Case 2-11.The artist is.

 十数分後。駅のすぐそばにある市民ホールの一室――展覧会の会場に到着した。

 入口で簡単な受付を済ませ、中に入る。空調の風が汗の引いた首に当たって少し肌寒い。


「美術部の展示は、奥の方みたいですね」


 受付近くにあった地図を見てから、俺と部長は歩く。


 小学生が授業で描いたのだろうか、クレヨンで描かれた色鮮やかな家族の絵。対照的に、白と黒だけで表現された水墨画。上手い下手とか、そういう二択では計り知れない思いが、それぞれの絵には込められている気がした。

 パーテーションで区切られ、ちょっとだけ迷路みたいになった会場内を進んでいく。


「そういえば、高座たかくらはコンクールで天川あまかわ先輩の絵を見たから美術部に入部したって言ってましたね」


 今日のは展覧会だから、厳密にはコンクールとは違うのだろうけど。


晴人はるとくんが天文部に入部したのは、屋上で星を見たかったからよね。夜の学校に忍び込んじゃうほど」

「あれはまあ、若気の至りといいますか」


 今になって考えたら、入学前によくあんなことをやったものだ。下手すれば合格取り消しになったりしていたかもしれないのに。若さゆえの過ちというやつかもしれない。


「そういう部長だって、星を見るのが好きだから天文部に入ったんじゃないんですか?」


 あの夜、同じように屋上にいたんだし。まあ、今やってる活動は天文部のそれとはかけ離れているけど。


「私は、そうね……」


 すう、と部長の目が細くなるのが見えてたと思ったら、


「待つため、かしら」

「待つため?」


 予想外の答えだ。というか意味がよくわからない。


「待つって何を」

「晴人くん」


 訊こうとしたところで、部長がパーテーションの迷路の奥を指さした。


「あれじゃないかしら? 二人の絵」

「え?」


 指の先には、俺たちの高校名が表示されて、その横に二枚の風景画が並んでいる。

 展示場所まで近づいて、少しだけ見上げるように、二枚の絵を視界に捉える。


 瞬間。


「「これって……」」


 異口同音。つまり、俺と部長が持った印象は、きっと同じものだ。


 二枚の絵は、並べることでその違いを如実にょじつにあらわす。


 言ってしまえば簡単だ。


 片方の絵は、およそ高校生が描いたとは思えないほど、圧倒的なのだ。

 この絵は、あらゆる要素において他の追随を許していない。少なくとも、こんな町の展覧会で飾っておくような絵じゃない。素人の俺でもそれだけはわかった。


「……」

「……」


 まるで絵が俺たちから言葉を奪い去ったみたいに、二人とも無言になる。

 絵の作者は、天川先輩だった。

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