第992話 上級職ランクアップ! カタリナ編!




「では次は私の番ですわね」


「カタリナも頑張ってくださいね」


 今度はカタリナの番のようだ。

 ロゼッタと入れ替わりで前に出る。


「よろしくお願いしますわゼフィルスさん」


「こちらこそよろしくなカタリナ」


 カタリナは相変わらず清楚。さすがは「侯爵」カテゴリーの持ち主だ。大和撫子のような雰囲気と所作がある。

 リーナとは別方向のお嬢様という感じだ。


「あの猫かぶりはどこまで持つかと思いましたが」


「さすがは侯爵家の姫ですね。見事です」


「そこ、なにか言いましたかしら?」


 ロゼッタとフィナが後ろでこそっと喋っていてカタリナが興味を示していたが、俺には遠くて聞こえなかった。


「こほん。では改めて、ゼフィルスさん、お願いいたしますわ」


「いいのか?」


「もちろんです」


 良し。なら始めよう。


 カタリナは魔法系の侯爵姫。

 俺が伯爵の姫と一緒に探していたカテゴリーと職業ジョブ持ちである。

 理由はもちろんギルドバトル。


 伯爵ほど重要では無いし代用は利くものの、万全を期すならば外せない。

 結界系の職業ジョブの中ではトップクラスの実力を持ち、周囲に巨大結界を張り巡らせて様々な攻撃や侵入から味方や拠点を守ってくれる結界のスペシャリスト。もちろんそれだけではない。


 拠点は伯爵が守る。だがそれだけでは伯爵がやられれば終わりだ。

 ゲーム〈ダン活〉では〈捕獲〉や〈攫う〉なんて行動も出来たので、拠点に侵入、倒せないなら攫えば良いじゃないと伯爵を拉致られて拠点制圧されるなんて戦法も存在した。

 というよりそれが一番楽な攻略方法だった。


 伯爵は攫ってから退場させるほうが断然楽で、退場させれば拠点に召喚された様々なものは解除されてしまう。一時期は如何にして相手の伯爵を攫うかという戦術が横行したほどだ。一瞬のうちにアブダクションされて連れて行かれる伯爵に悲鳴と爆笑が相次いだのだ。


 当然それに対抗すべくすぐに対策がなされた訳だが、もちろんその対策にさらに対策されてあの手この手で伯爵攻略は行なわれた。

 結果、一番有効な伯爵の守りは侯爵ということで多くの支持を集めることになった。


 万全の拠点防衛を目指すのであれば伯爵だけじゃダメだ。

 伯爵を守る侯爵も必要。


 これまでは、この世界では初見だったし対策されないと分かっていたため伯爵だけお披露目。

 Aランク戦の時は援護にフラーミナを配置すれば問題無いと判断していたが、そろそろ対策されるだろうし侯爵が必要だろう。え? 時期尚早? 大丈夫だ。〈ギルバドヨッシャー〉ならきっと対策してくるよ。きっとな。


 さて、では発表する!


「カタリナに就いてほしいのは――【方舟姫はこぶねひめ】だ」


「【方舟姫はこぶねひめ】、ですか?」


 カタリナがキョトンとした顔をした。

 そんな表情でも可愛いのだからすごい。


「聞き慣れない職業ジョブですが、それはいったいどういう職業ジョブなのでしょう?」


 どうやらこの世界では【方舟姫】は知られていないらしい。

 まあ、そうだよな。【深窓の令嬢】ですらあやしいのだからその上級職、特に特殊ルートである【方舟姫】を知っているということはないだろう。

 ということで説明する。


「【方舟姫】は【結界師】系の中でもトップの実力を持っている【深窓の令嬢】の上級職で、これまでと同様結界での防御がメインとなる。【深窓の令嬢】は結界の変形から操作を行なうことが出来た。【方舟姫】はその能力がさらに昇華し、結界を張ったまま移動することが可能になるんだ。さらにギルドバトルでは前後左右斜めにある8マスまで覆える減退されない巨大結界を構築出来、シャロンが作ったあの要塞すら全部包み込んで防御も出来る」


「まあ!」


 ノアの方舟をモチーフにして作られたと言われている【方舟姫】は文字通り防御、躱し、生き延びるに特化した職業ジョブで、特に拠点や人の守り手として優秀だった。

 他にも複数人での脱出にとても優秀。ピンチな仲間の救出なども可能で、結界で包み込んでそのまま回収するので相手にとってはたまらない。いやマジで。


 また、〈馬車〉〈戦車〉カテゴリー装備に対しても移動結界を張ることが可能というビックリな能力を持っている。

〈馬車〉〈戦車〉では『ドライブ』系と回復しか出来ないはずなのに、例外がここに爆誕すると言えばどれだけヤバいか分かるだろうか?


 ゲーム〈ダン活〉では城主伯爵が攫われそうになるとノアの方舟のごとく回収して逃げ去り追撃を阻止する【方舟姫】は非常に頼りになった。

 城主の防衛装置の一つみたいな位置づけだったからな。

 自身で移動結界を張れるので逃げと防御に入られると攻め落とすことが非常に難しい。

 そんな職業ジョブだ。


 俺はそんな説明を交え、どれほど〈エデン〉に貢献できるかを伝えて説得する。

 何しろ、この世界では未知な職業ジョブだ。

 カタリナは侯爵の娘さん。見たことも聞いたことも無い職業ジョブに躊躇してもおかしくはない。しかし、


「理解しましたわ! ではゼフィルスさん、是非私を【方舟姫】にしてくださいませ」


 カタリナは意外にもあっさり了承した。


「いいのか?」


「何を言ってるんですの。私が受け取った恩はこれくらいで返せないほどですわ。もちろん構いません。それに」


「それに?」


「ふふ、内緒ですわ」


「(あれって、ダメだったらゼフィルス君に責任とってもらいますから、とか考えている顔ですよ)」


「(そんなことは許されませんね。教官は私が守ります)」


「(でもゼフィルス君だし、ダメなことには絶対ならないと思うから杞憂きゆうかな)」


 なぜか後ろの3人が集まってこそこそしていた。よく聞き取れない。


 カタリナが言っている恩とは〈転職〉の時、自身に高位職が発現していたのにそれが消えてしまい、途方に暮れていたところを俺が再び【深窓の令嬢】を発現させたことだろう。

 カタリナはアレを大恩と受け止めている節がある。俺としては、そんなに恩に思わなくても良かったのだが、何も言うまい。【方舟姫】は欲しいのだ!


「じゃあカタリナ、これを使ってくれ」


 俺はそう言って〈天廊てんろうの宝玉〉を渡すと、カタリナが一瞬ギラリと光ったような目をした気がした。ん? もう一度カタリナを見るとそこにはいつもと変わらない柔らかい目と微笑みを浮かべている。なんだ、気のせいか。


「では、使いますわ」


天廊てんろうの宝玉〉がサラサラと粒子に変わるとカタリナへと吸い込まれていく。

 お次は〈船を持って〉だが、これは船ならなんでもいい。

 俺は玩具の船を渡しておいた。


「箱の時も思いましたけど。こんなのでよろしいのですね」


「な、簡単だろ?」


 ちなみ〈ダン活〉では水中や水上でのエンカウントは基本的に無いため船は希少だったりする。ヒントが無いと見つからないわけだよ。


〈上級転職チケット〉を持たせ、カタリナは〈竜の像〉に手を置いた。


「あ――ありますわ! ありましたわ! 【方舟姫】!」


「じゃあ、タップで」


「はい!」


 カタリナはそれはそれは良い笑顔で、未知の職業ジョブにも関わらずなんの戸惑いも無くタップした。

【方舟姫】がクローズアップしてカタリナの上に輝く。


 そしてその直後に起こるのはお馴染み、覚醒の光だ。


「「「わ!」」」


「や、やりましたわ!」


 ん? カタリナが男勝りなガッツポーズを取った? いや気のせいか。すぐに手を口に当てておほほと俺に微笑んでいた。清楚系令嬢のカタリナはそんなことはしないだろう。


「新鮮な体験ですわ」


 続いて満面の笑みで片手を胸に当て片手をやや広げ、舞っているようなポーズを取る。

 おお~、覚醒の光のエフェクトも相まって絵になるな~。


「絵になるな~」


 おっと思わず口から飛び出してしまった。


「まあゼフィルスさんったら。うふふ、でも嬉しいです」


 カタリナが喜んでくれたようなので良しとしよう。

 そろそろエフェクトが収まる。

 地面に足が突き、少し残念そうな表情しているカタリナに、俺は励ますように言う。


「これでカタリナも上級職だ。おめでとう。拠点の守りを頼むぞ!」


「はい! お任せくださいませ! 全力でお応えしますわゼフィルスさん!」




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