第882話 上級職ランクアップ! シャロン編!




「次は、シャロンいこうか」


「お願いするね」


 俺がシャロンに向くと手を後ろに組んだシャロンがはにかんだ。

 順番的に次はレグラムを予定していたが、オリヒメさんとセットが良いということで、シャロンを先に〈上級転職ランクアップ〉させてあげてくれと頼まれた形だ。


「それにしても、10月から怒濤の毎日だよ。まさか2ヶ月経ってないのに〈上級転職ランクアップ〉まですることになるなんて思わなかったよ」


「はっはっは、そうだろうそうだろう。これが〈エデン〉パワーだ」


「ふふ、なんかすごそうな名前のパワーだね」


 シャロンが【姫城主】に〈転職〉したのが10月の上旬、今は11月末。本当に2ヶ月経ってない。

 シャロンにとってとんでもなく濃厚で慌ただしい2ヶ月だったようだ。

 感慨深い、というよりもう笑っちゃうよね、といった雰囲気だった。


「なんだか将来、この事を思い出して笑っちゃうかも。人生でも滅多に無いはずの〈上級転職ランクアップ〉なのにね」


「いいね、どんどん笑ってくれ。ちなみに〈転職制度〉を受けてから2ヶ月しないうちに上級職になった最速ホルダーの異名もセットで贈ろう」


「いやぁ、なんでこうなったのかな? もういろんな笑いが出てきちゃいそう」


 苦笑いから爆笑までいろんな笑いを詰め込んだフルコースです。どうぞお召し上がりください。なんちゃって。

 まあ、最速ホルダーはシャロンだけじゃなく、オリヒメさんも同じになりそうだけどな。


「さて、じゃあシャロンに就いてほしい職業ジョブを発表するぞ」


「お願いね」


「シャロンに就いてほしいのは――【難攻不落の姫城主】だな」


「なんだかすごい異名っぽいのが来た!」


 おお、シャロン、良いリアクションだ!

【難攻不落の姫城主】、それどういう意味!? ってな!

 普通に城の守りに特化した城主なので安心してほしい。

 まあ、モテモテなのによってたかっても誰もシャロンを落とせないという意味でも間違いではないのかもしれないが。なお、ギルドバトル的な意味で。


「シャロンはこの職業ジョブを知らないのか?」


「まず【姫城主】すらあまり就いた人がいないからね。うちのご先祖を遡っても3人くらいしかいなかったはず?」


 人差し指を頬に当てて上を見るポーズで考えるシャロン。

 マジか。

 いや確かに。まず〈姫職〉の時点でこの学校にはほとんどいないっぽいしな。

 自力で〈姫職〉になったのは俺が知っているかぎり〈千剣姫カノン〉先輩とノエルだけだったはずだ。

 それに【姫城主】の条件が〈転職〉を前提にしてるからな。少ないのも分かる。


 伯爵系統はかなり調べまくったんだが、そもそも高位職に就ける伯爵が少ないんだよ。

 王族貴族はその特性上、記録をしっかりつけていることが多いので、その彼ら彼女らが知らないということは本当にこの世界では未知の職業ジョブである証左なのだ。


【難攻不落の姫城主】は【姫城主】のルートの最高峰。最も城を守るのに特化した職業ジョブだ。その能力はもちろんギルドバトルで発揮され、単体というとても少ない数で敵の大人数を受け止めてしまう、最強職業ジョブの一角である。相手は城を落とすのに時間を掛ければ掛けるほどリスクと被害が高まっていくため、どれだけ時間を稼げるかが勝負の決め手になることもある。その点、間違いなく全ての職業ジョブの中で一番時間を稼いでくれるのがこの【難攻不落の姫城主】だ。


 その能力は、Bランク戦でお披露目するとしよう。

 みんな絶対驚くぞ。楽しみだなぁ。


「シャロン、ギルドバトルの守りは今後シャロンに任せたいと思っている。〈エデン〉の守りの要だ。そのために、是非【難攻不落の姫城主】に就いてほしいんだ。数ある職業ジョブの中で、これほど強力な守りの職業ジョブは無いと俺が断言する」


「もちろんいいよ。ゼフィルス君とメルト君がいなければ今の私はいなかった。メルト君が熱心に移籍を勧めてくれたから〈エデン〉に加入出来たのだし、ゼフィルス君が条件を整えてくれたから【姫城主】に就くことができた。だから、ゼフィルス君の事は信じてるよ」


 そう言ってシャロンは照れくさそうにしていたが、でもしっかりと真剣味が伝わってきた。

 俺もなんだか嬉しく思うと同時に照れくさくなった。


「ありがとなシャロン」


「なんでゼフィルス君がお礼を言うの、それは私のセリフだよ?」


「はっはっは。よし、それじゃあ早速【難攻不落の姫城主】の条件達成、行ってみようか!」


「おおー!」


 照れくさい雰囲気をテンションで誤魔化せばシャロンもノってきてくれた。

 シャロン、良い子!

 俺は早速取りだした〈天聖てんせいの宝玉〉をシャロンに渡すと使ってもらう。


「わあ、こんな感じなんだ。光が私の中に入ってくる? なんかへんな感じ。装備を貫通して肌に溶け込んでるよ? 凄い、服の中が明るい!」


「あ、シャロンさん、はしたないからやめなさい」


天聖てんせいの宝玉〉がサラサラと粒子になって中に吸い込まれていく様子をシャロンは不思議そうに見ていた。装備に溶け込む様子に何を思ったのか首元の部分を引っ張って服の中を覗き込んでシェリアに怒られていたよ。

 どうやら服の中が明るくなっている様子が面白かったらしい。

 もちろん俺は紳士なのでスルーする。


「よし、お城系装備はすでにしているしスキルも『防壁召喚LV10』に『誘導路』『吸引防壁』『物見台召喚』『城門召喚』も覚えている。ギルドバトルの〈城取り〉と〈拠点落とし〉、両方の出場経験有りに加え、両方で本拠地が落とされず勝利経験有り。ということで後は〈上級転職ランクアップ〉するだけだな」


 実はシャロンにはいつものお城装備に着替えてもらっていた。ショルダーの部分や足、腰などに突いている金属のアーマーが瓦屋根っぽくなっているお城をイメージした装備だ。これは普通の【姫城主】の〈姫職装備〉である。つまりは初期装備だ。

 初期装備はしっかり保管しておきましょう。


 また、〈城取り〉は以前いたギルドで勝利経験があるそうだ。

〈拠点落とし〉は51組の時に1回戦と準決勝を勝利していてこれを満たしている形だな。


 これで準備完了だ。

 俺はシャロンに〈上級転職チケット〉を渡す。


「ほい。それじゃ、【難攻不落の姫城主】になってきな」


「おおー。行ってくるね!」


 気合いを入れて〈上級転職チケット〉を手にシャロンが行く。

 そのまま〈竜の像〉をタッチすると、ジョブ一覧にしっかり【難攻不落の姫城主】の名前があった。


「すごい、本当にあった。――うん。私は【難攻不落の姫城主】に就きます」


 一度それを見て息を呑んだシャロンだったが、すぐに気持ちを持ち直し、【難攻不落の姫城主】にタッチした。


 他のジョブ一覧がフェードアウトして消え、【難攻不落の姫城主】だけが残る。

 これでシャロンは【難攻不落の姫城主】だ。


「わわわ、覚醒の光だ。私も!?」


 続いて帯びる〈上級転職ランクアップ〉の演出、覚醒の光にシャロンは驚いた様子だ。覚醒の光は〈上級転職ランクアップ〉時のごく一部に見られる現象。それが自分の身に起きたことに驚いたのだ。良いリアクションだった。


 足がフワッと浮き、「足がつかない~!?」とすっごくあわあわするシャロンが微笑ましい。どうやらシャロンは浮くのが落ち着かない体質のようだ。

 とりあえず「大丈夫だから、大人しく身を任せるといいぞ」とアドバイスしておいた。

 しかしシャロンがようやく慣れ始めた頃、覚醒の光も落ち着いていく。


「わ、わ~。終わっちゃった。なんだか驚いている間に終わっちゃったよ」


「ははは。それはちょっと勿体なかったな。ともあれシャロン、〈上級転職ランクアップ〉、おめでとな」


「あ、うん! ありがとねゼフィルス君!」



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