第829話 〈嵐ダン〉10層守護型〈グレートリザード〉戦!




「じゃあ使うわね! 〈風除けの指輪〉!」


 ラナが唱えると、俺たちを中心にドーム状の結界のような空間がラナの付けている指輪から広がる。

 この空間内では〈嵐ダン〉の一定時間で吹く突風は効かない。

〈嵐ダン〉をスムーズにクリアするには必須のアイテムだった。


 おっと早速風が。


「……あっちは木々が激しく揺れているのにこちらは平和なものですね」


「ほんと、なんだかこんなのでいいのかしらって気分になるわね」


「いいんだよ。攻略は楽な方がいいだろ?」


「そうよね!」


「ん。楽ちん。良き」


 エステルが遠くの木々と近くの木々を見つめ、シエラが困ったように片手を頬に当てる。

 俺がにっこりと同意を促すとラナが気持ちの良い返事をしてカルアがコクコクと頷いた。


 ここは上級下位ジョーカーの一つ、ランク1である〈嵐後の倒森ダンジョン〉、通称〈嵐ダン〉の10層。

 俺たちは先日10層のフィールドボスを屠り、転移陣を起動しているため〈転移水晶〉を使わずに10層へとショートカットしていた。


 ちなみに〈風除けの指輪〉は今回ラナが身に着けている。

 交代で使うことになったのだと、ラナが嬉しそうに伝えてくれたのだ。


 今日から本格的な攻略を開始する。

 学園祭が終わったばかりだというのに全員のやる気はかなり高い。

 それもこれも、ラナとエステルの装備が完成したからだ。


「早く装備の効果を試したいわ!」


「私も同じ気持ちですラナ様」


 特にやる気が高いのがラナとエステルだ。

 何しろギルドハウスで着替えてお披露目した後、その足でここに来たのだから。


 浮かれる気持ちも分かるぜ。俺も新装備を換装したときはいつもそうだった。


 そしてこの10層に真っ直ぐ来たということは、装備を試す相手をすでに決めていたということに他ならない。


「グルルルル!」


「待たせたわね〈グレートリザード〉! 私たちの新しい力、見せてあげるわ!」


 そう、ここには守護型のフィールドボスがいる。

 その名は〈グレートリザード〉。

 体高3メートル、赤い鱗の体表にエリマキトカゲにも似た大きな鬣状の鱗を首に備えている、2足歩行で巨大で太い尻尾を持ったトカゲ型ボスモンスターだ。

 ランク1の10層を守護するボスであり、その能力値は上級にしてはかなりやさしい分類になっている。


 新しい装備を試すにはちょうど良い相手だった。


 この〈グレートリザード〉はやさしいだけあって先手を譲ってくれるボスだ。

 こちらから攻撃するか、相手のパーソナルスペースに入らなければ基本襲ってこない。

 だからこそ、少し離れたところで色々と話したり打ち合わせしたり出来るんだけどな。


「一度倒した相手だから問題無いと思うが、気を抜かないようにな。いや、浮かれすぎないように、か? とにかくいつも通りの役割で頼むぞ?」


「任せてよ! ――シエラ、こっちの準備は万端よ! 頼むわ!」


「わかったわ。行くわよ――『オーラポイント』! 『シールドフォース』!」


「バフを掛けるわね! 『獅子の大加護』! 『守護の大加護』! 『迅速の大加護』! 『病魔払いの大加護』!」


 いつも通りシエラが前に出てヘイトを稼ぐと、ラナがパーティ全員にバフを掛けた。

 タリスマンを持ちながら願うポーズをすると、装備がふらりと靡き、柔らかい光を放つ。

 そして俺たちにバフが掛かった。


 続いて〈蒼き歯車〉を走らせたエステルが側面から回り込もうとしたのだが。


「グガアアアアア!」


「行きますよ、『閃光一閃突――あ! んくっ――『ロングスラスト』!』


「グルオオオオ!?」


 エステルは『閃光一閃突き』を使おうとして勢い余って通り過ぎ、慌てて射程距離の長い『ロングスラスト』に切り替えて振り向きざま、ギリギリ攻撃を届かせた。


「は、速いですね!」


 先に試運転をするべきだったか?

 エステルは自らの速さに驚愕していた。


 これもエステルの装備〈貴装蒼鎧シリーズ〉のスキルである『乗り物速度強化LV8』の恩恵だ。

 しかし、それだけでは無い。


「! ダメージがかなり上がっているわね。『挑発』!」


 ただの〈一ツリ〉である『ロングスラスト』で、〈グレートリザード〉のHPは目に見えるほど多く削られていた。

 確か以前のエステルの攻撃ではここまでダメージは出ていなかったと知っているシエラが驚いて『挑発』スキルを追加する。


「エステルの装備の影響もあるし、ラナのバフの威力が上がっているっていうのもあるな。『ソニックソード』!」


「ん、防具は攻撃力も上がる――『スターバースト・レインエッジ』!」


「いや、一概にはそうとは言えないんだが。エステルの装備に限って言えば攻撃力もかなり上がるんだよな~」


「もう一度行きます、今度こそ『閃光一閃突き』! ってわわわ!」


「ガアアアアア!!」


「あうっ」


「あ、エステル!? って、あまりダメージを受けてないわね」


「は、はい。あれ? 直撃だったはずですが」


 エステル二度目の攻撃。〈蒼き歯車〉を回し、一気に飛び込んで攻撃しようとしたが、勢い余って〈グレートリザード〉の腹にポヨンとぶつかってしまい、そこに〈グレートリザード〉が半回転して『尾打ち返おうちかえし』でエステルを吹っ飛ばしたのだ。

 さすがのシエラも予想外のエステルの加速激突には対応しきれず、〈グレートリザード〉の攻撃がエステルに直撃してしまう。


 しかし、そのダメージは僅か70。エステルの最大HPの1割にも満たないダメージだった。以前なら3割弱は食らっていたであろうダメージを知っていたエステルは困惑の表情である。


「『回復の祈り』! それが新装備の防御力なのね! 凄い硬いわね!」


「まさかこれほどとは。ラナ様のバフの効果もあるかと思いますが、こんなにダメージが下がるものなのですね」


 実を言うとエステルがこんなにパワーもディフェンスもスピードも上がっているのはエステルの装備だけの効果では無く、ラナのバフの効力も大きい。

 ラナの新装備〈慈愛聖衣シリーズ〉には『祈り系バフ効率上昇LV10』が備わっているのだ。

『大加護』は元々の上昇値も高いため、それが顕著に数字に反映されていた。


「おーい、エステルー大丈夫かー。俺たちで倒しちゃってもいいかー?」


 吹っ飛ばされたエステルが〈蒼き歯車〉によるバック走行で後衛のラナの位置まで下がってしまったので大声で呼びかける。

 正直言って、今の俺たちならアタッカーは俺とカルアだけでも勝てる。

 どうもエステルは自分の速さに翻弄されているようなのでそう提案したのだが、


「いえ、このままでは終われません。私も参加します」


「了解! 気をつけろよ!」


「はい! ――ラナ様、行って参ります!」


「けちょんけちょんにしてやりなさい!」


「はい!」


 エステルはまた〈蒼き歯車〉を走らせる。

『ドライブ全開』も使っていないのに、そのスピードは以前の『ドライブ全開』使用時に迫るのだ。とんでもない性能である。

 そのため、エステルは自分が『ドライブ全開』を使っていると錯覚してしまい、2度目の攻撃時は直角に曲がろうとしてしまい、スキルが掛かっていないのでそんな方向転換が出来るはずもなく、〈グレートリザード〉に突っ込んでしまったと後で聞いた。


 今回はそんなミスはしないと、これはスキルでは無く、通常の走行なのだとしっかりと意識してエステルが走る。最初に失敗した側面への奇襲を、今度はしっかり見定めて放った。


「ここです! 『プレシャススラスト』! 『トリプルシュート』!」


「グルオオオオ!!」


 直撃。

 今度こそ良い感じにヒットする。元々速度は『ドライブ全開』で慣れているのだ。

 意識さえできれば攻撃を合わせるのはエステルには訳のないことだった。


「いいダメージだなエステル! さすがは〈エデン〉のナンバーワンアタッカーだ! おっと『聖剣』!」


「グルオオオオ!?」


 尻尾による攻撃が来たので思わずカウンター気味に振りきると、尻尾が切断されて吹っ飛んだ。

 突然斬られた尻尾に〈グレートリザード〉がのたうち回る。


「チャンスチャンス! 総攻撃だー!」


 隙だらけの〈グレートリザード〉に総攻撃をかます。

 いや~、しかしエステルの攻撃力がマジで高い。

 素早さも防御力も見違えたな~。ラナはバフ系がかなり性能が上がっているし、装備更新は大成功だろう!


「グオオオオ!!」


「おっと全体攻撃だ。シエラ!」


「『インダクションカバー』!」


 残りHPが15%を切って怒りモードになった〈グレートリザード〉が鱗をたてがみのように逆立たせた。

 続いてくるのは鱗の散弾。鱗を全方向に飛ばしてくる攻撃だ。

 しかもこれ、最初はドバッと発射するのだが、それを終えても鱗が生えてくる側からランダム方向に発射するようになる。どこか〈ヘカトンケイル〉のロケットパンチャーモードを思い出す光景だ。


 後ろから近づけば安心かと思いきや、運が悪ければ後ろに鱗が射出されてダメージを負うこともあるので要注意。

 要は弾幕である。まあ攻撃の速度は早くは無いのでその気になれば避けられる程度だけどな。一応、シエラに引き寄せてもらう。


「ゼフィルス殿、私が飛び込んで倒してしまってもいいでしょうか?」


「お、エステルやる気だな。いいぞ、どんどん攻撃してしまえ」


「はい! 行って参ります!」


『インダクションカバー』で受けきったシエラの横を通り、エステルが肉薄する。

 俺とカルアはエステルの攻撃後に飛び込む予定だ。


 しかし、その必要は無いかな。


「これで終わりよ! 『大聖光の四宝剣』!」


「倒します! 『姫騎士覚醒』! 『戦槍せんそう乱舞』!」


「クオオオオオ」


 ラナと全力エステルの攻撃が炸裂。

 今までエステルの『姫騎士覚醒』は相手が反撃してこない大チャンスでしか発動できなかった。時間制限がシビアなため、逃げられたり、反撃されてやられたりすれば無駄になってしまうからだ。


 しかし、新しい装備には『ノックバック軽減LV6』もあり、防御力も新装備でかなり上がっている。

 上級ボスの攻撃だって多少なら無視できるほどだ。

 エステルも怒り状態のフィールドボスの攻撃に晒されて、自分が今どれだけ耐えられるのかというのも見たかったのだろう。


 俺は万が一に備えて待機に徹し、やはりというかなんというか、『姫騎士覚醒』から16秒後。


「クルオ……オオ……」


 あまりの猛攻に耐えられなくなった〈グレートリザード〉のHPがゼロになり、ドシンと倒れ、そのままエフェクトの海に沈んで消えたのであった。


 エステルの勝利。




 ――――――――――――

 後書き失礼いたします!


 クリスマスプレゼント企画、2日目!

 本日4話更新です!

 是非楽しんでください!


 たくさん★もいただけて、ありがとうございます!


 これからも〈ダン活〉をよろしくお願いいたします!



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