Case 2-9.New clue

 翌日の昼休み。購買から教室に戻る途中で声をかけられた。


「あ、宵山よいやま君」


 高座たかくらだ。ガタイのいい見た目に反して申し訳なさそうにしている。


「どうかしたのか?」

「いや、その……依頼、どんな感じかなと思って」


 結果報告にはまだ四日残されているが、やっぱり気になるのだろう。


「悪い。経過は話すなって部長に言われててさ」


 天川あまかわ先輩への聞き取りに失敗したこともあって、『諦め屋』の調査は暗礁あんしょうに乗り上げていると言っても過言ではない。部長もさすがに「天川さん本人から聞く方法は考え直そう」と言っていた。

 そんなわけで、今のところ不調です、なんて口が裂けても言えない。まして相手が依頼人となればなおさらだ。


 わかりやすく残念がる高座は肩を落として、


「そっか……」

「ごめんな。でも色々動いてはいるから」


 とりあえず、気休めだけ言っておく。これくらいなら問題ないだろう。


「あ、ありがとう」

「じゃあ俺、教室戻るから――」

「あっ、ちょっと待って」


 もう話す内容もないし教室に戻ろうと足先に力を込めたところで、再び呼び止められた。

 同じように何か言いたげだが、さっきとはまた違う気がする。すると、少し恥ずかしそうな表情を浮かべてから、


「あの、これ……」


 一枚の紙を渡してきた。


「これは?」

「今日から、展覧会やってて。そこに僕と天川先輩の絵が展示されてるんだ。もしかしたら依頼の役に立つかもしれないと思って……」

「ああ、うん……」

「そ、それじゃ」


 足早に離れていき、あっという間に姿が見えなくなった。そりゃそうだろう。恥ずかしいに決まってる。いくら依頼のためだからって。俺なら「自分の絵を見に来てくれ」なんて逆立ちしたって言えない。


 展覧会、ね。


 渡されたチラシに目を落とす。とりあえずスマホで写真を撮ってから、メッセージアプリで部長に送った。別段、黙っておく理由もない。

 と、間髪を入れずにスマホが震える。部長からの返信だった。早すぎだろ。


『早速行きましょう。もちろん晴人くんも来るわよね?』


 拒否権など、俺にあるはずがなかった。

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