第795話 〈サンハンター〉VSエリアボス!




 俺たちが見守る先で〈サンハンター〉がボスへ挑む。

〈サンハンター〉は〈エデン〉とは違うコンセプトのパーティだ。

 そして、Aランクギルドの1軍パーティというガチ勢でもある。

 この世界のガチ勢、勉強させてもらおう。


「ダンカン、やれい!」


「俺が相手だ! 『タウント』! 『タウントハウル』! 『シールドタウント』!」


 初手、タンクのダンカン先輩が挑発スキルで〈ヤギキイノシシ〉のヘイトを集める。


「フンゴ? フンゴ――!!」


「鳴き声がメーじゃねぇ!? 本当にヤギか!?」


 2手目、挑発された〈ヤギキイノシシ〉が憤慨してダンカン先輩に突進をかます。

 ダンカン先輩がボスの鳴き声にツッコんでいるが、さっきの〈オニキヒツジ〉も鬼の木なのに羊の鳴き声だった。そういうことだ。


「『ガイアシールド』!」


 堅実な防御スキルで待ち構え突進を受け止める。

 相手を止めたら攻撃のチャンスだ。

 ここまでは一般的なタンクの運用方法だな。


 しかし、ここからが少し違う。

 今度はボーガンと小盾を構えた、どう見ても支援職っぽい細身の男子が、挑発・・系スキルを使う。


「『ヘイトショット』! 『鳥肌の立つ矢』!」


 放たれた攻撃は〈ヤギキイノシシ〉の脇腹に命中しヘイトを稼いだ、とはいえダンカン先輩のヘイトは上回らない程度に抑えている。

 なぜこんな無駄なことをと思うかもしれないがちゃんと理由があった。


「『スケープゴート』!」


 細身男子先輩の『スケープゴート』はヘイトを仲間に押しつけるスキルだ。

 これによってダンカン先輩に細身男子先輩が稼いだヘイトが加算される。

 さらに、後方にいる回復魔法使い風の女子が魔法を、踊り子風の女子がスキルを使って援護する。


「『ハイ・ディフェンス』! 『ハイ・スピード』! 『フル・ベール』! 『メガントヒール』!」


「『戦いのステップダンス』! 『魔払い踊り』! 『回転回避の舞踊り』! 『ダンサーの愛』!」


 回復女子先輩がダンカン先輩を強化回復する、そして踊り子先輩がバフを掛けるのはこのパーティのメインアタッカーであるアーロン先輩だった。


「おっしゃ全力で行くぜ! うおおおお! 『モンスターインパクト』!」


「フンゴー!?」


 ズドンと衝撃。

 バフを掛けられまくったアーロン先輩の強力な一撃が〈ヤギキイノシシ〉を吹き飛ばしたのだ。


 ズザザザーっとスライドして5メートルほど吹き飛ばされるボス。

 HPもがっつり減ったな。たった一発で。なんて威力してるんだか。さっすが特効攻撃。アーロン先輩の攻撃は止まらない。大剣をぶん回して攻撃を仕掛けていく。

 ボスのHPが見る見る減っていった。


 だがここまで一撃の威力が大きいとそれだけ多くのヘイトを集めてしまう。

 ヘイトを集めすぎると狙われてしまうので、本来なら火力が高すぎても扱いにくいんだが。


「おおおこっち見やがれ! 『ガンガンカモン』! 『タウントコール』!」


「『11連発射』! 『バスターアロー』! 『ヘイトショット』! 『スケープゴート』!」


 ダンカン先輩がヘイトをガンガン稼ぎ、細身男子先輩もヘイトを稼いでダンカン先輩に渡しているおかげでアーロン先輩の爆発的な火力でもタンクのヘイトを越えなくてすんでいるのだ。


「おおおおらあああああ! 『ハンタースマッシュ』! 『ウェポンボルト』! 『ブリッツクラッシュ』!」


「フンゴ―!!」


 アーロン先輩の大剣が振るわれる度ボスのHPがガツンガツン削られる。


 そう、〈サンハンター〉トップメンバーは1タンク1アタッカー1ヒーラー2サポーターという、かなり偏ったパーティなんだ。


 アーロン先輩という超絶アタッカーがモンスターを攻撃し、他の全員でそれを支えるというコンセプト。

 本来なら超絶アタッカーは使いどころを選ぶ。

 2タンクでヘイトを稼いだところで超絶アタッカー1人が稼ぐヘイトは越えられない。

 2タンクで100ずつヘイトを稼いだところで超絶アタッカーは150もヘイトを稼いでしまったら意味が無いからだ。アタッカーにタゲが移ってしまう。


 だから1タンク、1サポートでタンク1人にヘイトを集めまくってアーロン先輩が稼いでしまうヘイトを上回らせている。

 アーロン先輩のモンスター特効はそれだけ強力ということだな。ダメージ3倍だし。単体バフを受けてさらに火力が上がっているから3人分のアタッカーの仕事を軽くこなしている。


 そしてそんなアーロン先輩が存分に暴れまくってもタンクがヘイト負けすることは無い。


 これが〈サンハンター〉の戦い方か。

 ちなみにこのパーティのうち上級職は4人、細身男子先輩だけは下級職のようだな。


 確かにタンクにヘイトを蓄積させるだけなら下級職でも十分だ。


 なるほど、これはアーロン先輩を主軸に、アーロン先輩に全力を出してもらう構成。中々完成度の高いパーティだ。全員が自分の役割をしっかり理解して動いている。練度も高い。


 ヘイトが安定するというのはボス戦において何より優先しなくてはいけない事柄なので、こういった方法でヘイトを稼ぎまくるのは悪くない。

 だがそれは、タンクがボスを抑えきれる場合に限られる。


「フンゴ―! ゴアアアアアア!!!!」


「ごおおおおおお!? がはっ!?」


「ダンカン!!」


 ダンカン先輩がダウンしたのだ。

〈ヤギキイノシシ〉がダンカン先輩の前で停止、2本の角と2本の牙で相手を捕まえて後ろ足で立ち上がる形で持ち上げ、そのまま思いっきりダンカン先輩を地面に頭突きをするように叩き付けたのだ。


 食らうとタンクでも一撃でダウンしてしまう強烈なスキル『捕角牙ほかくが叩き落とし』だ。

 さらに〈ヤギキイノシシ〉の猛攻は止まらない。

 また後ろ足で立ち上がり、勢いと共にダンカン先輩へ角牙かくがを叩き落としたのだ。それも複数回。『角牙頭突き連打』だ。タンク殺しの有名なコンボである。


「フンゴ―!! フン! フン! フン!!」


「『ハイヒール』! 『フルヒール』! 『オールヒール』! 『エリアヒール』!」


「ダンカン!! 『モンスターインパクト』!」


 ダウン中でろくに防御もできないダンカン先輩へ真上から角牙の連打が叩き落とされHPが一気に危険域に迫るが、その度にギリギリの所で回復女子先輩によるヒールが差し込まれHPが回復する。

 アーロン先輩が強烈なノックバックスキルで〈ヤギキイノシシ〉を吹き飛ばし、ギリギリの所でダンカン先輩は生き延びた。


 ダウンからも復帰する。


「すまねぇ。ミスった」


「あの捕獲攻撃に気をつけろ! ガードスキルはおそらく効かないぞ!」


「バフをかけ直します!」


 いやあ、あれは初見で回避は無理だ。

 俺もゲーム〈ダン活〉初期の時代で初めてアレをやられたときはタンクが一度戦闘不能になったからな。

〈サンハンター〉はよく耐えきった。タンクがやられるとヘイトの関係から次はアーロン先輩が狙われることになる。


 たとえダンカン先輩が戦闘不能から復活してもアーロン先輩が集めているヘイトを越えるのは容易ではない。

 それがこのパーティの弱点だな。タンクがやられるとアタッカーもやられてしまう。

 とはいえやり方が無いわけでは無いが。


 また、アーロン先輩の言うとおり『捕角牙ほかくが叩き落とし』は防御スキルの一部を無効化してくる。結界などは有効だが、盾で防御したりするスキルはその盾ごと捕獲されてしまうからだ。所謂投げ技の一種である。


 このように上級ボスは防御破壊、防御無視などのスキルをたまに使ってくるため要注意なのだ。

 AGIを育て、回避することもタンクには求められることもある。もしくはMP消費のデカい上位のスキルを使うとか。

 幸い防御破壊、防御無視などを使う時は大きな溜めや派手なエフェクトを使うなど分かりやすいため、慣れればタンクでも回避は可能だ。敵が溜めたら防御破壊を無効化する上位の防御スキルを発動するでも可。


 しかし、上級ボス初挑戦のダンカン先輩が対処出来るのかというと。


「ぐあああああああ!?」


「ダンカン!?」


 ダンカン先輩は迎撃を選択して、迎撃失敗。

 一度見ていたおかげで2度目の『捕角牙ほかくが叩き落とし』を見切り、対処しようとしたみたいだがその対処の仕方が間違っていた。最初はなりふり構わず回避が正解だ。転がってでも避けるべし。

 ダンカン先輩は『バッシュ』系の『ハイパーバッシュ』でノックバックを狙ったようだが、ノックバックせず。そのままダンカン先輩は捕まり地面に叩き落されて再びダウン。続いて凶悪コンボ、タンク殺しの『角牙頭突き連打』も食らってしまう。


 この時ちょうど間が悪く、回復女子先輩の回復魔法がいくつかクールタイムに突入していてアーロン先輩もMPハイポーションで補給していたところだったためにフォロー出来ず、ダンカン先輩のHPがゼロになり戦闘不能になってしまいそのまま消えてしまう。


 ポーション回復中は最大の隙だ。その隙を突かれた形。


 ちなみにボス戦中に戦闘不能になった場合、足下に魔法陣が発生し一度敗者のお部屋に送られる。呼び戻すには復活系のスキルか魔法、アイテムをその魔法陣に使えば復活して出現する仕組みだ。

 なお、ボス戦中のパーティが全滅すればボス部屋、またはボスフィールドの外へ全員ぽいっと捨てられる。そこら辺、通常モンスターとは違う部分だな。


〈ヤギキイノシシ〉がダンカン先輩を倒したことで次にヘイトを稼いでいたアーロン先輩へとタゲを向けた。これは危険だ。パーティ壊滅の危機。アーロン先輩はどう動くか。


「ジェイウォン!」


「ウォン!」


「復活させます! 『レイズ』!」


 どうやらアーロン先輩は逃げ回る気らしい。

 ジェイウォンに騎乗し駆け回り始めた。


 その間に回復女子先輩がダンカン先輩を復活させる。


「くっ、すまねぇ!」


「ヘイトを頼みます! 『ハイヒール』!」


「おうさ! 『タウントハウル』! 『タウントコール』!」


 また一からヘイトの稼ぎ直しだ。

 細身男子先輩もヘイトを稼いではダンカン先輩にヘイトを押しつけている。

 しかし、高まったアーロン先輩のヘイトは中々突破することができない。


〈ヤギキイノシシ〉がヤギの俊敏力でアーロン先輩を追いかける。かなり速く、アーロン先輩も逃げ切るのは難しいと判断したのだろう。いくつかアイテムを取りだした。


「おら、とっておきだ!」


 そして目隠し用アイテム〈催涙煙幕〉を放つと。


「フンゴーー!!」


〈ヤギキイノシシ〉は〈暗闇〉状態になって暴れ回った。




 ――――――――――――

 後書き失礼します。


 少し補足説明。通常、モンスターに戦闘不能にされても〈敗者のお部屋〉へは送られませんが、ボスにやられると送られます。

 これはボスが全体攻撃などを行なうと危険なので隔離する、というのと、自分に復活系のアイテムを使って復帰するのはダメというのが理由ですね。

 復帰するには魔法陣に復活系の何かをする必要があります、戦闘不能になって〈敗者のお部屋に〉連れて行かれ、そこで自分で復活系アイテムを使ってHPが回復してもボスフィールドには復帰できません。誰かが呼び戻す必要があります。

 リアルだと自分に復活系アイテムを使って戦闘不能者が自力で復帰することが出来てしまうのでこのような設定になっております。

 また、戦闘中にポーション系を使うのは戦闘行為となります。

 戦闘不能者がポーションを使えば、ヘイトを大量に稼いでしまい狙われてしまいます。これは一度復活して戦闘不能になっても狙われ続けるので非常に命が危険な行為となります。

 以上となります!



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