第828話 新しい従業員。ラナ、エステルの装備お披露目!
結局スーツ姿の人たちに〈転移水晶〉は全部売れた。
学生に売っている金額よりずいぶんお高いのだが、売り切れたか……。
スーツ姿の人たちは全員目的の物が手に入ってにこやかに去っていったよ。
「満足してもらえてよかったよ~」
「そうだな~」
まあ、細かいことはいいか。
また〈転移水晶〉の素材集めに〈山ダン〉に行かないとな~。
いや、ミールいっぱい手に入ったし〈サンハンター〉に素材卸しを依頼した方が効率がいいか?
チラッとカウンターを見ると、マリアが売り上げを見て目をミールに光らせていた。
そして店内では1人見慣れない従業員がレジに立っている。
学生は昨日の疲れのためか、珍しくお客がゼロだったので俺はそっとレジの彼女に話しかけてみた。
「セラミロさん、お疲れ様です」
「あ、ゼフィルス様、お疲れ様でございます! いかがされましたか?」
「いや、来てもらって早々慌ただしくて挨拶も碌に出来ませんでしたからね。お客さんも珍しくいないですから今のうちに挨拶と思いまして」
「そうでしたか。でもゼフィルス様、私に敬語は不要ですよ? 一従業員として扱ってください。名前も普通に呼んでくださいね?」
「あ~。了解。じゃあよろしく、セラミロさん」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。ゼフィルス様」
見た目大学生の女性でメイド服が似合いそうなしっかりしたこのお姉さんは、学園が派遣してくれた従業員だ。
今日から〈エデン店〉では〈転移水晶〉を売り出した。
これは学園と調整して決めた事ではあるのだが、〈転移水晶〉の普及を推し進めるのは学園に主導してもらうと決めている。
俺はさすがにそんな権限無いし、こういうことは偉い人に丸投げしちゃえるのなら任せちゃった方が良い。その方が俺は効率的にダンジョンに時間を使う事が出来るからな!
そして、学園が主導する〈転移水晶〉の普及の第一弾、〈エデン店〉での学生販売において学園が何もしないでは沽券に関わる。
というわけで、学園は〈エデン店〉へのサポートとして従業員を派遣してくれることになっていた。
それが彼女。淡い笑顔でお客さんの心を鷲掴み、接客のプロ、セラミロさんだ。
本当はもう少ししっかり挨拶したかったんだが、初日からビジネスマンが待ってたり、ハンナが大量生産したりと慌ただしかったためやっと落ち着いて話が出来るとなって今に到る。
まずは挨拶し、仕事ぶりを褒めたりして親睦を深めた。
これから〈エデン店〉をたくさん手伝ってくれる従業員さんだ。仕事ぶりも先ほどのビジネスマンを相手にまったく淀みが無い。プロの仕事だぜ。
是非仲良くしたい。学園には感謝だ。
そうして話していると、ギルドハウス側からひょこっとラナが顔を出した。後ろにはエステルも見える。
「見つけたわよゼフィルス、こんな所にいたのね! 来たわよ!」
「ゼフィルス殿、おはようございます」
「お、ラナ、エステル。おはよう!」
「おはようございます」
「あら? あなたは?」
「そうだ、紹介するな。今日から〈エデン店〉の従業員となるセラミロさんだ」
「よろしくお願いいたします。ラナ殿下、エステルさん」
朝から働いていたらラナたちにチャットメッセージを送ってもうそれなりの時間が経っていた。
ウキウキ顔のラナと、にこやかなエステルが、もう待ち遠しいと表情で伝えてきていた。
俺は臨時でつけていたエプロンを外してポーチ型の〈
「ああ、ゼフィルスさんの貴重な制服エプロンが」
「まあまあマリアちゃん、見れただけでもラッキーと思いましょう」
なぜかマリアが落胆してメリーナ先輩が励ましてた。
俺もたまに店を手伝ったほうが良いのかな?
そんなことを思いながらも店をマリアとメリーナ先輩、セラミロさんに任せて俺たちはギルドハウスの大部屋へ向かった。ちなみにハンナは錬金工房にいたはずだが、今は大部屋にいるらしい。
ギルドハウスの大部屋に入ると。俺が居ないのにもう鑑賞会が始まっていた。
「これが新作の上級魔砲、その名も〈ケルド〉や! リーナはん、バランスが悪かったりしたら言ってな、そのたび調整するから」
「わぁ。ありがとうございますアルルさん。とても嬉しいですわ」
ちょうど上級武器をリーナが受け取ったところだった。
アルルは武器系の作製も練習してもらっていたのだが、ようやく納得の行くものが完成したようだ。
前にリーナが使っていた〈紅蓮魔砲〉より砲身はやや短く、前と同じく肩掛けベルトを肩に掛けて腰の位置で放つ両手魔砲。〈ケルド〉は先日〈ブレンモール〉からドロップしたレシピから作製された上級武器で、スキルが一つしか無い代わりに魔法力の数値が非常に大きい高火力武器だった。
「んで、こっちがシズはんのな。上級両手銃の〈ストリートアサルトウォー〉や。要望通り二つ目も作っといたで」
「ありがとうございますアルルさん。これで殲滅の速度が上がります」
「ぶっそうやな~」
続いて渡されていたのはシズの武器だ。
〈ストリートアサルトウォー〉というアサルトライフル型の両手銃だが、かなりカスタムされているのかデザインが俺の知っているものとだいぶ違う。シズが使いやすいように以前使っていた〈メイドアサルト〉と同じような形に仕上げているらしかった。
ちなみにこっちはエリアボスからのドロップレシピである。
両手で持たないといけない大きさの両手銃なのに二丁も用意したのはシズのユニークスキルを考えてだろう。あれは両手銃を片手でも持てるようになるため両手に一丁ずつ両手銃を持つことが可能になる殲滅スキルだ。恐ろしい。
「ほんで、リカはんは防御用の小太刀やな。これ〈小太刀ユキナリ〉や。氷属性が入ってるで」
「ほう、それは珍しいな。ありがたく使わせてもらおう」
「メイン武器のほうは本当に作らなくてええの?」
「ああ。私は先日ドロップした〈鬼炎の紅刀〉を装備しようと思ってな、それに刀のレシピ自体がないだろう?」
「学園長に依頼すれば融通してもらえるで?」
「いや、それはまたの機会にとっておこう。あれは気に入ってるからな。それに、あまり気に入りすぎる刀が増えると困る。お金が無くなってしまうから」
リカが口に手を当てて苦笑したように言う。
リカも装備を更新したようだ。〈小太刀ユキナリ〉はもちろん上級武器。
武器はお高いのだ。
またメイン武器は〈サムライオーガ〉からドロップした〈鬼炎の紅刀〉を装備するらしいが、これは性能が微妙なので上級ダンジョンで刀がドロップするまでのつなぎとして使うようだ。現在使っている〈ニャブシ〉からドロップした刀はさすがに火力不足になりつつあるようだな。
こうしてリカも武器を更新し、後は防具を待つばかりとなる。
どうやらアルルは現在、武器を新調している真っ最中らしかった。
防具は一番素材が掛かるし、ハンナとアルルとマリー先輩の合作になるので時間が掛かる。
リカたちの分の防具はもう少し後になりそうだった。
しかし、着実に〈エデン〉の防具更新も進んでいる。
今日は、ラナとエステルの防具の更新日でもあるからだ。
俺たちが入った後、すぐに小部屋へと消えたラナとエステル、おそらく着替えに行ったのだろう。
それが終わってギルド部屋に入ってきた。
「待たせたわね!」
ジャジャーンとテロップが躍りそうな感じに現れたのはラナとマリー先輩。
ラナが片手を肩に、片手でスカートを摘まんだポーズで装備をアピールし、マリー先輩がそれを見て満足そうに頷いていた。
「おおお!」
「「「わぁー!」」」
「「「綺麗~」」」
そのラナの装備を見てギルド部屋が軽く歓声に包まれた。
それほどラナの衣装が魅力的だった。
純白をベースにしているところは変わらず、前の聖女装備に比べよりドレス寄りになった見た目をしており、装飾は控えめだが背中に流れる羽衣が美しく、ラナの姿はとても神秘的に映った。
これが〈慈愛聖衣シリーズ〉。
「ラナ、綺麗だ」
「ふわぁ!? も、もう、そう? ふふん! もっと褒めても良いわよ!」
「おう、とても綺麗で、かっこいいぜ!」
「かっこいいはいらないわよ!」
怒られてしまった。もっとって言ったのラナなのにこれは如何に?
「ラナ様、褒めていただいているのですから、照れ隠しでも怒ってはだめですよ」
「おお!」
さっきのラナの態度は照れ隠しだったのか、と思う間もなく次に現れたエステルに目が吸い寄せられた。
エステルのドレスアーマーもパワーアップしていた。
なんと言うのだろう、俺の拙い語彙力では強そうという言葉しか出てこない!
元々の〈姫騎士装備〉より、少しアーマーが増え、全体的に騎士寄りにパワーアップしている。実際攻撃力、防御力、素早さが格段に上昇しているはずだ。
後でしっかり数値も見せてもらおうと誓う。
〈貴装蒼鎧シリーズ〉の女性版。
綺麗や美しいより、強そうやかっこいいという言葉が先に出そうになるドレスアーマー装備だった。
「もう完全に大幅パワーアップだな! かっこよくて強そうとか最強かよ! エステル、見違えたぞ!」
「ふふ、ゼフィルス殿の感想は心地良いですね。ありがとうございます」
「ドヤヤ!」
「おう、マリー先輩、ヤが一つ多いぜ! さすがだ。いやー、それにしても惚れ惚れするデザインだ。これぞパワーアップの醍醐味! 俺は嬉しいぞ!」
「も、もう、喜びすぎよゼフィルスったら。私も嬉しくなるじゃない」
がっつり装備を見てはしゃぐ俺、ラナのテレ顔が素敵。
ふっふっふ。マリー先輩、アルル、ハンナ。ありがとな!
これでとうとう、上級ダンジョン攻略に挑むことが出来る!
早速、上級下位ダンジョンが一つ、最もランクの低い〈嵐ダン〉を攻略してしまうぞ!
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