番外 22_拠点は郊外の借家
お久しぶりです
まだ最後までは書けて無いのですが、とりあえず書き溜めの内の10話分ほど、1日に1話ずつ投稿しようと思います
あと本当は番外は短く終わるつもりだったので副題を付けてませんでしたが、やたらと話数が増えて、正直書いてる私が確認の為に読み返したくてもどこか分からない……という状況なので、地道に付けていきたいと思います
読みながら付けるので時間がかかります、ついでに本文で気になったところも軽く修正していきます(大筋に変更はありません)
久しぶりの投稿が説明回で申し訳ないのですが、よければお付き合いください
──────────
「さっき王家から通達があった!
ギルド職員の言葉を聞いて、魔法士ギルド練習場は騒然となった。
魔王って実在したのか!? 特別パーティーってなんだ!? 二週間後ってなんだよ、もっと早く言えよ! と大声で騒ぐ中に、討伐対象の魔王をセイだと勘違いして、“無害”相手に人間が勝てるわけねぇだろ国の方が潰れるぞ! よし、俺は“無害”に付くぜ。俺もだ!! などという不穏な声も上がり、場は大混乱。
本部長たちは職員と見学者を静かにさせつつ、セイには「パレードそのものの準備は王都の奴らがやるだろうが、平民街を通る時の整備や当日の警備の準備などをやらなければならない。我々はこれから非常に多忙になる。“無害”の魔法練習はしばらく縮小で」と歯軋りをしながら伝えてきた。
セイは手伝いを申し出たが、「お前の……
よって、手伝いどころか、セイたちだけ早めに帰るよう要請されたのだった。
・◇・◇・◇・
「これからめちゃくちゃ忙しくなるのに、僕の魔法練習、中止じゃなくて縮小なんだね。大丈夫なのかな」
「どうせ向こうがセイの魔法を見れないのが我慢できないってだけでしょ。結局さぁ、何かにつけ、ぜーんぶ向こう側の都合ばっかりだよねぇ。それってどうかと思うんだけどー?」
セイの膝の上で、長い耳をぴこぴこと忙しなく動かしながら、コテンがボヤく。
「まあまあ。ぼくたちがまだまだこの世界の常識に疎いのは事実ですから。もうちょっとだけ利用されてるフリして利用して、相手が調子に乗ったらすぐに切り捨てる方向でいきましょう」
キナコはコテン相手だと不穏な言い方を自重しない。どうして……。内心首を傾げながら、コテンとキナコを宥めるように撫でた。
──練習場を出たセイたちは、ウグスの所に寄ってから、拠点にしている家に帰宅し、今はソファーで寛いでいる。
セイたちは早い段階で宿暮らしを止め、郊外にある一軒家を借りていた。
家はほぼ森の中みたいな場所で、周囲に民家が無く、庭が広い。大きめの家と、小さめ──とは言っても平民街の普通の民家よりよほど立派な造りだ──が、渡り廊下で繋がっている。住居用にした大きめの方の家は、一部屋が広く、天井が高く、窓も大きく、ロウサンも余裕で一緒に住める。
賃貸なのに、庭も家も好きなように自由に思うがまま改装なり改造なりして良いわよと、この物件を紹介した従魔士ギルドの本部長はニッコニコの笑顔で言った。
そしてセイたちは本当に好き勝手に改造し、住んでいる。
セイに撫でられてコテンとキナコがぐでーん……と溶けていると、ロウサンが顔を寄せてきた。ロウサンの大きい顏の眉間のあたりを掻くようにして撫でた。
「ロウサンくん、お疲れ様。今日はどこまで行ってたの?」
『魔領域全域を軽く視察して来たよ。想像していたよりも範囲が広いね。それに、やはり奥の方に居る個体はどれも攻撃力が高い。浅い所は、弱い個体ばかりだけれど数が多い。魔領域全域を完全制圧するには、範囲の広さと種族の多さ、個体数の多さから考えて、予想よりも日数がかかりそうなんだ』
(──……? なんて?)
困惑でロウサンを撫でる手が止まった。
『とりあえず今日のところは様子見で、角が三本ある狼型魔獣の群れと、巨大蜘蛛の魔獣一体だけを制圧してきたよ。明日からはもっと本気出して行くから、その達成状況を見て完全制圧にかかる日数の目算を立てるよ。分かり次第報告するから、もう少し待ってくれるかい?』
「いや、あの……え? というか、しなくて良いんだけど。待って。……なんで?」
聞き間違いじゃなかった。魔領域全域の制圧ってなんだ。どうしてそうなった。誰がそんな事を言った。
確かに昨日の夜、セイはロウサンに魔領域深層についての話はした。しかしそれは「危険な場所みたいだから近付かない方が良いよ」という、随分と遠出をしているらしきロウサンへの、アドバイスのつもりだった。
そこから何がどうなって、完全制圧なんて恐ろしい発想になってしまったのか。
動揺して固まるセイに、ロウサンは知性の高さを感じさせつつも慈愛に満ちた眼差しを向けた。
『セイくんは魔獣対策の為にこの世界に喚ばれたんだろう? ならばいずれ魔領域へ行く可能性がある。可能性が僅かでもあるのなら、理由はそれで充分だよ。短時間で急に魔領域全ての魔獣を制圧するのは俺でも難しいからね。だから、魔領域のどこに、いつ行く事になっても大丈夫なよう、今から計画的に整えていくよ』
「いやいやいや、ちょっと待って、必要無いから、本当に。……後で冷静に話し合おう」
キナコが身を起こし聞き耳を立てているせいで、ボカした言い方しか出来ない。
ロウサンの言葉が自分にしか聞こえなくて助かった。もしも魔領域制圧計画を知ったら、カワウソコンビが一瞬の躊躇いも無く「よっしゃほんなら俺らも行こか!」と立ち上がるのが目に見えている。人目が無いならとシロも参戦するだろう。
セイの脳内を「
仲間の幻獣たちの攻撃力が異常なんであって、この世界的には魔領域深層に生息しているのは、一頭で街を全壊させる能力を持った凶悪な魔獣だ。それが多数いて、しかも未知の領域。そんな場所を迂闊に制圧完了なんぞしてしまったら、後でどんな影響が出るか……。
(こっわ。無理だ、責任取れない。心の底からやめてほしい)
いつもならセイと一緒に、後先考えずに興味本位で突っ走る面々を宥めてくれるキナコが、この世界では煽る側に回ってしまっているのが、非常に痛い。
夜になったらロウサンと二人だけの時間を作って、強く止めよう。今は、話を逸らそう。
「そ、それより、そんなに遠出して色々やらかしてたんなら、神気だいぶ減ったんじゃないの? 明日は家で休んで、神気を補充した方が良いんじゃないかな」
『神気量なら全然問題無いよ。セイくんが神気を増やしてくれたからね。余裕で戦えるよ』
「それなら、良かったよ……」
良かったような、休んで欲しかったような。複雑な気持ちで、机の上にある小さな植木鉢を見つめた。
宿屋生活を止めて、自分たちだけの一軒家生活に変えた理由の一つが、コレだった。
元の世界の幻獣たちは、神気を摂取して力とし、特殊能力を行使する。しかしこの世界の神気は、幻獣たちには全然足りない。
ロウサンが王都外の森で、この世界の人間に姿を見られてしまったのも、彼が所持使用していたカクレギノネコのヒゲの神気が不足し、姿を隠す能力が使えなくなっていたからだった。
元の世界では
幻獣たちにとって神気不足は死活問題だ。
そこでセイたちは元の世界から持ってきていた小さな神樹を、植木鉢で育てることにした。出来るだけ影響の少ない木を選んだが、この世界には無い貴重な神樹である事に間違いは無く。宿屋で育てるなど以ての外。
他にも見られて困るものが多々有り、予定よりも早く多くお金も稼げたし、さらにちょうど街の外れに大型従魔と一緒に住める空き家があるということで、満場一致で引っ越しを決めた。
敷地全体には軽く、家には念入りにコテンが結界を張った。
『んふっふー、セイおにいさんとシロの〜、おそろいの輪っか、輪っかっか〜、きらきらの輪っか〜おおお〜、ふんふーん』
見られては困るもの上位のシロも、結界でガッチガチに守った家の中でなら腕輪の擬態を解き、本性の龍形で過ごせる。
今も深皿の中で、セイが【
尻尾の先の丸平べったい部分の付け根には、セイとお揃いの魔力環。色は
そのキナコの腕には銀縁で瑠璃色の従魔環。アズキの腕には金縁真紅。従魔契約の時は小さくして、カワウソの細い腕に嵌めたが、指輪サイズでもやはり目立ってしまった。だから普段はお腹のポッケに仕舞っておいて、身内の場でだけ着けると決めたようだった。今は家なので着けている。
(それはそれで、困った事になりそうなんだけどな……)
従魔契約の後にあった騒動を思い出す。
契約の場に出なかった子たちも「セイとお揃いの輪っか」を欲しがって、涙を流し続けたり連続肉球パンチ食らわせてきたりポケットの中で暴れたり何だったりと、大変だったのだ。
でもまぁ、気持ちは分かる……という事で、素魔環を買ってきて、それぞれ希望の色でセイがお揃いの魔力環を作って渡した。当然セイも、幻獣の数だけ腕に着けている。
輪っかを貰ったシロは超ご機嫌で、しょっちゅう「だいすきなセイおにいさんとおそろいの輪っか」の自作の歌を歌って、尻尾をふりふりさせていた。帰ったら当然見せびらかすだろう。
(となると、
シロだけなら、あるいはカワウソたちとだけならば大丈夫だろうが、ここに居る幻獣たち全員とお揃いの輪っかをしているとバレたら、知った端から、自分も! と言われる未来しか見えない。
色を入れられる輪っか自体は他の何かで代用できるにしても──頼めばきっと竜人族が張り切って作ってくれる──問題は、数だ。
諸事情によりセイは元から腕輪をたくさん着けている。その上、もしも幻獣の数だけ輪っかを増やすことになったら……。
(両腕が肩近くまでビッシリ腕輪まみれになりそうだな。そんな姿で外に出る勇気、僕には無いよ……)
左腕を持ち上げ、いつもは袖の中に隠してある腕輪や魔環を見ると、既に手首から肘近くまで迫っている。マズイ。軽いけど肘を越えるとさすがに邪魔だ。帰るまでには対策しなければ。
とりあえず、この世界にいる間はこれ以上増えないだろうけど。多分。……多分。
こうして購入した素魔環のいくつかは表に出てない幻獣たちの魔力環に。残りはアズキの
今もアズキは素魔環と他の素材を使って、魔道具作りに熱中している。
「アズキくん、今日派手に魔法使ってたろ。忘れない内に魔力補充するよ」
「んー……」
「セイくん、大丈夫です。自前の魔力で賄えてますよ。魔力環に吸い取られてる感じは無いです」
「でも念の為ね、一応ね。首触るよー」
「んー」
生返事のアズキに代わってキナコが大丈夫とは言ったけれども、アズキの首輪になっている魔力環へセイは魔力を慎重に注入していく。
魔力を中に注入する方法は基本的に3つ。魔道具士ギルドの専用の道具から。魔力量Sランクの魔法士の手から。
そして、魔獣から。
この世界の従魔たちが魔力環を着けているのは、彼ら自身が臨時の魔力として使う為ではない。魔力を魔環に吸い出す為に、装着させられているのだ。
当の魔獣たちが『少しずつしか減らないから負担は無い』と言っていても、セイは気にした。フル充填されればそれ以上は吸い出されないと聞いて、自分の仲間たちの魔力環には、セイが自分の魔力を入れまくるようにしている。
毎日工夫をしながら限界以上に魔力を入れているせいで、魔力環としての常識を遥かに超えたブツになっているのだが、セイは気が付いていない。正確に言えば、気が付つかないようギルドの人間たちが黙っている。そして魔力環の変化を、静かに、ギラギラした目で見守っている……。
セイはいつも通り、幻獣みんなの魔力環に、中の造りを組み直し隙間を潰すようにして魔力を入れた。
それからみんなで食事して、部屋の一室を潰して浴室に造り変えた大きな湯船で風呂を済ませた。居間で思い思いに過ごしていると、とっくに真っ暗闇になっている家の外から、コン、コン、コンとノック音が。
「セイお兄様、私ですっ。お久しぶりですー!」
幼女女神ガッシーの声だった。
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