第861話 ついに到着上級の最奥。料理アイテム発動だ!
翌朝。今日はダンジョン週間最終日、日曜日。
相変わらずハンナが朝ごはんを持って来てくれるので、それを2人で食べて英気を養う。
おお! 料理アイテムを食べたわけでもないのにパワーアップした気がするぜ! これで昼まで戦える!
「ハンナありがとな! これで上級の最奥ボスも楽勝だ!」
「気をつけてねゼフィルス君~。あんまり熱中しすぎないようにね。ちゃんと帰って来るんだよ~」
「心配無用だ! 今日の夜には帰るぜ!」
なぜかお母さんみたいな心配をするハンナを安心させるべくニカっと笑顔で返し、いつもの装備で俺は出発した。
カルア以外は貴族舎で生活しているのでここで待ち合わせをすればいいと思うのだが、なぜかいつもダンジョン門で待ち合わせなので1人で向かう。
「来たわねゼフィルス! もう待ちきれなくて先に来ちゃったわ、おはよう!」
「おはようラナ、エステルも」
「おはようございますゼフィルス殿。いよいよですね」
そう、いよいよだ。
ラナはワクワクしすぎて早めに到着してしまったらしい。
テンションが高いな! 俺も高いけど!
「待たせてしまったかしら?」
「ん、みんな、おは」
「お、シエラ、カルアもおはよう!」
「おはよう! これで全員揃ったわね!」
「ええ。おはようゼフィルス、ラナ殿下、エステル」
「おはようございますシエラ殿、カルア」
時間よりまだだいぶ早いのだが、シエラとカルアも到着した。
ケルばあさんは相変わらず受付にいたので〈嵐ダン〉にこのパーティで入ダンする手続きをしてもらう。
「んじゃ、全員揃ったし、出発しますか!」
「「「「おおー!」」」」
「気ぃつけての~」
ケルばあさんに見送られ、俺たちは〈嵐ダン〉へと入ダンした。
すぐに55層のショートカット転移陣に乗り込み、今日はカルアが〈風除けの指輪〉を使う。
「ここのボスは狩るのよね?」
「もちろんだ!」
最奥ボスを相手にする前の軽いウォーミングアップ。
55層の守護型フィールドボス〈ツインズフルアーマードタベレオン〉を狩ってしまおう。
「「ギョロロ!?」」
相変わらずデカいカメレオン2体が上下に重なり合うようにして乗っかり、なぜか正面に向けて頭部を時計回りに円運動する動作をしている。
頭をクルクル動かしながらロケットのように舌を伸ばして攻撃して来るのでなかなか避けづらく、ふざけた動きをしている割に強いボスだ。舌は二股に分かれていて直撃するとガチっと掴んで引っ張られ、そのままパクッとされてしまうので女性陣は必死に避けていたな。
でっかいフルアーマーを着込んでいるため防御力が無駄に高いが、その代わり動きも遅いので大技を叩き込みまくれば勝てる。
1度倒した俺たちの敵ではなく、10分後にはエフェクトに還っていく2体のタベレオンたちがいた。
「「ギョロロロロ――――!?」」
なぜか「ええ!? 俺たちの出番、これで終わり!?」と聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
「余裕だったわね!」
「はい。これなら最奥のボスも勝てそうです」
「盾で防いでしまえばどうということは無いボスだわ」
「ん。食べられる前に、食べる」
「それはやられる前にやる、じゃないかカルア?」
みんな、良いウォーミングアップになったようだ。
最後の守護型も楽勝ということでモチベーションも上がっている。
上級ボスというのは手ごわい。
それこそ最初は複数パーティで倒すことも多いほどだ。
しかし、それを5人の単体パーティで倒せるようになれば、最奥ボスとも戦える。
最奥ボスは5人限定だ。5人でボスを倒せるようにならなければ上級ダンジョンの攻略は不可能。
そして俺たちはもう、十分に5人で最奥ボスを倒せるほどにレベルが上がっている。
最奥ボス攻略も自信ありだ。
ドロップは――〈木箱〉だった。
ふっ、きっと最奥ボスの宝箱が〈金箱〉になる伏線だろう。俺には分かるんだ。
「よし! ウォーミングアップも完了だ! みんな、最奥まで行くぞ!」
「「「「おおー」」」」
気合いを入れ、俺たちは最下層、60層のボス部屋の前まで寄り道せずに一気に進む。時間があればあるほど周回出来るからな!
そして一気にテンション高めに突き進み、お昼頃には
「ついにやってきました、上級ダンジョンの最奥です!!」
「気合いが入るわね!」
片手を挙げて宣言すると、ラナがノってきてくれた。とても嬉しい。
「でもゼフィルス。一気に来てしまって良かったのかしら? もっと探索しても良かったと思うのだけど」
シエラは56層から一直線に60層まで来てしまい、なんだか不完全燃焼というか、本当にこんなに簡単に最奥に到着していいの? という表情をしていた。
まあ、56層から59層は一番難易度が高いと言われているエリアだしな。
〈キングアブソリュート〉だって最奥に到着するまでとても苦労したようなので、シエラの気持ちも理解出来る。
しかし、俺は首を振る。
「周囲の探索も良いがそれは授業がある日の放課後でも出来るからな。なら休みの日の時間は有効に使うべきだと思うんだよ」
〈嵐ダン〉は55層までで必要なものが全部揃う。
上級職が育っているのならもうそこで引き返してもっとランクの高いダンジョンに行ってしまえるレベルだ。
まあ、あと5層で最奥なので、パッと行って攻略者の証ゲットしてさっさと次行こう、というのがゲーム〈ダン活〉上級初めの流れだった。
なので俺もつい同じ行動をしてしまったよ。
時間を有効利用するために56層以降は無視。もう〈嵐ダン〉には用は無い。
「いえ、そういう事じゃなくて……そうね。ボス周回をした方が遥かに有意義だし、別にいいのだけど」
俺の言葉にシエラがなんとも言えない表情をしていたが、最後には頷いていた。
納得していただけたので良かったよ。
「そうそう。〈上級転職チケット〉だってたくさん揃えなきゃだしな。〈イブキ〉の素材だって揃えなくちゃいけない」
正直、俺たちのLVはもう通常モンスターを倒しても上がらないところまで来ている。エリアボスやフィールドボス、狩りまくっちゃったしな。
さっさと最奥で周回した方が効率が良いわけだ。
シエラも納得してくれたみたいなので、俺たちはボスへ挑む
そう、昼飯だ。
ここでなんと料理アイテムのご登場である。
ミリアス先輩に作ってもらっていた特製料理だ。
料理アイテムはお高くて滅多なことでは食べれないが、今がその食べどきだ!
上級ボスの前に料理バフで
「これから挑むのは上級ダンジョンの最奥ボスだ。みんなもしっかり英気を養ってくれ」
「わぁ! 私、料理アイテムを食べるのって楽しみだったのよ」
「そうだろうそうだろう。俺も楽しみだった。これがラナの分な」
ラナにはRESを20%も高める〈デラックス苺ショートハート〉というショートケーキをデザートに贈る。
先に料理アイテムを食べたら上書きも重複もされなくなってしまうため、メイン料理は普通のサンドイッチ系とスープも用意しておく。
俺はHPとMP以外の全ステータスを8%上昇させる〈ミノ牛丼特盛り〉。
シエラにはVITとRESを12%上昇させる〈カニちらし寿司〉。
エステルにはSTRを15%、AGIを5%上昇させる〈
カルアにはSTRを8%、AGIを12%上昇させる〈カキ
をそれぞれ配る。
ちゃんと料理の性能と食べる人の好みも考えて用意した品々だ。
「ではいただきましょう!」
「「「「いただきます!」」」」
料理アイテム、実食。
ぐはっ! 牛さんの味の暴力が俺の力を引き立てるーーー!
うんまーい!
柔らかいプルプルの牛と白米の組み合わせがたまらない~。
肉は噛めば噛むほど旨みが蕩け、白米の甘味が口の中で合わさって大爆発だ~!
やっぱ牛丼は最強メシの一種だよ。
この味に取り憑かれたら最後、絶対離れられなくなるって。
ちょっと紅ショウガも付けてパクリ。
く~、これだよこれ! やっぱ牛丼はこうでなくっちゃ!
もう箸が止まらねぇ!
すると特盛りだったはずの丼は見る見る少なくなり、気が付いたら無くなっていた。
「食った~。ごちそうさま!」
いや大満足。
正直もっと食えるがこれ以上は危険。ボス戦前に腹一杯でギブアップしそうな予感。
この料理たち、マジで英気の塊すぎるぜ。
HPバーにはバッチリ料理バフアイコンが光っていた。ちゃんとバフが付いたようだな。
みんなの方を見てみると、やはりみな、満足そうに召し上がっていらっしゃった。
カルアとエステルはおかずだったためすでに食べ終わった後だったが、シエラはご飯ものだったのでまだ残っていて、上品に食べていらっしゃった。
顔を綻ばせて、とても美味しそうだ。
ラナはようやくデザートへ行くらしい。ラナだけデザートだからな。
もう楽しみと顔に書いてある。
ショートケーキをフォークで切って一口。
「はむ。――!! んん~~~!!」
もう、そのリアクションだけでもうね。目をギュッと瞑って美味しいを堪能しているその表情だけで分かるわぁ。これは可愛いリアクション。
ラナもとっても大満足な様子だった。
それからもみんな無言で食べ続け。
「ふう。満足だったわ」
「本当、私は週一で食べたいわ」
シエラとラナが食べ終わるのは同時だった様子で、とても満足そうにしていた。
分かる。でも分かりすぎてヤバい。
満足度があまりに高すぎてボス戦に支障をきたさないか心配になるレベルだった。
「次はボス戦ね! 楽しみが続くって幸せなことだわ!」
「だな!」
まあ、杞憂だったのだが。
食後の休憩と雑談の後、13時を目処に俺たちは再び行動を開始した。
立ち上がり、改めてみんなに向きなおる。
全員が俺に注目するのを感じて話し出した。
「ここの最奥ボスは強力だ。上級ボスなのに5人までしか入れないからな。だが、俺たちはそもそも上級ダンジョンに入ってここまで5人でやってきた。なら、俺たちが倒せない道理は無い」
俺たち5人に倒せないボスはいないと説いてやる気と士気を高める。
上級ダンジョンの最奥ボスとはいえ、この5人なら倒せる。それを強く思わせる。
「俺たち5人の実力は本物だ。全員が本来の実力を出せれば間違いなく勝てる。俺が保証する。勝つぞ! 勝って俺たちが3番目となる上級ダンジョン攻略者になるんだ!」
「「「「おおー!」」」」
俺の宣言に、普段はクールなシエラやラナの後ろから見守るエステルまで、瞳に炎を灯して応えてくれた。
みんな良い表情だ。
負ける気なんてさらさらない。
俺のアドバイスだってなくても倒せるだろう。
今の5人なら、絶対に最奥ボスに勝てる。
俺たちは決意を胸に、そのまま門を潜り、ボス部屋へと侵入した。
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