に不服でも有るのかしら?」

女性はフィリアを見上げて目を細め、怪しい笑みを浮かべてみる。

「い!いえ!出過ぎた発言を致しました!申し訳御座いません!し、失礼します!」

そう言って、フィリアは一礼をして部屋を後にした。


「クスクス、少し意地悪が過ぎたかしら?…其れにしても、………ふぅ。」

女性は溜息を付いて、椅子の背もたれに凭れ掛る。

どうしたものかしらね。と云うかあのエルフ『ボロテアに居る間は彼女の護衛は任せておいてくれ給え』とか言ってた癖に、大陸中で一番危険な場所に向かう事態を止められなかったのかしら?…若しくは止めなかった?万が一にも冒険者達が魔人と一戦を交える様な事態にでも成れば、間違いなく全滅するわよね、其れだけは絶対に避けなければならないのだけれど、…相手はあの卿だしなぁ、…魔人が相手だと並みの人員では歯が立たないし、一人の為に大事な戦力を裂く訳にも行かないし、いっその事、私が出向いて…、って、先程フィリアに注意されたばかりだし、と云うか、陛下の許可が降りる訳が無いし、まあ、冒険者達も馬鹿ではないのだから、勝てない相手に戦いを吹っ掛ける様な阿保な真似はしないだろうけど、心配だわ、本当に任せっぱなしで大丈夫かしら?うぅ、考えれば考える程胃が痛くなってきた。

本当にもう、どうしたものかしら、此れは。


そんな事を考えていると、女性の机に男性が大量の紙の束がどっさりと置かれた。

「殿下、此れは先日、防衛省が提示して来た航空防衛の強化補正案を実行した際に生じる人事と其の他に掛る費用を纏めた書類です、全てに目を御通し頂き、間違いが無ければ全ての書類にサインを御願いします。」

続いて別の男性が女性の机に先程と同じ位の量の紙束を置くと。

「殿下、交通省が提案していた交通網の拡大の案件に対する自然保護団体から届いた抗議の内容を書類に書き起こしたものの中で、はっきりと明確な内容のものだけを選び出して纏めた書類です、全て目を通して頂いた上で、交通省との対談に使う書類を作る為の案と許可の進呈を御願い致します。」


目の前の置かれた大量の書類に、青い瞳を点にした女性は。


「…本当にもう、どうしたものかしら、此れは。」

と呟いていた。


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