第793話 上級初〈金箱〉は、ゼフィルスが開けます!




 ボスを撃破すると、そこに残ったのは一つの〈金箱〉だった。


「「「〈金箱〉!!」」」


 すかさず俺、カルア、ラナが反応する。

 しかし、今回は観客がいるのだ。本能に身を任せすぎてはいけない。


 俺は〈金箱〉に引き寄せられかけた本能を何とか封じ込め、クルッと回って〈サンハンター〉に向き直る。


 すると、若干ぽかんとしている〈サンハンター〉が目に入った。

 俺は咳払いで雰囲気をリセットして話しかける。


「ごほん。どうだった?」


「すげえぜ……。正直とんでもねぇって言葉が先に来るな。ボスより〈エデン〉の方がよっぽど印象に残ってる。というよりどこでその実力を身につけたんだ?」


「そりゃ、ギルドのみんなと力を合わせて練習しまくったんだよ」


「たくさんボスを倒したわね」


 うむ。シエラの言葉に深く頷く。

〈公式裏技戦術ボス周回〉で俺たちが倒したボスの数はもはや数えられないほどだ。

 ボスを倒せば宝箱が落ちる。なら、狩るしかないな!


 おっと、思わず自慢するところだった。

 その前にまず今のエリアボスの感想を聞かなくては。


「それで、どうだ? アーロン先輩たちはエリアボスを1パーティで倒せそうか?」


 ダメそうなら2パーティ、3パーティで倒すという手もある。

 パーティを増やすとボスも相応にパワーアップしてしまうが、やはり数は力だ。

 多くの種類の職業ジョブを組み合わせることができるため、やり方次第で複数パーティの方が倒しやすいこともある。フォローもしやすい。


 しかし、アーロン先輩は事もなげに言った。


「はっはっは! 無論だ。今までは強大なボスを相手に控えていたが、今の戦闘を見る限り俺たち1パーティでも勝てると思うぞ」


 アーロン先輩の言葉に後ろのパーティメンバーたちが頷く。

 自信がある様子だ。


「オーケーだ。では早速2層のエリアボスに挑むとしようか。今度は〈サンハンター〉に任せる!」


「おうよ!」


 胸を叩く仕草でアーロン先輩が請け負う。

 アーロン先輩はガタイが良いからすごく頼もしく見えるな。

 エリアボスは1日に1回朝リポップなので〈オニキヒツジ〉戦はまた後日、〈サンハンター〉には2層にいるエリアボスと戦ってもらうことになった。


 さて、じゃあ早速行動に移そうと思うが、はて? 何か忘れているような?


「私が開けるわね! 上級ダンジョン初のボスの〈金箱〉だわ!」


 思い出したーーーーー!!


「ちょちょちょちょっと待ってもらおうか! それは俺の役目! 約束しただろう!?」


「あ、ゼフィルスが気が付いちゃったわね」


「危なかったぜ」


 ちょっと目を離した隙にラナが〈金箱〉に手を掛けようとしていた。

 とんでもなく危なかったぜ。俺は冷や汗を拭う。

 上級ダンジョンのボス戦で出た初の〈金箱〉は俺が開けるって約束だっただろ!? まったく、油断も隙も無い!


「ん。そうだった。ゼフィルスの番」


「カルアは忘れてたのか」


 俺の交渉の甲斐よ……。


 まあセーフだったので。さささっと〈金箱〉の前にしゃがんで〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にお祈りする。


「〈幸猫様〉〈仔猫様〉どうか良い物ください! お願いします!」


「良い物ください」


「ん!!」


「えっと、ゼフィルスさんたちは何をしているの?」


「…………」


〈金箱〉を開ける前にお祈りは必須。

 俺とラナとカルアでしっかり〈幸猫様〉〈仔猫様〉にお祈りする。

 リャアナが困惑したようにシエラに話掛けていた気がしたが、きっと気のせいだろう。


 いざ! 宝箱を開ける。

〈金箱〉が珍しいためか、〈エデン〉メンバーだけじゃなく〈サンハンター〉まで近寄って中身に注目した。


 そうして出てきたのは。――〈上級転職チケット〉だった。


「って〈上級転職チケット〉かよ!」


 思わずツッコんだ俺は悪くない!

 いや、いいけど! でも記念すべき一つ目が中級ダンジョンでも手に入るアイテムってどうよ? もっと上級にしかドロップしないアイテムが良かった!


 しかし、そう思うのはどうやら俺だけだったらしい。


「「「「〈上級転職チケット〉!?」」」」


 宝箱を囲っていた全方向から声がして耳に響く。

 見渡すと、全員が〈上級転職チケット〉に注目していた。

 特に〈サンハンター〉の驚愕に見開いた目がヤバイ。


「まさか、一つ目から〈上級転職チケット〉がドロップするだと!?」


「また1人、〈エデン〉に上級職が生まれる?」


「ゼフィルスさん、それはどなたに使う予定なのでしょうか!?」


「はっはっは! 俄然やる気が出てきたな!」


 ダンカン先輩が驚愕の言葉を発し、ミューとリャアナは〈エデン〉の誰にこのチケットを使うのかに注目し、アーロン先輩は実際に上級ダンジョンでも〈上級転職チケット〉が実際ドロップする光景を見たことでやる気をみなぎらせていた。


 俺もアーロン先輩のリアクションを見て、この〈上級転職チケット〉のドロップには意味があったのだと頷く。

 そういえば俺の計画は上級ダンジョンで〈上級転職チケット〉がドロップしないと破綻してしまう。だからこそここで実際にエリアボスを倒すと〈上級転職チケット〉をドロップするのだと証明できたことは大きい。


 まあ、そういうことなら〈上級転職チケット〉がドロップした事は良しとしよう。

 さて、このチケットは誰に使おうかね?

 ふっふっふ、また後でじっくり考えてから決めよう。


 その後〈サンハンター〉が少し落ち着いたところで2層へと出発することになった。



 2層への入口門があるのは崖の上だ。

 その行き方も〈サンハンター〉に説明する。


「なるほどな。こんな道があったとは知らなかったぜ。どおりで2層の門が見つからないはずだ」


 例の洞窟を紹介すると、アーロン先輩が少し苦い顔をしてそう言った。

 まあ、下をいくら探しても見つからないからな。

 アーロン先輩は何度か〈山ダン〉に入ダンしているが、2層への階層門を見つけられず、2層へ行くのは今回が初めてらしい。


「俺たちは先日、この洞窟の先に2層への門を見つけたんだ。道なりにまっすぐ進めば崖の上に出れるぞ」


「そいつはいいな! 最初2層の門が崖の上にあるって聞いたときはロッククライミングしなきゃならんかと思ったぞ」


 アーロン先輩ならやりそう、いや出来そう。ツタとか登って山頂まで登りそうと思うのはこの人の職業ジョブのせいに違いない。


「ねえゼフィルス、聞いていい?」


「ん? どうしたんだミュー」


 続いて妹のミューが話しかけてくる。先ほどから色々と質問され続けているんだ。

 ギルド合同作戦なのでコミュニケーションを積極的にとるのは大賛成だ。

 さて、今度はなんだろう?


「エリアボス、〈上級転職チケット〉、どのくらい落とす?」


 おっとこの質問は危ないな。正しく答えてしまうとシエラのジト目に晒されかねない。

 ちょっと惜しいかもと思いつつ、誤魔化す回答をする。


「俺もさっき初めて攻略したからわからないな。とはいえ一つ目で手に入ったんだ。ドロップ率は中級ダンジョンより高いだろうな」


「そう」


 まあ実際は『幸運』無し、小判無し、その他もろもろ無しの時は3%だ。

 ちなみに〈金箱〉自体は10%の確率で落ちるため、中級ダンジョンの時とはそこらへんもかなり違う。

 ボスを倒すのが難しい上級の方が〈銀箱〉〈金箱〉共にドロップ率が高く、〈木箱〉のドロップ率が低いんだ。


 これに〈幸猫様〉の『幸運』や小判、ニーコの能力などがプラスされると上級で〈金箱〉がウハウハになるって寸法よ。

 まあ、このやり方はさすがに秘密だけどな。


 ミューもまだ下級職だ。〈上級転職チケット〉に憧れがあるのか、羨望の目で俺を見つめている気がした。


 そんな感じで道中はしゃべりつつ、途中でエンカウントしたモンスターは全て〈サンハンター〉に受け持ってもらい、洞窟を脱出。

 そのまま崖の上にポツンと立っている門を潜って俺たち一行は、2層へと突入した。


「ここからは〈サンハンター〉に索敵も含めて道中の進行をほぼ任せる。〈エデン〉は何かあったときのフォローに回るな」


「おう。バックアップ頼むぜ。あと先達のアドバイスもな」


「ソロで先に潜っていたアーロン先輩が何を言ってるのか」


「はっはっは! 吸収できるものは全て自分の血肉にする。ハンターの基本だぜ」


 それは多分、ハンターだけの基本じゃないな。


 将来的に上級ダンジョンは〈サンハンター〉も含め、ギルドのパーティが単独で出入りすることになる。

 そのために、〈エデン〉もサポートは最小限に抑え、なるべく〈サンハンター〉のみで進んでもらうというのがここからの取り組みだ。


 さて、現役Aランクギルドのお手並み、拝見するとしよう。


 あ、カルアにはしっかり索敵を続けてもらっているぞ。

 モンスターが〈エデン〉に来たら大変だからな。




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