第64話 噂 side レオナード

「レオ殿下、やっぱナディに密告するのは無いと思うんですよぼく!」


「知るか。密告されるような事をするお前が悪いんだろ、クローヴ」


「それはそうですけどね、世の中には言っちゃいけないことってやっぱりあるでしょう!?」


 朝から僕にぎゃあぎゃあとうるさく絡んでくるのは、この間官能小説を持っていたことが、婚約者のニクラス侯爵令嬢にバレて(まぁ、バラしたのはツェリと僕だが)、しばらくの間口を聞いてもらえなかったというクローヴだ。


「なぁ、クローヴの奴今度は何やったんだ?」


「レオ殿下の側近候補を選ぶ面談の際、官能小説を持ち出して記憶力を示したことが、婚約者にバレたらしいんです。それで、しばらく口を聞いてもらえなかった事に対する八つ当たりを、レオ殿下にしているのです」


「マジか。なんかすげぇ小物だな、クローヴ」


「そこ!聞こえてるからね!」


 ビシッと指を差して、ヒソヒソと2人で会話をしていたルードとリーフにまで噛み付くクローヴ。少し情緒不安定なのではないだろうか。


「まぁ、これに懲りたら次からは変な事をするのはやめるんだな」


「変なことって何さ!」


「自分の胸に手を当てて考えてみろ」


 尚もぎゃあぎゃあ言っているクローヴは放っておくとして。僕はリーフに話しかける。


「リーフ、お祖母様は本当にツェリに正妃教育をして下さるんだよな?」


「えぇ。養父上もそう言っていましたし、間違いないでしょう」


「しかし、まさかリュグナー宰相とバルウィンが忠誠を誓っている王族がお祖母様だったとはな」


「そうだね、ぼくも驚いたよ」


 それはツェリの正妃教育の話が持ち上がった時の事。本来であれば、正妃教育は現正妃陛下である母が行うべきなのだが、母はこれを拒否。予想が出来ていたこととはいえ、さしたる対処法もなかった僕達は、途方にくれた。

 そんな時、救いの手を差し伸べてくれたのがリュグナー宰相とバルウィンの2人だ。彼らは亡くなったとされていた王太后陛下を密かに教会に匿っており、今や両親ですら手が出せない程の派閥を教会内にて築いているのだという。

 僕もまだお祖母様にはお会いしたことがないので、正直ツェリを任せるに値する人物なのかの見極めをしっかりと出来ていないことが不安だが、リュグナー宰相とバルウィンの見る目は確かなので、今は彼らを信じたいと思っている。


「でも、あれだな。レオ殿下のお祖母様が生きてるって話になると、あのきな臭い噂も信憑性を増すな」


「そうだな、できれば事実無根の噂であって欲しいが……」


「こればかりは今さら変えようがありませんからね」


「あとはツェツィーリエ様がレオ殿下のお祖母様に認めてもらうしかないって事だよね」


 3人の側近と4人の協力者を得てから見えてきた王族の闇。その中に、看過できない噂があった。事実で無ければ良いと思いながらも、その噂は調べれば調べる程、形を明確に現してくる。

 そして、その噂の鍵を握る人物が僕のお祖母様である王太后陛下。ただし、彼女は今女性としか面と向かっては会わないらしく、リュグナー宰相もバルウィンも、孫である僕も会うことが出来ない。


 だが、ツェリの正妃教育を買って出てくれたのは、お祖母様の方からだというので、僕達はツェリの働きに密かに期待している。今はまだツェリに正直に全て打ち明ける訳にはいかないので、何も伝えられないが、それでもツェリならば期待に応えてくれるのではないかと感じている。

 まぁ最も、お祖母様にツェリが認められなかったとしても、僕は彼女以外を妃に迎え入れる気はないので、僕も大概ツェリに参っている。



 弟であるアルバートは、今年も学園を卒業出来なかった。民衆の間でも、アルバートに対する密かな不信感がジワジワと、少しずつ、だがゆっくりと波及していっている。

 僕の評判も相変わらずなので、民衆はこの国の未来を憂えているが。


 両親に愛され周囲から愛され、欲しい物は何でも手に入れてきた美貌の弟、アルバート。だが、お前には決して玉座とツェリは渡さない。

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