第827話 〈転移水晶〉の販売でがっぽがっぽ大儲け!




 ギルドハウスに到着すると、何やら多くの人たちが店の前で並んでいるのが見えた。


「なんだあれ?」


「なんだろう?」


 ハンナも分からないのか?

 見た感じ、結構年配の人が多い印象だ。

 いつもは学生ばっかりが並んでいるのに、今日はスーツ姿の人たちが列を作っていた。

 マジなんだろう?


 目的地がギルドハウスなのでそのまま歩いていくと、並んでいる人たちがこっちに気が付いた。


「あ、あなたはハンナ様では?」


「なんだと?」


「あのご令嬢が〈転移水晶〉の作製者様か!」


「すみませんが、お店はいつ開店されますか」


「ほ、ほえ!?」


 列を乱さず、しかし一斉にこちらに向き直って質問? を飛ばしてくるスーツ姿の人たちにハンナがビックリする。

 この反応、どうやら学園の外の人らしい。

 もしかしたら学園祭に来ていた人たちかな?

 見たところビジネスマンか?


「おお、隣にいるのはもしや勇者氏では?」


「あの風貌、間違いない。やはり纏うオーラが違いますな」


「ここは〈転移水晶〉を諦めても勇者君と親交を深めるべきか」


 どうやら俺のことまで知っていたらしい。

 いやあ、有名人って辛いわ~。やっぱり昨日の貢献度1位のおかげかな?

 そんなことを考えてフッと意味深な笑みを浮かべていると、妙な集団が俺に向かってこようとした人を取り囲んだ。


「よし! 君たち、少し話をさせていただいても―――」


「はいはーい! いい大人が何やってるんかなー?」


「大人しく並んでおけば見逃したものを」


「もう、勇者君に話しかけるなんて、ダメなんだぞ?」


「な、なんだ君たちは!? うお、何をする――!?」


「あ、あの企業は何も知らないのか? 学園では勇者触るべからずとは有名なのに」


「連れて行かれてしまったぞ。どこに行ったのだ?」


「哀れな」


 どこにいたのか、キャピっとした女子高生3人が出てきたかと思うとサラリーマン風の人は連れて行かれてしまった。

 そして辺りには静寂が包みこんだ。


「え、えっと。開店は10時になりますので、ではではー」


「あ、少々お話を、ハンナ様!」


「ハンナ様! 〈転移水晶〉の在庫は!?」


 引き止めようとした人もいたがハンナは俺の手を掴むとそそくさとギルドハウスに逃げ込んだ。

 割とどうでもいいことかもしれないが、外の人までハンナのことを様付けで呼んでいるんだなってちょっと気になった。


「ふえ~。最近ああいう人が増えたよ~」


「増えたのか」


「うん。なんか学園祭の時は色々な人から声を掛けられたんだ。是非うちのお店で働いてくれないかって、大人の人が」


 ああ。うん。

 ハンナは外でも有名人らしい。もしかしなくてもユーリ先輩の演説のせいかな。

 絶対にあげないからな!

 俺はギュッとハンナの手を握り締めた。


「ハンナは絶対やらんぞ!」


「ぜ、ゼフィルス君!」


 ハンナの顔が真っ赤になった。

 照れているらしい。可愛い。


 それはともかく、ハンナの意思は確認しておかなければ。まあ、ここにいる時点で分かっているようなものだが。


「それでハンナ、そのお誘いは」


「え? うん。全部断ったよ。私もゼフィルス君と一緒にいたいし」


「く~、嬉しいことを言ってくれる!」


 ちょっと抱きしめてクルクル踊りたくなったぞ。

 やるか? やっちゃう? よし、やっちゃおう!

 そう決めて俺が繋いだままの手を引っ張り、ハンナを引き寄せようとしたとき。

 聞き覚えのありまくる声がかけられた。


「何やっているのかしらゼフィルス?」


「お? おおシエラ! おはよう!」


 振り向くと、そこにはジト目のシエラがこっちに歩いてくるところだった。

 朝からジト目だ! なんだかわからないがやったぜ!


「おはようゼフィルス。――ハンナも、おはよう」


「あ、あはは、おはようございますシエラさん」


 シエラは俺を見て、ハンナを見て、そして繋がれたままの手を見て、また俺をジト目で見つめてきた。

 なんだなんだ? 今日はサービス過剰じゃないかシエラ。いったいどうしたんだ?


「はあ。ゼフィルス、ハンナ、とりあえず来てもらえるかしら? ちょうど見てもらいたいものがあったのよ」


「それって、外にいる人たちと関係があるのですか?」


 ハンナの問いにシエラは先を促しながら頷いた。

 俺とハンナも後についていく。


「マリアとメリーナ先輩が待ってるわ。どうも〈転移水晶〉の在庫について話したいそうなの」


「〈転移水晶〉か?」


 そういえば外の人たちも〈転移水晶〉がどうのと言っていたな。

〈エデン〉が〈転移水晶〉を売るのは学生だけで、外の人たちは学園を通して購入する手筈になっていたはずだが。もしかしなくてもすでに予想以上の事態になっているっぽいな。


 俺たちはギルドハウスの大部屋からお店へのドアを潜り、お店のカウンターの中に入ると、そこには助っ人のマリアとメリーナがいた。


「あ、ハンナさん!」


「ゼフィルスくんも! ちょうどよかった~。ねえ〈転移水晶〉の在庫って無いかしら? 今なら高値で売れるわよ?」


 2人にはこの〈エデン〉店の接客を任せている。

 マリアとメリーナ先輩がウキウキとした表情をしていた。

 売りさばくつもりだな。

 外にいた人たち、確実に20人以上いたし。

 おそらく全員が〈転移水晶〉を求めてやって来たんだろうな。


 その考えは当たりらしい。メリーナ先輩が報告してくれた。


「学園から連絡があったのよ。〈転移水晶〉について、こっちで捌ききれなかった者が〈エデン〉に行くかもしれないって」


「なるほど」


 実はこの日のため、〈転移水晶〉は出来る限り学園へ納品していた。

 連日のように〈サンハンター〉とランク3の〈山ダン〉へと潜り、エリアボスと同時に〈転移水晶〉の素材を確保して、ハンナが作って学園へと納品するというルーチンを繰り返した。そのおかげで学園の持つ在庫は2000個を軽く超えているはずだが、それ以上に〈転移水晶〉を求めてくる人物たちがいたということだろう。


「うーん、そうなると〈転移水晶〉をいつもの金額で売るわけにはいかないな」


「売ること自体は問題ないんだね?」


「まだ学生が育ってないからな。買いに来る学生が出てくるのはもう少し先になるだろうし、一度在庫を吐き出しちゃってもいいだろう。学園とはこうなることを一応予想していたんだ」


 今回にかぎりだが、学園から通達があれば学生以外に売ってもいいことになっていた。


 現在上級ダンジョンに挑めるのは大体がAランク以上。Bランクも現在上級ダンジョンを目指して鋭意努力中とのことだが、〈転移水晶〉が使えるのは上級ダンジョン以上。まだまだBランクが買いに来るには早い。

 そしてAランク以上のギルドはたったの9ギルドしか無いので消耗する数なんてそれほど多くは無いだろう。正直、余裕で生産が追いつく。


 それに1日2日すれば在庫は作れるんだから学生には待ってもらえばいい。

 外の人たちはおそらく今日か明日くらいには帰るのだろうからいっぱい売ってしまおう。

 学園に納品するときの金額は、〈エデン店〉で売っている金額よりも大幅に高く設定されている。

 その高い金額設定でも売れそうなのだから売ろう。というか学園が売っている価格で売って良いと思う。

 そうと決めれば在庫ほぼ全部吐き出してやろう。


 というわけで、〈エデン〉で使う用に確保していた50個の〈転移水晶〉のうち、45個も売りに出してしまおうとマリアとメリーナ先輩に話す。


「ありがとう、助かりますゼフィルスさん」


「高く売るチャンスだから、この機会を逃さなくて良かった~」


「高く売れるなら2人には特別ボーナスを支給しなくっちゃな」


「さすがゼフィルスさん~素敵です!」


 ということで〈エデン〉の在庫から〈転移水晶〉を持ってきてもらおうとしたとき、ハンナがスッと手を挙げた。


「あ、あの! 素材あるので、作りましょうか!」


「え? 今から? もう後10分くらいでオープンだけど」


「はい! 大丈夫ですメリーナ先輩! ちゃちゃっと作っちゃいますから。――ゼフィルス君、ベースの素材とか、全部使っちゃって良いんだよね?」


 おお、珍しくハンナが燃えている。


 いや、高く売れると聞いて目がミールになっているように見えなくも無い。

 うん、何も問題無いな!

 どのくらい在庫があるのか分からないが、ハンナが作れるというのなら任せよう。


「もちろんだ。全部使っちゃうことを許可しよう! 無くなってもまた採りに行けばいいしな」


「うん! 任せてよ!」


 そうしてハンナは錬金工房にこもり、10時5分。

 ビジネスマンたちが〈エデン店〉に全員入りきり〈転移水晶〉の在庫数が判明して取り合いが勃発しそうなタイミングでハンナ登場。

 400を超える〈転移水晶〉を持って売り場にやってきてカウンターに山を作ったハンナに、店にいたスーツ姿のサラリーマンたちは驚嘆させられたのだった。


 なんか、「噂は真実だった」とか「さすがは〈魔薬まくすり錬金のハンナ〉様だ」といったコメントが多かったのだが、あれはなんだったのかね?





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