第901話 アイギス救出。――何この幼女、強いんだけど。




「撤退だーーーー!!」


「今度は逃げられないぜ! 『ソニックソード』!」


「逃げろロード弟!」


「道を切り開けなのだ――『とんずらダッシュ』!」


「『八装填はちそうてん散弾弾幕だんまく』!」


「『特製爆弾投げナイフ』!」


「『降魔のギロチン』!」


「なぎ払ってくださいませ。――『トニトルス・ハザード』!」


「逃がすか――『グラビティ・アトラクション』!」


〈カッターオブパイレーツ〉は即撤退を選んだ。即でその判断はさすがとしか言いようがない。

 俺は『ソニックソード』で素早くロード弟に近づこうとするが、なぜか全員が俺狙いでそれを妨害する。その連続散弾の壁はさすがに避けられねぇわ。


 俺はスキルが強制中断させられてしまったため盾を前に構えつつ体勢を低く取る。

 そこへ【悪の女幹部】女子が爆弾ナイフを投げ、【エクスキューショナー】男子が複数のギロチンを落としてきた。

 まあ、ナイフもギロチンもシェリアが放った雷の雨で全部なぎ払われてしまったが。っていうかシェリア、今俺ごと攻撃しなかった? ちょっとダメージ受けたぞ!? なぎ払えって聞こえた気がした、気のせいだと信じたい。


 メルトは指向性のブラックホールでロード弟を逃がさないようにするが。


「そこだ、『ハイパーカッター船投げ』!」


「む!」


 そこへアギドンが手こぎボートを巨大化して投げる。

『グラビティ・アトラクション』に命中し、相殺されてしまった。


「なら、眠れ『コールドスリープ』!」


「これは〈睡眠〉か! だが、そんなものは効かん!」


「! こいつら高い『睡眠耐性』を全員が持ってるのか!」


 即座にメルトが〈四ツリ〉の〈睡眠〉状態異常攻撃を放った。

 しかし、これは全員が無効化した。Bランクギルドは伊達ではない。全員が高い『睡眠耐性』装備を保持しているようだ。やるな!


 俺は低い体勢から飛び交う攻撃を潜り抜けるようにして走り、そのままロード弟へ向かうが、そこへ黒コートを着る【エクスキューショナー】男子が身体を張って阻んできた。


「行かせん――」


「『聖剣』!」


「――ぐはぁ!?」


 即で斬る。

 俺の前に出てくるとは、なかなかやるじゃないか。

 ロード弟はその隙に逃げに入り、俺では追いつけなくなっていた。うーん、やっぱり五段階目ツリーが欲しい。

 仕方ない。あっちは追いかけているエステルとパメラに任せよう。

 俺はこの上級賊職たちを相手にする。


「まだまだ行くぜ――」


「こんのぉ!? 『デストロイロケット』!」


「お?」


【エクスキューショナー】男子を素早く切ったところまでは良かったが、さすがはBランク、俺が次のスキルに繋ぐ前にもう対処してきた。

『デストロイロケット』、これは【サーチ・アンド・デストロイ】のスキルだな。

 ロケットを撃つ方ではなく自分がロケットになって突撃するスキルだ。なぜ自分がロケットになっちゃったのかは知らない。まあ、移動にも使える優秀なスキルではある。


 俺は仕方なく離れ――る前にもう一度だけ【エクスキューショナー】男子を斬ってから離れた。


「嘘だろ? あいつスキルに狙われてるのに普通に一発っていきやがった!?」


「それはアイギスの分な!」


 デストロイ男子が驚愕しながらロケットになって俺の目の前を通過して行ったので、俺はまたギロチン男子に躍りかかろうとする。

 相手のアギドンと女幹部はメルトとシェリアが対処中だ。

 とりあえず、このギロチン男子をまず仕留めよう。あとちょっとだし。


 というところで彼らの体がスキルエフェクトに光った。――これは!


「お前たち準備は完了なのだ! 『こっち来い』!」


 それは【道案内人】のスキル。自分の味方を自分に引き寄せるスキルだ。

 保護期間へ即逃げられるとても便利な逃走スキルでもある。

 ロード弟、パメラとエステルの手から運良く逃げ延びたのか?

 ロード兄が先に討たれたことで逃げに対する警戒心が過剰なまでに反応し、リーナの予想を超えてきたのかもしれない。


「よくやったロード弟! 逃げるぞ!」


「オホホホホ! 了解よ、――これは置き土産『ビッグビッグビッグボム』!」


「爆弾ごと、全て押し潰す――『グラビティ・ヘヴィ』!」


「げ、何それ重っ!? でもバイバーイ!」


「くっ、ダメか!」


 メルトがヘヴィな重力を発動したが、残念ながら女幹部とギルマスには逃げられてしまったようだ。


 こっちはギリ間に合ったな。リアルでこれ見るのは2度目なんだ。タイミングは分かってる。


「勇者からは逃げられない! 『ライトニングバースト』!」


「ぶびゃら!?」


【道案内人】に引き寄せられ中のギロチン【エクスキューショナー】男子が隣マスへ行く前に、クールタイムの明けた『ライトニングバースト』をたたきつけギロチン男子を退場させることに成功した。

 そしてもう1人【サーチ・アンド・デストロイ】男子はというと。


「食らえー! 『デストロイマグナム』!」


「むふふ、それを待っていたデース! 『忍法・身代わり反撃の術』! ――ニン!」


「へ――ほぎゃ!?」


 逃げる前の最後の攻撃、になるはずが狙ったのがパメラってのが良くなかったな。

 攻撃者の横に瞬間移動する『忍法・身代わり反撃の術』によって、現在高速で移動中のデストロイ男子の真横にパメラがドロンと現れ。そのまま刀で天誅したのだ。ナイスパメラ!


「ってええ!? ダウンしたのに連れて行かれてしまったデース!」


 しかし残念ながら、すっ転んだデストロイ男子はそのまま地面を引きずられるようにして保護期間マスへと逃げられてしまう。ズザザザザザーーと引きずられていった。なるほど、ダウンして引っ張られるとああなるのか。


「パメラ惜しかったな。もう少しダメージを与えていれば退場させられたが」


「く~、悔しいデス! あんなの反則デス!」


「【道案内人】は自分が逃げるのも人を逃がすのも一級品だからな」


 案内人と呼ばれている所以だ。

 ロード弟を倒せなかったのは残念。


 どうやらパメラとエステルの想定以上の必死さで転がるように逃げに入られ、隣接マスを確保されてしまったとのことだった。

 ここは、パメラとエステルを振りきったロード弟を賞賛する場面だな。

 地雷が爆発した音とかバンバン聞こえてたし。かなり必死だった模様だ。


 とはいえ今回の戦い、上級職を1人討ち取れたのは大きい。

 こっちの退場者は皆無なので俺たちの勝ちだな。


 また強制分断なんかさせてピンチな状況を作ればタバサ先輩の鬼が出てくると相手も分かっただろう。

 となれば、相手の出方は限られてくる。


 俺はそう頭の中で計算しながらアイギスの方へ向いた。


「アイギス、大丈夫だったか? 『オーラヒール』!」


「ゼフィルスさん、ありがとうございました。おかげで助かりました」


「無事でよかったぜ」


 アイギスがぺこりと頭を下げて無事であることをアピールする。

 俺は回復魔法でアイギスを回復させつつ、それを見てホッとした。


 アイギスはまだ相棒がいないため対人戦ではあまり強くない(?)。

 そこを突いてくるとは……。偶然かもしれないが、なかなかやる。

 アイギスにはもっと敵の少ないエリアを担当してもらうかな。

 小城マス獲得だけでもとても助かるのだ。


 とそこへメルトたちがやってくる。シェリアが焦ったようにアイギスに問うた。


「アイギス殿、ルルは、ルルはどこに行ったのですか!? ルルは今1人なのですか!?」


「あ! そうです! ルルと私は分断されて。ルルが今どうしているかは私にも……」


「そ、そんな……」


 アイギスとパートナーを組んでいたのはヒーローのルルだ。

 俺たちはアイギスと合流できたがルルは未だに1人のはずだ。

 ルルはむちゃくちゃ強いとはいえあの見た目だ。心配が尽きない!

 とはいえ問題は無い。もう手は打ってある。


 この場にエステルがいないのはそういうことだ。


 シェリアが血の気の引いたような顔をして、誰もがルルの心配をしていると、そこへリーナから『ギルドコネクト』が掛かってきた。内容はドンピシャ、ルルの状況だった。


「『ゼフィルスさん、今よろしいでしょうか?』」


「! リーナからのコネクトだ! ちょうどよかった、俺もリーナに聞きたいことがあったんだ」


「『分断されたルルさんですわね?』」


「さすがだなリーナ。ルルはどこにいるんだ? 無事なのか?」


 端的に聞く。

 リーナがアイギスを優先した理由は分かっている。ここに相手の主戦力がいたからだ。

 だが、各個撃破は何もアイギスだけが対象では無い。ルルも対象なのだ。

 シェリアを含め全員が見守るように俺へと注目していた。


「『ルルさんは無事ですわ。今はその、1人ですが。元気に敵さんと戦っていますわね。ちなみに優勢ですわ』」


「1人で戦ってんの?」


「ルルはどこにいるのですかリーナ殿!? 私もすぐに応援に駆けつけます!」


「落ち着けシェリア、どうもルルが優勢らしい。ルルは無事だ。それにエステルも向かってる。大丈夫だ」


「! 失礼、取り乱してしまいました」


「おう。それでリーナ、ルルはどこに?」


「『はい。ルルさんはゼフィルスさんたちが居るマスの4マス南ですわね。そろそろエステルさんが合流しますわ』」



 ◇



 一方、時はちょっと巻き戻ってここはルルが吹き飛ばされた地点。


「にゅ? ここはどこなのです? お姉ちゃんたちはどなたなのです? アイギスお姉ちゃんを知りませんか?」


 そこでは1人の上級職女子と2人の下級職の男女、計3人がルルを待っていた。


 その内上級職の女子と下級職男子が言う。


「へ? こんな小さな子を3対1で倒すの?」


「え? いいのかこれ? 見た目的にアウトじゃね?」


 しかし〈カッターオブパイレーツ〉側、困惑の極みに陥る。

 あまりにルルの容姿と動作が幼女過ぎて攻撃していいのか判断に迷ったのだ。


 しかし、最後の下級職女子が慌てたように2人を諌めた。


「何言ってるの! この子はれっきとした〈エデン〉メンバーだよ!? 油断しないで!」


「え、ええ。そうね」


「お、おう。――俺、後で捕まらないよな?」


 叱咤された2人が困惑しながら武器を構えた。


 上級職、【アベンジャー】に就く女子は二剣使い。

 下級職、【盗賊】に就く男子は短剣。

 最後にルルを最大限警戒している下級職、【リッパー】に就く女子は大剣を構え、油断なくルルを囲もうとする。


 しかし、ルルは見た目通りの幼女ではない。ヒーローなのだ。


「分かったのです! お姉ちゃんたちはルルの敵さんなのです! 敵さんなら――ルルのヒーロー無双で成敗なのですよ!」


「む! 来るわ、囲って叩くわょ――」


 警戒を最大限にした【リッパー】女子が警告しようとして。


 その前にルルが【盗賊】男子に飛び掛った。そして目にも留まらない速さで斬りまくった。


「とうー!」


「え? ふぎゃふぎゃふぎゃふぎゃふぎゃふぎゃ~~~!?」


 これは通常攻撃。

 しかし、その速さが尋常ではなかった。

 これは【プリンセスヒーロー】のパッシブスキル『ヒーローは2回攻撃していいの』の効果である。

 普通の攻撃タイミングで2回攻撃できるくらいの速度があるのだ。

 そのせいで盗賊男子が何とか反撃できるようになった頃には6回も斬られていた。


「このぉ『ブラッディ・スタッブ』!」


「トドメなのです! 『インフィニティソード』! 『ロリータオブヒーロー・スマッシュ』!」


 しかし悲しいかな。盗賊男子の反撃はルルの利き手の肩に確かに命中したはずなのだが、ルルはまったく気にも留めずそのまま利き手で剣を振りぬいた。2回も。


「ぎゅええええええ―――!?」


 そんな断末魔の叫びを残し、盗賊男子君は斬られ、吹き飛ばされ、そのまま〈敗者のお部屋〉へと送られてしまうのだった。


 え? もう?

 そんな感想が驚愕と共に女子たちの間で起こった。

 助けに入る暇すらなかった。


「何この幼女。強いんだけど……」


【アベンジャー】女子の言葉が、妙に鮮明に響いたのだった。




 ―――――――――――

 後書き失礼します。

 一度ならず二度までも逃げられてすみません。

 しかし、アギドンたちにはまだ役目が残っているのでここで退場させるわけにはいかないのです!

 明日からはシャロンが建てちゃった城編。始まります。

 頑張れアギドン!


 次回タイトル「見るがいい、そして知れ、これが絶望だ。ー城編ー」

 お楽しみに!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る