第809話 学園祭前から警邏のお仕事。悲鳴発生?




 俺たち1組の学生たちは朝8時にとある〈秩序風紀委員会〉の詰め所に集まっていた。

 整列して壇上の先輩から朝の朝礼と訓示が行なわれている。


「諸君、残り2時間ほどで学園祭が開催される。心の準備は良いか!」


「「「おー」」」


「うむ。よろしい。本日から学園祭の期間中、〈戦闘課1年1組〉の指揮を私ライザが執らせてもらう。私のことはライザ分隊長と呼ぶように。よろしく頼むぞ!」


「「「おー!」」」


「うむ。よろしい」


 俺たち1組が並ぶ前で、両手を背中で組み背筋をピンと伸ばした綺麗な格好で訓示をしてくれるのは、〈戦闘課3年1組〉所属のライザ先輩だ。

 黄緑色でカイリと同じような髪型をしている体育会系女子といった見た目と雰囲気。研修中から毎日のように顔を合わせていたため顔見知りだ。


 先ほどライザ分隊長が言ったように、今日から3日間は俺たち1組の指揮官になる。

 他にも2組から6組には同じような分隊長が就く。それは2年生、3年生の警邏クラスも同様のようだ。各地に分散して警備する必要があるため他のクラスは別の場所に集合している。


 俺たちの担当区域は〈戦闘3号館〉〈戦闘4号館〉を含む重要なエリアだ。1組ということで〈戦闘課〉の校舎が割り当てられている。


「続いて〈調査課〉、〈支援課〉はマニュアル通りオペレーターだ。私たちの指示を不足なく彼ら彼女らに伝えてほしい。また逆に報告をしっかり私たちに届けること」


「「「はい!」」」


「うむ。よろしい」


 ちなみに今回〈ダンジョン攻略専攻・調査課〉や〈ダンジョン支援専攻・支援課〉の学生も警備の手伝いに来ている。

〈戦闘課〉ほどクラスがあるわけでは無いため、1クラスを6分割して割り振っている。ここにいるのは〈調査課〉が5人に〈支援課〉が5人だ。


 彼ら彼女らの仕事はオペレーターとサポート。

〈学生手帳〉で俺たち現場班と直接やり取りし、ライザ分隊長たち〈秩序風紀委員会〉からの指示を通信してくれる役割をこなしてくれる。逆に現場からの報告も彼ら彼女らを通してライザ分隊長に報告してもらう形だ。


「何かあった場合はすぐに報告を上げるように。現場の判断で処理できない案件は我々〈秩序風紀委員会〉が処理する。力を入れすぎなくて良い」


 ライザ分隊長の言葉に少しだけ肩の力が抜ける雰囲気。

 今回は例年とは違い、多くの企業や団体、それだけじゃなくなぜか貴族の保護者も多く学園に来園されるとの予想なので、何かしらの問題が起きるのは確実視されている。ただ、そう言った問題が起きたとき、頼りになる先輩がいるのといないのとではまるで気持ちの余裕が異なる。


 気を緩めすぎてはいけないが、引き締めすぎるのも視野を狭めると、ライザ分隊長の絶妙な訓示である。


「では行動を開始する。10時からは来園者が多く来られる。その前に一通りの巡回をするぞ。行動開始!」


「「「おお!」」」


 こうしてまず俺たちの仕事は巡回から始まった。




「巡回は最も大事だ。私たちが巡回をすることで未然に防げる問題が数多くある」とはライザ分隊長の教えだ。

 確かに兵が巡回しているところで愚かな行ないをする者は少ない。

 故に俺たちは主に巡回が仕事だった。

 1班3人で組んで常にスリーマンセルでの行動を主とする。

 俺が組むのは同じクラス、


「ゼフィルスさん、今日はよろしくお願いしますわ」


「こちらこそ今日1日よろしくな、リーナ」


「はい!」


 1人目は【姫総帥】のリーナ。

 なんだかとても嬉しそうにしていて俺まで嬉しくなってしまう。

 挨拶しながらハイタッチ。通称挨拶タッチを交わす。


「リーナさん、いつの間にゼフィルス君とそんなに仲良くなったの~?」


「な、ナギさん!? そんな、前から仲良しですわ」


「少し羨ましい~」


「もう、ナギさん何言っているんですの。ナギさんもチームなのですから、仲良くしますわよ」


 そして2人目は【レイヴン】のナギだ。

 同じクラスになってからあまり話す機会が無かったのだが、一緒の班になるとはちょうど良い。このまま親睦を深めようと思う。


「ナギも、今日はよろしくな! 探知、頼りにしているぜ」


「えっと、よろしくねゼフィルス君、うわ~、ハイタッチしちゃった。これ誰にも怒られないよね?」


「そのくらいで怒りませんわよ。ゼフィルスさんは誰でもハイタッチする方なのですから」


「そうなんだ~。ねね、もう一回いい?」


「そんなにしたければわたくしが代わりにしてさしあげますわ」


「やっぱりじゃん。ハイターッチ!」


 ナギとリーナは過去クラス対抗戦で組んでいたこともあり仲はかなり良いようだ。

 冗談を言い合いながらハイタッチを交わしている。


 ちなみにこの班決めは〈秩序風紀委員会〉の方で決められていた。

 能力にあった編成とのことで、俺たちの班の場合はナギが探知&隠密、リーナがバックアップ担当で、俺がこの班の班長だ。


 ナギは攻撃力こそ乏しいものの、1組に入るだけの実力はある。隠密系が得意ではあるが探知も出来るので何か怪しいものがあればナギのサーチに引っかかるだろう。

 頼りになる。


 班決めのことで少々揉めたもののとりあえず今日はこれで決定となっていた。


「それじゃ、行こうか」


「わかりましたわ」


「アイサー」


 というわけで、巡回開始だ。




 学園祭が始まる前は、この迷宮学園全体が騒がしい。

 しかし、まだ人は少なく、学生と教員、搬入業者しかいない。

 人が少ないうちに出来る限り問題が起こっていないか確認だ。


 右腕に〈秩序風紀委員会〉のギルドエンブレムが画かれた腕章を付けて、まず校内を巡回する。

 校内を巡回しているのは何班かいるが、何しろ校舎が特大だ。1班だけなら一周も回れずに学園祭が開催してしまうだろう、そのために分散して巡回する。もちろんその巡回コースもオペレーターの指示だ。


 そして俺たちがいつも利用する1組を過ぎ、7組に差し掛かったところで叫び声が廊下に木霊こだました。


「キャーーー!」


「! 行くぞ!」


「! はい!」


「アイサー!」


 悲鳴発生の中心地は10組、そこでは〈天プラ〉と元〈マッチョーズ〉の筋肉4人が、なぜか上半身タンクトップ姿で壇上で決めポーズを取っていた。


 ――いったい何事だ?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る