第十九章 ランク6ダンジョン突入! 踏み込め、五段階目ツリー!

第908話 アルストリアさんとシレイアさんを勧誘だ!




 季節は冬。本格的に寒さが到来しつつある今日この頃。

 Bランク戦ギルドバトルに勝ち、〈エデン〉がBランクギルドへと昇格して打ち上げに騒いだのが昨日のこと。今日は12月8日の日曜日だ。


「今日は寒いな~」


「だね~、吐く息が白くなっちゃうもん」


 今日も朝からハンナが朝ごはんを持ってきてくれたので2人でいただき、いつもの通りギルドハウスへと向かっているところだ。

 12月になってから少しずつ冷えてきて冬が近いと思ったらいきなり寒くなった、今日はもう朝から白い息が出ている。本格的な冬の到来は後1週間後からと見込まれているが、もう本格的な冬に入っているだろと思う。


 俺はコートのポケットに手を突っ込み、ハンナが可愛らしいピンクのミトン手袋を暖かそうに着けている光景を目で楽しむ。俺はモコモコ系大好き派だ。冬に着るモコモコ暖かい装備は最強だと思うんだよ。異論は認めるけど。


「夏はそんな暑いって感じなかったんだがなぁ」


「? そうかな? 私は夏も十分暑いと思うけど」


 おっといけないいけない。この世界の住人には分からない話をしてしまった。


〈ダン活〉の世界の夏と冬は前世よりも柔らかい。

 夏は高くて30度くらいまでしか上がらないし冬は雪も降らない温度だからだ。

 俺からすれば夏が涼しいのはかなり助かっている。冬は着込めば凌げるが、夏は薄着になるにしたって限度があるからな。というわけで俺は冬派だ。


 とはいえ寒いことは寒いのでやや早足でギルドへと向かう。


「そうだハンナ、昨日言ったかも知れないが、早ければ1週間くらいでBランクギルドに引っ越すかもしれないから錬金工房の荷造りはしっかりな」


「もちろんだよ! Bランクのギルドハウスか~、なんか楽しみだね!」


「遅ければテスト明けに引っ越すこともあるかもって聞いたから、もしかしたらすぐにAランクギルドハウスに引越しするかもしれないけどな」


 冬休みには学園主催、上位ギルドの席取りバトル〈拠点落とし〉が開催される。

 俺たち〈エデン〉もBランクになったことでAランク戦への出場権を得た形だ。

 Bランクギルドハウスに引っ越したら、すぐにAランク戦なので、早ければ数日でBランクギルドハウスとはお別れになってしまうかもしれない。


「う~ん、そうなると荷解きと荷造りがまた大変だな~」


「ま、俺も手伝うさ。さて、我がギルドに到着だ」


 今の拠点Cランクギルドハウスに到着すると、俺たちは中に入る。

 いつも通り大部屋に到着すると暖かい空気が俺たちを迎え入れてくれた。


「みんなおはよう! 昨日ぶりだな!」


「おはようゼフィルス、ハンナ。今日は早いわね」


「シエラさん、おはようございます!」


 大部屋にいたのは、シエラの他にマリア、メリーナ先輩、サトル、セレスタンだった。

 軽くみんなに朝の挨拶をして、俺は神棚の〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にも手を合わせる。

 お祈りは大事なことなのだ。


「今日は集まりが少ないんですね」


「昨日の今日だしね。まだ時間も早いから、もうちょっとしたら集まるのではないかしら?」


 ハンナとシエラが雑談を交わす。

 昨日は打ち上げで夜遅くまで騒いだからな。まだ寝ているメンバーもひょっとしたらいるかもしれない。


 するとさらに2人ほどギルドに入ってきた。ハンナと同じ〈錬金術課〉のアルストリアさんとシレイアさんだ。


「おはようございますわ」


「おはよう、です!」


「あ、アルストリアさん、シレイアさんおはようございます!」


 早速ハンナが駆け寄る。この2人とマリアたちは〈エデン店〉の従業員なので朝が少し早いのだ。売り物が足りなければ2階の錬金工房で作製したりもする。

 つい先日学園から正式に発表されたギルドを増やす話によって最近はギルドバトルが活発化していた。つられるように〈エデン店〉の売り上げも急速に伸びているとのことで、ここのところ2人は毎日〈エデン店〉で働いている。


「この部屋は暖かいですわね。あ、ハンナさんが作られたそれのおかげでしょうか?」


「はい。そうなんです。寒くなってきたので取り付けてみました」


「暖かいです。すごく暖かいです」


 3人はすぐに談笑、話題は大部屋の隅にあるとあるインテリアアイテムに注がれていた。

 シレイアさんなんてそれに駆け寄ると手を翳して暖を取るほどだ。


 そのアイテムとは白一色で石製、見た目は祈りを捧げる対象と言われても納得するような美しい女神の像だ。

 その能力はギルドを熱帯に近い過ごしやすく暖かな環境にするという効果。


 その名も――〈あねたい〉だ。


 姉の体は温かい。つまりそういうことだ。

 まるで姉に包まれているような暖かな環境を提供するアイテムとして、ゲームではただのインテリア扱いでプレイヤーからは「そうか、亜熱帯って本当はこう書くのか!」「知らなかったぜ。さすがは開発陣だ」「姉ー様姉ー様!」「早速姉の体に突撃してきます!(逮捕)」「通報する前に逮捕されてる!?」とか言われていたネタアイテムだったが、リアルでは超重宝している。これが本当に暖かいんだ。


 ちなみに夏バージョンは〈秘書置ひしょち〉という。

 秘書はクール。つまりそういうことだ。


 過ごしやすい空間に感謝しつつ、俺は3人の元へと向かう。


「アルストリアさん、シレイアさん、ちょっと話をいいだろうか?」


「はい。もちろん構いませんわ」


「ひゃい!? なんでしょう!」


 冷静に見えて、少し堅さの残るアルストリアさんと緊張マックスのシレイアさんがこっちを向く。

 俺は安心させるよう、努めて優しい声で話しかける。


「そう緊張しないで聞いてくれ。最近上級アイテムの需要が爆発的に増えているのは知っていると思う」


「はい。把握しておりますわ。おかげで今〈エデン店〉ではまた長蛇の列ができておりますわよ」


「は、はい! 今日も全員勤務です! 売り切れも出そうな勢いです!」


「いつも〈エデン店〉に協力してもらってありがとうな。そう、今シレイアさんが言ったとおり、ちょっと売り切れが出そうなほど売れている。まあ実際は売り切れそうになったらハンナが補充するので売り切れは無いだろうが」


「ですわね」


「は、はい!」


 もう毎日のように需要が増えるのに対し、アイテムの供給者は未だハンナ1人だ。

〈青空と女神〉ギルドでもソフィ先輩を【マスター・アイテム】に〈上級転職ランクアップ〉してもらったが、準備が整うまでには時間が掛かることだろう。

 ハンナが居れば〈エデン店〉で売り切れ品薄なんて事態にはならないだろうが、逆に言えばハンナが抜けた瞬間ピンチになるということでもある。


 そのことを言うとアルストリアさんが頷く。


「現在、上級生産職が圧倒的に足りていないことは、分かっておりますが……」


 そこから俺が話しかけたことにどう繋がるのか、首を傾げるアルストリアさん。

 ハンナには俺の隣に来てもらって、アルストリアさんたちに告げる。


「実は近い将来〈上級転職チケット〉に余裕ができそうでな。もし良かったら2人とも、上級職になってみないか? もちろん〈エデン〉の専属として」


「「!!」」


 2人はハンナと同じクラスの次席と三席だ。にも関わらずまだギルドに加入していないらしい。いや〈生徒会〉メンバーなんだっけ? つまり優秀ということだ。

 これはチャンスだろう。

〈エデン〉に加入しなくても全然構わないので、〈エデン〉と専属契約を結べないかと俺は話を持ちかけたのだった。




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