Case 1-3.Break in the rainy
珍しく、晴れていた。
しとしと降り続いていた雨は昼過ぎには止み、雨続きだったのが嘘のように夕日が辺り一面をオレンジ一色に染めあげている。
だけど、あちこちに雨の
ともあれ、久しぶりの晴天。それはつまり天文部員である俺にとって、絶好の活動日和。
だというのに。
俺は住宅街のど真ん中にいた。
学校近くの、迷路にも似たその場所を歩き回っていると、人影を視界に捉える。ラフな格好にぎっしりと詰まったビニール袋。どうやら買い物帰りの主婦のようだ。
ゆっくりと歩いている彼女に、
「あの、すみません」
「はい?」
しかし。
「うーん、ごめんなさいね」
そう言って、申し訳なさそうな顔をして、主婦は首を横に数回振る。
まあ、こんな風に謝罪が返ってくるのは予想していた。なにせ、このやりとりは今日一日ですでに十回を超えているから。
会釈をして主婦と別れ、再び歩き始める。制服はいつの間にか、路面に見えるシミと
同じように汗ばんでいて、少し気持ち悪い。
ふと空を見上げれば、西の空の雲間にぼんやりとした輝き。金星だ。もう少し日が沈めば、
せっかく久しぶりに晴れたんだから、学校の屋上で金星の観測でもしたかったなあ。
なんてことをぼんやりと考えていても、俺の身体は屋上じゃなくて住宅街にあるし、やっていることは天文部本来の活動とは一ミリもかすっていない。
なにやってるんだ、俺。
ため息をついて、右手に握られた一枚の写真を見る。でかでかと写っているのは、むすっとした表情の、毛並みのいい猫。
始まりは昨日の放課後。その時のことを頭の片隅で思い出しながら、俺は再び迷路の中を歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます